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Act.8-196 二人の王子と王女が征く薔薇の大公の領地への小旅行withフォルトナの問題児達  scene.6

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


「ディマリアさんは私の護衛です。勿論、メルトランも私の護衛を兼ねているということになるのは理解していますよねぇ?」


「おっ、おう……」


「メルトラン、ローザ様は貴方の上司なのよ! それなのに、その口調は一体なんなの!?」


「うるせぇなぁ! 俺は、この喋り方で許されてンだよ!」


「ローザ様、この男は甘やかしてはつけあがるばかりで!!」


「はいはい、微笑ましいので私個人としてはもっとやれ! と思ってしまいますが、時間は無尽蔵にある訳でもないので、とりあえず痴話喧嘩は一旦ここまで。今回、大公領で探すのは蜂蜜ですわ。花によって蜂蜜の味や香りが変わるのはお二人もご存知だと思いますが、私の求めているのは純粋に薔薇のみから作られた蜂蜜――まあ、これだけ薔薇がある領地ですから、一つの花あたりの蜜自体が少量でも必ず存在していると思いますわ」


 食べられる薔薇(エディブルローズ)の方は大公様に直接尋ねるとして(実は、食べられる薔薇の開発に成功したという話を聞いたことがあるんだよねぇ。まあ、前世にあったものをそのまま再現すれば簡単に手には入るけど。そういや、斎羽さんも食べられる薔薇を栽培していたっけ?)、それとは別に作ろうと思っている薔薇ジャムの材料として、まずは良質の蜂蜜が欲しい。

 勿論、薔薇で有名な地だからこその贅沢な嗜好品だし、そこまで拘ると当然お値段も跳ね上がるから、やはり現地で探すのが一番。


 まあ、大体薔薇と言えばオイルの抽出などで蕾のうちに出荷されることが多いんだけど、この地ならもしかしたらと思ってねぇ。

 そこまで話したところで、メルトランが不思議そうな顔をしながら「ちょっといいですか?」と口を挟んだ。


「どうしましたか? メルトラン」


「ローザ様は今回何をなさるおつもりで?」


「少々先走り過ぎてしまいましたねぇ。今回は薔薇の産地と言える大公様の御料地で薔薇のジャムを作ると同時に、食べられる薔薇の花を手に入れてバリエーションを増やしてみたいと思っているわ。そうねぇ……例えば、ゼリーとか? 寒天やゼラチンの話は前にしたわよねぇ?」


「『Rinnaroze』で出される料理でどちらも経験済みだし、ローザ様の説明でどういったものかよく分かったぜ。ありゃいくらでも工夫で味も形も自在だからな。そういや、バヴァロワっていうものもあったが、あれももしかしてゼラチンを使っているのか?」


「流石ですわねぇ。ゼラチンを水でふやかしておき、湯煎しながら卵黄と砂糖を泡立て器で泡立てる。鍋に牛乳を入れ、火にかけゼラチンを入れて溶かし、泡立てた卵黄と砂糖に加え、泡立てた生クリームと卵白を混ぜ、型に流し入れて冷やし固める……そうやって作るのがバヴァロワですわ。まあ、ゼラチンを寒天で代用することもできますが。事前に、ゼラチンを持って来てくださいとお願いしてありましたね」


「おう、勿論忘れてねぇよ。じゃあ、ついでに砂糖とかも買っとくか? 流石に大公様の台所で勝手にこれを貰っちまうのも申し訳ねえ。料理番達は喜んで分けてくれるかもしれないが、できれば作れるようになってからの方がレシピを教えたりし合うのに都合がいいと思う」


 メルトランの言葉にボクも同意を込めて頷く。


 フォルトナ王国王宮専属筆頭料理長のアンリマーツ、ブライトネス王国王宮筆頭専属料理長のアーヴァゼス、王宮附属大食堂専属料理長のジュードマン、『Rinnaroze』店長のペチカ、ラピスラズリ公爵家料理長のジェイコブといった面々はお互いに教え合って高め合ってもっと良い料理を生み出そうというタイプだ。ただ、こういった者達は本当に希少で、「レシピは個人の宝だ」だというもの、「料理人たるもの目で見て盗め」というもの、こういった古いタイプの料理人がやっぱり大多数なんだよねぇ。

 ……個人的にはやっぱり、メルトラン達のような互いに研鑽をしながら高めあっていく料理人が好きなんだよねぇ。うん、高遠さんもそういうタイプの料理人だったからかな?


「互いに少し多めに予算を持っていくことにしましょう。領収書は必ず貰ってくるように。いつも通り、王女宮宛ててお願いします」


「おう、了解だ。それじゃあ、俺はちぃと馬車の準備をしてくらぁ」


「ちょ、ちょっと! そういうのは護衛であるアタシがすべきことなのよ! あなたは――」


「……あらあら」


 本当に仲がいい二人だねぇ。……本当はこの二人の邪魔をしないようにできるだけ人員は減らすつもりだけど、万が一、使いっ走りが必要な時のために下男のダンも連れて行くことにした。……申し訳ないとは思っているんだけどねぇ、お邪魔虫が二人も同行して。


 ダンはメルトランが見つけてきたという彼の弟子にあたる人物で、今はジャガイモの皮剥きからスタートだけど、文句も言わずメルトランに怯えることもなく、黙々と修行を積んでいるのでとても好ましい少年だ。……一応、見習い料理人(コック)の兼任だけど、公式的には王女宮所属の下男ということになるので、ボクが彼を使うことに特に問題はない。


 しかし、流石は料理人というか……新しい食材探しがとても楽しみだったようで気が急いているみたいだねぇ。すぐに準備に行ってしまったメルトランを追ってディマリアも部屋を後にしてしまったし……二人とも、ボクの護衛を兼ねていること、すっかり忘れていないかな?


