Act.8-250 バトル・シャトーのお披露目と剣武大会 scene.18
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
「私からも質問をしてもいいでしょうか? ……私も陛下と懇意にさせて頂いている商人ですから、様々な噂を耳にしますわ。ローザ様はあまりそういった話をなさらない方ですし、ラピスラズリ公爵家と懇意にしている商人といっても部外者ですからねぇ、あまり実際のところというものは分からないものなのです。……アルベルト様はローザ様に好意を抱いている、少なくともその兆候があるのではないかというのが、私の現時点での認識です。もし、誤りであるのならば速やかに謝罪させて頂きますわ」
「……えぇ、正式に気持ちを伝えてはおりませんが、私はローザ様に好意を抱いております」
「なるほど……噂は正しいものでしたか。しかし、私はお二人が不釣り合いであると感じております」
「不釣り合いである、とは、爵位の問題でしょうか? それとも、年齢のことでしょうか?」
「爵位については、私は別段問題視はしておりませんわ。アルベルト様が宮中伯様と宮中伯夫人の間に生まれた子ではないことは承知しておりますが、例え、アルベルト様が妾腹だろうと、平民であろうと、祝福されるかされぬかは別として問題は何もありません。……問題は年齢差の方ですわ。ローザ様はまだ社交界にデビュタントすらしていない令嬢です。つまり、未成年なのですわ。成人済みのアルベルト様との間にはかなりの年齢の隔たりがあります。……私の耳にも届くものですから、既に王宮内でも噂が広まっているかもしれません。特に、アルベルト様は近衛のホープで、様々な女性から好意を向けられておられるようですからねぇ。――降嫁した家では来て下さった姫君に対し家長に連なる身分の者が世話人としてつくことが通例となっておりますわ。もしローザ様が先んじてアルベルト様の元へ嫁げば、プリムラ様は何ら今と変わることのない給仕をヴァルムト宮中伯家に嫁いでからも受けられるようになります。今回の件をプリムラ姫殿下とルークディーン様の婚約を円滑に進めるために、あらかじめアルベルト様とローザ様の間に婚約を結んでおこうという意図を読み取ることは可能ですわ」
「――そんなことは断じてありません!」
「えぇ、そうかもしれません……アルベルト様に関しては。ですが、ローザ様はいかがでしょう? まだ出会って一年未満ですわよね? 本当にアルベルト様はローザ様という方を把握しておられるのでしょうか? いえ、人間の全てを、腹の中まで完全に把握することはできませんわ。……アルベルト様は考えていないとしても、ローザ様はどうなのでしょう?」
「流石に、それはないと思いますよ。あの方は公爵家のご令嬢です。姫殿下のために伯爵家に嫁ぐなど、そのようなことは決してないと――」
「――本当に言い切れますか?」
アルベルトの表情がますます暗くなっていく。
まあ、当然だろうねぇ。自分が少しずつ好意を抱きつつある相手が、まさか好意を微塵も抱いていないという事実を突きつけられたら。
「……もし、万が一、ラピスラズリ公爵令嬢が私に好意を持っていないとしましょう。でしたら、何故私の誘いを断ろうとはしないのでしょうか?」
「それは、アルベルト様も既にお分かりなのではありませんか。今回の姫殿下と宮中伯子息の縁談は絶対に成功させなければならないものです。それは、プリムラ様を除くブライトネス王家の総意であり、ヴァルムト宮中伯家の総意でもあると考えます。そして、プリムラ姫殿下もこの婚約には前向きです。ルークディーン宮中伯子息が婚約が内定するのも最早時間の問題でしょう。このタイミングで王家と宮中伯家の関係が拗れることだけは絶対に避けなければならないものですわ。……それは、ローザ様も承知しています。姫殿下のことを大切に考えているあの方ですから、わざわざこのタイミングで両家の不仲のタネになりそうなトラブルを引き起こすことはないでしょう。……とはいえ、これは全て私の想像であり、仮にもしそういうことであればという話ですわ。私にローザ様のお考えは分かりませんから」
……まあ、実際は分かっちゃうんだけど。だって、アネモネとローザは同一人物なのだから。
「今回の話は他言無用でお願い致します。私も、ヴァルムト宮中伯家と王家の関係が拗れることは不本意ですから」
「……ご助言、ありがとうございます。アネモネ様も不確定だと仰っていることですからね。本当は本人に確かめたいものですが、騒ぎになるのは私としても不本意ですから」
「えぇ、ご英断でございますわ」
「しかし、もし私のことをローザ様が嫌っておられるのであれば、申し訳ないことをしていることになりますね」
「その点に関しては特にアルベルト様が責任を感じる必要はないかと。もし、本当に嫌っている人間が相手の場合、ビジネスライクでも限界はありますからねぇ」
ボクの言葉でアルベルトの瞳に精彩が戻った。少なくとも「好き」か「嫌いじゃない」の二つに絞られた訳だからねぇ……全く脈無しだという可能性は彼の頭から消えたのだろう。まあ、実は全く脈無しなんだけど。
ハーレム願望のない月紫さん一筋のボクを振り向かせることは、例えイケメンモテモテの近衛のホープにも無理なのです! まあ、イケメンという属性はボクに対して有利に働かないのだけど。
……まあ、アルベルトと一緒にいる時間は別に嫌いじゃないんだけどねぇ。
ボクが百合好きで、普通の令嬢だったら好きになっていてもおかしくは無かったと思うけど。……ただ、こういう性格でアルベルトという人間に好意的な印象を持っていても、恋愛的な行為は何一つ持っていないボクに想いを寄せるより、彼に好意を寄せる人達の想いに応えるか、新たな恋を探す方がよっぽど建設的だと思うけど。
……これは、ソフィスやフォルトナの三王子についても共通することなんだけど、何でこんなにボクみたいな人間に執着するんだろうねぇ?
