Act.8-222 アストラプスィテ大公領の大迷宮 scene.1 上
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
三千世界の烏を殺して、ジリル商会の会頭とプリムラが邂逅した日の夕刻に移動し、アネモネの姿で新迷宮へと向かった。
「あれ? 親友? なんでこんなに遅かったんだ? もう少し早く来てくれると思っていたんだけど」
迷宮から溢れ出した魔物に苦もなく対処していたアクア、ディラン、ファイスは不思議そうにしている。えっ、ウォスカー? あの脳筋思考が大迷宮な天然野郎がそんなことまで頭回る訳がないじゃないか。
領軍からはこの領地を守らなければという強い意志を感じるものの、アクア達との模擬戦でボコボコにされたことで実力差は痛感しているらしく、アクア達に前線は任せて後衛の立ち位置で布陣しているようだ。当然ながら、漏れ出てくる魔物の数はゼロ――そこに不満は全くないらしい。
まあ、そりゃ領軍はこの大公領を守ることが目的で、その手段は問わないからねぇ。迷宮の魔物は普通に領軍の護衛官を殺せるレベルだから意固地に「この領地は俺達が守る!」と言ってアクア達の手を借りずに無駄死にを量産するよりも、猛者達に任せようという柔軟な思考から、ここはアクア達に任せることになったらしい。……この思考の切り替えって割と本気で難しいんだよねぇ。領地への愛が強ければ強いほど余所者に任せられるかッ! ってなるのが普通だから。
勿論、領軍も活躍しているよ? ……食事係として。アクア達も交代で結構な量を食べているみたいだし、後でナジャンダにはその分の代金を色つけて支払わないとねぇ。……うちの馬鹿共が本当にご迷惑をお掛けしましたって。
「……しかし、見たこともないタイプの迷宮ですね」
「ですよね? アネモネさん、中も面白いことになっていますよ。これまで挑んだ迷宮とは明らかに毛色が違いますね」
アクアの言う通り、この迷宮はかなり毛色が違う。
これまで挑んだ迷宮は全て【ルイン大迷宮】と同じ系統――鉱石に彩られた洞窟や岩の壁のザ・迷宮といった感じのものだった。それに対して、この迷宮は丸々巨木一本というイメージで、その洞がどうやら迷宮の入り口となっているらしい。
そして、出現する魔物は植物系と昆虫系の二種類のみ――確かに、かなりこれまでの迷宮とは一線を隠すデザインだ。
「さっき、この場をディラン達に任せて中を確認してきましたが、十層のボスは蜻蛉みたいな奴でした。中はまるで樹海のようで他の迷宮とはかなり違いましたが、系統が違うだけで俺の実感では【アラディール大迷宮】と大差ないレベルだと思います」
……あっ、その程度かと思ってしまっているボクは随分と感覚がバグっているのかも知れない。
雑魚敵ではあるもののレイドクラスのアザトホートのコケラも大したことが無かったし、あの真聖なる神々のエンノイアですら単体討伐できたんだからねぇ……ぶっちゃけ、その程度と思ってしまっている自分がいる。
アクア達のおかげで第一層から第十層までの魔物はあらかた殲滅が完了していた。完了していないものは、下の階層から湧いてきたもので、それも大した数はいない。
「それじゃあ、早速迷宮を攻略しますか」
「やっぱり、いつもの【練金成術】で迷宮の床に穴を開けるのですか?」
「いや、今回はちょっと試したいことがあってねぇ」
魂魄の霸気《天照日孁大御神》を発動して、光速以上の速度での攻撃や光の操作が可能になる《太陽神》を駆使して光の速度の蹴りを放った。
迷宮の床があっさりと焼け落ちた……だけでなく、そのまま光の速度の蹴りは次々と床を溶かしていき、狙った通り千層丁度でピッタリと四散した。クレールに放った時は速度こそ光の速度だったとはいえ、殺さないように手を抜いていたけど、本気の威力で光の速度の蹴りを放つと迷宮って一発攻略できるんだねぇ。
植物に覆われた床にぽっかりと空いた巨大な穴に飛び込み、時折フロアボスや雑魚魔物を発見すると指輪を経由した闇の魔力でローザ=ラピスラズリがレベル95で習得する暗黒物質を顕現して勢いよく地面から噴き上げる超高火力の闇魔法のフェイク版――「ダークマター・フェイク」で撃破する。
落下速度はかなり早いんだけど、《天照日孁大御神》で光の速度に対応できるレベルまで思考の最低レベルが加速されているからまるでスローモーションのように世界が見える。まあ、そうじゃなくても落下しながら目視した魔物をすべて撃破するってことはできるんだけどねぇ。……まあ、《天照日孁大御神》のスペックを確認するための実験の一つってところかな? まだ試していないことがいくつかあるしねぇ。
「さて、到着……っと。植物系と昆虫系が四対六くらいの割合で出現した迷宮だけど、迷宮統括者はどんな感じかな?」
今までの迷宮探索の傾向(まあ、データ自体はかなり少ない部類だけど)によると、迷宮統括者の性別は女性に限られる。
統一感があるかと問われれば微妙で、迷宮統括者という統一した職業を持つことと、ラビュリントという姓を持つこと以外は見た目も戦闘スタイルにもかなりの隔たりがある……者もいれば、近しい者もいる。
