Act.8-216 二人の王子と王女が征く薔薇の大公の領地への小旅行withフォルトナの問題児達 第二部 scene.5
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
折角ということで、プリムラはヘンリーとヴァンを誘い、結局ほぼ全員で勉強が行われることになった。
といっても、ただ普通に授業をやるというのはあまりよろしくないと思う。
王城に戻ればまたそれぞれ勉強の日々が始まるんだし、避暑地でまで勉強をする必要はないと個人的には思うんだけど、ルーネス達が勉強したいとお願いし、それにプリムラも賛同しているのだから、ただの侍女でしかないボクには逆らうなんてことができる筈もなく……そんなに真面目に頑張り過ぎるなよ、と個人的には思うんだけどねぇ。
ということで、妥協点としてボクが出したのはクイズ大会を催すというものだった。
「……何故、私までこの怪しげな大会に参加しなければならないのでしょうか? 私に何のメリットが?」
「えっ、お兄様? 参加してくださらないの?」
「そ、それは……」
……ヘンリー、ボクの方を睨んでもそれって発端がフォルトナの三王子だし、同意したのプリムラだからねぇ? 全くボク悪くないよ? この件に関しても!!
「……大変だな、ローザ嬢」
「まあ、勉強をしたいということは良いことでございますからね。その向上心を無碍にする訳には参りませんから」
申し訳なさそうにするヴァンに小声で返す。
ヴァンと仲良くしている風に見えたらしく、パトリアが睨め付けてくる。
「……しかし、何をするつもりか分かりませんが、大会というからには勝ち抜ければ何か賞品がもらえるのでしょうか?」
「正直、ご満足頂けるような品はご用意できないかと……」
「やはり、そうですよね」
「私の用意できるものは、それこそ御用聞きの商人にお願いすれば手に入るような品ばかりですからね。一応、先程アネモネ様にご連絡して今回の大会に協賛してくれるようにお願いしたら喜んで引き受けてくださいましたが」
「……そういえば、ローザ筆頭侍女殿の生家――ラピスラズリ公爵家はアネモネ大統領と独自のパイプを持っていたのでしたね。それは、つまりビオラで売っているような商品であればどういったものでも構わないと」
「ええ、観劇のチケットでも衣類でも美術品でも、ビオラが用意できるものであれば基本的にどのようなものでもご用意頂けると思いますよ。そうそう、第四王子殿下に伝言を預かっておりました。もし、優勝した暁には是非和楽器セットを、と」
「……確かに興味が湧いていたが前回は辞退させて頂いた品だな。しかし、セットというと」
「勿論、ビオラで取り扱っている異国の楽器――和楽器を全てセットにしたものでございます」
おっ、ヴァンが俄然やる気になったようだ。
「……ローザ筆頭侍女様、その賞品は形のないものでもよろしいのでしょうか?」
「? 私かアネモネ大統領の用意できるものでしたら、何でも構いませんわ」
「――ッ!? ローザ様、私も参戦させてください!!」
ルーネスがキラキラとした王子の微笑みを見せた瞬間、ソフィスが突如手を挙げて参戦を懇願した。
まさかの展開にレナーテとパトリアも嫌味を言えなかったようだ。……あの二人、ボクや王女宮を半ば目の敵にしているから、王女宮侍女が万が一侍女に相応しくない行動をしたら鬼の首を取ったように声高に叫ぶと思ったんだけど。
「……ローザ先生、プリムラ姫殿下、いかがでしょうか? ソフィス嬢にも参戦して頂くのがフェアだと私は思いますが」
「みんなで勉強した方が楽しいと思うわ。ソフィスも是非参加してね」
……うーん、明らかにルーネス達やソフィスの狙いは勉強とは別のところにあると思うよ?
「ちなみに、ビオラが所有する商品の中で、最も高額なのはどのようなものなのでしょうか?」
まあ、正攻法か。欲しいものが特にないなら、最も高額なものを狙うのは当然の流れだ。
さて、ビオラが取り扱う商品の中で最も価値あるものは何だったっけ?
