Act.8-197 二人の王子と王女が征く薔薇の大公の領地への小旅行withフォルトナの問題児達 scene.7
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
『なるほど……昨日、そのようなことがあったのですね。アクアさんに加えて、ウォスカーさんとファイスさんですか。……流石にあの三人相手に挑むなんて自殺行為ですよ。負けたからといって落ち込まないでくださいね。寧ろ、勝てたら本当に両国の陛下に並び立ててしまいますから』
注文した紅茶とスコーンのセットを待っている間、ボク達の話題は昨日の白花騎士団所属の近衛騎士、王子殿下の護衛の近衛騎士、アストラプスィテ大公領の両軍からなる連合軍vsアクア、ウォスカー、ファイスの三人組の試合に集中した。
……あれは、もう一方的な蹂躙劇だった。
「そんなに酷い戦いだったンか?」
「そりゃ、酷いってもんじゃないわよ。実質、アクアさんとウォスカーさんの二人相手に全滅したもの。ウォスカーさんは闘気すら纏わずに純粋な剣技だけで、アクアさんに至っては一度も剣を抜かず拳だけでアタシを含めて連合軍を壊滅させたわ」
流石にメルトランもそこまで一方的な蹂躙になるとは思わなかったのだろう。ディマリアの言葉に衝撃を受けている。
『アクアさんの使っているこの瞬間移動――八技の俊身だよね。アクアさんも八技を習得しているんだ』
「多種族同盟で大体戦力になる面々は全員、八技と闘気は習得済みですね」
一瞬にして地面を十回以上蹴り、その反動で瞬間移動みたく移動する俊身を含む八技は闘気とも相性が良く、今や闘気の習得と並んで八技の習得は猛者の必須条件となりつつある。
原初魔法、瀬島新代魔法、『SWORD & MAJIK ON-LINE』のマジックスキルの三つは魔法も発展していることから習得は必須ではないけど、そこそこ使用者はいる。常夜流忍術、仙術となると更にガクッと使い手が減って、陰陽術、東洋呪術、聖術、原初呪術に至ってはボクくらいしか使用者がいないんじゃないかな?
一方、『SWORD & MAJIK ON-LINE』のウェポンスキルの習得者が恐らく一番多く、次点で常夜流忍暗殺剣術、鬼斬ノ剣の使い手だと千羽鬼殺流を会得したプリムヴェールさんくらいかな? 圓式の会得者は案外多いけど、圓式独創秘剣術の方はあまり人気がない。
ちなみに、鬼斬ノ剣からすぐに魔法剣主体に切り替えたプリムヴェールだけど、新たに霊力を魔法の火種にすることで、滅焉剣のようなことが可能になるのではないかと最近試行錯誤しているそう。まあ、上手くいかなくても魔法が封じられた時とかに便利だし、魔物特効の効果が期待できるから弱いって訳じゃないんだけどねぇ。
「ファイスさんが撃破されたのも、どうやら女性騎士相手にセクハラを働こうとしてアクアに沈められたようですし……実質、誰も討ち取れなかったようですねぇ。ただ、エアハルト様はあのウォスカーさん相手にかなり持ち堪えていたようですから、あのメンバーでは一番エアハルト様が強いのでしょうね」
『……やっぱり、八技の習得は必須なんだ。僕達の方も修行を始めた方が良さそうだね』
多種族同盟で大体戦力になる面々、というのは実は誇張表現でまだまだ八技の習得者は少ないというのが現状だ。
とはいえ、誕生日会の二次会のドリームチームトーナメントを切っ掛けに各国メンバーがそれぞれ更なる強化を始めていて、新たな技術の会得の方向に進んでいる。
様々ある中でも特に習得が比較的容易な八技は既に全ての国の面々が射程に収めていて、聖人に至る修行を進めている面々もその修行の中に八技を組み込んでいる。
フォルトナ=フィートランド連合王国でも今後、闘気と共に八技の習得が一種の境界線になるだろう。……まあ、仮に習得したとして一気に厄災級の存在相手に渡り合えるかと言ったら不可能なんだけどねぇ。
ただ、こういう各国の軍事的な話も美味しいスイーツを前に雲集霧散――スイーツがテーブルに置かれると、自然と話はスイーツに集約されて行く訳で。
メルトランは先ほどから「ううん……なるほど、そうか。これなら……」などと難しい顔してブツブツ言っている。
うーん、そもそもここの店で扱っている蜂蜜にすると決めている訳じゃないし、ボク個人としてはあまりにも先走り過ぎだと思うんだけどねぇ。ほら、まずはアストラプスィテ大公領で扱われている蜂蜜を分析してグラフに書き出す方が先じゃない? とボクなんかは思ってしまうんだよねぇ。
まあ、料理長であるメルトランを信用していないってことじゃないし、今回も彼が主導することになるんだろうから、一筆頭侍女が出る幕ではないって分かっているんだけど。
それと、別にこの店のスコーンが美味しくないとは一言も言っていないからねぇ。
「ローザ様。アタシはこの薔薇蜂蜜が美味しいと思います。淡い香りがして好きです!」
「それを言うならこっちの蜂蜜は甘味も色も薔薇が強く出ていてそのまま使うのに適しているだろう? まあ、こういうのは適材適所なんだろうけどな。この店はかなり使い所を検討しているみたいだ。見習わねえとな」
「いずれにしても、このまま散策しながらというのは非効率でしょうね。当初の予定通り、養蜂家の調査をダンと琉璃に任せて……私達はとりあえず、この店で扱っている小瓶を購入していきましょうか? 琉璃とダンにはこの店で売られている蜂蜜を起点に養蜂家の調査をお願いしますね」
「了解です!」
『承知しました、ご主人様!』
食べ歩きはかなり腹に溜まるということで却下。調査自体は琉璃もいるからそう時間も掛からないだろうし、今日はこの店で売っている小瓶をサンプル代わりに購入することにした。
各々方針が決まったということで、会計の紙を持って会計に向かおうとしたのだけど、慌てたディマリアがボクの手から紙を奪っていった。
琉璃がディマリアを少し睨んでいるけど、この世界では「身分の高い者に支払いをさせてはならない」という面倒なシステムがあるようで……割り切って「では、ここはお願いしますね」とディマリアに任せた。
ディマリアが会計の列に並んでいる間に「本日買ったこちらのメモに記されている物以外の蜂蜜は可能でしたらサンプルをもらってきてください」と伝えて札の入った財布を二つ手渡した。
琉璃は『承知致しました』と言って、すぐに俊身を使って店の外へと消えていった。慌てたダンがその後を追うように店を出て行く。……よしよし。
「おい、荷物寄越せ」
「あら、ありがと。お会計お願いします。あっ、領収書もお願いできますか?」
「蜂蜜買うの忘れンなよ?」
「分かっているわよ、うるさいわね」
しかし、ディマリアが会計しつつ、メルトランが蜂蜜を持つ姿……うん。
「まるでご夫婦のようですね」
「「えっ」」
二人揃って一瞬にして顔が茹蛸みたいに真っ赤っ赤……お前らやっぱりウブか? お姉さん的にはそういうの嫌いじゃないよ?
