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Act.8-211 ローザ所有の屋敷にて〜情報交換〜 scene.4

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


「ただし、異世界化後はもっと複雑になってきている。先程も名前の出たファンデッド子爵家――この子爵の後妻、つまり現在の妻がパーバスディーク侯爵家の出身なんだ。……そして、いよいよ爵位を息子に譲らなければならないという時になって、パーバスディーク侯爵はいよいよ追い詰められ――近々ファンデッド子爵家を支配下に置こうと動き始めるのではないかと予想されている。メレクが次期子爵となることが決定し、傀儡にできる可能性が出てきたからねぇ。……実はルーセント伯爵の一人娘のオルタンス=ルーセントとメレクの婚約の話が持ち上がっている。そして、彼の婚約の顔合わせに奴はきっと現れるだろうねぇ」


 ボクは満面の笑みを浮かべてシーラに視線を向ける。

 その笑顔があまりにも眩しかったのか、或いはその笑顔の裏に溢れんばかりの殺気を湛えていたからなのかは知らないけど、クレールとデルフィーナの顔が揃って引き攣った。


「シーラ、ジェム=フンケルン大公が敵か否かを見極めるまでボクの言葉は信用できないっていう気持ちは分かる。でも、君は実行犯であるパーバスディーク侯爵を決して許せないんでしょう? そして、それはボクも同じだ。アルマさんはボクと同じ転生者で、そして、ボクが尊敬しているレイン先輩の大切な後輩でもある。それに、王弟殿下の想い人だし二人の恋を応援したいと思っているんだよねぇ。だから、ボクは彼女の憂いを取り払ってあげたい。……それに腹立つんだよねぇ、『這い寄る混沌の蛇』の連中。ラインヴェルドが望んでないにも拘らず国王に就任せざるを得なくなり、メリエーナを喪うという最も彼にとって悲惨な対価を払わせて、くだらない貴族連中に抗って、守り抜いてきた国だ。そんなに国を支配したければ、王家壊滅事件の時にとっとと国を支配していれば良かったものを、ようやく軌道に乗り始め、ブライトネス王国が平和になってきたこの時期にまるで嘲笑うかのように動き出す……パーバスディーク侯爵には最早殺意しかないよ。そう遠くないうちに、この件に怒りを覚えている誰かがあの男に死という名の報いを受けさせることになるだろう。まあ、ついでに彼の死に際にフンケルン大公が黒か白か聞けばいいだろうし、どうする? ついてくる?」


「……勿論、ついて行かせてもらうわ。あの方が黒幕だということを信じた訳じゃない。でも、パーバスディーク侯爵に殺意を抱いているという一点のみ、私と貴女は共通しているから、その一点だけ私は貴女を信じることにするわ」


「――決まりだねぇ」



 汀、クレール、デルフィーナの三人は完全にボク達の仲間に加わってくれることになった。

 ラピスラズリ公爵家か極夜の黒狼のどちらかに加わって欲しいと思っていたんだけど……。


 まず、汀は他にも選択肢を見た上で決めたいということで保留に、クレールとデルフィーナはネストが「次世代の公爵家の医者になって欲しい」とお願いし、二人がその申し出を受けたことで、ラピスラズリ公爵家に加わることになった。

 シーラについては仲間に加わった訳ではないので、どこかに加わるということも無し。


 ラピスラズリ公爵家の面々が帰還するまで、クレールとデルフィーナの二人はブルーベルとフィーロから色々と学ぶことが決まっていて、汀とシーラは四人のメイドに世話をされることになる。

 ネストをラピスラズリ公爵家に送り届けてから、ボクはいつも通りビオラでの仕事に向かった。


 まあ、そんなこんなでルーティーンワークのように仕事をこなし、終わったところでようやく就寝、そして翌日。


 本日もプリムラから午後のお休みを頂いたので、品評会(セレクション)に向けた料理の試作を行うことにした。

 チャンスは今日と明日、それまでにちゃんと形にしたいものだけど。


 ……流石にボクもそんなに食べられないということで、今回はアクア、ウォスカー、ファイス、そして昨晩馬をぶっ飛ばして大公領に辿りついたディランに声を掛けて調理室に向かった。

 実はメルトランは午前中、ボクは午後という形で大公家の厨房の一つを使わせてもらえることになったんだよねぇ。


「全く、なんでこれからバストチェックに行こうと思っていた時に……だって、大公家のメイドさんってレベル高いんだよ?」


「ファイスさん、ヒースとチャールズさんと三人で仲良くコンクリートで固められて海の中に沈められるか、溶岩の中に沈められるかどちらがいいですか?」


「ちょ、待ってくださいよ! つまりそれってコンクリートで固められて落とされるのが決定しているってことじゃないですか!? 助けてください、副隊長! 隊長!」


「うーん、おじさんもさぁ、流石にフォローできないっていうか……ってか、今回の件に関わっていないヒースとチャールズを一緒に殺すのは酷いんじゃないかな? と俺は思うんだけど、親友的にはなんか事情があるの?」


「なんというか……埋めるなら似た者同士三人纏めて埋めた方が孤独じゃなくていいかもしれないし、もしかしたら何かの化学合成的なことが起きて真面目な人が生まれてくれるかもしれないと思ってねぇ」


 真面目な顔でジョークを言ってみたけどウケが悪かった。……でも、デリカシーのない三人を揃えて沈めたら何か面白い化学反応が起きて真面目な男が生まれてくるんじゃないかと内心期待しているところもあるんだよねぇ……まあ、無理だけど。


