Act.8-179 第一王女の誕生パーティ another scene.1 下
<三人称全知視点>
テラスもやはり王宮の一部というだけあって贅が尽くされていた。
当然だが、貧乏子爵家のものと比較すれば子爵家のものが外通路だと思えてしまうほどの圧倒的な差が存在する。
「それにしても、本当に驚いたぜ」
「私が踊れたことに対してのことですか?」
「まあ、確かにそれも含まれているけどなぁ……でも、別にアルマ――お前のことを侮っていたっていう訳じゃねぇからな? ただ、お前は社交界から遠のいていたし、ファンデッド子爵家にいた頃もあんまりダンスは好きじゃなかったんだろう?」
「ええ、その通りです。……正直苦手な方でした」
「まあ、それよりも驚いたのは何よりお前のその姿だ」
「……まあ」
アルマ自身もドレスのデザインに驚いたのだから、バルトロメオが驚いたとしても別段不思議ではない。
あまりにも流行とは隔絶したスタイル。しかし、アルマに「私から流行は始まるのよ」などという図太さはない。
――生地そのものは素晴らしいので、ルーセント伯にがんばって宣伝していただくとして、ドレスは珍しいデザインだけど素敵だから、是非離宮筆頭侍女様の名前を広めて頂きたいと思うのだけど、小市民なんで自分から売り込むのはちょっとね。そもそも、着てるモデルがこれで申し訳ないわ!
アルマの自己評価では骨太ではあるものの肥ってはいないため、マーメイドラインではゴツく見えない。
胸は特別大きくもないけど華奢でもないからウェストからヒップラインを滑らかに見せるマーメイドラインはまさにアルマに適したものだった。
アルマにとっては人生初の切れ長の一重をより際立たせるような、涼やかなアイメイクを施され、口紅はそれに対してぽってりと見せるような赤。
ワンサイドポニーのような形にして淡い青の花の髪飾りをした髪型も含め、これらは全てアルマを慕う後輩の侍女達がやってくれたものだ。
とはいえ、アルマの自己評価は元々極めて低い。メイクをしたとはいえ、せいぜい人前に出られるくらいになっただろうというものでしか無かった。
「似合っているよ」
「え?」
「美しい姿、と表現したのは何もお世辞ではないってことだ」
「えぇ!?」
「アルマ、お前は自信がないみたいだけど十分魅力的だぜ? ダンスをしている時は優越感があったからな?」
「……本当にそうなのですか?」
「圓とか、スティーリアとかとは比較すんなよ? アイツらは本当に特別だからな? 比較するだけバカらしくなってくるってもんだろう?」
「……圓ってどなたですか? ……もしかしなくても、フルール・ドリス先生のことですよね?」
「ああ、そういや聞いてねぇのか? ローザの前世の名は百合薗圓。なんでも、あっちの世界では裏世界の経済の一角を牛耳り、国家と対峙していたっていう絶世の美貌を持つ男の娘だって話だ。その頃から美貌という意味では世のご令嬢達が歯軋りをしたくなるくらい美しかったそうだぜ。まあ、俺は興味ないけどな?」
「……男の、娘? つまり、女性では――」
「まあ男だけど、中身は女性より女性らしいというか、多分そんじゃそこらの女性より女子力が高いというか、まあ、本当に初期の頃は自分の仲間達にも料理を振る舞って、家事もほとんどしていたみたいだしな。なんというか、比較する方がバカらしくなるというか、そういう奴だから気にすんな。どの道恋愛対象としてアイツのことは見られないし、馬鹿やっている時は男友達みたいで気兼ねなくていいっていうくらいだ。まあ、とにかく、さっき俺が言ったことは全く嘘偽りない感想だってことだ」
笑ったバルトロメオの表情に、アルマはこれは揶揄われたなと気付いて動揺した自分に喝を入れる。
アルマの反応にすぐに気が付いたらしいバルトロメオはまた笑って「別に嘘じゃないんだけどなぁ?」と重ねて言ったので、アルマも「まあ……見れないことはなかったんだろう」と納得することにした。
「さて、そろそろだったな?」
「えっ?」
「プリムラの退場に合わせてお前とメレクは速やかに退場をしてくれ。後は副隊長殿が上手く纏めてくれるだろうぜ」
「ええ?」
「では失礼。この場でお話することではないからな?」
背後から抱き寄せて、耳元でそう囁かれれば周囲から見ればアルマ達ははテラスでいちゃつく男女の仲に見えるに違いない。
毎度毎度浮名を流す不真面目な王弟殿下とファンデッド子爵家の変わり者長女という組み合わせなら、さしたる毒にもならない周囲は好意的なのかもしれない。
まあ勿論、実際、アルマ達はそんな色っぽい関係ではないけれど。……と少なくともアルマは考えていた。
イケメンにも男女関係にも免疫のないアルマは顔が赤くなるのをどうしようもなくて俯くばかりだ。
「副団長殿は母上の信頼を勝ち得ている人物だが、派閥には属していないからな。俺と違って信頼もされているし、普段は陽気で友好的な性格に見せているから社交界で彼が話題にしたことはあっという間に噂になるだろうぜ。……まあ、実際はあいつも俺と一緒にいる時は大体ガサツで腹黒さを垣間見させたりするんだけど。だから、アルマ達姉弟の美談も、子爵の苦労話と共に流れれば、その後引退の話題が出ても皆好意的に受け取るという流れになるんだよ。多分な」
「え、えぇ……分かっております。って、多分ですか?」
「俺もあんまりこういった腹芸みたいなことは苦手なんだけどな。こういうのは、クソ兄上とか腹黒副団長とかの仕事だし、頭脳労働は苦手なんだよ。まあ、こうしていることで母上や俺の後ろ盾がお前にあるということのアピールにもなるって訳だ」
(――近い近い近いッ!)
