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Act.1-20 大迷宮からの帰還と最古参の使用人 scene.2

<三人称全知視点>


『まず、そもそもメイド自体見慣れているからねぇ。あえて、選べというなら好みは戦闘メイドってことになるだけだよ。そもそも、ボクはメイドをくノ一と混同させているところがあるからねぇ。苦無とか手裏剣とか改造した櫛とかを使う暗殺者系メイド(特殊素材の全身網タイツの上からメイド服を着た和風系のメイド)を割と気に入っているんだよねぇ』


『でも、くっ殺じゃないんだよねぇ。ボクの好みのメイドさんを妄想で汚した人達――覚えておいてねぇ』


 思えば、圓がメイド談義において挙げた好みのメイドの特徴と、月紫と名乗ったメイドの特徴はほぼ一致していた。


(……そうか。まどかちゃんはこの人のことが)


 そして、咲苗は気づいてしまった。――圓の本当に好きな人が誰かを。


「……ところで、圓様は一体どこにいらっしゃるのでしょうか? 校内に潜んで圓様の姿を見守っていましたら突然魔法陣に巻き込まれてしまわれたので、強行突入したら見知らぬ場所に転移してしまい、なんとかここまで情報を集めて辿り着いたのですが」


 校内に潜んで……というのは、ストーカー的な意味ではなく、非常時に圓の護衛をするためだろう。圓も月紫がいることは承知していた筈だ。


『…………圓様は、この世界の真実を確かめるべく迷宮に向かい、FDMMORPG『SWORD & MAJIK ON-LINE』のドレッドナインボス三体を前に一人残りました』


「つまり……一人で置いてきた、と。何故、圓様を見殺しにしたのですか? それがどういうことか……お分かりですよね? こんなゴミどもを助けるために圓様が体を張るなど!?」


『月紫さん、ちょっと落ち着いて。……これは圓さんの意思。超共感覚(ミューテスタジア)で圓さんは自分が死ぬ未来を知った。そのうえで、全て分かった上で迷宮に挑戦した。……ただ、圓さんに決定打を与えたのはFDMMORPG『SWORD & MAJIK ON-LINE』のドレッドナインボス三体じゃない。圓さんに「(タワー)」のカードを送った殺し屋「(タワー)」が用意したトラップの一つ。それが、【The flame devil king】の炎に干渉して槍を作り出して圓さんを打ち抜いた』


「…………犯人は、鮫島大牙ですか?」


 名指しされ、鮫島の顔が一気に青くなった。まさか、こうも簡単にバレるとは思わなかったのだろう。

 圓を殺し、曙光をなんとか斥けて咲苗と結ばれたかった――そんな鮫島の歪んだ願いは呆気なく、当然のことのように看破されてしまった。


『いいえ……彼は確かに実行犯ですが、この頭では炎を操作して事故に見せかけて殺すなんて思いつく訳がありません。それに、「(タワー)」が直接この小物に命令を下すとも思えません。圓様は既に鮫島を唆した存在も看破しています。……そして、その証拠も私の手元にあります』


「……圓様は疑わしきは罰せず、敵が本当に尻尾を出すまでは攻撃しない優しい……いえ、甘さを持ち合わせています。……圓様もそのことを分かっていらっしゃるので大丈夫ですが。……それで、犯人は誰ですか? まあ、状況から考えて咲苗さんに好意を寄せていた東町太一辺りかと思われますが」


 月紫の挙げた意外な名前に、咲苗は驚きを隠せない。

 何故、クラスから浮き、イジメを受けていた圓とも親しかった彼が圓を手に掛けるように鮫島を唆すような真似をしたのだろうか?


『圓様もそう推理して実際に東町の部屋に忍び込んで捜索したところ、こちらの書状が見つかったようです。きっちり行動の指針が示されている怪しげな書状――しかし、そんなものに従っても、どうしても圓様を殺さなければならなかったのは、咲苗様を手に入れるためですね。そもそも、圓様に近づいたのも、圓様をクッションにして咲苗様との関係性を作ればチャンスを得られるのではないかという打算を持っていたからだったようですし……ですが、予想通りにいかなかったため、異世界召喚の混乱に乗じて自分の手を汚さずに圓様を殺そうと考えた。この書状はまさに渡りに船だったという訳ですね。……圓様は結局、好きでもなんでもない、愛玩対象の咲苗様を巡る生々しい恋のバトルに巻き込まれただけに過ぎません。だから、何も知らないまま全ての元凶になった咲苗様を殺してやりたいと今も切に願っていますが、それは圓様の望みではない。……全く、揃いも揃って忌まわしい国の政治家共に利用されるとは、情けない話です』


「…………本当なの、東町君。本当に、東町君が、まどかちゃんを」


「これは言い逃れできないって状況だよな。……そうだよ。俺は咲苗さんが好きだった。園村をイジメなかったのも咲苗さんに嫌なイメージを持たれたくなかったからだ。……でも、この恋は絶対に叶わないって分かってしまった。だから、園村を殺して強敵を減らそうって思った。……その罪を鮫島に被せれば完璧だ。計画書が届いた時、これなら行けるって思ったよ。まあ、誰が用意してくれたかは本当に謎だったけどな。怖かったけど、嬉しさの方が優っていた」


