Act.8-247 バトル・シャトーのお披露目と剣武大会 scene.15
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
「シューティングスター・ペネトレイター!」
全身に光を纏ったイフィスは猛烈な速度で走り出すと、突進して突きを放つ……挙動をキャンセルし、そのまま二十四の刺突を高速で放つ二十四連撃細剣ウェポンスキル「テンペスタース・ファンデ・ヴー」へと繋げる。
ボクは怒涛の二十四の刺突全てをシステムアシスト抜きの「静寂流十九芸 剣術応用止ノ型 鋒止突」で全て受け止め、勢いそのままに放たれる「三閃刺突華」も全て受け止めた。
「刺突流星群」
イフィスの猛攻は終わらない。二十四連撃細剣ウェポンスキル「テンペスタース・ファンデ・ヴー」を何度も放ってその身体に感覚を叩き込み、「三閃刺突華」と組み合わせた奥義を満を持して放ってきた。
首、心臓、肝などの急所を狙うことは変わりない。ただ、その狙いを悟らせないように、ダミーの斬撃を混ぜた上で高速刺突を放つ――それが、「刺突流星群」だ。ただ、これほどの高速攻撃を全て頭で考えて放つのは難しい。……思考加速系の能力を持っていれば別だけど。
つまり、この「刺突流星群」という技は複数の型によって為されている技ということになる。その型の組み合わせと、その繋ぎ目の場所さえ読んでしまえば後は容易い。まあ、型自体が二十五あって、前知識無しにそれを見切ることや繋がって見えるほど洗練されたこの技から繋ぎ目を見出すのは困難を極めるんだけどねぇ。
「静寂流十九芸 剣術応用止ノ型 鋒止突」で全て受け止め、技と技の繋ぎ目で直接相手に触れずに武装闘気を衝撃波として放つことで吹き飛ばす武気衝撃を放ってイフィスの剣を狂わせ、生じた一瞬の隙を突いて圓式の斬撃を放って撃破した。
「さて、お待たせしました、トーマス先生」
「いや、待たされたというつもりは無かった。私は他の者達と違って、アネモネ殿の戦い方というものをあまりよく知らぬのでな。ここまで観察させてもらった」
「……それで、その結果はどのようなものでしょうか?」
「まるで、技の見本市とでもいうべきか? これまでの戦いの記録が、全て収められた蔵のような存在だと感じた。数多の敵と戦っている感覚を、戦場に立たずとも感じることができた。――その大いなる山に一片にも傷をつけることは敵わないと思うが、それでもこうして戦場に立ったのだから、遠慮なく剣を交え、そして実りを得させてもらう」
俊身を使って加速したトーマスは、鞘から剣を抜き去ると共に無数の聖属性と火属性の魔力を融合した浄焔により生まれた剣――「倶利迦羅剣」を放った。
聖人に至ったトーマスは、プレゼントした仏典などを参考にしながら独自の魔法体系を作ったと聞いている。「倶利迦楼羅剣」の名はトーマスの裏の見気を上回る見気で見抜いたものだ。さて、他にどんな技を持っているのか楽しみだねぇ。
武装闘気を纏った「倶利迦楼羅剣」の無数の剣に《太陽神》で生み出した光の剣に武装闘気を纏わせて嗾しかけ、剣と剣が激しい激突を続ける中を俊身を使って駆け抜ける。
「帝釈天雷」
聖なる力を宿した雷撃が何もない天井付近から降り注ぐ。
俊身と空歩を駆使して雷撃を躱しながらトーマスと着実に距離を詰めていくと、トーマスが眉を僅かに動かし、トーマスを中心とするドーナツ型に聖なる力を宿した灼熱の炎が氾濫した。
「火獄」
「圓式独創秘剣術 三ノ型 火喰-Higurai-」
圓式独創秘剣術三の型――これは、あらゆる炎を切り裂くことができる剣技だ。霊力の炎をその剣に宿し、その火を纏った剣で切り裂くことで火で火を絡め取り、その火を剣に宿した火の中に吸収してしまうことができる。
前身となったのは、鬼斬の技の一つ「坂上流七ノ太刀 焔裂」――霊力の炎を纏わせた剣であらゆる炎を切り裂いてしまうという技。怪異には火と関係の深いものも多いので、鬼斬の技としては随分理に適ったものだと言えるかもしれないねぇ。
焔を切って焔を付与した剣でトーマスの武装闘気を上回る二重の武装闘気を纏った剣で確かにトーマスの心の臓がある場所を貫いた。電脳体に置き換えられているこの世界では心の臓は存在しないものの、その位置は急所として指定されているので、ここを狙うという選択は間違ったものではない。
このままトーマスはポリゴンと化して消滅する筈で……だからこそ、ボクはボクの胸に貫いて背中にまで伸びた刃に驚きを隠せない。
「……またしても、しかも今回はラルさんの失敗を生かしてご丁寧に剣を突き刺したまま。本当に、タチの悪い」
トーマスの刺した剣を思いっきり引き抜く。ポリゴンが溢れ出たけど、気にせずすぐに「ダークヒール・フェイク」で癒した。
