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Act.8-184 カルナは激怒した。必ず、かの傲慢令嬢のローザを除かなければならぬと決意した。 scene.1 中

<三人称全知視点>


「まあ、ある意味丁度良かったのかもしれないなぁ。もう随分前になるが、ローザにこってり叱られたんだ。『少しはカルナ王妃殿下に向き合ってあげて欲しいなぁ』って……アイツのその言葉がなければ、俺はカルナ――お前がシャルロッテの同類だとずっと思っていたと思う。……よくよく思い出してみれば、プリムラへの言葉にもアイツに立派な淑女になって欲しいっていう想いが込められている。まあ、流石にメリエーナを嫌う側妃の演技で自分の派閥まで騙していたなんてことには気づかなかったけどな……いやぁ、やっぱり答え合わせのために王女宮筆頭侍女の執務室に突撃して良かったぜ。まあ、執務の邪魔をしたせいで、ローザが請け負っていた大臣と軍務省長官の仕事の一部を押し付けられて仕事漬けの一日を送ることになったけどな。いや、本当にアイツって鬼畜……って、流石に聞かれていたりしないよな? ……なんというか、まだどう言えば良いか、その、分かっていないんだ。俺はきっと生まれ変わってもメリエーナとの結婚を望んだと思う。あの時は結構面倒でそのままにしていたせいでこうなっちまったが、もしあの時に戻れるなら王子の立場を捨てて平民になってもメリエーナと結ばれるという選択をすると思う。今でもメリエーナのことを忘れられないし、プリムラに贔屓してしまうのもやっぱりメリエーナのことを忘れられないからだ。本当に、こんな奴で悪かったと思っているよ。こんな奴に嫁いで、カルナも相当苦労したよな……俺だって、自分のことを最低な奴だと思っているんだ。だが、心で分かっていても……どうにもならねぇんだ」


 初めて耳にするラインヴェルドの本当の気持ち。

 ラインヴェルドのカルナへの謝罪の言葉に、カルナはどう答えて良いか分からなくなる。


「……一生恨んでくれて構わない。それだけのことを俺はしちまっているんだからな。お前だって、俺に嫁ぎたくは無かっただろう?」


「……そんなことは、ありませんわ」


「私が口を挟むことではないと思いますが、カルナ様は初恋のラインヴェルド陛下と結婚できると知った時、とても幸せそうでした」


「ずっとカルナに仕えてきたシエルが言うんだから、そうなんだろうなぁ……。ますます自己嫌悪しちまうぜ……俺は結局、メリエーナを、カルロスを、プリムラを、そしてカルナを……みんなを苦しませていたって訳だろ? いや、モルヴォルとバタフリアだってそうだ。……だけど結局、俺はカルナを本当の意味で愛することはできない。……それが、俺の全てなんだ」


 ずっと仕えてきた主人の苦しみを知っているシエルは自分の立場を忘れて憤りそうになった。

 しかし、それをカルナは制し――。


「私がどれだけの間、陛下のことを見ていたのかご存知ないのですか? それくらいのこと、全て承知していますわ。……愛されないことなんて、とっくの昔に分かっていましたし、側妃の話が舞い込んだ時から覚悟をしていました。それに、メリエーナ様と陛下は本当にお似合いだと思っていましたから。だから、メリエーナ様がその美しさと優しさで王を癒すなら、私は常に力強く王を支える后であろうとしてきたまでです。……国王陛下の寵愛など必要ありません。ただ、私が一方的に愛することができれば、それで十分ですわ」


 初恋が破れたことを知っても、打ちのめされても、それでもこれまで努力を重ねてきた王妃カルナの完璧な王妃の仮面のヒビの裏から僅かに垣間見えた悲しそうな少女の姿を目撃して、ラインヴェルドは頭を悩ませる。

 結局、ラインヴェルドにとっての一番はメリエーナであって、それだけはどうやっても変えることができないのだから。


(……なんか、ようやくローザの気持ちが分かった気がするな)


 二番目に愛する……そのあまりにも不誠実極まりない言葉の意味を痛感し、だが、ラインヴェルドはそれでもカルナが賢明に隠している初恋の破れた少女を救うためにその言葉に縋らざるを得なかった。


 幻滅されても構わない。それこそ、今更だ。


 何かを根本から変えられる訳ではないかもしれない。だが、もし、その認識を変えることで何かを変えられるとしたら。


「……俺の中でメリエーナが一番ってことは多分変わらないと思う」


「存じておりますわ」


「だけど、俺はカルナ。お前のことも愛したい……二番目は不本意だし、不誠実だろうけどな。それが、俺の気持ちの全てだ。……本当に最低な態度だと思う。今すぐ俺を俺の手でぶん殴ってやりたい」


 ラインヴェルドは緊張の面持ちでカルナを見た。カルナは……ラインヴェルドの予想していた不機嫌な顔、ではなく。


「――ッ! ほ、本当に……陛下は、卑怯なお方ですわ。わたくしなんかのために、無理はなさらなくてください。これまで通り、メリエーナ様を愛してください」


「無理なんてしてないけどな……いや、寧ろこれだけ頑張っていたお前のことを知って好きにならないっていう方が無理があるだろ。まあ、言っていることは鬼畜極まりないんだけどな。殴ってくれてもいいし、いくらでも罵倒してくれて良いからな」


