Act.8-208 ローザ所有の屋敷にて〜情報交換〜 scene.1
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
戦闘終了後、死体を即席で作った棺桶に入れて誘拐された屋敷の比較的損傷の少ない一室に残し、カノープスに報告することになっているダラスとは現地解散し、ヴァーナム、ジョナサン、ラルをそれぞれ送り届けてから、気絶しているシーラをお姫様抱っこして残ったネスト、トーマス、レナード、汀、クレール、デルフィーナと共に予備の戦力として残していた次世代ラピスラズリ公爵家の使用人であるフィーロとブルーベルの待つボクの所有する屋敷の一つへと『全移動』した。
「お疲れ様。その様子だと無事に目的を果たせたようね」
「おかげさまで、予想以上の収穫だったよ。これも、ネスト達の頑張りの賜物だねぇ」
酒瓶片手にソファーで酔っ払っているフィーロが出迎えてくれたけど……ってか、これって出迎えっていうのかな?
この場にブルーベルの姿はない。どうやら、ボク達が帰ってくるのを察知してお茶の用意をしに行ってくれたようだ。
「本当にブルーベルさんは使用人の鑑だよねぇ」
「それは、私に対する当て付けなのかしら?」
「よく分かっているじゃありませんか。フィーロさん、貴女ももうラピスラズリ公爵家の使用人として給与をもらっているのですからしっかりと働いてください。――お帰りなさいませ、皆々様」
屋敷のダイニングルームに移動し、ブルーベルから紅茶とケーキを受け取ったところで情報交換が始まった。
ルヴェリオス帝国出身のブルーベルとフィーロにも勿論同席してもらっている……まあ、フィーロは座るように促すまでもなく勝手に座っていたけどねぇ。
ちなみに、未だに気絶しているシーラはダイニングに布団を持ってきて敷いて、そこで寝させている。……起きた時にすぐ気づけた方が騒ぎを最小限に抑えられそうだからねぇ。
「……とりあえず、互いに持っている情報を共有しようか? まずは、ボクからそもそもどういった出来事を経てこのネスト誘拐事件が起こったのかという説明と、現時点で判明している『這い寄る混沌の蛇』についての情報開示をさせてもらう。汀、クレール、デルフィーナの三名からはそちらが入手している『這い寄る混沌の蛇』についての情報開示を行ってもらいたい。それが終わって時点で質問タイムにするから、互いに開示された情報以外で気になることがあればこの質問タイムにしてもらいたいねぇ。トーマスさんも聞きたいことがあると思うけど、それでいいかな?」
「それで構わない。質問内容と重複する可能性もあることだし、事前にカードを擦り合わせた上で不足分を補うことが建設的だ」
「あたし達も異論はないよー!」
「決まりだねぇ。……まず、ボクが『這い寄る混沌の蛇』が暗躍していることを知るに至ったそもそもの始まりは冒険者ギルド本部長のヴァーナムさんと邂逅した日だった。旧マラキア共和国の商業ギルド内の奇妙な金の動きを当時の総長から依頼されたヴァーナムさんは商人ギルドも把握し切れていない闇のマーケットから多くの武器が購入され、それが隣国ラングリス王国に送られていることを掴み、商業ギルド役員の一人だったヴィオ=ロッテルに到達した。その時はまだ『這い寄る混沌の蛇』であることが判明していなかったから、拷問でも口を割らない彼に困っていたようで、ボクに助力を求めたんだ。ちなみに、このヴィオは厄介なことに『阿羅覇刃鬼』や『阿頼耶死鬼』と呼ばれる組織と繋がりを持っていた……あの人が絡んでいるとなると、十中八九、背後にアイオーンがいるんだろうけど、まあ、それは今回大して重要なことじゃないから割愛させてもらうよ。それと同日、旧フォルトナ王国はフォルトナ王国を裏切り、帝国の凶刃である【濡羽】――つまり、クレールとデルフィーナの母であるグローシィを王国内に招き入れた者達、フォティゾ大教会の裏切り者を討伐するために王国軍と警備隊で枢機卿アンブラル邸に攻撃を仕掛けた。このアンブラルは、交戦したアクア達に『這い寄る混沌の蛇』の信徒であると明言していて、こちらは拷問するまで無かったんだけど。その後、ヴィオに自白させ、彼の目的がラングリス王国の革命の火に油を注ぐと共に、自身の提案した大型船の造船……その輸送用の大型船を利用してペドレリーア大陸にいる『這い寄る混沌の蛇』のサポートに回ろうとしていた。これが、ボク達と『這い寄る混沌の蛇』のファーストコンタクトということになる……ここまではいいかな?」
全員の首肯を確認した後、ボクは話を進めていく。
