Act.8-223 アストラプスィテ大公領の大迷宮 scene.1 下
<一人称視点・リーリエ>
『くっ……強過ぎる、わ。これが、五人の迷宮統括者を下した者の力……レベルが、違い過ぎる』
「HPは残り一桁。このままだと死ぬけど……まだやる気があるのかな?」
『例え勝てないと分かっていても、最後までここを死守するのが、迷宮統括者の役目ッ!』
「そう……じゃあ、そろそろボクの軍門に、下ってもらおうかッ!」
MOBの捕獲確率に影響を与える隠し効果がある『魔眼』を駆使して捕獲確率を上げつつ、【万物創造】で作成したMOBの捕獲確率を上昇させる課金アイテムのドミネートMOBポーションをがぶ飲みしながら捕獲確率を高めていく。
『毒蜜撃! 防衛司令! 回復司令! 蜂毒針!』
毒液を蜜と混ぜて放ち、蜂兵達に防御陣を作らせ、残った蜂兵達に回復を命じて、更に無数の毒針を放ってきたアピトハニーだけど……それじゃあ、ボクには届かない。
毒の含まれた蜂蜜も、無数の毒針もボクの身体を擦り抜ける。
『な、何故、攻撃が擦り抜けるのですか!?』
「そりゃ、光だから擦り抜けるでしょう」
身体の構成を全て光に変化させたボクにアピトハニーの攻撃はもう届かない。届けたいなら、ボクの武装闘気を解析して習得するしかないねぇ。
無数の鏡を生み出す《神聖鏡》で鏡を出現させ、光と化している身体そのものを光条へと変えて鏡を利用して屈折しながら光速移動でアピトハニーを翻弄し、そのまま背後に回り込む。
そして、【万物創造】で作った支配者の鎖網をアピトハニーに気づかれる前に投げた。
「さて……念のために聞くけど、君はボクの従魔になってくれたってことでいいんだよねぇ?」
『……完敗致しましたわ。これからは、貴女様の配下として誠心誠意仕えさせて頂きます。よろしくお願い致しますわ、ご主人様』
名前:アピトハニー・θ・ラビュリント
種族:蜂巣礼装の女王蜂、迷宮統括者
所有:リーリエ
HP:40,000,000
MP:2,000,000
STR:30,000,000
DEX:30,000,000
VIT:30,000,000
MND:30,000,000
INT:20,000,000
AGI:30,000,000
LUK:5,000,000
CRI:5,000,000
▼
「しかし、本当にタイムリーだったねぇ。丁度アピトハニーさんみたいな人を探していたところだったんだよ」
『わたくしみたいな人でございますか?』
「そう、ちょっと思いついたことがあったんだけど、ボクじゃ実践しようとしてもできないことだからねぇ。蜂系の召喚獣を呼んでお願いしようかと思っていた仕事があったんだけど、それよりもアピトハニーさんにお願いする方がいいから後で内容を説明して可能そうならお願いしようと思っていてねぇ。でも、その内容の説明の前に迷宮をロックしちゃってもいいかな? 魔物が溢れかえっていると、外に迷惑が掛かっちゃうからねぇ」
『承知致しましたわ』
アピトハニーと共に最下層に降りていく。
最下層には真紅の魔法陣が設置された小部屋と、青色の魔法陣が設置された小部屋、二つの部屋を繋ぐ中部屋があった。青色の魔法陣の上には山積みの硬貨や、幻想級の武器や防具ファンタズマル・アイテム、宝石や貴金属などの換金アイテム、数十種類はある大量の素材アイテムがこれまでに挑んだ迷宮の時と同量程度置いてある。
まずは真紅の魔法陣で迷宮内に魔物を留めるように変更を行ってから、青色の魔法陣の財宝を『統合アイテムストレージ』に放り込んだ。
◆
「さて、アピトハニーさんにお願いしたい仕事なんだけど……アピトハニーさんは蜂蜜を作ることはできるんだよねぇ?」
『はい、この蜂兵に花の蜜を集めさせることができますわ。蜂兵は無限に召喚できますし、攻撃や防御、回復なども行えます。わたくし本体は毒を使った攻撃くらいしかできませんが、蜂兵で弱点を補っていますわ』
「この迷宮が出現した地はアストラプスィテ大公領と言って、薔薇の有名な地域なんだ。元々薔薇が群生した地域で住民達も薔薇を愛していたのだけど、その住民に感化された大公も薔薇を好きになり、品種改良に余念がない薔薇マニアになっている。そういう土地には、他の土地にはないような品物があってねぇ。例えば、薔薇だけから作られる単花蜜――これも、アストラプスィテ大公領の名産品として前面に押し出せていけるような品になると思うんだ」
『この迷宮の外に出たことはないので知りませんでしたが、そのような素晴らしい光景が広がっているのですね。わたくしも花は好きですから一度見てみたいですわ。……それに、蜂蜜の元になる蜜の花に焦点を当てるというのも興味深い話です。わたくし達――蜂は蜂全体の保存食や子供の餌として蜂蜜を作っています。しかし、どのような花から蜜を取るかということを考えたことはありません。確かに、花ごとに蜜の味は違いますし、一つの花に拘ること、逆に絶妙なブレンドを模索すること、どちらも奥が深そうですわ。リーリエ様は、理想的な蜂蜜を求めているのですわね……そのために、わたくしの力が必要だと』
「普通の蜂でも蜂蜜は作れるけど、配合を一パーセントとか、そのレベルで調整することは難しいでしょう? やっぱり、そこまで極めたい凝り性なところがあってねぇ。――ボクはアピトハニーさんを配下として扱うつもりはない。あくまで対等な関係でありたいと思っているから、賃金や生活に必要な衣食住も保証させてもらうよ。それに、もし、アピトハニーさんがこの研究にあまり良い印象を持っていないなら引き受けないという選択肢もある。……本当に地道な作業になるからねぇ。料理っていうのは最悪迷惑を掛けずに試作に励めるものだけど、こればかりはアピトハニーさんにかなり頑張ってもらう必要がある。……ボクは面倒な人間だよ? それでも、手伝ってくれるかな?」
