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Act.8-185 カルナは激怒した。必ず、かの傲慢令嬢のローザを除かなければならぬと決意した。 scene.1 下

<三人称全知視点>


「それほどプリムラのことを、そしてメリエーナ様と弟さんのことを考えてくださっている圓様の気持ちを踏み躙ろうと……ですか。陛下、わたくしも流石に幻滅してしまいますわ」


「待て待て、俺だって別にシェルロッタとプリムラの仲を引き裂きたいだけじゃない。ただ、ローザの考えには明らかに欠陥があるってことだ」


「……欠陥、ですか?」


「ああ、アイツはあまりにも自分に頓着しない。例え自分が苦しんでも他人のために全てを投げ打ってしまう、そういう奴なんだ。自分はいくらでも恨まれたっていい、ただそれで誰かが救われるなら。ソフィスの時だって、義弟の時だってそうだった。……創造主である限り、ずっと人生を滅茶苦茶にした、その責任を感じ続ける。いい加減その呪縛から解放されてもらいたいものだけどな。誰も恨んでやしないんだから。……それに、プリムラはローザのことを母のように慕っている。その気持ちをローザは度外視している。それも理由の一つだ。……まあ、専属の侍女の座はシェルロッタに譲られるとしよう。だが、母と慕うローザとプリムラの関係が断絶するのは避けなければならない。プリムラの婚約者のルークディーンの兄アルベルトはどうやらローザに好意を持ってきているようだ。もし、ルークディーンとプリムラが正式に結ばれ、アルベルトがローザを娶ればプリムラとローザは正式に家族になることができる。まあ、単純に言えばそういうことなんだが、実際はもっと複雑なんだ」


 アルベルトがローザに惹かれる切っ掛けもラインヴェルドが拵えたのではないかとは決して指摘しないカルナ。

 目を瞑るべきところをしっかりと理解しているのである。


「圓は前世からずっと愛している女性がいる。常夜月紫――前世において、圓の最古の使用人にして、心から愛するたった一人の女性だ。前世ではその想いを伝えられなかったが、再会の暁には正式に告白し、結ばれるつもりでいる。そして、月紫も恐らくそれに応じるだろう。これまで主君だからと隠してきた恋心……しかし、その主君から願われるんだ。断る理由を見つける方が大変だ。……アイツは月紫たった一人を愛したいと思っているようだが、実はローザはこれまでの行いの結果として多くの人に慕われ、愛されている。それこそ、二番手以降でも構わないから結ばれたいと思う奴が大勢いるくらいにだ。スティーリア、ソフィス、ネスト、フォルトナの三王子、後は前世の友人に柊木咲苗っていう奴もいるなぁ。ソイツらが決して諦める訳ではないが、それはローザがたった一人を愛したいという気持ちと矛盾する。確実にスティーリア辺りが外堀を埋め始めているから、いずれはローザも諦めるしかなくなると思うが。……問題は、ローザが男を恋愛対象として見ていないってことなんだよな」


「ダメじゃないですか! ……いえ、失礼なことを申し上げました」


「シエルの言う通りだ。……フォルトナの三王子やネストもここがネックになっている。俺が推しているアルベルトはそもそもスタート位置がソフィス達より一段階下ってところが問題なんだ。まあ、今回の場合はライバルがどうのこうのというより個人戦だから、他の競う必要はないし、アルベルトには是非ともローザのハートを射止めてもらいたいものだが」


 「まあ、こればかりは俺にもどうしようもないし、アルベルトの頑張りに期待するしかないんだけどなぁ」とラインヴェルドはもどかしそうな表情で続けた。


「それで、カルナ? 俺にローザをどうして欲しいんだ?」


「……そこに戻るのですか? 確かに、わたくしは陛下にローザ様をどうにかして欲しいとお願いしに来たのですが、それはもう解決しましたわ。当事者間ではっきり取り決めがなされているのであれば、後はもうヴァンがどこまで頑張るかというだけの話です。……ところで、わたくしはローザ様に関するあらぬ噂、醜聞を消して回ればいいのでしょうか?」


「あれは本人があえて流させているところがあるみたいだから、別に放っておけばいいと思うぜ。シェルロッタを王女宮入りさせるための代償みたいなものだし、逆に変な勘繰りをされる可能性もある。ローザが公爵家の権力を使って連れてきたって言い訳ができなくなるだろう。誰も真相に辿り着かないことがアイツにとっては第一みたいだからな。それに、そんな醜聞でへこたれるような奴じゃないし、そんなことよりフォルトナ王国のポラリス=ナヴィガトリア伯爵の説教の方がよっぽどダメージを与えているみたいだぜ。あいつ、露骨に嫌そうな顔をしていたしな」


「……ローザ様は本当に損な役回りばかり引き受けてしまうお方なのですね」


「その損な役回りを俺にも気づかれずにずっと孤立無援でこなしてきたお前が言うことじゃないと思うんだけどな。……安心しろって言っていいのか分からねぇが、損な役回りばかりして苦しい思いをしている奴を俺はそのまま見逃すことはできないからな。絶対に幸せにするぜ、お前のことも、ローザのことも」



<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


 音楽室の空気感は最悪そのものだった。

 遂に耐えられなくなったのであろうカルナが物凄い剣幕で出ていき、宮廷楽団の団長を務めているリュートは「これって、私、解雇されてしまうのでは」と戦々恐々とし、プリムラも怯えてしまっている。


「……ローザ、プリムラ、すまなかった。母に事前に説明しておくべきだった。……勿論、母には俺の方から説明させてもらう。絶対に迷惑を掛けないから安心してくれ」


「恐らく、陛下の元に向かったのでしょうから陛下から直接説明、説得がなされると思いますわ。まあ、そんなことよりも今週の課題曲、覚えられましたか?」


「そんなことって……まあ、流石はローザ殿というべきか。母に睨まれても動じないか。……まだ一回では覚えきれないな。あやふやなところもある。もう一度演奏してはもらえないだろうか?」


