Act.8-243 バトル・シャトーのお披露目と剣武大会 scene.11
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
「……全くどいつもコイツもハードルを上げよって。ボルテージを上げまくった結果、アネモネ殿がただの戦闘狂になってしまったではないかッ!」
アスカリッドはまさに他の自信のない面々の心を代弁をしたようで、エアハルト、ラーニャ、レイン、アゴーギク、カトリーヌ、ラル、ジャンロー、ターニャ、ディルグレン、レミュア、ヘルムート、ラミリア、フォッサス、イフィス、ロックス、シャードン、バチスト、エルセリス、ポーチュラカがウンウンと頷いて……って、この中に一部絶対お前そっち側じゃねぇだろ! って言いたくなるメンバーが揃っていたけど、本当に大丈夫か?
「……って、誰が戦闘狂ですか!!」
「こういう時の反応は、オニキスさんとアクアさんそっくりですね。……アネモネさん、貴女は隠しているように見せかけて、誰がどう見たって戦闘狂です。その戦意漲った炯々とした瞳、その凄惨な笑顔……とても淑女の見せて良い物ではありませんわ」
こういう時の無表情ジト目のフレデリカの言葉はズキズキと心に突き刺さるねぇ。
「今日は孤児院への訪問の予定と重なって参加できなかったエリーザベトの分も頑張ってくると言って出てきたから、あまりよろしくない結果のまま沈む訳にはいかぬのじゃ!」
「そういえば、『Rinnaroze』の新作スイーツを大量に予約しておられましたね。勿論、自分も食べたいと思って購入したのでしょうが、孤児院の手土産も兼ねていたのですわね」
「……全く、あの妹は……こちらを優先すべきだと何故分からないのでしょうか?」
「ヴェルナルド様、貴方達教会上層部よりもエリーザベト様の方が素晴らしいと私は思いますわ。そして、リーリエ様もそうお考えなのではありませんか? 子は宝、未来の希望そのものですわ。そして、それは身分や財産によって左右されるものではありません。結果だけを求める訳ではありませんし、見返りが全てではありませんが、こういった奉仕の心がいつか大きな実りをもたらすかもしれません。……少なくとも、極めて個人的な目的の模擬戦に参加するよりも高尚なことをしていると私は考えますわ。もっとも、この模擬戦も我々が我々の大切なものを守るための力を鍛えるために必要なことであることは承知しておりますが」
「……全くその通りでございます」
この狂信者達は色々と履き違えているところがあるからねぇ、そういったところを少しずつ治して行ってくれるといいんだけど……難しそうだなぁ。
「しかし、エリーザベト様の分で頑張りたいとは……とても素晴らしいですわね。とても微笑ましいと思いますわ」
「ち、違うからなッ! 我は断じてそのような感覚をエリーザベトにはコンマ一ミリも抱いておらぬからなッ!!」
「あらあら? そうでしょうか? 私はとてもお似合いだと思いますわ。それに、エリーザベト様は満更でも無さそうですが?」
「……地味にそういうところがあるから困るのじゃが。……本当に彼奴の本心は分からぬからのぉ、いつもふわふわしていて掴み所がないのじゃ」
「まあ、悪感情を抱いていたら行き倒れていた魔王の娘を拾って衣食住の世話はしないと思いますわ。リーリエ様は天上の薔薇聖女神教団にくれぐれも魔族と敵対しないようにと伝えていたようですが、早い段階で天上の薔薇聖女神教団の本部に引き渡しても問題は無かった筈です。しかし、エリーザベト様はアスカリッドさんが落ち着くまで衣食住を提供し、タイミングを見計らってリーリエ様に報告をなさいました。そこに義務感以上のものが働いていたのは間違いありません。……それに、あのド=ワンド大洞窟王国のテーマパークに招待した時のエリーザベト様の嬉しそうな笑顔は本物だったと思いますわ。あの方、魔性の性質があるように思えますが、実際は可愛い物が好きで、根が真面目な方ですからねぇ。アスカリッドさんの気持ちを弄ぶということはないと思いますわ」
……少しは悪戯心はあるけど、アスカリッドのことを気に入っているというところは決して間違っていないからねぇ。それがまだ百合に発展はしていないんだろうけど。
密かに欅達もアスカリッドとエリーザベトの百合が進展することを祈っているみたいだし、梛は二人をモデルにした同人誌を書いているらしい。まあ、それだけあの百合好きな魔物達が注目しているのだから、可能性は高いんじゃないかな?
