Act.8-236 バトル・シャトーのお披露目と剣武大会 scene.4
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
現在、ボクに仕掛けてきているのは「風刃空断」を使うミスルトウと、『背繋飛剣』と剣を交えているジョナサン、ヨナタン、ジョゼフの三人。
この中で先に潰しておくべきなのはミスルトウだけど……。
まあ、ボクの見え見えの狙いも娘さんにはお見通しのようで、『ムーンライト・フェアリーズ・エペ・ラピエル』に武装闘気を纏わせたプリムヴェールがミスルトウを守るようにボクの目の前に立ち塞がった。
「やっぱり父親想いですね」
「いや、そうではなく純粋にこのタイミングで挑もうとしただけだが? 先に勝負を仕掛けておいた方が復活回数が増えるだろう?」
「そこは嘘でも父の前にまず私を倒して行け! みたいなことを言わないと……いいですよ。私もプリムヴェールさんとの戦い、とても楽しみにしていましたから」
ミスルトウが少しだけがっかりした表情を見せ、ラインヴェルドとオルパタータダが露骨に「俺達だって仕掛けたいのに!」という顔をしているけど……別に仕掛けて良いんだよ? 順番とか決まってないし。
「ダークマター・フォージ」
先に仕掛けたのはプリムヴェール――選んだのは圧縮した暗黒物質を剣先から飛ばし、敵に命中させたところで解放する闇属性魔法か。まあ、これで仕留められるなんて思っていないだろうし、お手並み拝見というところだろう。
空歩で空中を高速移動して躱しつつ、お返しとばかりに圧縮した暗黒物質を剣先から飛ばし、敵の足元に命中させると同時にそこから暗黒物質を顕現して勢いよく地面から噴き上げさせる「ダークマター・カンタフェイト」を浴びせる。
「聖なる護壁」
……まさか、耐えられるなんてねぇ。これでも、模倣とはいえローザがレベル95で習得する闇魔法が下敷きになっているんだよ。
「……ラインヴェルド陛下とオルパタータダ陛下との戦いの際に聖人になっていることは知っていましたが、あの頃よりも強くなっておられるようですわね」
「聖人じゃと!?」
「師匠と同じ聖属性が使えるという、あの聖人ですか!? 本当に、聖属性の魔法を……信じられない」
ミリアムとアルベルトは驚いているみたいだけど、聖人に至った者って結構いるから特に驚きはないんだよ。
ラインヴェルドとオルパタータダとの戦闘を経験したプリムヴェールは、他の聖人という者がどのような戦闘スタイルを取っているのかを知り、隔絶した差を理解したのだろう。
だけど、ラインヴェルド達のものをそのまま模倣したところでラインヴェルド以上にはなれない。プリムヴェールもそこに独自性を加える必要があることは理解していた。この魔法も今回の秘策の一つなのだろう。
「ラインヴェルド陛下とオルパタータダ陛下との再戦を経験して、このままではいけないと痛感したから、夏の間に手を尽くしたつもりだ。新たに編み出した聖属性魔法と、習得した圓式基礎剣術、そして私の新たな魂魄の霸気でこの勝負、勝たせてもらうぞ!」
「……ネタバレはしなくても良いのですよ? ……プリムヴェールさんは本当に隠し事ができませんね」
「――しまった!?」
ほら、ミスルトウが後ろで呆れているよ? まあ、ミスルトウもプリムヴェールも真面目だし、似た者同士ではあるんだけどねぇ、まあ、ミスルトウはわざわざ敵に切り札を見せるような真似はしないけど。
……しかし、新しい魂魄の霸気か。どんなものなんだろうねぇ。
「そのバリア、闇属性の魔法を99.9パーセントカットするというものですわね?」
「なっ、なんじゃと!? そんな魔法が実在するのか!? それでは、魔族と最も相性の良い闇の魔法が全く通用しないということになってしまうぞ!!」
アスカリッドにとっては、この魔法は看過できないものみたいだけど、普通にエルフにはあらゆる攻撃を封じる魔法があるからねぇ。その分、消費魔力もデカいけど。
「障壁干渉」
まあ、そういう魔法に対抗策がないという訳ではない。
オルカのバリア潰し攻撃特技「障壁噛碎」は見せているから、予測くらいはできていると思うけど、障壁を薄いものに書き換えることで耐久力を著しく低下させるということは技術的には可能なんだよねぇ。後は無属性魔法に応用するだけ。
「これで、聖なる護壁の対闇属性耐久力は0.001%になりました」
「……無茶苦茶じゃ!」
「……まあ、流石にネタが割れているのに何も対処されないということは、アネモネ殿に限っては絶対にないからな。ここまでは想定済みだ。――ダブル・ムーンライト・ラピッド・ファン・デ・ヴー」
裏の武装闘気で細剣を作り出して、二刀の刀身に武装闘気を纏わせた上で月属性の魔力を宿す付与術式を発動し、円を描いて中心を突き、巨体化させた刀身で突く技……でも、ボクとの距離がかなり離れた地上から放ったところで、絶対に届くことはないし、なんなら、狙いすら滅茶苦茶。
でも、それで攻撃が届くとしたら、プリムヴェールの魂魄の霸気がどのようなものか大方の予想が付けられる。
見気の未来視を発動。ボクの左右から同時に巨大な刀身が出現することを知ると、空歩を使って瞬時にバックステップ――プリムヴェールの「ダブル・ムーンライト・ラピッド・ファン・デ・ヴー」の回避に成功する。
