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Act.8-224 侍女会議 scene.1 上

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


 指定された会議室に到着した頃には、既にボクを除く全ての宮の筆頭侍女が集結していた。……ボクが最後か、なんか嫌な予感がするねぇ。


「遅かったですね、王女宮筆頭侍女」


 怜悧な光を湛えた蒼色の瞳が印象的な青髪の侍女――ファレル=メディッシス外宮筆頭侍女が毒の混ざった言葉を吐いた。


「五分前行動の原則でしょうか? 確かに、これでは重役出勤のようにも見えてしまいますね。新参ならもっと早く来るべきだと……確かに、新参者であるならば、誰よりも早く会場入りし、先輩方の到着を待つべきかも知れません。慣習と言うものを考えれば。……しかし、私が会議室に入ったのは定刻の丁度一分前――全くもって非難される謂れは無いと思います」


「王女宮筆頭侍女様、てっきり一番に会場入りして中で仕事をしているタイプだと思っていましたが、そうではなかったのですね」


 アルマの認識では、ボクは早め早めの行動を心掛けるタイプだと思われていたらしい。


「確かに、早め早めの行動は大切なものかもしれません。……しかし、その五分を無意味な時間として空費するのであれば全くもって褒められたことではないと思います。人一人に与えられた時間は平均寿命を100年と仮定して、100年は36525日、つまり876600時間……52596000分ということになります。与えられた時間が有限である以上、それを有意義なものにするよう心掛けるのは当然のことかと。……もし仮に私がホストの場合は一時間ほど前から会場の設営をして、万全の体制を整えた上で会場入りを待ちますが、ホストでない場合はご迷惑になることも考えて会場には一分前に入場することを心がけています。ただ早く行動すれば、それで良いという訳でないのではありませんか?」


「……貴女はもう少し時間にゆとりを持つべきだと思いますが、王女宮の。……その様子だと既に一仕事終えてきたのでしょう。空き時間を見つけたらすぐに仕事を入れてしまう癖は治したほうが良いと思います。……本当に過労で死にますよ」


 どうやら、ボクと過労死のイメージはかなり密接に繋がっているようで、前世でノーブル・フェニックスのバイトをしていた頃には、ボクの死因で賭け事にしていて、その第一位が過労死だったからねぇ。まあ、雪城さんだけは異世界に召喚されて戦いに巻き込まれて死ぬという、あの時点では社員全員に荒唐無稽だと思われていたことに割と本気で賭けていたみたいだけど。……もしかして、預言者?


「これは性分みたいなものでして、多分変えようにも変えられないものだと思います。統括侍女様のご指摘の通り、丁度時間がありましたので先に冊子を手渡すべき方々にお渡ししてきたところです。後ほど、こちらの資料を皆様にお渡しするとともに、アネモネ閣下からお預かりした謝罪をお伝え致します」


 まさか、ここでアネモネの名前が上がるのかと内宮筆頭侍女のエーデリア=ドルガンハウルと外宮筆頭侍女のファレル=メディッシスは驚いていたみたいだねぇ。

 統括侍女のノクト、離宮筆頭侍女のニーフェ、王子宮筆頭侍女のアルマ、後宮筆頭侍女のシエルは謝罪(・・)ということに驚いたらしい。


「……謝罪ですか」


「えぇ、後ほどアネモネ閣下はアポイントメントを取り、正式に王妃殿下に謝罪なさるおつもりだとお聞きしております」


「そちらについても、その冊子と共に後ほど説明を頂けるのでしょう。では、まず園遊会の仕事内容に関する仕事内容の再確認を行っていきましょう。特に、今年は王女宮と王子宮の筆頭が新人ですから、しっかりと説明致します」


 まずは園遊会の大まかな内容を確認してから、続いて当日の配置や職務について……といっても普通に給仕の仕事だけど。


 ちなみに、配置といっても国王陛下がいる周辺を統括侍女、王妃殿下がいる周辺を後宮筆頭侍女、王太子殿下と王弟殿下のいる周辺を王子宮筆頭侍女、宰相閣下ご夫妻がいる周辺を内宮筆頭侍女が、マルゲッタ商会の会頭を始めとする我が国が誇る商人の重鎮達がいる区画を外宮筆頭侍女、そして王女殿下と王太后様がいる周辺をボクと離宮筆頭侍女がそれぞれ担当するという、まあ、大凡予想通りの状況なのだけど。


「王子宮の、大丈夫ですか?」


「はい、必要な部分は全てメモしましたので問題ありません」


 アルマも前世の記憶持ちの転生者でかなり有能な人物だ。ノクトもそれを理解しているけど、念のため確認を取ったのだろう……って、ボクの方はいいの? 一応、最年少だよ?


「では、王女宮の、ここからの進行はお任せします」


「承知致しました」


 立ち上がり、一人ずつ資料を手渡していく。


「……避難マニュアルですか?」


「はい、改訂版と伺っておりますわ。ビオラが着工し、進めていた地下シェルターの設置計画ですが、王宮地下迷宮の方もあらかた完成し、シェルターも完成したとお聞きしております。備蓄についても王都の総人口が三週間は生き残れる量を用意したとお聞きしました」


「……一体、何の話ですか? 確かに何かことが起こった場合に避難は必要になります……ですか、これではまるで実際に何か事件が起こるような口ぶりではありませんか!」


「外宮筆頭侍女様の仰る通りです。……アネモネ閣下からの謝罪というのは『園遊会を戦争の舞台としてしまうことを謹んで謝罪したい』ということです。……ほぼ確実に、今回の園遊会は戦争に発展します。しかも、過去最悪の規模の戦争と言われた『怠惰』以上の――」