「動じない……といいますか、あの方はお優しいですからねぇ。王妃殿下もきっとご理解くださると思いますわ。それでは、もう一度演奏をさせて頂きますわ」


 本日の課題曲は『チャラ男の襲来〜義弟ネストのテーマ〜』……文字通り、『スターチス・レコード』のネストのテーマ曲なんだけど、この世界のネストには似合わないので、『チャラ男の襲来〜義弟ネストのテーマ〜』を低音中心にダークアレンジして『次期血塗れ公爵の鎮魂歌』に改作して、個人的にテーマ曲にしている。

 この世界の攻略対象達をイメージして曲を作り替えるのは、これがなかなか楽しいんだよねぇ。


 さっきと同じアレンジ無しのものを演奏し終えてからピアノを明け渡す。


「ローザ、どうしてお兄様のピアノの講義の内容を変えてしまったのかしら?」


「第四王子殿下に直にお願いされまして、もっとしっかりした内容の講義をご所望でしたのでそれに合わせた講義をさせて頂いております。姫さまの講義はこのままの形で続けさせて頂きたいと思っておりますが、第四王子殿下にとっても勉強になりますから、姫さまの講義は第四王子殿下に担当して頂きたいと考えております。よろしいでしょうか? 勿論、私とリュート先生がフォローをさせて頂きますわ」


「ローザに直接教えてもらえないのに少し寂しいけど、でもお兄様にピアノを教えてもらえるのはとても楽しそうだわ。でも、私にピアノの教えることがお兄様にとっても勉強になるのかしら?」


「はい、教えるということは教えられる側以上に教える側にとって勉強になるものでございます。例えば、勉強というものを取り上げればただ勉強ができる人が教えるのが上手いという訳ではありません。まずはその内容をしっかりと知っていなければ教えられませんが、それと同時にその内容を噛み砕き、丁寧に教える技術というものも必要となります。姫さまにピアノを教えるというのは、別の角度からピアノを見つめ直す意味でも良い勉強になるかと思いますわ」


「そうなのね! 私もいつか誰かに教えられるようになれるかしら?」


「そうですわねぇ……それでしたら、明日の歴史の講義の時にでも姫さまにこれまで習った範囲のところで講義をして頂きましょう――」


 音楽室の扉がノックもなく開け放たれた。流石にバシャンと音を立てることは無かったものの、あまり淑女の行いとしては褒められたものではない。


「……次兄上の婚約者のフレイ=ライツァファー公爵令嬢だったな」


「お久しぶりでございますわ、第四王子殿下、第一王女殿下。突然の訪問で申し訳ございません。……実は本日、ルクシア殿下とのお茶会で王子宮を訪れていたのですが、音楽室から素晴らしい演奏が聞こえてきて……その、わたくし、実は最近ジュークボックスの曲をエンドレスで聴き続けることが趣味になっているのですが、やっぱり生の演奏には変え難いと演奏を聞いていて感じました! どうか、わたくしにもいくつか演奏を聞かせて頂けないでしょうか?」


 どうやら、フレイは『スターチス・レコード』をプレイしているうちにゲームに収録されている曲が全曲聴くことができるジュークボックスの方に嵌まってしまったらしい。ゲーム本編が進まなかった一番の原因はきっと本編そっちのけで曲を聴いていたから、なんじゃないかな?

 ヴァンも今の言葉でフレイが『スターチス・レコード』の曲が好きだということに気づいたらしい。ついでに、ボクが選んだ曲が『スターチス・レコード』のBGMであることにも気づいたみたいだ。


「……ローザ殿、どうする? 折角フレイ公爵令嬢もこう仰ってくれているのだ。それに応えるべきだと思うのだが……俺のレパートリーだと今教えてもらったあの曲しかないぞ?」


「私との演奏勝負で聞かせてくださった『黄昏と狼の綺想曲』があるではありませんか?」


「待て! まさか、あの曲も……というか、そんな題名が付けられていたのか?」


「……姫さま、フレイ公爵令嬢はこう仰られておりますが、本日は講義をキャンセルさせて頂き、臨時の演奏会とさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「構わないわ。それに、私もローザの演奏を沢山聴きたいもの」


「承知致しました。では、僭越ながら私からまずは一曲演奏をさせて頂きます」


 結局、この演奏会はカルナが戻ってきてからも続いた。プリムラもフレイも満足してくれたようだから頑張った甲斐があったよ。

 ちなみにあの後、後宮の方に呼び出されてカルナから正式な謝罪があった。……別に勘違いするような状況だった訳だし、謝るほどのことじゃないと思うんだけどねぇ。


 どうやらラインヴェルドとの関係も修復できたようで、そのことでもお礼を言われてしまった。……こっちはちょっとアドバイスしただけなんだけどなぁ。

 「今後もプリムラのことを支えてやってください」という言葉と共に、何かあった時には後ろ盾になってくれると約束をしてくれた。正直、後ろ盾はお気持ちだけ受け取りたいなぁと思うけど、やっぱりプリムラのことをしっかりと考えている良い母親だなぁ、と改めて分かったのは良かったと思うよ。


 プリムラとカルナの関係が良くなればいいなぁ……と思うんだけど、これはなかなか難しいねぇ。

 まあ、こればかりはカルナの気持ちの問題だし、ボクにはどうしようもできないか。


 ……よし、後は責任を取るべき人(ラインヴェルド)に丸投げしよう。


 ――まあ、カルナのことを絶対に幸せにするって誓ったみたいだから、その言葉を違えるなってことだねぇ。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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