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Act.8-233 バトル・シャトーのお披露目と剣武大会 scene.1

<三人称全知視点>


「招待状にあった住所はここじゃな」


「どうやらそのようですね」


 アネモネの招待を受けた『剣聖』ミリアムと次期『剣聖』と噂されるアルベルトはその日、王都の一角にある屋敷を訪れていた。

 植えられている植物は皆しっかりと手入れされているようだ。


「アネモネ殿の屋敷なのだろうが……ここで戦闘というのはあまり想像できないが」


 見たところ、戦闘のできそうな場所は無さそうだ。本気の試合をしようとすれば、折角手入れの行き届いている庭木を傷つけることにもなりかねない。


「そこの二人、そこで何をしておる? お主らも今回の大会に呼ばれたのじゃろう? ならば、そこで突っ立っていないでとっとと屋敷に入れば良いのではないか?」


 ミリアムとアルベルトは声を掛けてきた少女を見て驚き、ほぼ同時に抜刀した。


 褐色の肌に碧眼と金色の瞳のオッドアイ、黒いツノの生えた深紅のドレス姿の少女――明らかにその特徴は魔族特有のものだ。


「『剣聖』ミリアムじゃな? 噂はオルゴーゥン魔族王国まで轟いておった。初めまして、我はアスカリッド・ブラッドリリィ・オルゴーゥン――現魔王の娘じゃ。まあ、今は家出しておるがのぅ。……主らに対して敵意はない。抜刀を解いてくれると助かる……我も今回の大会の貴重な戦力をみすみすここで脱落させたくないからのぉ」


 アスカリッドは漆黒の魔剣を鞘から少し抜いて刃を見せ、圧倒的な威圧感――霸気を纏ってミリアムとアルベルト相手に余裕の笑みを見せた。


「……大会とは、一体何ですか? 私達はアネモネ閣下に呼ばれて……」


「そういえば、この件は招待状の第一弾が送られた後に決定したのじゃったな。まあ、とりあえず入れば分かるじゃろう」


 アスカリッドが先導し、ミリアムとアルベルトはその後を追うように屋敷の中へと入っていく。


「アスカリッド様、ミリアム様、アルベルト様、ようこそお越しくださいました」


 出迎えたのは蒼から赤へのグラデーションのある髪を肩まで伸ばした翡翠色と紫水晶のオッドアイの人形のような美貌を持つメイド服姿の少女だ。


「……見ない顔じゃな」


「初めまして、私はデルフィーナ=イシュケリヨトと申しますわ。バトル・シャトーのお披露目兼剣武大会の給仕役兼案内役を担当させて頂きますので、よろしくお願い致します」


「……バトル・シャトーとな? 聞いたことがないが。それに、イシュケリヨトと言えば旧帝国の皇帝の姓では無かったか?」


「百聞は一見に如かずと申しますし、まずは会場までご案内致します」


「こちらは会場ではないのですね」


「えぇ、ここはあくまで待ち合わせ場所でございます」


 アルベルトの美貌に見惚れることなく、デルフィーナは三人を先導するように歩き出した。

 廊下を進み、一つの扉の前で立ち止まる。そして、扉を開けるとその先には――。


「空間魔法じゃな……しかし、見事なものだ」


 ミリアムが感心したのは魔法に……ではない。扉の先に堂々と聳え立つ巨大な城に圧倒されたのだ。

 先程屋敷に見事と思ったミリアムだが、すぐに考えを改める。


 この城に比べれば、あの屋敷は数段見劣りするものに思えてくる。……それでも、中位貴族の屋敷に匹敵するものなのではあるのだが。


「実は、私もここに来るのは今日が初めてなのですわ。アネモネ閣下によれば、バトル・シャトーのあるこの島はビオラ=マラキア商主国の沖合に作られた人工の島なのだそうです。複数の魔法や異能により、その位置は巧妙に隠され、通常の方法では訪れることはできないとお聞きしています」