「それで、お嬢様? 今回は何を作るのですか?」


「薔薇蜂蜜とホイップの濃厚バター香るホットケーキ、薔薇ジャムと苺ジャムの使ったアイス、薔薇ジャム入りの紅茶と薔薇尽くしのメニューにしようかと思っているよ。まあ、確実に一発じゃ完成しないだろうから、一口分だけ毎回食べさせてもらって残りを全部四人に食べてもらいたいなと思って。ほら、漆黒騎士団の面々って『料理長の気まぐれデカ盛り定食』の他に余裕で追加注文する大食漢ばかりだから、沢山食べられるでしょう? そういう戦力的な意味で呼んだんだからねぇ」


「それってつまり失敗しまくる前提ってことだよな? 親友? まあ、親友にはかなりの恩があるし、心配作だろうがなんだろうが食べるけどさ……一体いくつ失敗するつもりなんだ?」


「ディランさん、恐らく今回のお菓子作りもきっとボクの納得がいくものはできないと思うよ。ただ、妥協せずにどこまでも美食を追求していって……そして、タイムリミットまでにどこまで高められるかってレベルの話なんだ。勿論、失敗作と言ってもきっと滅茶苦茶不味いってことはないと思うし、残飯処理みたいな仕事じゃないから安心してもらいたいけどねぇ」


 流石に失敗作でもそこまで不味いとは思わないけど……まあ、とりあえずチャレンジチャレンジ。

 本番用の材料は使えないので、【万物創造】を駆使して作り出した練習用の材料を使って作っていく。


 ――まずは、試行一回目。


「美味しい! 美味しいですよ、お嬢様!」


「こりゃ美味いぜ! 流石親友!」


「うむ、美味いな!」


「ローザさん、これ美味しいっすよ!」


「――うん、不味い! もう一回!」


 ――試行二回目。


「お嬢様、さっきと何が変わったか分かりませんが、とりあえず美味しいことは分かりました」


「…….おい、マジで相棒、これの違い分からないのか!? 微妙に味が変わっているし、なんかちょっと物足りないって思っていたところが解消されている気がするぜ。まあ、元々美味だったけどな」


「うむ、美味いな!」


「ローザさん、これも美味しいっすよ!」


「うん、足りないところが多過ぎる! もう一回!」


 ――試行三回目。


「お嬢様、一回目と二回目と何が変わったか分かりませんが、とりあえず美味しいことは分かりました」


「……そろそろおじさんも限界かもしれない。微妙に変わったような気がするけど、美味しさがカンストしているから分かんない」


「うむ、美味いな!」


「ローザさん、これも美味しいっすよ!」


「うん、もう一回!」


 ――試行二十四回目。


「お嬢様、そろそろ別の味が食べたくなってきました」


「こう甘いものばかりだとな……親友、何かないか?」


「うむ、美味いな!」


「ローザさん、もうよく分からないっす」


「それじゃあ、チキンでも用意しようか? まだまだ不味いの域を出ていないし……もう一回」


 ――試行四十三回目。


 ということで、結局今日は四十三回目作成した。向上はしていると思いたいんだけど……なかなか世の中儘ならないもので。

 アクア達に明日も手伝ってもらえないかと尋ねて承諾を得られたので、今日はここでお開きということになった。


 そして、翌日……試行二十七回、計七十回を迎えたところでアクア達に謝礼を渡して戻ってもらった。

 そこからはたった一人、味覚を研ぎ澄まし、これまでの試行の結果を思い出しながら、一つの妥協点を模索していく。


 絶対味覚――神の舌と呼ばれるこの異能を持つ者以外にとっては、大した違いがないのかもしれない。

 姫さまに分かってもらえるかどうかも分からない。


 ……でも、ボクは自分が最高だと思えるものを、それが無理ならせめて納得がいくものをお出ししたい。

 きっと、これはボクの自己満足なんだと思う。


 だけど……心から愛している大切な姫さまに、適当なものなんてお出しできる訳がないじまないか。



 なんとか品評会(セレクション)に向けてとりあえず形にはなったと思う。

 ボクはお土産片手に、今回の避暑地での生活の場として与えられた使用人の部屋の一室に戻った。


 メイナ、ソフィス、シェルロッタと同室のこの部屋には、メイナの姿だけがあった。今はソフィスとシェルロッタの二人がプリムラの側に居てくれているのだろう。


 窓の外は大公邸の庭園が良く見える。……やっぱり、趣味がいいねぇ。


「本当に美しい光景ですねぇ~」


「……メイナ、気を抜き過ぎですよ。今日は姫さまのご様子はどうでしたか」


 といいつつ、少しだけ甘やかしてしまうボクは甘いのだろうか? 薔薇の風味が香るストロベリーアイスを手渡し、紅茶を淹れてからメイナに近況を尋ねた。


「あ、はい! 午後から第三王子殿下、第四王子殿下、大公様の三人とお話をなさっておいででした。その際には人払いをなされましたので内容までは存じません。その後、シャルナールを慣らすとのことで新しい鞍をつけられ三十分ほど護衛騎士を伴い練習をなさっておいででした。それから、空翔ける天馬(ペガサス)に関する説明を、フォルトナ王国の騎馬総帥のレオネイド様から受けられておりました。その後刺繍をなされておいででしたが、フォルトナ王国の第一王子殿下、第二王子殿下、第三王子殿下がティータイムにお誘いになられ、その際はシェルロッタさんとフォルトナ王国の統括侍女のミナーヴァ様が給仕を務めました。以上です」

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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