Act.8-191 二人の王子と王女が征く薔薇の大公の領地への小旅行withフォルトナの問題児達 scene.1
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
プリムラのドレスの採寸を発端とした王族への御用聞きも無事に納品まで終わり、一週間後、予定通りアストラプスィテ大公の領地に向けて出発した。
ちなみに、アストラプスィテ大公は遠乗りを許可してくれた。プリムラのシャルナールとボクのテルミナリスに、同行する近衛騎士用の軍用馬、合わせて二十頭だねぇ……。
テルミナリスは正式名称をコルディリネ・テルミナリス・ドナセラといい、軍馬としてフォルトナ王国で調教された少し赤みがかった黒い馬だ。
動物には嫌われた試しのないレオネイドが調教し、プレゼントとして贈られたものだった。……ボクは軍馬なんて必要ないし、乗らないんだけど、「普通の馬の一頭くらい持っていればいいんじゃないか?」というオルパタータダにしてはもっともな意見を出されたということで、折角のご好意ということで受け取ることになった。
現在はラピスラズリ公爵家で飼われていて、たまにフォルトナの連中が様子を見に来ている。その際にフォルトナの連中と戦闘使用人の間でいざこざが発生しているようで、何度も庭がぶっ飛ばされて庭師達が涙目になっていた。
今回、第三王子の護衛を務める近衛騎士が六人、第四王子の護衛を務める近衛騎士が六人、第一王女の護衛を務める白花騎士団の女性近衛騎士が六人――計十八人の同行が決まっている。
隊長のラーニャ、副隊長のアドリアーナ、ディマリア、ウルスラ、グリゼルダ、シェイラというメンバーで、白花騎士団でも上位のメンバーを上から順番に選んだという感じだねぇ……まあ、最重要護衛対象のプリムラが動くんだから当然なんだけど。
王女宮からはボク、シェルロッタ、メイナ、そしてソフィスの四人と、下男のダンが同行することになった。その間、王女宮の指揮は執事長のオルゲルトが取ることになっている。
主人がいなくても王女宮での仕事が無くなるという訳ではない。あちらはあちらでいつもと変わらない日々を送ることになるんじゃないかな?
それと、料理長のメルトランも今回の旅に同行することになっている。あちらにも料理人はいるけど、こちらからも連れて行って良いというお許しを頂いているので。
……実は、アストラプスィテ大公からジリル商会経由で食用の薔薇を使った何か特産品を加工案してもらえないかと依頼を受けている。その補佐としてメルトランには活躍してもらおうと思っている……んたけど、本音を言えば、それよりも普段一緒にいる時間がなかなか取れないメルトランと恋人のディマリアに一緒にいられる時間を作ってあげたいという思惑の方が大きい。
まあ、そこは丁度作戦を立てているので……。
王族専用の、内部に空間魔法が掛けられた馬車(フォルトナ王国に行く際に乗って行った王家の紋章が刻まれた黒塗り馬車を空間魔法を使って大幅に改造したもので、王宮の一室かのような広さになっている。ちなみに、あの後、量産依頼が入った結果、王族専用馬車は八台プラスダミー二台の計十台になった)には、王族が退屈しないようにと娯楽の品が多数用意され、それぞれ護衛騎士を一人ずつ付け、従者や侍女が食事や飲み物のお世話をすることになっている。
本来、王子殿下の馬車二台の後ろにプリムラの馬車が続くのだけど、どうせなら一緒に乗ろうとヘンリーが提案した結果、こうなった。
こちらの侍女はボクとシェルロッタ、王子宮からは王子宮筆頭侍女のアルマの他に第三王子専属侍女のレナーテと第四王子の専属侍女のパトリアが同乗している。……さっきからパトリアから睨めつけられているけど、それ、プリムラに気づかれたら一気に心証が悪くなるよ?