「……しかし、これほどの――それこそ、ブライトネス王国の王宮にも匹敵するこの施設、一体何のために建てられたものなのじゃ? ビオラ=マラキア商主国には既に城があるじゃろう?」


「ここは、バトル・シャトー。読んで字の如く、戦いに特化した施設です。……これまでは各国に提供されていた『時空魔導剣クロノスソード』を、アネモネ閣下は将来的に国家を経由した貸与ではなく多種族同盟からの直接の貸与の形に変更したいとお考えのようです。……時空騎士は国から任命されるもので、その任命権は各国に委ねられていました。しかし、それでは国内での争奪戦が発生するものの、国家内で優劣が付いてしまい、各国ごとにレベルの差が生じてしまうのではないかという懸念があります。……勿論、それにより均衡が崩れる可能性も出ますが、時空騎士に各国上層部の指示から独立するという権利を与えることで、その解消を狙うつもりのようです。時空騎士は各国から独立しますが、勝手なことをして良いということではありません。もし、多種族同盟や加盟国に何らかの不利益を発生させると判断された場合、残る全員によって討伐がなされるということになります。そして、時空騎士となった者は有事において率先して戦わなければなりません。無論、命を賭けてまで戦う必要はありませんが、誰よりも力を与えられているのですから、多種族同盟加盟国の人々を守るために尽力しなければなりません。……では、具体的にどのような方法で『時空魔導剣クロノスソード』の所有権が争われるか……そこで鍵を握るのが同盟貴族制度です」


 同盟貴族とは、一般的な貴族の爵位とは異なる特殊な地位を指す。

 簡単に言えば、多種族同盟の時空騎士とその候補が参加するランキングのようなもので、その強さに合わせて上から同盟王位(キング)同盟大公(グランデューク)同盟公爵(デューク)同盟侯爵(マーキス)同盟伯爵(アール)同盟子爵(ヴァイカウント)同盟男爵(バロン)の称号がそれぞれ与えられる。


「この爵位に応じて、多種族同盟から支払われる通常の時空騎士の給与の額が変化します。この爵位は昇格と降格があり、昇格は戦争での貢献度も大きく関係しますが、基本的に爵位は一つ上の爵位を持つ者と闘って勝利することで上がっていきます」


「……つまり、新規で時空騎士を目指すならば、同盟男爵(バロン)に挑戦して勝つ必要があるということじゃな。まあ、普通は同盟王位(キング)を目指すのじゃろうが……我は同盟侯爵(マーキス)辺りまでいければ十分じゃと思う。同盟男爵(バロン)は嫌じゃな……とにかく挑戦数が圧倒的に増えそうじゃ。……まあ、同盟王位(キング)はアネモネ閣下のものじゃろうが」


「どうやら、閣下は参加なさらないようですわ。自分は無給で構わないから……と。同盟王位(キング)は、多種族同盟の各国の国王クラスが争うものになると思われますが、恐らく、ブライトネスの国王陛下かフォルトナの国王陛下のものになるかと」


