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Act.8-220 祖父と娘の顔合わせと、死を経て再会した父子 scene.1 上

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


「プリムラ様。本日は気晴らしになるかと思い、大公様にお願い申し上げて商人を呼んでおります。ルークディーン=ヴァルムト様に贈るペン軸が本日中に見つかるとは思っておりませんが、参考までにご覧になられてはいかがでしょう?」


「……そう、ね。……そうするわ。ごめんなさい、ローザ……お兄様達と居られてね、とても嬉しくて。……だからなんだか寂しくって。王城に居る時はもっと会えない時も沢山あるのに、同じお城にいるのにね。でもおじいさまのところでこうしていっぱい一緒に居られたら、なんだか急に寂しくなってしまって」


「寂しいという気持ちを持つことは悪いことではありませんわ。人は誰かと繋がって生きている生き物です。決してたった一人では生きていけません……まあ、中にはたった一人で生きていける超人のような存在もいるかもしれませんが。……人は形は様々ですが、繋がりを求める生き物です。そして、寂しいと感じるのはそれだけその人のことを大切に思っているからだと思います。……充実した時間を過ごせば過ごすほど名残惜しくなるものですわ。姫さまが寂しいと思うのでしたら、それだけ第三王子殿下や第四王子殿下と過ごした時間が充実していたからだと、そう思います。……寂しさを埋めるため、繋がりを求めるという人も中にはいます。ですが、それでは本末が転倒していると私は思うのです。プリムラ様は寂しいから、第三王子殿下や第四王子殿下と一緒に居たいのですか?」


「違うわ! プリムラはお兄様達のことが大好きだから一緒に居られて嬉しかったの!」


「はい、それでようございますわ。寂しいから一緒にいたのではなく、大切な兄君だからご一緒におられた、だから離れて寂しいのです。……そして、それを恥じる必要はありません。誰だって大切な人と離れ離れになることは寂しいことですから」


「……ローザが離れても、寂しいからね?」


 ちょっとだけ泣きそうな顔をして……すぐに笑顔を作ったプリムラに、ボクは何も言えない。

 いずれ、ボクは本来あるべき姿に、この王女宮を戻す。引き離された姉と弟……その姉の忘れ形見を側で守っていくのは、シェルロッタの役目だ。――その資格は、ボクにはない。


 胸の軋むような音を聞きながら、ボクはできるだけ微笑みを作ったつもりだったけど、その笑顔はぎこちないものだったかもしれない。


 ……ああ、もしボクが全ての元凶じゃなかったら。ボクよりもっとプリムラの側にいるに相応しい人がいなかったら……ボクは本当の意味でプリムラに仕える侍女になれたんだろうけどなぁ。



 商人が来るということでナジャンダと並んで座るプリムラは、すっかり落ち着きを取り戻してルークディーンに贈るペン軸がどのようなものが良いかしら? と、とても楽しそうに思いを巡らせているようだ。

 ナジャンダも「ガラスペンなどはいかがかな? さほど流通しているものではないですが、なかなかにあれは趣きがあって私は好きですよ」などとこちらも楽しそうに答えている。


 商人の到着を告げるメイドの声に、平伏した男性が続いた。

 ……彼へのご挨拶はまた後日ということになりそうだ。知り合いの商人であるとはいえ、いくら非公式でフランクな場とはいえ王族がいる場所で気軽に話しかける訳にはいかないし、仕事中だからねぇ。それに、彼も今回はしっかりと話をしておきたい人がいる……そう思って、既に商談後の給仕はある人に一任してある。ついでに人払いについてもお願いしておいた。


 ――まあ、大公も息子と親の家族水入らずの時間を邪魔したいとは決して思っていないのだけど。


 況してや、彼はメリエーナという心の支えを奪われた最大の被害者であり、更には自分の命と存在を引き換えに国王ラインヴェルドですら不可能だった敵討ちを成功させた功労者でもあるのだから。

 メリエーナの暗殺事件に義父として思うところはあっただろうし、結果として最愛の姉との仲を引き裂いた罪悪感もあった筈だ。


 沢山話したいことがきっとモルヴォルにはあるのだろう。親友であるナジャンダもその意を汲んで、今回の商談をセッティングした時点でシェルロッタを是非給仕役として父と対面させたいと思っていたようだ。


 シェルロッタは給仕役としてモルヴォル達と対面しているものの、実際に親子の立場で言葉を交わすことはなかったという。


 自らの手を血に染め、我が子のことを考えて復讐を止めなかった自身に両親や息子に合わせる顔がないと思っているようだけど、ボクとしてはやっぱり顔を合わせて話をするべきだと思う。