エヴァンジェリン・γ・ラビュリントとリヒャルダ・δ・ラビュリントはまるで姉妹みたいに性質がそっくりだよねぇ。
……まあ、ここまで来てエヴァンジェリン達の系統は出てこないだろう、と思いながら背丈の何倍もある扉を押し上げると案の定――中にいたのはやはり、虫系統の魔物だった。
ハニカム構造の橙色のドレスを纏った女王蜂風の女性だ。背中には翅が二つ生えていて、その翅をしきりに動かすことで空中でホバリングしているようだ。
髪は蜂蜜色で、頭には二本の黒い触覚が生えている。蜂っぽさはあるものの、顔の造形自体は極めて人間に近く、黒い触覚を隠せば上品な雰囲気を纏う人間の女性に見えるかもしれない。瞳も蜂の持つ複眼ではなく琥珀色の瞳を持っているが、額の部分に第三の目を持っているようで、部屋に入った直後には閉じられていたその眼は複眼になっているようだった。
『ようこそ迷宮へ。わたくしはこの迷宮の迷宮統括者を務めているアピトハニー・θ・ラビュリントと申しますわ。しかし、まさか、これほど早くこの場所に到達する者が現れるとは驚きました』
「初めまして、アピトハニーさん。――迷宮の説明は不要だよ。既に五人、迷宮統括者は倒しているからねぇ」
『……なるほど、納得しました。では、わたくしを下した際に獲得できる報酬についての説明は不要ですね。……それでは、迷宮の支配権を賭けた一戦で五人の迷宮統括者を下したという貴女の全力、とくとお見せください!』
……まあ、全力なんて見せたら殺しちゃうから、手加減してしっかりとボクの仲魔になってもらうけどねぇ。
『無限蜂兵召喚』
昆虫系といえば、ベラトリックス・β・ラビュリントを思い出すけど、ベラトリックスは自身に獣や虫の性質を宿らせるキメラだった。自身の強化を行うベラトリックスと異なり、アピトハニーは召喚・使役を駆使する戦法を得意とするらしい。――戦闘スタイルが被ってなくて良かったよ。
『攻撃司令』
蜂兵の約半数を攻撃に回してきたアピトハニー。蜂兵は全員、尻に毒針を持っている……状態異常は面倒だねぇ。
「魂魄の霸気――《太陽神》」
光速以上の速度での攻撃や光の操作が可能になる《太陽神》を駆使し、思考を最低レベルで光の速度に対応できる程度にまで高めてから、剣士系三次元職の剣聖の奥義とも言える一撃を放つスキル――「剣舞嵐撃」を放つ。
斬撃の嵐が竜巻と化して蜂兵の群れの一つを飲み込んだ。
「剣舞嵐撃」
そして二発目のを光の速度で放ち、二つ目蜂兵の群れを壊滅させる。
「剣舞嵐撃」
残った三つ目の蜂兵の群れも斬撃の嵐が竜巻で粉砕すると、ボクは光の速度で俊身と空歩を使ってアピトハニーの背後に回り込んだ。
アピトハニーはボクの姿を一瞬で見失い、混乱しているようだ。確かに複眼の視界は極めて広い……でも、視界が三百六十度ではないから背後を取られれば気づけないだろう。
さて、今のうちに何故「剣舞嵐撃」を連続で放つことができたか……その種明かしをしておこうか?
ボクの魂魄の霸気の派生――《太陽神》は光の速度を最低レベルもする段階に高める力を有する。身体的な面で言えば、斬撃の速度の加減が光の速度になるため、圓式の速度が意味不明なレベルまで高められることや、ボク自身の動体視力がその光の速度で放つ圓式に対応できる地点まで高められるといったことが挙げられる。
思考的な面でも光速に対応できるレベルの判断速度になるということは説明したよねぇ?
そしてもう一つこれには思いもよらない副産物があった。
その副産物とは時間魔法を持ってしても変化を与えられなかった再使用規制時間――その流れを加速させるというものだ。
物凄い速度で進む再使用規制時間の時計というのはなかなか面白いねぇ。……相対性理論的には早く進めば進むほど時間の流れは遅くなる筈なんだけど。
まあ、その辺りはそういう能力だとしておくしかないんだろうねぇ。
光を収束して剣を作り出し、更に武装闘気を纏わせる。更に物は試しとその上から武装闘気を纏わせたら武装闘気が黒から、青みがかった黒へと変化した。……やっぱり、武装闘気の上に武装闘気を重ね掛けするってことも可能なんだねぇ。
「千羽鬼殺流奥義・北辰」
善悪や真理をよく見通し、国土を守護し、災難を排除し、正邪を見極め、敵を退け、病を排除し、また人の寿命を延ばす福徳ある面と、それが邪であれば寿命を絶ち斬る面の二つの顔を持つ菩薩の名を関する通り、斬りたいものを斬り、斬りたくないものは斬らないという斬るものを選別する北極星の別名の名を冠する鬼斬の技にして千羽鬼殺流の奥義を絶妙な加減で放ち、アピトハニーがボクが背後にいることに気づいた瞬間に斬撃を浴びせた。
防御に転じるつもりだったようだけど、ボクの方が早かったみたいだ。今の斬撃で狙い通りアピトハニーのHPは一桁に落ち込んだ。
……さて。
「アカウントチェンジ・リーリエ」
そろそろ頃合いだし、一気にアピトハニーを落としますか。
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