Act.8-214 二人の王子と王女が征く薔薇の大公の領地への小旅行withフォルトナの問題児達 第二部 scene.3
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
午後の休暇自体は刺繍の施されたハンカチの作成が終わったところで一旦終了……ということにはなったのだけど、品評会があることをプリムラに伝えると一日だけお休みをもらうことができた。
「でも、大丈夫なの? ローザ母さま? メルトランは一流の料理人なのよ?」
「私などでは到底及ぶ筈もありませんが、私もプリムラ様に美味しい料理を食べて頂きたい……その気持ちは例えメルトラン相手でも負けないと自負しております」
まあ、精神論で料理はどうなるものでもない。ボクも持てる全ての力を使って戦う所存だ。
今回はプリムラの他にアストラプスィテ大公領の新名産品の提案という側面もある。
審査員はプリムラとナジャンダの二人……というところに落ち着きそうだったんだけど(当初はナジャンダの他に代官夫妻、アストラプスィテ大公家の料理長、そして互いを審査員として置き、その総合得点を争うという予定だった)、ここに興味を持ったフォルトナの三王子と何故か休みを申請してプリムラから許可をもらったソフィスが参戦し、更に興味を持ったヴァンが参戦を表明……と、まあ、こんな感じであっという間に大公家を総力を上げたお祭り騒ぎに……どうしてこーなった?
結局、審査員が多過ぎても船頭多くして船山に登るだけということで、正式な審査員はプリムラ、ナジャンダ、代官夫妻、アストラプスィテ大公家の料理長となり、他のメンバーにも料理を振る舞うものの点数には判定されないということになった。
この状況に第三王子専属侍女のレナーテと第四王子の専属侍女のパトリアは不愉快さを隠そうともせず「王女宮筆頭侍女は王子殿下を蔑ろにして」などと言ってきたけど、それってお前ばかり目立つなっていうただの僻みだよねぇ?
「……すまないな、ローザ嬢。不快な思いをさせただろう」
「いえ、全く? あんな連中、歯牙にも掛けておりませんから」
申し訳なさそうなヴァンにそう返したんだけど、何とも言えない表情をしていた。
……まあ、実際にあれ以上の扱いを受けてきた訳だし、別にあの程度の僻みなら鼻で笑ってやり過ごせるよ。
ボクの心を抉りたいのなら、簡単だ。ボクの大切な人達を傷つければいいだけ……ただ、そうなれば絶対に楽には死なせてやらないけど。
といっても、それは午後の話。本日は快晴、遠乗り日和ということでボクも含め馬に乗れる面々で馬に乗って少し出かけてみることにした。
愛馬となったコルディリネ・テルミナリス・ドナセラに乗ると、テルミナリスはゆっくりと歩き出す。
すぐ隣にはシャルナールに跨ったプリムラの姿もある。しかし、白馬に乗ったお姫様か……絵になるなぁ。
「姫さま、後でそのお姿を絵にさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「ローザは絵を描くのもとても上手なのよね。そうね、一枚描いてもらえないかしら? その、できればでいいのだけど、ローザと一緒に描かれた絵がいいわ」
うん、本当に可愛い! というか、こっち来てからずっと可愛いとと尊いしか言っていない気がする!!
「承知致しました」
「でも、大丈夫なの? 品評会のために料理も準備してきたのでしょう? それなのに、絵も描くなんて……休みが必要かしら?」
「それはご安心くださいませ。しっかり時間を捻出できるアテがございますから」
しかし、僻みしか言わない専属侍女達も遠乗りができないからこっち来ていないし、平和だねぇ……。あっ、勿論、遠乗りが終わってすぐ休憩できるように侍女達は茶会用の準備を進めている筈だから別に暇じゃないんだよ?
ナジャンダ、ヘンリー、ヴァン、プリムラ、ルーネス、サレム、アインス、ラーニャ、アドリアーナ、エアハルト、レオネイドというメンバーで優雅な遠乗りをして……平和だねぇ。
その平和は誰にも脅かされることもなく(何かトラブルが起きるかと思ったけど、特にそのようなことも無かったんだよねぇ。奇跡なのかな?)、かなり大公領の外れまで来たところで……。
「さて、そろそろ空の旅に参りましょうか?」
一人ずつ空翔ける天馬を召喚する……と言っても、プリムラ、ヘンリー、ヴァンの三人は乗った経験がないのでおっかなびっくりという感じだ。
ルーネス、サレム、アインスの三人には召喚笛を贈っているし、きっと乗ったことがあるのだろう。特に恐れることもなく普通の馬のように跨り、上へと飛ぶように指示を出した。
ラーニャ、アドリアーナ、エアハルト、ナジャンダも若干抵抗があったようだけど、馬に乗った経験があるなら乗れないということはないのだから、まずは低空飛行で、徐々に高度をあげていく。
最後にヘンリー、ヴァン、プリムラも指示を出して上空へと上がっていく……さて、ボクもそろそろ行こうかな?
「わぁ、凄いわ! 大公のお屋敷があんなに小さくなっているわ」
「本当でございますな。私も長く生きてきたつもりでしたが、流石に空を飛んだ経験はございません」
……プリムラは楽しそうだけど、ヘンリーは少し顔が青くなっている。もしかして、多少なり高所恐怖なところがあるのだろうか?
