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Act.8-249 バトル・シャトーのお披露目と剣武大会 scene.17

<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


「……あらあら、遅かったですわね?」


「……これでもかなり頑張ったんですよ。なんですか、あの凶悪な魔物の群れは!? なんとかギリギリ隙を突いてここまでやってきましたが、もう、限界ですよ……」


「――ッ!? アネモネさん、一体どんな仕掛けをしていたのですか!?」


 エアハルトがいつもの冷静な態度を一変させて尋ねてきた。


「……どんな仕掛けも何も、簡単にこの部屋に辿り着かれると大変なので、この部屋までの通路に魔物を用意していただけですわ。といっても、実際の魔物ではなく私とソフィア先生の二人で作り上げたオリジナルの魔物ですが。全身チョコレートで高威力(高カロリー)な一撃を叩き込んでくる『ヴァレンタインゴーレム』と対空の要素を有する『悪夢の吸血姫ナイトメア・ヴァンパイアクイーン』の二体ですわねぇ。ちなみに、『影片蝙蝠ナイトメア・ブリックバット』はソフィア先生の『悪夢の吸血姫ナイトメア・ヴァンパイアクイーン』の技を参考にしたものですわ」


「……『悪夢の吸血姫ナイトメア・ヴァンパイアクイーン』はソフィア女史のアイディアでしたか。あまりにもリーリエ様そっくりなので、ヴェルナルドさんが『ああ、私には到底傷つけることができない!』と当たれば一撃で眠りに落ちる無数の蝙蝠と化して突撃してくる攻撃を全て受けておいででした。私は運良く逃げ切れましたが、増援が到着するまでにはまだまだ時間がかかりそうです」


 まあ、まだまだ時間はあるし、最悪でももう一回くらいチャンスはあるんじゃないかな? ものにできるかはまた別問題だけど。


「それでは、どうぞご自由に仕掛けてきてくださいませ。皆様」


 ゆったりと右の太刀を抜き、構える。

 仕掛けてきたのはラーニャだった。更にその後ろからシモンとエアハルトも抜刀して、左右に少しずつ逸れて三方向からほぼ同時攻撃を仕掛けてくる。


 三人とも武装闘気の身を纏わせているのは「ディスターバー」系の魔法を警戒してのことだろうねぇ。その判断は正しい。


螺旋風刃斬(スパイラル・ブレイド)


 ラーニャが放ってきたのは、細剣の刃を螺旋状に動かし、中心部に到達したタイミングで突きを放つことで、剣を動かした螺旋状の軌道全てを風の魔法で刃へと変えて敵を突き刺す剣技だ。

 武装闘気を纏ったこの魔法剣技は、斬撃でありながらも範囲が広く、至近距離で放たれると非常に対処に困る。


 まあ、武装闘気を纏わせた剣で相手の風の刃を削るように怒涛の刺突ラッシュを浴びせれば、いかに武装闘気を纏っていようと瓦解するんだけどねぇ。


 螺旋の刃が崩されてもなお諦めないラーニャは、そのまま高速で刺突を放ってくる。素早く連続突きを全て刃で受け流しつつ、シモンとエアハルトが斬り掛かってきたタイミングでラーニャ剣にボクの剣を絡ませ、蛇のような動きでラーニャの剣を奪い取った。


「圓式独創秘剣術 四ノ型 蛇奪-Jadatsu-」


 アクアが対ポラリス戦でよく使う「相手の剣を絡め取るために剣の先をぐるりと回す」あの動きの元になったものだ。……といっても、ポラリスクラス相手だとこの技単体で剣を奪うなんて不可能なんだけどねぇ。せいぜい、ポラリスの剣筋を変えさせるのが限界だ。


 剣を奪って無防備になったラーニャを一閃――返す刀でシモンとエアハルトの剣とそれぞれ刃を交える。


「圓式独創秘剣術 五ノ型 柔柳-Yawara-」


 ボクの剣のほとんどは相手の斬ることに特化していたけどこの技は少し特殊で、衝撃コントロールや精密な剣技の奥義と言えるものかもしれない。

 相手の斬撃のベクトルをずらし、更に剣を柳に例えて柔らかく相手を制するどちらかといえば相手を吹き飛ばすことに特化した技だ。


 この剣でシモンとエアハルトをボクの背後の壁に向かって吹き飛ばす。流石は王国宮廷近衛騎士団騎士団長と副団長というべきか、これで撃沈ということにはならなかったようだけど。


風跳飛蝗(エアロ・ホッパー)


 シモンとエアハルトが復活する前にアルベルトと剣を交えようと思ったんだけど、どうやらその前にエアハルトと決着をつけないといけないみたいだ。

 風を圧縮した床を踏み、蹴ると同時に爆発させてその圧倒的な空気の奔流に乗って敵と距離を詰める風属性魔法――「風跳飛蝗(エアロ・ホッパー)」。


草薙の暴風(テンペスト・サークル)


 更に六つの竜巻を顕現し、ボクの退路を塞ぐと、竜巻全てを嗾しかけながら、螺旋状の風の刃を纏った切っ先をボクの方へと向け、跳躍と飛翔のエネルギーを刀に乗せて勢いよく突き出した。


「渡辺流奥義・颶風鬼砕」


 鋭い風の刃をイメージした霊力を武器に宿し、勢いよく抜刀して横薙ぎすると同時に爆発させて周囲全てを斬り捨てる渡辺流奥義を放ってボクを取り巻く竜巻を両断し、「静寂流十九芸 剣術応用止ノ型 鋒止突」でエアハルトの切っ先を受け止めた。