「阿頼耶識とは大変興味深い考え方だ。善業・悪業を輪廻を超えて「蔵」のように蓄積し続け、やがて蓄積された種子を用いて上記の識に働きかけ、対象世界の万物の現象を発生させる識――もし、そのような「蔵」の役割を果たすものが実際にあるとすれば、その「蔵」に蓄積されたものから、私というものを完全に再現できるのではないかと考えた。我が魂魄の霸気《阿頼耶識》は、死と同時に私を完全な形で再生するというものだ。もっとも、使用後十分間は闘気を使用することができなくなるのだが」
つまり、十分のリキャストタイムを有する蘇生能力ということか。
……もし、十分以上の時間を稼げれば再び《阿頼耶識》の条件が整う。しかし、この十分間の闘気の使用不能というのはかなり手痛いダメージだよねぇ。
こちらも闘気を纏わず、緩やかに剣を構える。
緩急をつけながら斬撃を放つと、トーマスもその全てを華麗に捌いてみせた。
トーマスの異能――超反射能力。
常人では鍛えても0.1秒以上を要する反射が、彼の場合は0.04秒程度の速度で反応することが可能で、本来躱せない筈の攻撃を躱したり、二つの箇所を同時に攻撃したりすることができる。
しかし、それでも圓式には対応できない。見気があれば僅かに対応できる余地があったかもしれないけど、そもそも圧倒的にボクとの戦闘経験――データ量が足りない。
――そして、一番重要なことは、ボクの圓式もより進化し、より速くなっているということだ。
「圓式比翼-刹那-」
これが、ボクの正真正銘、今のトップスピード――これまでの《太陽神》で加速させたものとも、放ってきた圓式の斬撃とも違う、ボクの純粋な体術から繰り出される正真正銘の最速だ。
「二人目の大金星ですよ、トーマス先生。このボクに最速の、本気の圓式を使わせたいと思わせたのですから」
トーマスが無数のポリゴンと化して消える中、ボクは剣を鞘に収め、微笑でもって彼の健闘を称えた。
◆
エヴァンジェリン、日長、月長、玻璃、紫水の五人は未だ動かない。
エアハルトもできればシモンが戻ってきたタイミングで、ラーニャ、アルベルトと共に攻め込みたいと思っているようで、残るはジャンロー、ターニャ、ディルグレン、レミュア、ポーチュラカの五人だ。
ついさっきトーマスが仕掛けてきたタイミングでレミュアとポーチュラカが何やら話しているようだったし、この冒険者チームとマウントエルヴン村国の山エルフの族長さんは同時に仕掛けてくるんじゃないかな?
「大地の民に、大いなる大地の守護女神の加護を! 地祇姫の加護」
土属性の魔法と精霊術法の威力を高める加護魔法を発動したポーチュラカは、地を蹴って加速――瞬時に頑丈な身の丈の三倍を超える大地の加護を受けた剣「断崖の神剣」を作り上げると、武装闘気を練り上げて纏わせ、一気に振り下ろしてきた。
「私はレミュア殿に剣の手解きを受け、畏れ多いことにポーチヴァ様に指南をして頂くことができた! あの時の私では最早ない! 岩石砲包囲網!」
瞬時に岩の砲台を生成し、八つの砲台から同時に岩石砲を放ってくる。その全てにご丁寧に武装闘気を纏わせているから、ただの岩だと舐めて掛かれば厄介なことになる……まあ、岩には充分殺傷力があるんだけど。
武装闘気を纏わせた双刀から繰り出した圓式の斬撃で全て両断し、そのまま俊身を使ってポーチュラカに斬り掛かる。
「黒より黒く闇より暗き漆黒の混沌に冀う。灰は灰に、塵は塵に、万象等しく灰塵に帰す焦熱を我は望まん! 破壊の魔の奔流を我が手に宿せ! 灰燼爆裂・斬」
「マジックディスターバー」
ポーチュラカを守るようにボクの前に立ち塞がり、『大地を砕く勝利の剣』に「灰燼爆裂」を収束して斬撃を放ってきたターニャに対し、ボクは特殊な波長の月の魔力で魔力の流れを掻き乱して暴発させながら消し去るオリジナル月魔法をすぐさま右の太刀に纏わせると『大地を砕く勝利の剣』の刀身に刺突を浴びせた。
「灰燼爆裂」の力が暴発してターニャがポリゴン化していく姿に一瞥を与えつつ、ボクはポーチュラカに今度こそ斬りかかった。
「龍の魔力、お借り致します! 奥の手――龍宿魔法! 岩地竜の咆哮!!」
へぇ……ドラゴンの魔力をその身に宿すことで発動できる限定的な魔法か。
風の国ウェントゥスの緑の使徒は知らなかったようだし、恐らくポーチヴァが用意した秘策なのだろう。……まあ、魔法自体の解析は終わったから、後で緑の使徒の新たな武器にできないかラファールと緑の使徒と相談してみるとしようか。
「極大付与術」
ブレスの属性を土から聖属性の回復魔法に変え、実質無意味なものにしてからそのブレスの中を俊身を使って高速移動し、武装闘気と覇王の霸気を纏わせた右の太刀を驚愕の色に染まった表情のポーチュラカの胸へと突き刺す。
さて、次はジャンロー、ディルグレン、レミュアの三人か――どう立ち回るのか楽しみだねぇ。
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