◆
右の太刀を鞘から抜き払い、ゆったりと構える。
アルベルトは抜刀と同時に俊身を使って一気に間合いを詰め、武装闘気を纏わせた剣を振り下ろしてきた。
「八技と武装闘気、見気は習得できているようですわねぇ? 霸気の方は適性がないようなので、習得できていないようですが」
「この夏に近衛の鍛錬で八技と闘気の扱い方を教える講座が始まりましたので。私も、この力を使えないままでは大切なものを守れないと思っていたので、この夏にしっかりと会得致しました。また、弟のための強化合宿に師匠が講師役として呼ばれたので、師匠とも久しぶりに手合わせをしました。あの姫殿下の誕生パーティの時に比べたらレベルアップしていますよ」
「まあ、私から見ればようやくこのステージに立つ資格を得た、という程度ですが」
部分的に身体を鋼鉄を凌駕する硬度に変える鋼身を使い、更に武装闘気を纏わせるというアルベルトの戦い方はオーソドックスなものだと言える……まあ、鋼身を使わずとも武装闘気の重ね掛けで十分だし、鋼身は全身に使うと動けなくなるという欠点があるから、どうしても武装闘気のみを使って鋼身は使わないというパターンが多くなるのだけど。
――剣を交える。既に「ジュワイユーズ流聖剣術 覇ノ型 百華繚乱螺旋剣舞連」が破られる光景を見ているアルベルトは決して連撃を使おうとしない。
一撃一撃の角度や重さ、その一つ一つを設計し、まるで一つの芸術でも作り上げるように剣を振るう。
まさに即興の剣、次期『剣聖』と呼ばれるだけの強さはあるようだ。
「なかなかお強いですわね」
「謙遜は結構です。……皆様に使ったような技を一切使っていないではありませんか」
「それは勿論、使えば一瞬で決着がついてしまうからですよ。圓式には対応できない、毒入りの太刀にも慣れていない、普通の近衛騎士としてなら確かに強い部類かもしれません。しかし、それでは足りない。――守るべき王族、国王に劣る力では、到底国は守っていけない。『剣聖』ですら負けるのが、多種族同盟の最前線ですわ。そこにもし立ちたいのであれば、自分で新たな強さを模索すべきですわ。幸い、その鍵はここに参加されている皆様からいくらでも受け取ることができます。様々なスタイルの剣士がいらっしゃいますからね」
「……もしかして、私との手合わせをこの形にしたのはアネモネ様のご厚意だったのですか?」
「いえ、勝手に暴れたい人達が口実を得て暴れるための舞台を整えたというだけですわ。私は一切、今回の件には関わっておりません。こういうことに関して、基本的に私は受け身ですからねぇ……せっかちなところがあるので、一度こうすると決めたら入念な準備を始めるためにすぐさま行動に移しますが。――私は強くなりたいという気持ちには正直に応えたいと思っていますわ。私も、大切な人を守れるような強さに憧れて無茶をしたことが一度や二度はありますから」
アルベルトとの勝負も、数分間の切り結びを終えたところで生じた隙を突いて撃破し、幕を閉じた。
その後もラインヴェルド達強豪が続々と突破してきたけど、誰一人としてボクを撃破することはできず……。
「さて、そろそろ約束の一時間ですわねぇ。残っているのは、ラインヴェルド陛下、オルパタータダ陛下、プリムヴェールさんの三人ですか。とりあえず、戦いの幕を閉じましょう。――ダークマター・パーマネント」
ラインヴェルドとオルパタータダ、プリムヴェールの三人が闇の突き上げを浴び、プリムヴェールのみが「聖なる護壁」で耐えたものの、この一撃で砕け散り、「ダークマター・バーチカル」或いは「ダークマター・ホリゾンタル」のダメージカードを∞枚設置することができる派生効果によって発動した「ダークマター・バーチカル」がプリムヴェールを無数のポリゴンへと変えた。
その後、参加賞を全員分と大金星をあげたラルとトーマスにMVPの商品(どちらも商品券)を手渡し、この会は解散となった。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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