Act.8-181 幻の末王子ロードスター=ブライトネス scene.1
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
……まあ、そんな幸せな時間はすぐに消え失せてしまうもので。
王女宮筆頭侍女の部屋に戻ったらラインヴェルドがいて、そのまま地下の会議室へ連行された。
会議室に集まっていたのはラインヴェルド、ビアンカ、ヴェモンハルト、スザンナ、ルクシア、フレイ、アクア、ディラン、カノープス、メネラオス、ベルデクトというこれまたなかなか濃いメンバーだ。
「表現するのなら、肉食獣の群れに放り込まれた小動物の図というところかな?」
「あら? もしかして、ローザはわたくしのことも肉食獣だとお考えなのかしら?」
ビアンカの笑みに(ある意味、これを黙認しているなら肉食獣なんじゃないの?)という心の声は裏の見気で隠して、何事も無かったように「それで、ボクを呼び出した理由は?」と尋ねた。
「そういや、お前がジェムの奴を見逃した理由っで聞いていないなと思ってな」
「ああ、そういや説明していなかったっけ? ……ボクの予想ではそう遠くない内にネスト誘拐事件が起こる。闇の魔力の補填……というよりは、恐らく暗黒魔法の獲得のためだろうけど。今回の一手でジェムを動かざるを得なくすることによって、敵方の作戦を早めたってところだよ。まあ、ベルデクト様の話だとラインヴェルド陛下達が毒殺されてから本格的に容疑者探しが行われ、そしてブライトネス王国がオーレ=ルゲイエによって滅ぼされたんだろうけど」
「……ん? なんで、あっちの世界で闇魔法の情報を流していた裏切り者が死んだって確信できるんだ?」
「じゃなかったら、冥黎域の十三使徒が攻めてくる理由がないしねぇ。あの時、皇帝ではなく冥黎域の十三使徒名乗りだったということは、恐らくオーレ=ルゲイエは『這い寄る混沌の蛇』の使徒として動いていた。彼らが動く必要があるとしたら、ブライトネス王国に打ち込まれていた蛇の楔が取り除かれたということ。初歩的な推理だよねぇ」
まあ、ここまでは大したことでもないと思うけど。それに、滅んでいてもいなくてもベルデクトにも裏切り者が何者だったか分からないんだし、どちらであっても大した意味はないからねぇ。
「ネストには申し訳ないのだけど、今回は頑張って囮になってもらいたいと思う。そして、その上で内部から蛇の腹を食い破ってもらおうと思ってねぇ。まあ、ボクの義弟にとっては簡単な仕事だと思うけど」
「ネストの強さは私が保証するよ。国王陛下が憂うことは何一つございません」
「いや、ネストのことを心配しているって訳じゃないぜ? ただ、ちょっと確認したいことがあってな。ローザ、お前から昔『スターチス・レコード』と『Eternal Fairytale On-line』の一式を貰ったこと、覚えているか?」
「そりゃ、覚えているよ。後から『スターチス・レコード外伝〜Côté obscur de Statice』の方もプレゼントしたっけ?」
「あれから忙しかった上に、乙女ゲームに興味ある奴がいなかったんで長年埃被っていたんだが」
「……おい」
「丁度、フレイが暇そうにしていたから『スターチス・レコード』と『スターチス・レコード外伝〜Côté obscur de Statice』をハードごと押し付けていたんだ」
「わ、私、暇じゃありませんでしたわ。ただ、ルクシア様とお茶会をした帰りに廊下を歩いていたら突然陛下に拉致られて押し付けられたのです」
ジト目を向けるルクシアだったけど、ラインヴェルドは全く気にした様子もなく。
「……これは後でお説教ね。ラインヴェルド、後で離宮に来なさい!」
「お、お母様!?」
ビアンカに睨め付けられて一気に震えた。やっぱり、ラインヴェルドもバルトロメオもヴェモンハルトも弱点はビアンカか。
「あの……私、不器用なのでようやく最近、『スターチス・レコード外伝〜Côté obscur de Statice』の方に入ったのですわ。そこで、ネストルートを進めていたのですが……ネストルートで暗躍していたシーラという女性を利用していた黒幕の正体が王弟殿下だったのです」
「えっ、俺!?」
「いや、バルトロメオ殿下じゃないよ。ロードスター=ブライトネス――バルトロメオ王弟殿下の弟にして、末王子として生まれてくる筈だった隠しキャラだよ」
ただ、この時代にロードスターという王子がいないことは確認済み。
理由は分からないけど、ロードスターの存在は抹殺されている。このことから、ボクはジェム=フンケルン大公がその役目を負ったと思っていたんだけど。
「俺もフレイから報告を受けたのはついさっきなんだけどな。本当に驚いたぜ……ロードスターっていう王子は実在する。フンケルン大公家の初代当主にして、歴史にはロードスター=フンケルンとして名を刻んでいるロードスター=ブライトネス第三王子だ」
「……ごめんねぇ、これは明らかにボクの調査不足だった」
「その情報抜きに辿り着いたんだから、ローザはやっぱり凄えと思うけどな。まあ、これでジェムが黒幕でシーラを利用してネスト誘拐事件を起こす可能性はかなり高まったってことになるよな? ……しかし、なんでロードスターが末王子として生まれて来なかったんだろうなぁ?」
「わたくしも気になっているわ。バルトロメオの弟として生まれてきても別段不思議は無かったのでしょう?」
「王太后様の問いの答えをボクは持ち合わせていません。……そもそも、五摂家なるものは乙女ゲーム時代に存在しませんでした。恐らく、異世界化によって生まれた変更点なのだと思います」
アクアやディランのようなイレギュラー……に分類していいものか、それすらも分からない。
末王子という設定はそのままに、時代だけズラされた? 整合性のために?
