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Act.8-202 ネスト=ラピスラズリ誘拐事件 scene.2

<三人称全知視点>


「実に、実に愚かだ。……いくら義姉さんが天才軍師だとしても、こんなあからさまに引っ掛かるものなのかな? これだけお膳立てしたら逆に怪しむものだろう? いや、それとも分かった上で捨て石にしたのか?」


 ネストは縛られたままの姿で不敵に笑った。

 これから嬲られることを本気で理解していないのか、マーヴォロも一瞬、この不敬な態度を取ることへの怒り以上に、あまりにも予想外過ぎる反応で頭が真っ白になった。


「まあ、いいや。初めまして、君がシーラであっているかな? こんな格好で失礼……いや、もう縛られている必要もないか」


 次の瞬間、魔法封じの枷が嵌められているにも拘らず、ネストを縛っていた拘束の全てが弾け飛んだ。


「……嘘、でしょう!? 魔法は全て封じた筈なのに!!」


「魔法を封じた程度で次期【血塗れ公爵】を止められるとでも本当に思ったのか? ますます杜撰だ。本気で、彼は――ジェム=フンケルン大公は君を捨て石にする気だったのか? いや、違うか。君が自白すれば、その瞬間に僕達は彼を捕らえ、葬り去る大義名分を得る。彼としても、決して君という手札を僕らに好き勝手されたくはないんじゃないか。つまり、そもそも情報が古過ぎるということだ。僕達と交戦した蛇の手勢は全員捕まえるか、処断しているからそちらに情報はいっていない……まあ、そうなるよね」


 ネストの言葉で、シーラの表情がみるみる青褪めていく。

 これまで笑顔を崩さなかった彼女に動揺が走るのを見て、マーヴォロは衝撃を覚える。

 ……が、それよりも先にまずはネストだ。


「――久しぶりだな、ネスト」


「あっ……誰かと思ったら、マーヴォロか。随分とデブデブと太っていたから一瞬分からなかったよ。廃嫡されたんだってね? まあ、どっちでもいいんだけど。正直、恨んでもないし……何もお前に対して感情を抱いていないんだ。ただ、僕に対して出されている指示は鍵を握るシーラを生きたまま拘束するのみ……マーヴォロ、君の生殺与奪については何も指示が出されていないということになる。とどのつまり、殺しちゃってもいいってことだ」


「お、お前如きが⋯⋯俺を呼び捨てにしやがって! それに、俺を殺すだと!?」


 憤怒の形相となるマーヴォロだが、ネストは全く気にした様子もない。もはや眼中にないとでも言いたげにシーラに視線を向けている。


「まあ、ただでは捕まってくれないだろうし、戦闘を始める前に確認を取りたいことが一つある。……どこまでが、ジェム大公の策略なのかだ。そこの男が廃嫡されるところまでは想像がつく……が、それも最初から作戦に組み込まれていたのかな? ソーダライト子爵家は僕の記憶が確かならフンケルン大公派閥に属している。……闇魔法の中には悪意と相性の良いものもある。例えば、人間の悪意を増幅させるもの……まあ、それは暗黒魔法の方が適性は高いようだけど。……つまり、マーヴォロの廃嫡は何者かの……というか、ソーダライト子爵家の策略なんじゃないかな? まあ、策略なんて企てずとも勝手に転がり落ちていくとは思うけど」


「――ッ!? 俺の廃嫡が……まさか、アイツらの、父と弟の策略だとでもいうのか!?」


正解(せいかーい)、まさかこんなにも早く気づかれるなんてね」


 薄暗い部屋の扉が開け放たれ、一人の男が部屋の中へと入ってきた。


「――ッ!? トータス! ――おいっ、シーラ!? これはどういうことだ!?」


「最初から、トータスとシーラはグルだったってことだろうね。マーヴォロ、お前を家から追い出すのと同時期にこいつは子爵を継いだ。ソーダライト子爵が急に(・・)体調を崩し、死んでしまったからね。……つまり、マーヴォロを家から追い出すと同時に彼はソーダライト子爵家を支配したってことになる」


「本当はこの男を僕の手で追放してやろうと色々と策を考えていたんだけどね。しかし、まさか僕が手を下すまでもなく勝手にどん底まで落ちていくとは思わなかったよ。まあ、つまりマーヴォロの自爆については僕に一切の責任はないってことだ。……僕はね、常にソーダライト子爵家を自分のものにしたいと思っていたんだよ。あんなクズな父親にいつまでも権力を握られたくないし、あの父親が死んだら次は傲慢なだけで子爵としての素質なんて持っていない愚物が継ぐことになる。――でも、僕には力が無かった。だから、僕は常に権力を握る者に従ってきた。マーヴォロ、お前に従っていたのもお前がまだ力を持っていたからだ。そして、お前が弱ったら父に従って追放した。――全ての用意が整ったんだよ! 今の僕は蛇の力を得ている! フンケルン大公家だけじゃない! 『這い寄る混沌の蛇』冥黎域の十三使徒――魔法少女ナユタ≠カナタ、ルイーズ・ヘルメス=トリスメギストス、オーレ=ルゲイエ――僕は三人の『這い寄る混沌の蛇』の幹部と繋がりを持っている! だが、それで終わりじゃない! 僕はいずれ冥黎域の十三使徒を超えていく! 僕こそが世界の神に――くっ、何がおかしい!」