「……それはそれでどう対応すべきなのか分からぬのじゃが。とりあえず、エリーザベトに嬉しいと言われて悪い気はしなかった、それだけは確かじゃな」
まあ、こういうものは周りが急かすものでもないし、当人達がどうしたいかが全てだからねぇ。ボク達としてはその尊い関係をいつまでも見守っていたいなぁ、とは思うんだけど。
◆
五人の中で誰よりも先に仕掛けてきたのは、アスカリッドだった。
「魔王技・闇魔開闢」
代々魔王一族に伝わる闇の魔力を纏わせる魔法剣を使い闇の魔力を『魔剣フィーリアレーギス』に纏わせたアスカリッドだったけど、これまでの魔王と違うのはそこに武装闘気を二重に纏わせていることか。
「魔王技・闇魔飛斬」
アスカリッドは遠距離から闇の魔力を纏わせた魔法剣で飛ぶ斬撃を放ってきた。勿論、これはただの挨拶代わりの攻撃で決定打にしようとは考えていないのだろう。
「朧黎黒流・覇道雷光」
「聖属性付与・浄化煌燦! 赤熱する閃剣・一刀斬鉄!」
更に左右からディグランとジルイグスが挟撃を仕掛けてくる。ディグランは覇王の霸気と武装闘気、更には英雄覇気という抵抗力が弱ければ術者に屈服して心酔してしまうほどの圧倒的な魔法闘気を魂魄の霸気《英雄王》によって『剛地鋼剣ドヴェルグティン』に纏わせ、その上から聖属性の魔力を纏わせ、斬り上げてから猛烈な振り下ろしを叩き込む技を放ち、ジルイグスは『ハイ・ソニックブリンガー』に聖属性を付与した上で赤熱化させた刃で高速斬撃を放ってくる。
どちらも強攻撃で、間違いなく連携技で叩き込むようなものではない。……なかなか対処の難しい同時攻撃を仕掛けてくる。しかも、その二つに気を取られれば、魔法剣発動済みのアスカリッドと狙撃手型魔法剣士といえるミスルトウの攻撃を喰らってしまうことになる訳で……こういう模擬戦って常に周囲を観察し、相手の動きを先読みしないと簡単に負けてしまうから緊張感があって本当に楽しいよねぇ。
「ダブルディスターバー・デュアル」
ディグランとジルイグスの剣に特殊な波長の月の魔力で魔力や気の流れやエネルギーなどを掻き乱して暴発させながら、消し去るボクの新たな月属性魔法剣を放ち、二人の強化を完全に無効化してその強化分のダメージを跳ね返すと同時に武装闘気と覇王の霸気を纏わせた双刀で圓式を放って二人を同時に撃破する。
「ディグラン陛下とジルイグス殿を一撃で……そんな、あれほどの強化をしていたというのに」
「いえ、アスカリッドさん。そもそも前提が間違っています……あの二人はあれほどの強化をしていたから凄絶なダメージを負ったのです。私の娘の持つ『キャンセラー』系魔法の上位互換で、強化を消し去ると同時に強化された分のエネルギーを相手に跳ね返す厄介な魔法です。しかし、『マジックキャンセラー』と『フォースキャンセラー』を合わせた、魔法と物理的な強化、どちらも無効化できるものは無かった筈です!」
「勿論、研究を重ねた結果ですわ。……ミスルトウ様は私がいつまでも停滞し続けている人間だとでも思っていましたか?」
残るはアスカリッド、ミリアム、ミスルトウの三人。
ミリアムはあんまり仕掛ける気がなさそうだし、後衛のミスルトウに意識を分散させつつ、まずはアスカリッドを叩くべきだねぇ。
「魔王技・闇之氾濫!」
「――ッ!? いきなりトップギアですかッ!?」
まさか、アスカリッドでもいきなり魔王の奥義を放ってくるとは思わなかった。
強烈な闇のエネルギーを発射してきたアスカリッドに対し、ボクは「聖なる護壁」を使ってダメージをほとんどカットすると共に、闇属性と火属性の複合魔法で漆黒の焔を操る「魔王技・冥府之焔」を「凍焔劫華」で凍結させ、属性と氷の属性の複合魔法で闇の魔力を込めた極寒の冷気で一帯を丸ごと凍結させる「魔王技・冥界之氷獄」を「術式霧散」で無力化する。
「――ッ! やはり、悉く無効化されるか。『剣聖』殿、ミスルトウ殿、できるだけ我が隙を作る。その隙を突いて攻撃を仕掛けてくれ!」
「……勝算はありますか?」
「全くないッ!」
アスカリッドが地を蹴って加速した。それと同時に魔剣に聖属性の魔力が灯り、七色の輝きを宿す。
「七撃にて必ず敵の息の根を止める聖なる奥義――七彩虹輝終焉刺突」
聖属性の魔力にて魂に干渉――七撃によって魂を破壊し、敵を死に至らしめる刺突技か。
「燦く星、宙より堕ちる! 魔王技・漆黒之雷嵐!!」
「へぇ、このタイミングで聖属性魔法と闇属性と風属性と雷属性の複合魔法の同時発動ですか。剣に対処すれば、魔法に対処が遅れ……魔法に対処すれば、七撃を浴びることになる……なかなかよく考えられています、が……術式霧散」
同時発動で猛烈な聖なる光を凝縮した天体から無数の光条を放射する設置型の聖属性魔法と闇の魔力を込めた竜巻を顕現し、漆黒の雷撃を包み込んだ竜巻を相手にぶつける闇属性と風属性と雷属性の複合魔法を無効化し、「ダブルキャンセラー」を纏わせた刺突で「七彩虹輝終焉刺突」を無効化する。
「まだじゃッ! 奥の手――聖滅爆散!」
「――まさか、自爆魔法!?」
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