「そんな……狡いです、本当に狡いです! 陛下は狡いですわ! ……陛下のことを罵倒できる訳がありません。私だって陛下に片想いを寄せていたんです。メリエーナ様を愛する陛下の気持ちが、分からない筈がありませんわ! だから、陛下がメリエーナ様を愛し続ける限り、私は自分の気持ちを押し隠してしまおうと……そう覚悟していたのに。愛してくれると正面から言われてしまったら……その気持ちを、受け取りたくなってしまいますわ。我慢できなく、なってしまいますわ」


 ずっと何十年も泣かなかったカルナの目に自然と涙が溢れてくる。

 ラインヴェルドはまるで子供のように泣きじゃくるカルナを抱き寄せ、泣き止むまで抱擁し続けた。



「……ところで、カルナ。お前的には二番ってありなのか?」


「有りか無しかと言われたら……無しですわね。でも、絶対にメリエーナ様に勝てないことは分かっていますし、陛下の気持ちも分かります。それに、この国に側妃という制度がある以上、愛に序列があるのは仕方がないと思いますわ。……それに、私は陛下に愛されているというだけで幸せですから。メリエーナ様の次であっても構いませんわ」


 まるで憑き物が落ちたような笑顔でラインヴェルドの質問に答えるカルナ。

 その返答を聞き、「じゃあやっぱりアリなんじゃねぇのかな?」とラインヴェルドは思考を巡らせていく。


「まさか、陛下、新たに側妃を――」


「んな訳ないだろ、シエル? 俺じゃなくてローザの件だよ」


「そういえば陛下。……ローザとは一体何者なのでございますか? わたくしの想いを見抜き、ヴァンに的確に進むべき道を示し……あの子が公爵家の権力を使って強引に王女宮筆頭侍女になった傲慢な公爵令嬢ではないことは分かりましたが、でしたら、彼女は一体何者なのですか?」


「まあ、あの噂は出鱈目だしな。俺がプリムラのために頼み込んで王女宮筆頭侍女に就任してもらったんだ。……これから話すことは二人とも他言無用でお願いしたい。吹聴されると面倒なことになるし、今はまだ、明かす時じゃないんだ」


 ラインヴェルドはカルナとシエルにローザの前世と今世のこと、そしてこの世界の真実について包み隠さず話した。

 当然、それはカルナとシエルの想像を遥かに上回ることで、二人が理解できるように珍しくラインヴェルドは二人に配慮してゆっくりと説明をしていった。


「……陛下、よくそのような恐ろしい真似ができましたね。この世界の創造主を王女の侍女に据えるなんて……そもそも、一国家元首を侍女に据えてしまうということも恐ろしいことですが」


「創作物の登場人物として接してきてもおかしくないのに、アイツは創造主でありながらローザとして俺達を対等な存在として見てくれている。そうじゃなかったら、こんな関係は築けなかっただろうし、プリムラの侍女の件も頼めなかったと思う。……まあ、ある意味でアイツはソフィスやプリムラに負い目を感じている。若干それを利用しちまったってところもあるんだけどなぁ」


「……シナリオ、ですわね。メリエーナ様の死もそのシナリオに定められていたと」


「それが、どうやら少し違うみたいなんだ。メリエーナの死も元となった乙女ゲームからはズレているようだし、そもそもこの世界は乙女ゲームの原型を留めていないようだから、あり方そのものが変わっているものもある。それに、シナリオ自体は意識して動けば改編可能だし、結局俺がメリエーナを選んだのも、彼女をむざむざ死なせてしまったのも俺に責任がある……って多少なりローザは考えているみたいだ。だけど、そこに大なり小なりゲーム補正が掛かって来ているのは間違いないだろうぜ。じゃなかったら、ソフィスの件が説明がつかない」


「……しかし、そうなると何故圓様は傲慢な貴族令嬢と呼ばれるような真似をしているのかしら? 確か、その理由となったのは行儀見習いに一人だけ自分の侍女を連れてきたから……だったわよね。確か、とてもメリエーナ様に似ている……!? つまり、彼女はジリル商会に縁のある者ということかしら!?」


「惜しいなぁ。五年前に馬車の事故でジリル商会の番頭が死んだ。丁度、シャルロッテが死んだ頃だったな。あそこで死んだとされているカルロスだが、ローザの手によって今日まで生かされているとしたら? カルロスは俺によって最愛の姉の引き裂かれてからずっと苦しんでいた。そして、姉がこの世にいないことを知って心が壊れてしまうほど絶望に苛まれた。ローザの狙いはメリエーナの忘れ形見とカルロス――シェルロッタを再会させること。そして、王女宮筆頭侍女の立場を譲り、プリムラとシェルロッタに公に認められた関係を作り出すことだ。例え、それが主従であったとしても、側にいることを許されなかったあの頃に比べたらマシだってことだな。……まあ、俺はそのローザの折角の気持ちをある意味で踏み躙ろうと動いているんだが」

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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