「魂魄の霸気の内容は、風刃空断に似ているようですねぇ。……差し詰め、自身の捉えた範囲に斬撃を含めあらゆる物体を瞬時に転移させる《転送》でしょうか? 但し、人は転移させられないようですが」
「――おい、プリムヴェール! このタイミングでそれだけは絶対にダメだろ!! アネモネが強化されちまったじゃねぇか! あの圓式の斬撃を狙撃みたいに脈略なく遠距離から放たれたら俺達でも余裕で死ねるぞ!」
「す、すまない……」
ラインヴェルドの説教に、一気に萎縮してしまうプリムヴェール……まあ、このタイミングでそれは悪手だよねぇ。今回の試合では使わないから良いけど。
物理攻撃上昇、物理防御上昇、魔法攻撃上昇、魔法防御上昇、状態異常無効化、自己治癒促進能力、月属性魔法威力上昇の効果を持つ白い虹のような七つの小さな輪を作り出す《月虹》と、《転送》を有する《森精騎士》に【再解釈】を経て至ったんだろう。《転送》は間違いなくミスルトウの影響だ。
「プリムヴェールさんが圓式を習得しているということなら、どこまで戦えるか是非見たいですね。ここまで上がってきてください――ご安心を、途中で撃ち落としたりはしませんから」
裏武装闘気を解除して元の一刀流に戻ったプリムヴェールが空歩でボクの目の前まで登ってきたのを確認すると、『銀星ツインシルヴァー』の左の太刀を鞘に戻し、右の太刀のみで構える。
「千羽鬼殺流・巨門! 千羽鬼殺流・武曲-圓式-」
特殊なステップで瞬時に残像を発生させ、残像を囮にして攻撃を仕掛けるおおぐま座β星の名を冠する鬼斬の技を使って作り出した残像に霊力を混ぜて実体化させ、更に武装闘気を纏わせて硬化――そこから三人同時の弧を描くようにして、対象に斬撃を浴びせるおおぐま座ζ星の名を冠する鬼斬の技を放ってきたか。
圓式でこの同時攻撃は見気から光速の思考加速がないと対処が不可能だよねぇ……本当に、プリムヴェールさんは強くなっている。
紙躱を使って残像二人の攻撃を躱しつつ、剣から発する振動波を剣を通して相手に伝え、相手の神経を麻痺させる衝撃剣――「静寂流十九芸 剣術三ノ型 渾衝流」に斬撃を繰り出した際に筋肉の収縮を連続で行うことによって、 その際に発する衝撃波を武器を通して相手に叩きこむ「常夜流忍暗殺剣術・毒入太刀」を組み合わせて猛烈な衝撃をプリムヴェールの細剣に浴びせよう……と思ったのだけど、毒入りなのをあっさり見抜かれて剣を合わせるのを避けられた。
「千羽鬼殺流・辰星-圓式-」
「千羽鬼殺流・武曲-圓式-」
勢いよく跳躍し、落下速度に体重と剣速を乗せた斬撃を放つ水星の別名の名を冠する鬼斬の技に対し、ボクが選んだのは弧を描くようにして斬撃を浴びせるおおぐま座ζ星の名を冠する鬼斬の技……と、武器に霊力を流し込むことで破壊力が増し、相手の体内に毒のような効果をもたらす金星の別名の名を冠する鬼斬の技――「千羽鬼殺流・太白」。
プリムヴェールの細剣の刃先をしっかりと弾き返すように弧型の斬撃を浴びせ、刃先と刃が触れ合う瞬間に膨大な霊力を注ぎ込む。
「――くっ! 腕が……」
だけど、どうやらここで撃破……とはいかないらしい。副作用なく傷を癒す月属性の回復魔法「ムーンライト・チャリス」で腕を無理矢理修復して……。
「月の力よ、我が武器に宿れ――ムーンライト・スティング! テンペスタース・ファンデ・ヴー」
ここで、二十四の刺突を放つ二十四連撃細剣ウェポンスキルを放ってくるのか!?
プリムヴェールのシステムに任せた怒涛の二十四の刺突をシステムアシスト抜きの「静寂流十九芸 剣術応用止ノ型 鋒止突」で全て受け止め、そのまま攻撃を――。
「ダークマター・フォージ」
――ッ!? システムアシストを使っていると見せかけて、二十三回目の攻撃が終了した時点でウェポンスキルをキャンセル、最後の突きは自前のものだったのか。
しかも、その突きも圧縮した暗黒物質を剣先から飛ばすためのもの――あっ、これ、ちょっとまずいかも。
光速以上の速度での攻撃や光の操作が可能になる《太陽神》を駆使して光の速度の空歩で圧縮した暗黒物質を回避し、そのまま光の速度を凌駕する圓式の斬撃をプリムヴェールに浴びせる。
一瞬だけ、ボクの姿を目で追えていたみたいだけど、流石に身体が反応せずということで抵抗されることなくそのまま撃破。
「プリムヴェールさん、強くなっているなぁ」
「相棒、これヤバいんじゃねぇ? あんなに強くなっているプリムヴェールがやられたってことは……」
「まあ、戦ってみるまで分からない。ということで、アネモネさん。次は俺、オニキス、ディラン、ファント、ウォスカー、ファイスの漆黒騎士団のいつもの四人部隊で行かせてもらう!」
「「――また出遅れたッ!」」
だから、宣言せず仕掛けてこなくて良いって言っているのに……それに、攻撃宣言をした人以外は全く動く気配を見せないし、本当に真面目だねぇ。それじゃあ、ボクを討ち取るなんて無理だよ?
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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