 「マジックキャンセラー」の効果でエアハルトの剣に込められた魔法が消えた直後、エアハルトの腕から無数のポリゴンが迸った。


「これほどの超絶技巧に、まだ『常夜流忍暗殺剣術・毒入太刀』を組み合わせる余力があるとは……」


「これが超絶技巧ですか? 何度も『静寂流十九芸 剣術応用止ノ型 鋒止突』で剣を止めている姿を見ているでしょう? 私にとっては大したものでもありませんわ」


 得物を落とし、無手となったエアハルトは手や足を刃に見立て、超人的脚力や腕力で放つ飛ぶ斬撃――八技の刃躰でボクの撃破を狙う。

 ボクはその全てを双刀で砕きつつ、距離をとった。


 ボクという脅威が遠ざかっても、エアハルトの表情は硬いままで、折角剣を拾いに行く隙を与えたというのに全く動かない。

 まるで、蛇に睨まれた蛙のように、一歩でも動けばすぐさま斬り倒される――その殺気を一身に浴びてエアハルトは呼吸すら忘れるほどの緊張に呑まれていた。


滅刻風針の極大竜巻エアニードル・ラグナ・ウィンドテンペスト


 放つのは、風魔法の中で最も破壊力を持つであろう奥義。「エアリアル・ウィンドテンペスト」と「烈旋空針暴颶嵐域エアニードル・テンペストリージョン」を融合したことで完成させた、無数の風の針からなる巨大な竜巻。

 これが六つ――それは、丁度ボクの退路を塞いだあの竜巻と同じ数。


 ただ一つ、あの竜巻と違うところがあるとすれば、それは、この竜巻が退路を絶つためのものではなく、エアハルトをこの戦場から退場させるためのものであるということ。

 エアハルトが六つの竜巻から逃れる手立てはなく、瞬く間に無数のポリゴンと化して消滅した。



 手負いの状態のシモンと、今回の参加者で最も弱いアルベルト。

 この二人を倒せば、しばらく休息の時間になりそうだ。幸い、執筆しないといけない小説はあるし、その時間は有効活用できる。


「さて、シモンさんの底は見ました。もし、これ以上の力があるというのであれば、是非生き残って見せてください。――影片蝙蝠ナイトメア・ブリックバット


 シモンの表情が一気に絶望に染まる瞬間を一瞥して捉え、ボクはアルベルトただ一人に視線を向けた。

 ボクの影が一瞬にして四散し、無数の小さな黒い蝙蝠となってシモンに殺到する。黒い蝙蝠の突撃を浴びたシモンは一瞬にして寝てしまい、無防備になったシモンに蝙蝠が収束して生まれたリーリエを模した影が双刀から圓式の斬撃を浴びせて両断した。


「アルベルト様、お話はローザさんから伺っております。……近衛のホープから見て、これまでの戦いはいかがでしたでしょうか? これが、我々の求めるレベルです。寧ろ、この戦いに参加できるほどのレベルでなければ、ただの足手纏いにしかなりませんわ」


「今回の大会に参加し、よく分かりました。私が参加するべきものではなかったと……ここに参加するに足る資格を私は手に入れていなかったと。……一つお伺いしてもよろしいでしょうか? 今回、参加していた方々の中に興味深い方々がいらっしゃいました。ラピスラズリ公爵家の使用人――近衛よりも遥かに強い使用人が仕えているあの公爵家のご令嬢は、ラピスラズリ公爵家の使用人の強さをご存知なのでしょうか?」


 この質問は、全てを知っている者達からすれば滑稽だ。

 多少なりローザに好意を持っているなら、目の前に立つ者がローザだと、この質問は無意味なものであることに気づいて欲しいと思うべきかもしれないけど、正直どうでもいい。

 そもそも、それを求めるのは酷な話だ。――アクアの正体に気づいたディランのような超能力じみたものを一般人に求めているのだからねぇ。


 それに、アルベルトも本気でローザを愛しているかは疑わしい。まだ、多少意識し始めたという程度だろうし、ローザとアルベルトの間には年齢という大河が流れ、隔たりが生まれている。この河があるからこそ、社交界の常識というものがあるからこそ、ボクは余裕を持って彼の想いに対する答えをはぐらかすということができているのだ。


「えぇ、存じておられますわ。ラピスラズリ公爵家がこの国において、宮中伯や辺境伯よりも遥かに強い力を持ち、そしてその事実が秘匿されている王家の真の忠臣にして毒剣――【ブライトネス王家の裏の剣】と呼ばれる、ブライトネス王国の暗部を統括する【血塗れ公爵】であることを。ただし、あの方は次期公爵には選ばれておりません。ソーダライト子爵家から養子として連れられてきたネスト=ラピスラズリが次期公爵と決められています。ローザ様の妹のカルミア様は、裏側を背負う資質が無かったようですから」


 この言葉から、アルベルトはローザが裏側を知ってしまった非力な令嬢であるという印象を受けるだろう。ローザ=ラピスラズリと戦いという概念の間にはどうしても巨大な隔たりが存在する。

 人は自分が信じたいものを信じる生き物だ。もっともらしい答えへの道が用意されたとしたら、その道を外れた、最も可能性の低いものを度外視してしまう。

 カルミアが次期の毒剣の担い手に選ばれなかったということも、養子のネストが次期公爵を継ぐという事実も、その幻想を補強するのに大いに役立つ筈だ。


 ……そもそも、アルベルトはあの避暑地での一件のことを知らないようだし。もし、あの話を知っていれば、多少なり違和感を持つことができたかもしれないけど。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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