「もうよろしいでしょうか? 圓様に害意を持った時点で極刑は免れません。貴方方に選ぶ権利などない――死になさい」


 月紫の姿が一瞬にして変わった。といっても、容姿が変わった訳ではなく、帯刀していた刀とメイド服のデザインが変わり、苦無型の髪留めの代わりに手裏剣型の髪留めで濡羽色の髪を留めるという形に変化したという、本当に些細なものだったが。


「――ジェノサイド-魂-」


 月紫が鞘から白刃を抜き払った瞬間、埒外の速度で部屋全体を斬撃が襲った。

 しかし、斬撃を受けた筈の咲苗や巴、ホワリエルやヴィーネットはまるでダメージを受けた感覚はない。


 何事が起きたのかと辺りを見渡し、二人の男が床に倒れて物と化していることに気がついた。

 全く外傷のないまま、鮫島と東町が死んでいたのだ。


『この姿は、圓さんが描いたデザイン画の』


「ええ、圓様が私達をイメージして描いたデザイン画と設定です。どうやら、この世界ではこの姿に変身して設定された力を使うことができるようです。――さっきお見せしたのは、斬りたいものだけを斬ることができるジェノサイド。その中でも鮫島と東町の魂だけを狙い撃ちしました」


「そんなこと、許されるのか!! 東町と鮫島だって反省すれば……」


 そして、二発目――月紫の放ったジェノサイドが曙光の魂を両断した。

 その場のクラスメイト達から阿鼻叫喚の声が上がる中、月紫が鞘に刃を納める。


「随分お気楽なお考えのようですが、その考えは明らかに害悪ですよ。そもそも、この二人が改心したところで圓様は帰ってこない。それに、この二人が改心すれば圓様の死が無かったことになるという考えも許せません。――貴方は学習しないのですね? 咲苗をイジメていた者達が貴方が中途半端に注意したせいで苛烈になったことも、貴方の存在が圓様に対するイジメを加速させていたことも。圓様がいない今、止める人もいませんしサクッと恨みを晴らさせて頂きました」


 月紫に何かを思っても、それを口にする者は一人としていなかった。

 もし、何かを口にして機嫌を損ねればそこに倒れている三人の二の舞になりかねない。


「ところで、私達を召喚したのはどこの誰で、この世界は一体何なの?」


『圓様達を召喚したのはFDMMORPG『SWORD & MAJIK ON-LINE』の狂った神シャマシュで、この世界は圓様の推理によれば複数世界観統合計画[Multi-world view integration plan]が不完全な形で実行された異世界ユーニファイドです』


「なるほど……小さな檸檬城の主人風情が圓様を召喚に巻き込んで神の玩具にしようとしたってことね。その神は私が殺すとして……圓様は何故簡単に死を選んだの? 何か目論見がなければ……なるほど、そういうことね。この世界が圓様のための世界なら、圓様が不在では意味がない。きっと本当のこの世界の支配者が圓様を転生させる――圓様はそれに賭けたということね」


『流石は月紫さん。……当然、この世界で圓さんのことを探すんだよね? 例え、圓さんがそれを望んでいなくても』


「勿論よ! ……圓様はそれだけのものを私達に残してくれたわ。このまま他人になるなんて、圓さんのことを忘れて生きるなんて絶対にできない!! 圓様が望んでいなくても私は必ず圓様を見つけ出す。――貴方達もそのつもりなのでしょう?」


『大倭秋津洲帝国連邦の方が解決したら柳様達を連れて戻ってくるつもりです。圓様の転生体を探すにも、まずは向こうの問題を解決してからじゃなければ安心できませんから』


「そうね……そっちは頼むわ。柳様達によろしくね。……それじゃあ、私も行くわ。――圓様のところへ」


 ゴルベールが止める間も無く月紫は弾かれたように飛び出した。

 その姿を見送ったホワリエルとヴィーネットも先程と同じ転移の魔法陣が現れ、瞬く間に二人の姿が消えた。


「……とりあえず、シャマシュ教国に今回の件を報告しなければならないな」


 今回の件でシャマシュ教国が信用ならないと分かってしまったが、今回の件をシャマシュ教国に報告しないという選択肢はゴルベールにはない。

 ゴルベールはシャマシュ聖教教会の教義や存在を揺るがすことはひた隠しにして、今回の件を報告するつもりで考えを纏め始めた。

 その中には、今回の迷宮探索で命を落とした四人(・・)に関する報告もある。特に、勇者として期待されていた曙光の死は大きな影響を及ぼすことになるだろう。


「…………だが、それよりも問題なのは」


 圓の仲間だというあのメイドと、圓以外の裏世界に関わる三人――その存在がシャマシュ教国そのものを揺るがすことは火を見るより明らかだ。

 ゴルベールは頭を抱えた。――未だに完全に消化できていないほど、今回矢継ぎ早に判明した真実は大きなものばかりだったのである。



「巴さん……やっぱり、まどかちゃんの仲間ってあの人よね」


「話を聞く限りはあの人しかいないわ。……これは確かめてみるしかないわね」


 迷宮に挑戦した者達にとって大きな区切りとなった迷宮探索を終えて王城に戻ってきた咲苗と巴もまた、新たなる目標のために動き出した。

 そのために、まずは王城にいる、全ての事情を知っている人物に会いに行く。


 圓が這い寄る混沌(ニャルラトホテプ)と呼ぶ存在――門無平和が居る研究施設へと。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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― 新着の感想 ―
[一言]  本人達の前で暴露してあっさり殺していくスタイル……あ、勇者(笑)がほぼとばっちりで死んだ。
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