やっぱり、異世界化によってゲームは大きく形を変えている。しかし、一方ではシナリオの補正みたいなものも存在しているようだし……不安定な異世界だよねぇ。
まあ、そもそも無茶の果てに生まれた世界なのだから、これくらいのことは他にも探せば沢山あるのかもしれないけど。
「「それで、ローザ。そのシーラとやらが仕掛けてくるのはいつになるんだ?」」
「流石はお父様ともう一人のお父様。息ぴったりですね」
メネラオスとベルデクトの異口同音に、カノープスがニッコリと微笑む。
「タイミングとしては、恐らくボクがいないタイミングを見計らう筈だし……そういえば、プリムラ様がアストラプスィテ大公様の領地を訪れることになっていましたよね? ボクはそのタイミングで、シーラがソーダライト子爵令息二人を使ってネスト誘拐事件を引き起こすことになると考えています」
「で、人選はどうするんだ?」
「ネスト一人で問題無いと思います。陛下達のご活躍はまたの機会に、ということで」
姉としては弟を心配するべきところなんだろうけど、ボクはネストのことを信頼している。
それに、あれだけネストを苦しめてきた連中だ。誰かの手を借りずに自分の手で討ち果たしたいと思っているんじゃないかな?
……まあ、今のネストはかつての兄弟を恨むことも無ければ……それこそ、何の感情も抱いていないだろうけど。
「では、そろそろ失礼しますわ。今から三千世界の烏を殺して本日分のビオラの仕事と、来月に発売予定のライトノベル六冊の執筆……後は漫画原稿と演劇の台本と……その他諸々の仕事をしなければなりませんし」
「……えっ、マジであれだけ忙しかったのに更に働くの? 嘘だろ? お前ってどんだけ仕事中毒!?」
ラインヴェルド達が「うわぁ」と可哀想なものを見るような目を向けてくるのを「別にボクが好きにしたいようにしているんだからいいじゃないか」という気持ちを込めたジト目を返してから、ボクは「三千世界の鴉を殺し-パラレル・エグジステンス・オン・ザ・セーム・タイム-」を発動した。
◆
翌日、ボクはラピスラズリ邸で目を覚ました。
……うん、働くだけ働いてからちゃんと寝たから大丈夫なんだよ?
いつものように王女宮筆頭侍女の執務室に転移して、プリムラを起しに行くまでまだ時間があるからと昨日少し残しておいた書類仕事をしていたんだけど……。
『王女宮筆頭侍女様、起きていらっしゃるでしょうか?』
部屋のノックがされ、外から女性の声がした。
この声は王女宮所属の侍女やメイドでは無い……確か、王子宮の……。
「王子宮第四王子専属侍女のパトリア=シュルクス伯爵令嬢ですね。どうぞお入りください」
王子宮では他の宮と同じく大規模な人事異動が行われ、専属侍女とごく一部が残される形となった。
まあ、長く仕えてきて勝手知ったる侍女まで人事異動をしたら色々と不都合が生じるからねぇ。とはいえ、これで王子宮内部の派閥は大きく弱体化し、派閥争いもかなり大人しくなったと聞いている。アルマの就任もかなりスムーズにできそうだよねぇ。
「……第四王子殿下がお呼びです。今すぐ王子宮にお越しください」
「……私はこの後すぐに姫さまを起しに参らなければならないのですが」
「第四王子殿下と第一王女殿下、どちらを優先すべきかまさかお分かりにならないのですか?」
心底呆れたという表情のパトリアに内心イラッとしながらも、流石に彼女は先輩格だし、仮に感情に任せて言い返したところで面倒ごとになるだけだ。
「私は第一王女殿下の専属侍女であり、王女宮の筆頭侍女です。誰よりも優先するべきなのは第一王女殿下でございます」
「――ッ!! 貴女、本気で第四王子殿下よりも第一王女殿下を優先するつもりなの!? 序列というものを理解していないようね!」
「……はぁ、分かりました。……確かに、王族のご命令とあらば他の全ての予定よりも優先するべきです。少々お待ち頂けませんか? 執事長殿に、姫さまの起床の担当をシェルロッタにお願いするように頼んで参りますから」
気づいたらパトリアが怯えていた。本能的な怯えから震えている姿を見て、ボクの瞳に漆黒の渦が現れていたことにようやく気づく……どうやら、相当ボクは怒りを覚えていたらしい。
……まあ、本人にその気は無かっただろうけどねぇ。
とはいえ、シェルロッタとプリムラがより長い時を一緒に過ごせるということはいいことだし、とりあえず第四王子には感謝しておきますか。
オルゲルトに要件を伝えてから王子宮に向かう。
……さて、ヴァンの要件は一体何なんだろうか? まさか、戯れに呼び出した……とかじゃ流石に無いよねぇ。
まあ、想像はついているんだけど。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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