◆
そのまま大公家の屋敷に戻り、厨房に集合することになった訳だけど、いかんせんピースが少ないからダンが到着するまでは購入した蜂蜜から構想を練るしかない。
……と言っても、もう既にメルトランは「あれとこれを合わせたら……いや、それじゃあ香りが……」と料理の構想に意識が飛んでいるようだけど。
ディマリアはそんな彼にもどこ吹く風……もしかしなくても慣れているんだろうねぇ。
そんなボクの視線に気づいたのか、ディマリアは勝気な表情を柔らかくして微笑みながら、そっと唇に人差し指を当てた。やっぱり慣れているらしい……本当に良い彼女を持ったねぇ、メルトラン。
「メルトラン、もし貴方が良ければ数日後に品評会を行いませんか? 互いに薔薇の蜂蜜を使ったドルチェを持ち寄り、姫さまに相応しい一品を選ぶのです」
「まあ、ローザ様も俺並み……というか、俺以上に料理ができるだろうし、俺が主体で進めるのを見ているのはつまらないよな? だからって、俺が何もしないっていうンじゃついてきた意味がねぇし、それが妥当か?」
「それはそれとして、今の材料で何か少し作ってみましょうか? 出発する前にもお伝えしたようにバヴァロワを作っていきましょう」
作業行程はゼラチンを水でふやかしておき、湯煎しながら卵黄と砂糖を泡立て器で泡立てる。鍋に牛乳を入れ、火にかけゼラチンを入れて溶かし、泡立てた卵黄と砂糖に加え、泡立てた生クリームと卵白を混ぜ、型に流し入れて冷やし固めるというもの。
メルトランには事前にゼラチンを水でふやかしてもらい、湯煎しながら卵黄と砂糖を泡立て器で泡立ててもらっている。その間に、ボクは生クリームをシャカシャカと。
メルトランが真剣な表情でこちらを見ているなぁ、と思いながらメルトランから受け取った卵液に最後にホイップしたクリームを混ぜてとろみがついたのを確認して、型代わりのコップに流し込み、原初魔法の「氷精-冷気生成-」を発動して冷やしていく。
ディマリアから受け取った受け皿にひっくり返せば完成――まあ、こんなところかな?
「まずはメルトランに実食してもらいましょう。まだ残っているし、今のうちにもう二つ作っておくわ」
メルトランが実食している間にボクとディマリアの分を作っていたら、ダンが戻ってきた。両手に袋、大量に瓶詰めの蜂蜜を持っているねぇ。
「ただいま戻りました。琉璃さんのおかげでこんなに早く全ての養蜂家のリストと取り扱っている蜂蜜の一覧を用意することができました。ところで……それは一体」
「お疲れ様です。これは、バヴァロワですわ。良かったらダンも実食してみてください。ほら、ディマリアさんも」
「ですが、バヴァロワは三つ……これでは、ローザ様の分が。アタシは大丈夫ですよ」
「安心してください。このバヴァロワの味の予測はついていますから。後は、このバヴァロワと薔薇をどう組み合わせていくか……ですわね」
薔薇のジャムで作ったサイダーと組み合わせたらなかなかいいんじゃないかな?
蜂蜜は、紅茶に入れてみたり、ホットケーキなんかと組み合わせてみようか? ホイップクリームと濃厚バター、蜂蜜の掛かったホットケーキ……そういえば、月紫さんが大好物だったっけ? 食べている時の笑顔、可愛かったな。
「どうかしら? メルトラン」
「こりゃ美味いぜ! 今までの菓子とはまたずいぶん違うな。ゼリーともまた違うし……寒天やゼラチンか、こういった食材をもっと研究していったらバリエーションを増やせるかもな!」
「本当に美味しいですわ。お菓子とはただ砂糖を加えた生地を食べるだけだと思っていましたが、こういうお菓子もあるんですね。もっと色々と食べてみたいです」
「それでしたら、『Rinnaroze』がおすすめですわ。あの料理店兼カフェの店長のペチカさんは様々な料理の開発に余念がありませんから。きっと、美味しいお菓子にも出会えると思いますわ」
その後、ボクとメルトラン達は三日後に品評会を行うことを約束してから別れた。
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