「ペドレリーア大陸は『這い寄る混沌の蛇』が登場する『ダイアモンドプリンセス〜這い寄る蛇の邪教〜』の舞台となる大陸なんだけど、魔法という概念は無かった筈だった。だけど、アンブラルが魔法を使ったということは、『這い寄る混沌の蛇』が魔法を会得している可能性が高いということになる。そこで、ボク達は本来、『這い寄る混沌の蛇』と敵対していくミレーユ姫達が危機に瀕するのではないかと危惧し、大陸に渡った。ただし、ボクはあくまで、ミレーユ姫、ラフィーナ、リオンナハト――主人公達があの大陸を支配する『這い寄る混沌の蛇』についてはその手で壊滅させるべきだと考えていたから、冥黎域クラス以外は彼らで対応してもらうというスタイルだったんだけどねぇ。ボクは戦力として信頼に足り、かつ、主人公としては唯一成長の必要性のないトーマス・ラングドン教授に事情を説明して仲間に加わってもらうと、仕入れた情報から『這い寄る混沌の蛇』がプレゲトーン王国の革命のシナリオに干渉してくると読み、革命の渦中に飛び込んだ。……これは、元々ジェイという男がライズムーン王国の諜報部隊『白烏』を操って起こしたボヤ騒ぎだったんだけど……」
「義姉さん、いくら他のものに比べて明らかに程度が低いからってボヤ騒ぎ扱いは流石に酷いと思うよ」
ネストにジト目を向けられて、義姉さんはしょぼーんです。……だってさぁ、プレゲトーン王国の第一王女で偽の姫巫女でもあるヴァレンティナ・プレゲトーンや、ヴァレンティナの右腕である火奔狼、四大公爵家の一角である毒の扱いに秀でたイエローダイアモンド公爵家を影から操っていた長女シュトリン・ジョーヌ・イエローダイアモンド付き侍女のヴァッジリッサに比べたらジェイなんてただの雑魚なんだよ?
それに、実際被害はブライトネスとフォルトナの転生組が拡大させていただけだから、結局火に油を注いだのはボクらの方だし。
「ただし、『這い寄る混沌の蛇』はまるでボク達の動きを予期したように、冥黎域クラスを二人ペドレリーア大陸へと派遣していた。実際、こちらは様々な要因が重なったとはいえ、ミレーユ姫を一時的に奪われ、剰え闇堕ちする事態にまで陥ってしまった。この時、派遣されたのはここにいる元冥黎域の十三使徒のレナード=テンガロンと、冥黎域の十三使徒のヘリオラ・ラブラドライト――もうこの世には存在しない、空席となっている十三番目の冥黎域の十三使徒だよ」
◆
「……『這い寄る混沌の蛇』の冥黎域の十三使徒のメンバーを全員知っている人はほんの一握りだけど、空席や裏切り者の情報は出回っている。レナードさんの裏切りも情報共有はされていた。……レナードさんは一人でジェイのフォローに向かい……そして、何らかの理由で裏切ったと聞いているわ」
「……まあ、俺の記憶でもそんな感じになっているぜ。でも、それがあり得ないってことは俺が一番良く分かっている。俺は強い奴と戦いたいっていう理由で『這い寄る混沌の蛇』に加わっただけでその思想には別に賛同している訳じゃねぇからな? ……そもそも、あのアポピスの野郎が長年空席を一つ空けておく訳がねぇだろ?」
「……そ、そうよね。そもそも、席を一つ空けておく必要なんてないわ。……つまり、そのヘリオラ・ラブラドライトという人がその時まではいて、冥黎域の十三使徒として、ミレーユ姫を闇堕ちさせる作戦を主導していた……ということなのね? でも、そんな人が居るなんて聞いたことがないし、そもそも、長年空席だったという事実は動かせないわ」
「まあ、実際に常識的に考えればクレール達のような結論に至ると思う。全世界の人間からその人の記憶が消えてしまった……なんて、それこそ魔法のある世界でも非常識なことだからねぇ。でも、ボクにはその力がある……まあ、正確には、アイオーンの使徒であるエンノイアを倒すことで創世級となった『漆黒魔剣ブラッドリリー』を使えば。この剣の力を解放すると、斬った相手を過去に遡って抹消することができるんだ。そして、辻褄を合わせるように世界が改変される……だから、長年空席だったにも拘らず、誰もそれに気づけない事態に直面したってことだねぇ。だって、ほんの少し前までは確かにその椅子に座るべき人間が居たんだから」
生きていた存在を過去に遡って完全に抹消する力……汀も、クレールも、デルフィーナも、その存在を知って顔が真っ青になっている。
まあ、そりゃ仕方ないよねぇ……それってつまり、存在そのものを否定されることに他ならないのだから。
「断っておくけど、あの時は苦肉の策だったし……それに、ボクはこの力をあまり良くは思っていないよ。どんな人間にだって、生きてきた足跡があるんだし、その否定は単純な殺害よりも重い。人間が本当に死ぬ時っていうのは、みんなから忘れられた時だと思う。誰かの心の中にいる限り、その人はその人の心の中で生き続けるんだから。……まあ、どの道、あの場で敵として殺していたとしても、存在抹消はしなかったから安心してねぇ」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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