 愉悦で顔を歪めていたトータスはネストが笑っていることに気づいて憎悪の視線を向ける。


「いや、随分と傲慢だと思ってね。僕も含めて、高がその程度で世界を取れるなんて……あまりにも井の中の蛙、大海を知らずという言葉が似合うようだ。……『這い寄る混沌の蛇』も含めて、随分と思い上がりをしていると、僕は思うよ。真の猛者っていうのは、僕の義姉さんですら死を覚悟して……自分の死すらも勘定に入れなければ勝てないような相手なんだ。それを、高が闇属性や暗黒属性魔法を獲得したくらいでひっくり返せるとでも思っているなら……あまりにも思慮が足らない。……その様子だと、前ソードライト子爵を闇の魔法の被験体にしたんだろう? 子爵家の掌握程度なら、強い者につくという方法でも十分に対応できたかもしれない。マーヴォロが強い時はマーヴォロに、マーヴォロが落ちぶれれば、前ソードライト子爵の側に立ってマーヴォロを追放し、前ソードライト子爵を掌握するための力を得るために『這い寄る混沌の蛇』の力を借りる……じゃあ次は? 僕達の知らなかった冥黎域の十三使徒の情報をこんなにも教えてくれたのだから、お礼も兼ねて忠告してあげるよ。……強者が自分達の中に不穏分子を招くということは、それがいつでも滅ぼせるということだ。ならば、慢心を利用して潰していけばいいと思うかもしれないけど、真の強者がそんな慢心をする筈がない。使い潰されて死ぬだけだよ? 自分を強者だと勘違いしている虎の威を借る狐は特に」


「……やはり、状況を理解できていないようだな。僕が何故こんなふうにノコノコ出てきたか。勝算があるからだ! でなければ、これからブライトネス王国を、そしてやがては世界を支配するこの僕が自ら姿を見せる筈がない! 光栄に思うがいい! いずれ世界の王となる僕の前で死んでいけるのだからね!」


 トータスが指を鳴らすと、部屋の扉が粉砕された。

 現れた人影は全部で四つ――どれも女性だ。


 純白の甘ロリを身に纏った人形のような黒髪の少女と、ゴシックドレスを纏った蒼から赤へのグラデーションのある髪を肩まで伸ばした翡翠色と紫水晶のオッドアイの甘ロリを纏った少女によく似た少女。


 一人は水色の髪を肩まで伸ばしたロングヘアで、髪先は深い青色、瞳は瑠璃色で、ビスチェ風のトップと左右非対称なスカートという出立ち。

 また、ミニスカートとなって露出している右足部分は魚の鱗で覆われており、高い青色のヒールを履いている。薄い白のベールをマントのように纏い、サーベルを帯刀している。


 そして、最後の一人は三十過ぎでも美しい容貌を持っているが、軍人の精悍さというよりは犯罪者じみた残酷さを色濃く感じさせる女性だ。


「……まさか、そんなご大層なことを考えていたとは思わなかったよ。まあ、いい、今は、アタシは殺しを楽しめればそれで充分だ。いずれは軟弱な国と化したルヴェリオス共和国を倒し、姫さんの力を借りてルヴェリオス帝国を再興したいと思っているが、今は共闘してやるよ」


 犯罪者じみた女が、殺意の篭もった視線をギラつかせながら、凄惨な笑みを浮かべた。


「【討夷将軍】ミズファ=スターベイションですね。ルヴェリオス共和国で指名手配されていた元将軍の。まさか、『這い寄る混沌の蛇』と合流していたとは」


「今は冥黎域の十三使徒のルイーズ・ヘルメス=トリスメギストスの部下だけどな。だけど、あのお嬢さんはゴーレムの作成以外には興味がないんだと。紹介が遅れたな、クレール=ナイトメアブラック嬢とデルフィーナ=イシュケリヨト次期帝国皇帝陛下、そして『這い寄る混沌の蛇』冥黎域の十三使徒ナユタ≠カナタ直属の部下の魔法少女美青木(みあおき)(なぎさ)だ」


「どうもー! あたしは美青木汀、悲劇のヒロインになる筈だった元魔法の国側の魔法少女だよー! 今は冥黎域の十三使徒の配下ってことになっているけど、あたしはナユタさんの『この世から可哀想と憐憫を抱く対象を全て消し去るために生物の存在しない原始海洋まで世界を巻き戻す』っていう意味不明な思想には賛同していないので、そのあたりよろしくねー!」


「義姉さんが戦ったという【濡羽】の縁者が二人と、魔法少女、そしてルヴェリオス帝国の残党ですか。……これだけ豊作ならきっと義姉さんにも喜んでもらえそうだ。……とはいえ、【濡羽】は義姉さんと浅からぬ因縁があるだろうし、僕の方で処分したらきっと心残りを残してしまう。この二人の対応は義姉さんに一存するべきだと思うけど……その前に。トータス、君に言っておかないといけないことがある。君達は僕を追いつめたつもりなんだろうけど、義姉さんは既に君達が僕を誘拐することを読んでいたよ。寧ろ、あえてその誘拐に乗ったんだ。僕が誘拐されれば、君達のアジトがどこかを知ることができるからね」


 ネストがそう言い終わらないうちに、屋敷の窓がぶち破られ、屋敷の壁を半壊させ、複数の者達が屋敷の中へと雪崩れ込んできた。


 トーマス・ラングドン、レナード=テンガロン、ヴァーナム=モントレー、ジョナサン・リッシュモン、ダラス=マクシミラン、ラル=ジュビルッツ――ローザが事前に増援として声を掛けていた精鋭達である。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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