Act.8-215 二人の王子と王女が征く薔薇の大公の領地への小旅行withフォルトナの問題児達 第二部 scene.4
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
「ところで、バヴァロワとスコーンの取り合わせには何か意図したところがあるのですか?」
「そうですねぇ……スコーンだけだとどうしてもパサつきますし、折角ローザ様に教えて頂いたンですから、ここぞというところで出していこうと思いまして。……もしかして、ローザ様もバヴァロワを出すつもりでしたか?」
「いえ、今回は出さないつもりでした。既に開示した手札ですからね。……いえ、実はスコーンの間にバヴァロワを挟んだババンヌという料理もありまして、相性が良い組み合わせを選んだなぁと思ったので」
「へぇ……そんなもンが。スコーンでバヴァロワをサンドですか……それは思いつかなかったですね」
……まあ、普通のバヴァロワでやるならともかく、折角の薔薇が美しいバヴァロワなんだから見た目を損なう真似はしない方が良いし、サンドしなかったのは正しいと思うけどねぇ。
後攻はボク。薔薇蜂蜜とホイップの濃厚バター香るホットケーキ、薔薇ジャムと苺ジャムの使ったアイス、薔薇ジャム入りの紅茶の三つが侍女達によって運ばれる。
「……ほう、こちらも美味しそうだ。パンケーキのバターが香ばしく香って食欲をそそられる。薔薇蜂蜜の上品な甘さが口一杯に広がって……これは、素晴らしい」
「アイスクリームも薔薇の香りが良くて、砕いた苺の食感もとても良いわ。ただ苺味のアイスにするのではなくて、砕いた苺を入れることで味覚だけでなく食感でも楽しませてくれるのね。薔薇ジャム入りの紅茶もあまり甘くなくて調和が取れているわ。ローザ、とても美味しいわ」
他の三人もかなりの高評価のようだ。いよいよ、勝負は分からなくなってきたねぇ。
さて、結果は――。
プリムラはボクに一票、ナジャンダもボクに一票、代官夫妻もそれぞれボクに一票、シズレ料理長も一票……ストレート勝ちだった。
「一票くらいはもしかしたらと思ったンだが、やっぱり無理だったか」
「!? まさか、そんなにメルトランの志、低かったのですか!?」
「いや、負けるのは確実に分かっていたからせめて傷跡を残したいと思っていたンだけどな。やっぱり、そんなに世の中甘く無かったってことだな」
第三王子専属侍女のレナーテと第四王子の専属侍女のパトリアは揃って信じられないと驚愕を露わにした表情をしている。
普通、貴族の子女は料理をしない。基本的に料理は料理人の仕事だとされているからだ。
まあ、ボクはそんな風潮何それ美味しいの? という感じで趣味程度に厨房に出入りしていたんだけど。
「個人的な感想だが、メルトラン殿の料理も充分に美味しいものだった。ただ、一つ欠点があるとすれば、今回のテーマはこの地の名産品である薔薇を使った料理だったということだな。ストレートティーを使ったのは確かに良い手だったが、飲み物も含めて薔薇を使って成功を収めているローザ嬢と比較すると、やはり紅茶にも薔薇を使って工夫を凝らしてもらいたかった。……まあ、それ以前の話としてローザ嬢の用意したドルチェは完璧に計算し尽くされ、どのドルチェも他のドルチェの味を損なうことなく、寧ろ引き上げている。薔薇の蜂蜜の選び方やジャムの選び方も秀逸だ。……一体、どれほどの試行を繰り返せばこれだけの品を作れるものか」
「俺達の知る限りでは、お嬢様の試行回数は二日合わせて七十回でした。あの後、お嬢様は更に試行されていたと思うので……」
「流石に百回に達したところでやめましたわ。どれもまだ道半ばの品ばかりですが、自分の中で完全に納得がいく品を用意しようとしたら……恐らく、私の一生をかけても決して完成しないでしょうから」
これが妥協の産物だと聞いたら、ナジャンダ達も驚いていた。……まあ、妥協といってもプリムラに出すものだからねぇ? それなりの形にまで高めてはいるんだよ?
「満足がいく品では決してありません。ただし、こちらに用意したものはどれも王族の皆様に恥じることなく出せる一品に仕上がっていると思います」
「公爵家の令嬢が料理を作ると聞き、内心侮っていたこと、謹んでお詫び致します。……もし、これで妥協の産物だというのであれば、ローザ筆頭侍女様――貴女の目指している料理がどのようなものなのか、全く想像がつきません。それは、ブライトネス王国の最高峰と名高いアーヴァゼス王宮筆頭専属料理長殿ですら到底用意できない一品なのではありませんか?」
「そんな畏れ多いことを申すつもりはありませんわ」
そうはぐらかしておいたんだけど、ボクの正体を知る面々から揃ってジト目向けられた。
……まあ、メルトランに勝った時点で「小娘の趣味程度」ということも言えないし、苦しいところしかないよねぇ。
あっ、結局、ボクとメルトランの料理はどちらも大公家が関わっている大公領内のカフェのメニューとして採用されることになり、作った薔薇ジャムと薔薇と苺のアイスクリームも薔薇の単花蜜と共に大公家ブランドとして商品化が決定したようです。
薔薇ジャムと薔薇と苺のアイスクリームの権利は勿論、全てナジャンダに無料で譲渡したよ? 権利使用料を払いたいと言っていたけど、これについては辞退させて頂いた。……別にお金が目的ではないからねぇ。ボクはただ、ジリル商会のモルヴォル会頭の「薔薇を使った名産品になりそうなものを考えているそうだから、知恵を貸してやってほしい」という依頼に応えただけ、だからねぇ。お礼は是非、モルヴォルにしてもらいたいよ。
ちなみに、メルトランの料理の方はレシピの使用料として毎年売り上げの六パーセントが支払われるという契約になったみたいだ。メルトランもボクに倣って辞退するつもりだったみたいだけど、貰えるものは貰っておくべきだと思うよ?