「……まあ、アネモネ殿不在ならそうなるじゃろうな。……防衛戦も常にラインヴェルド陛下とオルパタータダ陛下になりそうじゃ」


 間違いなく魔王よりも強い化け物じみた国王二人を想像し、アスカリッドは溜息を吐いた。



「おう、来たか! これでようやく全員揃ったみたいだな? どうだ? アスカリッド? 聖人の修行をしてきたんだろ? 聖属性は扱えるようになったか?」


「よく聞いてくれた! 我は最早ただの魔族にあらず! 聖魔族と呼ぶべき存在じゃ! 今なら父上――魔王と戦っても余裕で勝てそうじゃ」


「……まあ、魔王に勝てても魔皇には――神祖の吸血姫リーリエには勝てないだろうけどな」


「……寧ろ、彼奴に勝てたら世界の神になれるじゃろう。それよりも、説明しなくて良いのか? 『剣聖』殿も次期『剣聖』殿も全く話を聞かされていなかったようじゃ」


「おっ、悪かった。すまねぇ」


 ミリアムは、ラインヴェルドとアスカリッドの話を聞いて衝撃を受けていた。

 聖属性――ミリアムが『剣聖』たる所以の力をまさか自分の他に習得している者がいるとは思えなかったのである。


「驚いているみたいだなぁ。俺達が聖属性を習得したことに驚いたんだろう? まあ、それもこれも、アネモネのおかげだ」


「それはどういう――」


 アルベルトがそう言おうとした直後、アルベルト達が居たエントランスから城内へと進む唯一の通路の扉が開き、アネモネが姿を見せた。


「全員お揃いのようですね。それでは、皆様、このまま先にお進み下さい。そこで本日のルールを説明させて頂きます」


 アネモネが案内したのは広い舞踏室だった。そこにはテーブルが用意され、料理なども置かれている。


「改めまして、バトル・シャトーへようこそいらっしゃいました。まず、状況を読み込めていないミリアム閣下、アルベルト閣下に今回の経緯をおおまかに説明させていただきますと……そこの天上の薔薇聖女神教団に所属したドS神父がクソ陛下に提案した結果です。本日は、多対私一人の模擬戦となります。剣以外――魔法も含め、全て使用可能で、今回の模擬戦では何度でも私に挑むことが可能です。ただし、しっかりと時間制限を課させて頂きます。皆様に与えられた制限時間は一時間、その間に私に勝利できれば皆様の勝ち、一時間逃げ切れば私の勝ちですわ。ちなみに、私に勝てた場合は優勝賞品としてビオラの商品券十万ARC(アーク)分を進呈致しますが、もし勝てなかった場合は参加賞のビオラの商品券三千ARC(アーク)分となりますので、ご了承ください」


「……負けても結局渡すんだな」


 呟いたのはエルフの少女だった。ミリアムの記憶によれば、緑霊の森の次期族長補佐――プリムヴェールだろう。


「えぇ、流石に本日時間を割いて頂いた皆様に申し訳ございませんからねぇ。負けるつもりは毛頭ありませんし、参加賞だけ頂いて帰って頂くことになりそうですか」


「……まあ、そうなるだろうな」


 プリムヴェールは参加したにも関わらず後ろ向きの考えのようだ。

 絶対に勝てる筈のないという態度を隠しもしないプリムヴェールにアルベルトは疑問を浮かべる。何故、これほどの人数を揃えたのに、勝てないと断言できるのか?