「では、まず何故その結論に至ったのかを順を追って説明致します。まず、王女殿下の誕生パーティにご出席された皆様は、あのパーティの騒動のことは存じていらっしゃると思いますが」


「……アネモネ閣下に愚かな伯爵が喧嘩を売った結果、あやうく国王陛下と第一王子殿下が揃って抹殺され掛けた例の件ですね」


「統括侍女様、その話ではありませんし……それでは、過程が色々と飛ばされているので誤解を生むことになりかねません。……本来、見せしめに断罪されるのはアネモネ閣下に喧嘩を売った貴族に限られていました。陛下を含め、会場に居た皆様を害する気持ちは無かったと伺っております。あれは、陛下と殿下が揃いも揃ってどさくさに紛れてスティーリア嬢を撃破しようとしたからです。あれは正当防衛だとアネモネ閣下は主張しています」


 それ、どう見ても過剰防衛だろ? っていう視線を一斉に向けられてもねぇ……悪いのは悪ノリした陛下だと思うよ? しかも、あれ自分達は絶対に殺されないって確信しての発言だし……結局、ボクと勝負するという口約束を引き出したんだから、普通にボクの負けだったんだよ。


「……そちらではなく、フンケルン大公に直接喧嘩を売った方ですわ」


「……王太后様も、アネモネ様のあの時の一手に……とても驚いておられました。……あれほどまでに大胆に、そして鮮やかにフンケルン大公家を追い詰めてしまうなど……とても真似ができることではない、と」


「あの方も、まさか王太后様からお褒め頂けるとは思っていなかったと思います。アネモネ閣下もとてもお喜びになられると思いますわ。……しかし、あれは大きな前進を意味する一歩ではあるものの、確実に敵を引き摺り出すための手としてはまだまだ足りないものだと、素人目から見ても思うものですわ。王太后様の多大な評価に相応しい一手であったかは、これから打つ手によって証明していかなければならないものです」


 ……まあ、この時点で事情を知らないメンツには全く意味が分からない話だろうし、ここからは分かりやすく説明していくとしましょうか。


「多種族同盟の使節団はご承知の通り、ペドレリーア大陸に渡りました。そこで一行は先代ラピスラズリ公爵の転生体と遭遇したのです」


「……先代ラピスラズリ公爵の、転生体、ですか?」


「別の可能性の時間軸の未来において死亡し、その魂を持ったままこちらの世界で生まれたというタイプの転生体で、同系統の転生者には大臣閣下とリボンの似合うメイドのアクアさんのお二人がいます。この分岐世界の未来というものは努力次第で変えられるものであることが証明されています。実際、アネモネ閣下がアクアさんと大臣閣下と共にフォルトナ王国に赴き、対処した結果、フォルトナ王国が崩壊するという最悪の未来は回避されました。……では、別時間軸の先代ラピスラズリ公爵が何を見たのかという話ですが……彼が知っているのは五摂家の集まった席で国王陛下と王弟殿下が正体不明の方法で暗殺される事件が起き、王位継承を巡る争いが起きようとしていたタイミングで、ルヴェリオス帝国方面から魔法師軍が大規模侵攻を行って攻撃を仕掛けてきたこと、そしてその侵攻により王都は陥落――生存者は誰一人いなかったということです。彼らは異口同音に自らが『這い寄る混沌の蛇』の冥黎域の十三使徒が一人、オーレ=ルゲイエであると名乗ったとお聞きしています」


 王都が滅ぶというのはやっぱり衝撃だったようだねぇ。事情をある程度知っていた面々も、そうでない面々も――ボク以外の全員の顔から血の気が引いたようだ。


「これは、あくまで断片的に掴んだ情報なので、更に検討を重ねる必要があります。こうして様々検討を重ねた結果、国王陛下と王弟殿下が正体不明の方法で暗殺される事件が起き、王位継承を争いが起きた……まあ、ここまではいいでしょう。では、何故、冥黎域の十三使徒が王都を壊滅させるような軍勢を向けてくる必要があったのか……それは、この国で反乱を引き起こそうとした蛇の信徒が死に絶え、ブライトネス王国が『這い寄る混沌の蛇』の呪縛から解放されたからという以外に考えられません。恐らく、この時点で裏切り者は排除されていたということになります。……払った犠牲は、あまりにも大きかったようですが」


「総括すると、アネモネ閣下にとってはフンケルン大公家を含む混沌派の殲滅は通過点に過ぎず、真の敵はオーレ=ルゲイエであると、そういうことでしょうか?」


「統括侍女様の仰られる通りですが、一つだけ付け加えるのであれば、最低でもオーレ=ルゲイエが仕掛けてくるのが想定されるということであって……アネモネ閣下を含め、各国首相の共通認識としてはそれ以上の戦力が考えられるとするのが妥当だということになります」


「……それは、勝算があるということでしょうか?」


「正直、アネモネ閣下もオーレ=ルゲイエをそこまで危険視していないようでして……最悪、この時間軸であれば国王陛下お一人で殲滅は可能かと考えておられるようです。……話を戻しましょう。前ラピスラズリ公爵の転生体であるベルデクト様の記憶している時期というものは最早当てにならないものです……情勢が随分と違っていますからね。重要なのは、どのタイミングに襲撃を持ってくるかということですわ。アネモネ閣下と国王陛下は協議の末、この園遊会のタイミングにオーレ=ルゲイエとの戦争を持ってくるのが一番だと考えているようです。多種族同盟の主要人物が一堂に会するこの状況は、『這い寄る混沌の蛇』にとっては目障りな者達を一気に消してしまえる絶好のタイミングですから。逆にピンチはチャンスです、この戦争の勝者になれば大陸に蔓延る『這い寄る混沌の蛇』の根絶に一歩近づくことになりますからねぇ」

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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