「そうですわねぇ……ライヘンバッハ辺境伯領に作られた分譲高級マンション――ド・リス・タワー。こちらを土地を含めて一棟丸々購入するというのが最も高い品だと思いますわ。ブライトネス王国とフォルトナ王国の丁度中間にある好立地ですからねぇ……別荘の一つとして持つのも良し、マンションのオーナーとなって部屋を貸して収入を得るも良し……とはいえ、このマンション自体分譲目的で作っていますから、個人で所有にはあまり向かないかもしれませんね。次点だと同辺境伯領にある別荘用の屋敷が挙げられるでしょうか? こちらもターゲットが貴族や富豪ということもあり、調度品から何から全て一流のものを用意したとお聞きしておりますわ」
まあ、ヘンリーがあまりボクやアネモネのことをよく思っていないことは知っていたし、あの御用聞きの時に特に注文をしなかった時点でビオラに何も求めていないことは承知していた。
きっと意地悪な質問をしたつもりだったのだろうけどねぇ……こういった状況になった時により高価なものを貰おうとするのは至極当然だし、ヘンリーもアネモネに一泡吹かせたいと思っている。まあ、そこまで読めば、ビオラにとって痛手となりそうな高額商品を賞品にさせようとするのは少し考えれば簡単に予想ができること。
……でもまさか、マンション一棟や別荘として使える第一級の高級屋敷を賞品として挙げるとは思わなかったんだろうねぇ。ヘンリーも流石に唖然とした表情で固まっている。
「いくら繋がりがあるとはいえ、公爵家の令嬢にそのような権利があるのかだとお考えでしょうが……アネモネ大統領からは既に『どのような希望でもビオラで可能なものである限りは必ず叶える』という言質を取っております。――女に二言はありません。商会の長として決して約束を違えるということはないでしょう」
……まあ、いくらフェアなゲームをするとはいえ、ヘンリーが優勝できる確率は万に一つもないと思うけどねぇ、と心の中で続けながら、内心を隠してボクは微笑を浮かべた。
◆
「では、まずルールの説明をさせて頂きます。クイズは全部で十問出題させて頂きますが、一問ごとに解答方法が異なります。その都度指定させて頂きますが、まずはどのような解答方法があるかを説明させて頂きます。まずは、複数選択肢の早押し問題、問題文を読み上げた後に選択肢を開示する問題でございます。こちらは最も早く正解できた人に一ポイントが入ります。続いて、選択肢無しの早押し問題。この二つに共通するのは、いかに早く正解を答えるかということを競う点ですが、中には少々捻った問題もあるため、問題文はできるだけ聞くことをお勧めします。『ますが』や『ですが』にはご注意くださいませ。三つ目は書き取りの問題で、こちらは全員に解答の権利があります。こういった問題は落とすと大きな差を広げることになりますからご注意ください。解答方法は以上三つになります。なお、今回の問題は全ての問題で有利不利が分かれます。例えば、ブライトネス王国に関する問題が出れば、フォルトナ王国の面々にとっては不利になるという形ですわね。こうした自分にとって不利な問題を一問でも多く答えること、逆に有利な問題を一問でも拾うこと、それがどれだけ徹底できるかということが結果に大きく左右することになるでしょう」
ヘンリー、ヴァン、プリムラ、ルーネス、サレム、アインス、ソフィス――解答者達の表情が真剣味を帯びる。
「第一問――音楽に関する三択の早押し問題です。特に強くを意味する『sfz』――」
この時点でヴァン、ルーネス、サレム、アインスが超高速で早押しボタンを叩いた。
「かなりの僅差でしたが、一位はブライトネスの第四王子殿下、0.1秒差でフォルトナの第一王子殿下、更に0.01秒差でフォルトナの第三王子殿下、0.02秒差でフォルトナの第二王子殿下でした。三択なので、四位の第二王子殿下には解答権が回らず、ブライトネスの第四王子殿下、フォルトナの第一王子殿下、フォルトナの第三王子殿下という順での解答になります。それでは、お答えください」
「スフォルツァードだな」
「正解ですわ。ちなみに、選択肢は1.スフォルツァンド。2.スフォルツァード。3.フォルツァードでした。第四王子殿下、お見事でございます」
「お兄様、凄いわ!」
プリムラは素直にヴァンを称賛し、ヘンリーは少し嫉妬の表情を覗かせ、ルーネス、サレム、アインスは取れる問題を取れなかったことを悔しがり、ソフィスは次の問題にもう気持ちを切り替えている。まあ、ソフィスにとっては相性の悪い問題だったからねぇ……寧ろ、こういう問題で間違ったことを引き摺る方が痛手だからここで切り替えていくのは正しい判断だ。
「それでは、第二問――文芸メディアに関する早押しの問題です」
この時点で、いきなり早押しボタンを押したのはアインスだった。先程の問題を落としたので、一点でも取り返そうと賭けに出たんだろうねぇ。
「フォルトナの第三王子殿下、お答えください」
「モレッティ=レイドリアスさんと、レネィス=リーヴルさんです」
「――残念ながら不正解です」
「アインス、流石にそれはちょっと捻り過ぎだと思うよ」
落ち込んだアインスを右隣のルーネスが頭を撫でて慰め、サレムが冷静に意見する。
確かにアインスはなかなか思い切ったことをした。ビオラ関連――書肆『ビオラ堂』から発行された小説や漫画に焦点を絞り、更に引っ掛けの可能性を踏まえて編集者の名前を当てる問題だと考えて解答したのだろう。
……そう、考え方は間違っていないし、そういう趣旨の問題なら正しい答えだった。でも、書肆『ビオラ堂』の編集者の名前なんてなかなか答えられるものじゃない。
とはいえ、その決断は素晴らしいものだった。拍手を送りたいくらいねぇ。
ちなみに、最も正解に近いソフィスはボタンに手を乗せたまま静かに目を閉じている。今はまだその時じゃないと思っているのだろう。
次に正解の可能性が高いプリムラもこのまま問題を聞くつもりのようだ。
「この問題、フォルトナの第三王子殿下は解答権を失います。ただし、フォルトナの第三王子殿下の解答には高い先読みと決断力が感じられました。とても素晴らしい判断だったと思いますわ」
「ルーネス兄様、サレム兄様、僕、先生に褒められたよ!」
「良かったね、アインス」「良かったですね、アインス」
さて、これで解答の方向性は自ずと絞られてきた筈だ。……次は誰が動くかな?
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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