◆
翌日は生憎の雨模様となった。
雨が降っているということで屋敷から出ずに過ごすことになり、プリムラは部屋で読書をしている。
まあ、こういった日があってもいいんじゃないかな? しかし、静かで平和な日――。
『――ッ!? 隊長! なんてそんなに引きがいいんですか!?』
『おっ、六だ。えっと、隣国との戦争で貢献し、国王から領地を賜る。年間の税収+168,000,000、まあ、いいんじゃねぇか?』
『ふ、副隊長まで!?』
『うむ、三だな。クーデターが成功し、王政府が打倒された。武器を扱う商人に特需収入+100,000,000、領地持ちプレイヤーの領地を全て没収。更にクーデターへの貢献で新たな王政府から領地を賜る。年間の税収+300,000,000だな』
『うわ、ウォスカー!? お前まで!?』
『というか、さりげなくおじさんの領地没収されたんだけど、酷くない!?』
『ウォスカー、ありがとう。特需のおかげで潤った』
……しかし、なんであいつらは静かにできないんだろうか?
アクア、ディラン、ウォスカー、ファイス――フォルトナ王国の問題児達は、ディランが現役の大臣ということもあり、王子であるヘンリーやヴァンの力を持ってしてもなかなか表立って注意できる相手ではない。……というか、逆に王子どころか国王から面と向かって言われたところで絶対にやめそうにないからねぇ。まあ、ラインヴェルドやオルパタータダは嬉々として参戦しそうだけど。
「楽しそうな声が聞こえてくるわね。母さま、アクアさん達は一体何をしているのかしら?」
部屋は人払いされていてボクだけしかいないということで、プリムラも二人きりの時の少し甘えた様子で尋ねてくる。
……ちなみに、プリムラの言葉に悪意は全くない。純粋に何をしているんだろうという好奇心から来る言葉だ。読書の邪魔をされているというのに、なんと心の広い姫殿下なのだろう。
「ビオラで販売されている『人生逆転ゲーム〜王国篇』というボードゲームですね。プレイヤーが様々な職業に転身しながらゴールを目指していき、最終的に誰かがゴールに到達した時点で最も所持金が多かったプレイヤーが勝利するというものです。そういえば、以前陛下もご購入されたとお聞きしています」
「そうなのね! お父様もそういったボードゲームで遊ぶのね。ちょっと意外だったわ」
……うん、プリムラの幻想を打ち砕かないようにラインヴェルドが遊びに命をかけて国王の仕事を放り投げるダメ人間だということは内緒にしておこう。
「どうでしょうか? もし、プリムラ様がよろしければ侍女達を呼んでボードゲームに興じてみるのも……」
ボクの言葉はノック音に遮られた。
『姫様、フォルトナ王国の第一王子殿下、第二王子殿下、第三王子殿下がお越しになられました』
外からソフィスが三人の来客を伝えた。……しかし、珍しいねぇ。まさか、あの三人がこのタイミングでプリムラを訪ねてくるなんて。
「お茶会の約束はしていなかったと思うのだけど……ローザ、おもてなしの用意をお願いできるかしら?」
「承知致しました」
と、扉を開けて三人を迎えつつ、お茶の用意をしようと思ったのだけど。
「ローザ様、それには及びません。本日はローザ様に勉強をお教え頂けないかと思い、お願いに参った次第です。プリムラ姫殿下、ローザ様、しばらくお時間を頂けないでしょうか?」
ルーネスは学園に通っていないものの(なんでも、サレムとアインスと同時期にブライトネス王国の魔法学園に入学するつもりらしい)、大変優秀で既に家庭教師からも太鼓判を押されているという。サレムとアインスも同様、ボクがアネモネとして家庭教師をしていた頃から更に勉学を重ね、三人ともこのままフォルトナ王国の学園に入学しても優秀な成績をおさめられるレベルの筈……なんだけど。
「実は私も避暑地に来てから勉強をしていなくて本当にいいのかなってずっと思っていたの」
「……私は避暑地にいる間は勉学のことを忘れてゆっくりとお寛ぎ頂きたいと思っておりましたが。……しかし、折角の休暇に真剣に勉強するというのも面白みに欠けると思いますし……そう、ですわね。本日は趣向を変えて、一つ面白い試みをしてみましょうか? 姫さま、第一王子殿下、第二王子殿下、第三王子殿下、少し準備に時間が掛かりますので少々お待ちくださいませ」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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