 いくら強いとしても、アネモネはたった一人――数の論理でいえば、勝つのは私達の方ではないのか、と。


「本日は、ブライトネス王国王宮からラインヴェルド=ブライトネス国王陛下、バルトロメオ=ブライトネス王弟殿下、アクア=テネーブル様、ディラン・ヴァルグファウトス・テネーブル大臣閣下、ジルイグス=パルムドーハ第一騎士団騎士団長殿、ディーエル=ノッディルク第二騎士団騎士団長殿、モーランジュ=サルヴァトーレ第三騎士団騎士団長殿、シモン=グスタフ王国宮廷近衛騎士団騎士団長殿、エアハルト=ライファス王国宮廷近衛騎士団副団長殿、ラーニャ=ルーシャフ白花騎士団騎士団長殿、レイン=ローゼルハウト第一王子専属侍女殿、魔法省からアゴーギク=アンダースン様と、カトリーヌ=デーリアス様、ブライトネス王国ラピスラズリ公爵家からエリシェア=ハーフィリア様とカレン=エレオノーラ様、スティーブンス=ウィルクス様、ジミニー=ジョータス様、アルバート=アーヴァンス様、パペット=ウィズリー様、フェイトーン=グラダース様、ダラス=マクシミラン様、アンタレス=スコルピヨン様、アリエル・ツェペシュ様、シュトルメルト=アーヴァンス様、ローランド=コーウィッシュ様、エルネスティ・ライファレド様、極夜の黒狼からラル=ジュビルッツ様、冒険者チーム『三つ首の狗狼(ケルベロス)』からジャンロー=ジャルー様、ディルグレン=プロドガンド様、ターニャ=シュミェット様、レミュア=サンクタルク様、天上の薔薇聖女神教団からヴェルナルド=グロリアカンザス天上の薔薇騎士修道会騎士団長殿、ジョナサン・リッシュモン神父、緑霊の森からミスルトウ=オミェーラ族長補佐殿、プリムヴェール=オミェーラ次期族長補佐殿、ユミル自由同盟から虎人族長のヘルムート=迅虎(シュン・フー)=フーウィン=ティグリス様、蛇人族長のラミリア=巻尾(チュェン・ウェイ)=セブレス=アングイス様、獅子人族長のフォッサス=百獣(バイ・ショウ)=ドイルツ=レーヴェ様、猫人族長のイフィス=凛咲(リン・シァォ)=ケットセ=フェーレース様、ド=ワンド大洞窟王国からディグラン=ヴォン=ファデル=ダ=ド=ワンド国王陛下、ロックス=ヴォン=ハルシャタ=ダ=ド=ワンド宮廷騎士団長殿、エナリオス海洋王国からソットマリーノ=アムピトリーテー第一王子殿下、ボルティセ=アムピトリーテー第二王子殿下、シャードン=ピストリークス軍司長殿、フォルトナ=フィートランド連合王国からオルパタータダ=フォルトナ国王陛下、【漆黒騎士】オニキス=コールサック様、ファント=アトランタ大臣閣下、ウォスカー=アルヴァレス近衛騎士団騎士団長殿、ファイス=シュテルツキン様、バチスト=シルフス伯爵、シューベルト=ダークネス中央軍銀氷騎士団総隊長殿、ティアミリス・エトワ・フィートランド大公令嬢、モネ=ロータス中央軍銀氷騎士団副隊長殿、ファンマン=ロィデンス中央軍銀氷騎士団第一師団長殿、フレデリカ=エーデヴァイズ中央軍銀氷騎士団第二師団長殿、ポラリス=ナヴィガトリア中央軍銀氷騎士団第六師団長殿、ドロォウィン=シュヴァルツーテ中央軍銀氷騎士団第十一師団長殿、ミゲル=セラヴィス中央軍第十二師団長殿、レオネイド=ウォッディズ騎馬総帥殿ジャスティーナ=サンティエ王立図書館図書館長殿、フォティゾ大教会のヨナタン=サンティエ神父、ジョゼフ=サンティエ公爵、国王直属騎士のカルコス=バーキンス様、ルヴェリオス共和国からイリーナ=シャルラッハ大参謀閣下、プルウィア=ピオッジャ真紅騎士団(グラナートロート)副隊長殿、ネーラ=スペッサルティン外部政治評価機関副会長殿、リヴァス=ライトレッド群青騎士団(インディゴブラオ)騎士団長殿、ラングリス王国からエルセリス=シルヴァレスト騎士団長殿、マウントエルヴン村国からポーチュラカ=ヒュームル族長殿、その他の区分で大迷宮の迷宮統括者(ギア・マスター)を務めるエヴァンジェリン・γ・ラビュリント様、鬼神(キジン)族の日長様、月長様、玻璃様、紫水様、冒険者ギルド本部長のヴァーナム=モントレー様、宗教学者のトーマス・ラングドン様、スピード狂のレナード=テンガロン様、魔王の娘のアスカリッド・ブラッドリリィ・オルゴーゥン様にお越し頂きました。剣士縛りという条件下では、まさに多種族同盟の最高戦力と呼ぶべき剛の者達ばかりです。ただし、私も負けるつもりはありません。この不肖アネモネ――全力を尽くしてこの一時間、何度も復活する皆様をこの舞踏室へ送り返して差し上げます」


「おい、ちょっと待て! 俺だけ説明がおかしいだろ! なんだよ、スピード狂って!!」


「では、試合会場に進みながら具体的な説明をさせて頂きますわ」


「無視かよ!!」

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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