『……えぇ、わたくしも興味がありますから、是非お手伝いさせて頂きますわ。しかし、面白いお方てすわね、一言わたくしにやれと命じれば、それで済むというのに』
「ボクは魔物だろうと、魔族だろうと、エルフだろうと、人間だろうと、獣人だろうと、ドワーフだろうと、海棲だろうと、なんだろうと、意思疎通ができるんなら、それはもう対等な存在だと思っている。そこに優劣なんてものは存在しない……だから、嫌なら嫌って言って欲しい。……ただ、一つだけ約束させてもらいたい。ボクの従魔になったことを後悔させないって」
アピトハニーを連れてラピスラズリ公爵家に戻る。
アピトハニーも、他の迷宮統括者も従魔になっていることは察していたらしく、全く驚いてはいなかった。
他の迷宮統括者ともすぐに仲良くなっていたねぇ。
具体的な蜂蜜の計画については庭師の面々も含めて相談するべきだし、今回は屋敷の残留メンバーと交流してもらうことにして、ラピスラズリ公爵家を後にして、それからはいつものルーティンをこなした。
間も無く、この避暑地での生活も終わり、ラピスラズリ公爵家もブライトネス王国に帰国する。……シェールグレンド王国にいる蛇の炙り出しと暗殺も既に九割九部ほど完了していると報告を受けているからねぇ。
これでまたしばらくは平穏な日常を送れるかな? ……まあ、まだブライトネス王国に潜む『這い寄る混沌の蛇』の関係者の炙り出しと殲滅が終わっていないから完璧にブライトネス王国が安全……とは言えないんだけどねぇ。
◆
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
避暑地から戻った頃には秋に入りかけていた。
そして、秋といえば正妃が主催する大規模な茶会――園遊会が開催される季節だ。
招かれるのはそれ相応の身分あるご夫婦に子息令嬢、他国からの外交官……時には王族や貴族など、後は裕福な商人とまあ様々な顔ぶれだねぇ。
今年は多種族同盟に加盟する各国の首相や重役も出席することが決まっている。
主催自体は王妃となっているものの、ボク達侍女はその日、どの宮の所属かを問わず働かねばならない。
特に各宮の筆頭侍女は統括侍女の元、数多の貴族の方と顔見知りでもあることから礼節を守りつつご挨拶をこなしつつ、下の者達を指示し、冷静かつ優雅に、使用人がバタついてみっともない姿をお客様のお目に掛けぬように努めねばならない……というまたまたハードモードな内容だ。
王女宮のメンツは働き始めてまだ一年未満の者がほとんどなものの、避暑地に行っている間にオルゲルト執事長がしっかりと教育を施してくれたようだし、出発前にもボクとオルゲルトで分担して書類の書き方から紅茶の淹れ方、給仕の方法などなど、とにかく必要な技術は全て叩き込んでいる。
侍女達については全く心配はないし、それだけでも充分に楽だ。というか、発足して一年も満たないのに既に参加が決まっている時点で新王女宮は既にその実力が認められているといっても過言ではないのだ。
その上でボクと後宮の筆頭侍女はお仕えする女主人の新しいドレスや装身具の手配、準備をする必要がある……といいつつ、既にアネモネ召喚の準備は整えているんだけどねぇ……後はプリムラに確認するだけ。ボクの正体が露見したことで図らずも後宮筆頭侍女のシエルとの距離が縮まったので、ビオラの宣伝をしておいたけど、「今なら九十パーセントボクが負担するよ?」ってお得な宣伝を打ったらカルナとシエルが揃って引いていたなぁ……解せぬ。
カルナの方は王家御用達のマルゲッタ商会で購入することが既に決まっているようなので、丁重にお断りされた。まあ、分かっていてやっているから申し訳なさそうにする必要はないんだけどねぇ。
プリムラも前回に引き続き、社交界デビューがまだなので仮面をつけて参加する。勿論、王家オールスター参加だ。
何せこの茶会、社交の場の一つであり、外交の場であり、そして貴族の子息令嬢にとってみれば婚約者探しの場でもあるからねぇ。勿論、親御さんがどこぞの令息・ご令嬢に目をつけて自分の子供にと決めるともある。
まあ、唯一男性王族で婚約者が決まっていない第三王子殿下はきっと婚約者のいらっしゃらぬご令嬢からすれば喉から手が出るほど欲するお相手だろうし、それはプリムラも変わらない。
未だハインとの婚約が公式発表である訳ではないからねぇ……その状態ではプリムラどこぞの令息が良いと一言申し上げれば、あのラインヴェルドはそちらを認めるしかなくなるからねぇ。……まあ、それはないと思うけど。
まあ、そんな訳でいよいよ園遊会に向けて動き出すことになるのだけど、その前に統括侍女と各宮の筆頭侍女が会議室に集まって情報共有や説明をすることが決まっている。特に今年はボクとアルマという新人筆頭侍女も加わっているからねぇ、共有しておかないといけないもの沢山あるのだろう。
引き続きの時にその辺りの情報は軒並み貰っているので、ボク個人としては説明は不要なんだけど……今年は特別共有しておかないといけないからねぇ。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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