 ……まあ、会って話をしたところで二人の心の中のモヤモヤが全て解消されるなんてことは、ないと思うけどねぇ。


「さ、王女殿下。こちらは私も懇意にしている商人のモルヴォルと申しましてな。なかなかに良き品を紹介してくれる男なのです」


「まあ、大公の? それは頼りになりますわ!」


 商人の前だから、準公式として捉えたのか。

 ナジャンダが王女殿下と呼んだことで、プリムラもナジャンダを官位で呼ぶことにしたようだ。


「モルヴォル=ジリル。それがこの者の名にございましてな、ジリル商会の会頭を務めておる者です」


「……えっ」


 プリムラが、商人が誰であるのかを紹介され、驚いた顔のまま後ろに控えていたボクを勢いよく振り返る。

 ……まあ、これが初対面ということになるからねぇ。一応、ボクの誕生日会に出席してはいたものの、身分の違いすぎるプリムラとモルヴォルは相対する機会がなく、モルヴォル達には遠くからその姿を拝見するしかなかったという。


 流石に感動の祖父と孫の対面という訳にはいかない。例えナジャンダ大公様といえど、越えてはならない一線というものがあるからねぇ……なんか、非公式な場でのラインヴェルドならそんな柵なんか無視して二人に対面する機会を作りそうだけど。


 けれども、懇意にしている商人を招いた客人に紹介するくらいは問題ない。お客人が欲しいものがあるんだと家主に相談した、だから家主はお客人の為に商人を呼びつけた――ただそれだけの話なんだからねぇ。


「えっ、でも、あの、ローザ? あの、この方……この方って私のおじ――」


「プリムラ様、大公様のご厚意でペン軸のサンプルをいくつか持ってきて頂いております。お手に取ってご覧になられますか?」


「……ローザ?」


「ジリル商会の会頭殿、品を拝見させていただいて宜しいですか」


「はい」


 顔を伏せたまま、モルヴォルがそれでもはっきりとした声で応じた。


 ナジャンダがジェンダ商会の会頭にどんな風に説明してここに来て貰ったのかはボクも知らない。

 だけど、プリムラとナジャンダの前にしっかりと膝をつき、顔をあげないモルヴォルが、いつになく緊張しているのだとひしひしと感じられた。


 ……勿論、不完全燃焼になるのは承知している。


 ――孫に会いたいと願った老人と、自分の本当の祖父について少しだけ興味のある女の子。

 ちゃんと一度でいいから会わせてあげたい……そう、ずっと思っていた。


 これが「ちゃんと」なんて呼べるものではないことは承知しているし、結局祖父と孫としては触れ合えないのだから余計にプリムラもモルヴォルも辛くなるだけ、なのかもしれないけど。

 ……ボクには、これくらいしかできない。無力だってつくづく思うよ。


「……御身の前までお持ちしても宜しいですか」


「え、ええ、お願いローザ。……後、会頭に、顔をあげるように……」


「はい。王女殿下のお許しが出ましたので、顔をお上げください」


「有り難き、幸せに……」


 空気が重い。……だけど、顔を上げたモルヴォルの顔を見てボクは内心ほっとした。

 ちょっと潤んだ目で、とても穏やかな表情だった。プリムラを見る目は、どこか懐かしそうな光を湛えていて、幼い頃のメリエーナを思い出しているのかしれない。


 ボクは会頭から受け取った商品の箱をお二方の前に開いて出した。

 引き出しみたいになっているトランク……これ、きっと特注品だねぇ。……後で遠慮なく真似させてもらおうかな? 素晴らしいアイディアだ。


 高級品の軸だけを選んで持ってきてくれたのだろう。

 ビロード張りの引き出しの中には上段が木材、中段が石材、下段がガラスペンとそれぞれ並べられていた。

 個人的には上段にあるクラロウォールナット製の軸が好きだねぇ。今度、モルヴォルに売ってもらえないか聞いてみようかな?


 ……しかし、このガラスペン、かなりお高いんだろうねぇ。まあ、勿論この場で金額なんて野暮なものは話題に出てこないんだけど。


 「これいいわね」、「では、こちらをお届けします」、「「うふふあはは」」……まあ、そういうものだからねぇ上流階級って。

 ……あれ? でも、普通にボクって普通に御用聞きで値段を出していたよねぇ? んでもって、割り勘とかにしていたよねぇ……まあ、ラインヴェルドやヴェモンハルトは稼ぎがあるし、自然とそういった話になるのは仕方ないんだけど。カルナ王妃殿下も倹約を心掛けているし、ラインヴェルド達も無駄遣いはしない……するとしても、国庫のお金を使わず自腹でというタイプだからねぇ。税金というものをよく分かっていらっしゃる。


 勿論支払いは滞りなく行われる。値段を知るのは使用人の務めであり、財務官がその家の財布の中身と相談して今後何とかしていくものだ。……ラピスラズリ公爵家は財務官がいないから、自然とカノープスとジーノがその辺りの処理をやっているらしいけど。えっ、ボク? 自分のお金は自分で管理が鉄則だよ。


 プリムラの場合は国庫の中の王女宮で使える予算の中で、ということになるんだけど……王女宮の改装は金取らなかったし、目立った散財も無かったから十分にお金は残っている。

 いくらカルナが倹約を良しとしているから先代よりも財務官達が厳しくなっていると言っても、この程度の申請が通らない筈が無い。まあ、通らなければ最悪ボクがお金出して帳尻合わせればいいんだけどねぇ。


 書類の改竄はお手の物……アーネストに直接手渡せば目を瞑ってもらえるくらいの力はあるようだからねぇ。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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