「それじゃあ、ダン。私達もあの二人を追いましょうか?」


「――は、はい!!!」



 アストラプスィテと太古の昔から呼ばれているこの地は、元から薔薇が名産で、領主を務めるアストラプスィテ大公家まで薔薇好きにしてしまった土地ということだけあって、垣根が薔薇、店の意匠に薔薇、売り物に薔薇の刻印、飲食店に入ればカトラリーが薔薇模様……薔薇だらけだ。

 ただし、それが薔薇薔薇と主張している……なんてことはなく、さりげなく使われているのだからセンスの良さが光っている。


 ……まあ、初代アストラプスィテ大公のアルドバーツ=ブライトネス第二王子が大公の地位を賜り、このアストラプスィテ大公家が統治を始めてから名産品の薔薇を商業的に売り出すようになったようだし、アストラプスィテ大公家が主体となって薔薇の品種改良も行われるようになったようだけどねぇ。

 アストラプスィテ大公家の販売戦略は秀逸なものだったと後世から見れば評価できる。


 ボク達は複数の店を巡って品揃えを確認することにした。……本当は味見をして選べたらいいんだけど、流石にそれは難しいし、恐らく何種類か購入してアストラプスィテ大公邸に戻って実食という形になりそうだねぇ。


 一軒目に入ったお店にはカフェも併設されていた。……ラッキーだったねぇ。

 嬉しい誤算は、一つの店で複数のジャムを扱っていることか。


「これは、領内の養蜂家が何軒あるか先に調べてリスト化するのが先決ですね。ダン、この店を出たらこの店で扱っている蜂蜜から順に養蜂家を手当たり次第に当たってくれないかしら? 勿論、一人でとは言わないわ」


「承知致しました。……ですが、俺以外にどなたが養蜂家の調査を行うのですか? 師匠もディマリアさんもローザ様の護衛の仕事がありますし、まさか、ローザ様御自ら動くなんてことはありませんよね」


「まあ、こういう足を使う捜査は嫌いではないですし、私一人でやるのも吝かではありませんが……一応、これでも王女宮筆頭侍女ですからね。序列的には一番上ですし、お二人も許してくれないでしょう。なので、心強い助っ人をお呼び致しましょう。――契約応用式召喚魔法・琉璃」


 召喚の魔法陣が店内の一角に顕現し、水の渦が発生――その渦が収束すると、小さな塒を巻いた竜――琉璃が姿を表した。

 更に、床にその尻尾が触れると同時に、漆黒の髪と瑠璃色の双眸を持つ青い着物ベースの戦衣を纏った美しい女性へと変身し、メルトランやディマリアを含め、店にいたボクを除く全ての者が呆気に取られる。


『ご主人様、どのような御用でしょうか?』


「突然呼び出してごめんねぇ。そっちは大丈夫?」


『はい、お調子者で好奇心旺盛な真月の面倒はしっかり者の紅羽さんが見てくださっていますし、問題ありません』


「そう、それは良かった。実は琉璃にお願いしたいことがあってねぇ……と、その前にメルトランさん、ディマリアさん、ダンの三人にも紹介しておいた方がいいかな? 彼女は元々霊輝(マナ)と呼ばれる魔力とは異なるエネルギーから生まれた存在で、特殊な力で顕在化した別世界の精霊のような存在ですが、魔物の性質も有しているので、定義するのであれば特殊な魔族、あるいは魔人と呼ぶに相応しい存在ですわ。私の信頼のおける友の一人で、今回、彼女にはダンと共に養蜂家の調査をお願いしたいと思います」


「……あの、ローザ様? プレッシャーが桁違いですし、人型の姿を取れる魔物で魔族相当となれば、途轍もない強さですよね。よく、そんな存在を召喚できますね」


「まあ、その辺りは企業秘密ということで。それと……琉璃は魔王なんかより遥かに強いですよ。それに、しっかり者でとても頼りになります。私なんかではとても太刀打ちできませんわ」


 ……ということにしておこう。琉璃にもボクの王女宮筆頭侍女としての方針は話しているから、あえて否定はしてこない。


『下男のダンさんですね、初めまして。琉璃と申します。今回は僕達で養蜂家の情報を集めることになるようですが、集めた情報はダンさんが纏めてご主人様――ローザ様に提出してくださいね。それでは、早速――』


「ちょっと待ってねぇ。折角だから琉璃もお茶して行こうよ。メルトランとディマリアもそれでいいかしら?」


「勿論、構わねぇが」


「私も大丈夫です」


 少々困惑気味なメルトラン、ディマリアと共に五人で席を囲むことになった。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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