プリムラの護衛騎士は栗色の巻き毛が印象的なたれ目で色っぽい雰囲気を持つ女性――ウルスラ、第三王子の護衛は明らかに脳筋そうな騎士のエディル、第四王子の護衛はなんと王国宮廷近衛騎士団副団長のエアハルト=ライファス伯爵が請け負っていた。
眼鏡を掛けた思慮深そうな銀髪のイケメンで、氷魔法の扱いにも長けている彼は、今回の護衛の実質司令塔の立場にある。流石にこれだけ王族が集まっているということで、警備が万全である……と表向きアピールするために派遣された。
まあ、実際は『唯一神』クラスが出てこない限りは過剰戦力なんだけど。
挨拶を交わしてからしばらくウルスラとエディルは睨み合っているが、ここで注意しても面倒になるだけだからと知らぬ存ぜぬを決め込んでいる。
……馬車を降りたところで淡々と二人を説教するかもしれないねぇ。
ちなみに、このエアハルトもボクの素性を知っている一人……なんだけど、ここまで交流は特に無かった。一応、初対面ということになるかな? 当然、武器を送ったこともない。
「ねえねえローザ、このお菓子お代わりしてもいいかしら?」
「はい、ただいま」
「プリムラ、今からそんなに食べては昼食が入らなくなりますよ?」
「はぁい……でも、ほんのちょっとならいいでしょう? お兄様!」
「……ちょっとだけですよ」
プリムラとヘンリーの仲は以前から良好だ。二人のやり取りはとても可愛くて、癒される。
百合派のボクでも癒されたんだから、きっとアクアは鼻血を出して蹲っていただろう。
そんなプリムラを、ヴァンが微笑ましそうに見つめている。
本当にこの三人の姿はいつまでも見ていたい……んだけど。
「ローザ筆頭侍女様、前方より高速でこちらに向かってくる騎馬が一頭いるようです」
「……そのようですわねぇ」
「私も見気にて捕捉しました。……迎撃に打って出るべきでしょうか?」
「出てもいいですが、護衛についている近衛の半分以上の死傷の上に遁走することになりますわよ。……同盟国のフォルトナ=フィートランド連合王国の騎馬総帥レオネイド=ウォッディズ様です。元騎馬隊の名コンビの片割れといった方が伝わるでしょうか? どうやら、何かしらの伝令を持ってきた様子ですね。嫌な予感がします」
「分かりました。とりあえず、今は馬車を止めてその伝令を受けるべきでしょう。しかし、騎馬総帥を伝令として使うとは、余程重要なメッセージをお持ちのようですね」
プリムラ達に気づかれないように素早くエアハルトと情報を交換し、エアハルトからヘンリー達に事情を説明――一旦馬車を止めることになった。
「お初にお目にかかります。私はレオネイド=ウォッディズ、隣国で騎馬総帥を務めております。以後お見知り置きくださいませ」
「ご挨拶ありがとうございます。第三王子のヘンリーです。……しかし、同盟国の騎馬総帥が何故、この場に現れたのですか?」
「我が国の国王陛下からアストラプスィテ大公領に到着される前に報告をしなければならないことがありまして、早馬を飛ばして参りました。今回、我が国の陛下はブライトネス王国の陛下に年の近い我が国の三王子と共にこの避暑地で生活して親交を深めてはどうかと提案され、我が国の三王子をアストラプスィテ大公領に派遣することになりました。ブライトネス王国の陛下もサプライズにしようとしていたようで、既に決定されていたものですが私の方から伝えるまで内密にすることとなっておりました。我が国からは侍女として統括侍女のミナーヴァ=スドォールトと、護衛として私、近衛騎士団騎士団長のウォスカー=アルヴァレス、ファント=アトランタ大臣閣下の直接の部下であるファイス=シュテルツキン、国王直属の騎士のカルコス=バーキンスが付くことになっています」
「……はぁ」
隠そうとしたつもりだったけど、露骨に嫌な顔をしてしまったみたいだ。
「ローザ、どうしたの?」
「もしかしなくても知り合いか?」
「はい……ウォスカーさんとファイスさんはお二人とも相応な問題児でして……任務成功率百パーセントと言われる漆黒騎士団の最強部隊のメンバーではありますが、その任務の度に問題を起こしてばかりというフォルトナ王国の騎士の中でも上位に位置する厄介な者達ですわ。……せめて、二人を制御できそうなオニキスさんを連れてくるか、この二人をフレデリカさんとジャスティーナさんにチェンジして頂けたら、何も言うことはないのですが」
「……今回の人選を聞いた時、私もお腹が痛くなりましたよ。……ルヴェリオスの時の意趣返しだかなんだか知りませんが、普通同盟国にアイツらを派遣しますか? 絶対に私とローザさんを困らせる気満々ですよね。……中央軍銀氷騎士団第六師団長ポラリス=ナヴィガトリア、中央軍第十二師団長のミゲル=セラヴィス、中央軍銀氷騎士団第十一師団長ドロォウィン=シュヴァルツーテ、中央軍銀氷騎士団総隊長シューベルト=ダークネス、中央軍銀氷騎士団副隊長のモネ=ロータス、この辺りを派遣しようという案もあったようですが、却下されて本当に良かったです」
悉く地雷メンバーだ。……まあ、あいつらに比べたらウォスカーとファイスだから……まだ、実はマシ?
「分かりました。私の方で赤毛の青年を見たら道を変えてでも関わらないようにするようにと伝えておきます。……ただし、私のことをあまりよく思っていない方々が忠告を無視した場合は……まあ、仕方ありませんわよね?」
「問題を起こしたら強制送還……っていうのは無理なようです。両陛下が大変嬉しそうに『フォルトナ側の護衛の入れ替えは無しだぜ? それじゃあ、クソ楽しい夏休みを満喫しろよ』と仰っておられましたから」
……もう、本当にアイツらいい加減にしてもらいたいねぇ。
その後、ボクの方からレオネイドのことを改めて紹介した。
ボクの持っている軍馬の調教を担当したのが彼だと知った時にはプリムラが相当驚いていたねぇ。
あまり関わったことのないフォルトナ王国の三王子と一緒に生活を送れるということでプリムラは楽しみが増えたようで嬉しそうだけど、ヴァンはボク達の様子から嫌な予感を感じているようで既にげんなりしている。
ヘンリーは父親達の思惑を必死で考えているようだけど……うん、アイツらって自分達の娯楽のためには非効率で生産性の欠片もないことだってする連中だからねぇ、いくら考えても真実には到達できないと思うよ。
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