ヘンリーが弱点のない完璧王子だと思っていたヴァンは、そんな意外な弱点が露見したことに驚いているらしい。
まあ、そんな感じで三十分間空の旅を楽しんでから地上に戻り、馬に乗って大公家のお屋敷に戻った。
その途中に、ナジャンダがおすすめする野薔薇の群生地にも赴いたんだけど、本当に見事な光景だったよ。野生ならではの力強さと、手の入っていない自然の素晴らしさというものを感じたよ。まあ、人の手が入ったものには入ったものなりの素晴らしさもあるんだけどねぇ。
◆
午後はいよいよ品評会。
調理は中央調理室を借りて行うことが決まり、そこで二人同時に調理を開始することになった。
毒見役を置かない代わりに各二名の監督者を配置して、怪しげなものを入れないか、怪しげな行動をしないかを確認する。……まあ、王族と大公の口に入るものだから、当然と言えば当然か。
ちなみに、その提案をしたのは第三王子専属侍女のレナーテと第四王子の専属侍女のパトリア……よっぽどボクが信用ならないらしい。
最初はあの二人が自ら志願して明らかに妨害工作を行ってきそうな雰囲気だったんだけど、その前にナジャンダが先手を打ち、アストラプスィテ大公家の見習い料理人二名と中堅料理人二名を配置することが決まった。
ボクが作るのは薔薇蜂蜜とホイップの濃厚バター香るホットケーキ、薔薇ジャムと苺ジャムの使ったアイス、薔薇ジャム入りの紅茶の三つ。
どれも薔薇薔薇と主張し過ぎないように、そして似たような薔薇同士被らないように、様々な薔薇を使い分けていく。
まずはアイスから、味の濃い苺ジャムと風味の強い薔薇ジャムを用意し、ボウルに移して牛乳を少しずつ加えながら混ぜる。
そこに生クリームを入れ、ムラができないよう更に混ぜて、型に入れ、氷魔法を発動して凍結開始。それを人数分終えてから、続いて薔薇蜂蜜とホイップの濃厚バター香るホットケーキ作りへ。……と、その前にお湯を沸かしておかないとねぇ。
薄力粉、ベーキングパウダー、上白糖を入れて混ぜる。続いて別のボウルにロック鳥の卵を割り解し、牛乳を加えて混ぜる。
その二つのボウルの材料を合わせ、泡立て器で粉っぽさがなくなるまで混ぜて生地を作る。
バターをしっかりと敷いた鉄板に生地をお玉一杯分ずつ、上から中心に落としていく。三分焼き、表面にプツプツと穴が出てきたら裏返し、約二分弱火のまま焼いて、取り出す。
紅茶の方は沸騰したお湯をあらかじめ用意しておいたダージリン茶葉の入ったポットに注ぎ、カップに注いでから薔薇ジャムを入れ、厳選した薔薇の蜂蜜を掛けて生クリームをホイップし、薔薇の花びらを散らしたら完成。後はできたものから大公家の侍女に頼んで運んでもらいながら、残る全員分を作っていく。
そして、全員分が完成したところでボクは審査会場に移動。メルトランの方は僅かに先に調理が終了していたようで、ボクより先に審査会場に入っていたようだ。
「お待たせ致しました」
まずは先に料理を完成させていたメルトランのものから試食開始だ。
薔薇ジャムとスコーン、薔薇のエディブルフラワーを使ったバヴァロア。スコーンの皿にはドライエディブルフラワーを散らされていて、華やかだ。
スコーンはプレーンのものと薔薇の蜂蜜を砂糖代わりに使ったものが二色。お好みで付けて食べられるようにと生クリームがホイップされている。
一方で、紅茶はシンプルにホットのストレートティーにしたようだねぇ。
「ほう、これは華やかだ」
「美味しいだけではなく、目でも楽しませてくれるようですな」
ナジャンダと料理長のシズレは見た目も美しいメルトランの料理に好印象を持ったようだ。そして、どうやらその見た目と同じく味も絶品らしい。
休暇を貰って、この二日間メルトランと共に試食と議論を繰り返してきたディマリアはうんうん、と頷いている。
ダンも気を遣って二人の時間を作るために試食の役割を辞退したそうだ。
……この二日間、恋人と二人きりで過ごせて本当に良かったねぇ。
「本当に美味しいわ」
プリムラの好意的な評価を我が事のように喜ぶディマリア。
一方、メルトランの方は好意的な評価を聞いても全く表情を変えない。代官のセイファート夫妻も含め、全員が高評価を示したにも関わらず。
「どうしました、メルトラン? あまり嬉しそうじゃありませんが」
「そりゃ、先攻ですからね。このタイミングでどれだけ高い評価を得たところでひっくり返される可能性があるンですから、最後の一瞬まで油断はできねぇ」
まあ、どちらの料理も出揃っている訳じゃないからねぇ。
勝負は決着が着くまで分からない……今の評価は暫定のものだけど、でも、折角これだけ美味しいと言われているんだから喜んでいいと思うけどねぇ。
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