――全く、なんでこの人はこういう恥ずかしいことを全く恥ずかしげもなくできるのかしら!? いや必要事項を聞かれないように教えてるんだし、別におかしな話でもないんだけどいや意識してる私の方が破廉恥なのかそうなのか!?
心臓の音が高鳴り、耳がまるで壊れてしまいそうだった。
しまいにはバルトロメオの匂いにも反応してしまい、自分が汗臭くないかということまで気になってしまうアルマ。
――なんだか色々教えてもらってるんだけど右から左に抜けていくっていうか残らないっていうかどうしようこれどうしよう!!
などと考えているとバルトロメオが少しだけ人の悪い笑みを浮かべて――。
「アルマ?」
クスクス笑うみたいなその声はアルマが困っているのを見透かしている、そんな声だ。
イラっとして反射的に仰ぎ見ればアルマが思っている以上に彼の顔が近くて、また慌てて俯いた。
イケメン耐性がカケラもないアルマがおかしいのか、バルトロメオが再びクスクスと笑う。
「……怒ったか?」
「いっ、いいえ! そうではなく、いえ、そうなんですけれど。あまり揶揄わないでください」
「……前にも言ったが、俺はお前のこと、好みなんだけどなぁ。……まあ、いいや。今はここまでにしておくぜ。そういや、ダンスの相手も俺が初めてなのか?」
「……えっ? まあ実家で習っていた頃は練習する際に父や弟に相手を務めてもらいましたけれど。そういう意味で身内以外では確かに、ええ、そうですね」
「そっか。そりゃ良かっぜ。嬉しいなぁ」
「……え?」
「さあ、噂をすればメレクがお迎えに来たようだ。お部屋までは彼に送ってもらって、今日はゆっくり休め。借金問題に関しては既にジリル商会から報告書が来ているんだろ? とりあえず、暫くは王子宮筆頭侍女の引き継ぎとかで忙しくなるだろうし、まあ、ほどほどに頑張れよ?」
「え、ええ……あの、王弟殿下はこれからどうなさるのですか?」
「どうしよっかな? とりあえず閉会まではいるつもりだぜ? それじゃあ、まあどこかで遊びにいくからな」
当然だが、あっさりと身を離してアルマをエスコートし直したバルトロメオはこちらに向かってきたメレク、ネスト、ハインの方へ歩み寄る。
お互いに社交辞令を述べ合って、どこか確認するかのように目配せをして、恐らく既に色々とやり取りが重ねられていたに違いない。
アルマがアルマの為すべきことのために走り回っていた頃、メレクはメレクで当主になる――それに集中するための社交会情報の交換などがあったに違いない。
アルマにとってはビーグルと柴犬とチワワが仲良くしてるようにしか見えない。
そんな三人を見ていると、アルマの心も次第に落ち着いてきた。とはいえ、この可愛らしい少年はあのローザ王女宮筆頭侍女の義弟であり、攻略対象でもある。見た目通りと受け取るべきではないかもしれないが。
アルマの予想以上に仲良しになったのか、帰り際のメレクの言葉によると今度一緒に遠乗りに行く計画や、ファンデッド子爵領に泊りがけで遊びに来るとかそんな計画が立ったらしい。
――え? 挨拶回りしてたんだよね? 大丈夫か少年達よ。
少しだけお兄ちゃんぶりたい微笑ましい弟の姿を眺めていると……。
「姉上、次はちゃんと姉上も帰省してくださいね」
「え、あー……うん。善処します」
「今回の件もきちんと戻って互いに話をしませんと」
「ええ、それは勿論……でももう少し時間を頂戴ね」
「はい、僕の方も仔細整いましたらすぐにでもご連絡しますので」
「ありがとう……貴方は本当に立派になったのね。メレク」
「ふふっ、そう言われると嬉しいですね。でもまだまだ姉を喜んで嫁に送り出せるほど立派な人間じゃないんで、そのおつもりでいてください!」
「私がどうこうよりも、まず貴方が良いお相手を見つけないとダメでしょう?」
「それは今度叔母上がご紹介くださるそうですよ」
「でもその前にネスト様とルークディーン様と遠乗りに行きたいなあ。今件が片付きましたら泊りに来てもらうつもりなんですが、友達を泊める時の注意点とかってありますか? 姉上」
「……アレルギーがないか確認を取っておくこと、後は、夜更かしは止めた方がいいと思うわ」
大人になったようで、まだまだ子供みたいなところのある弟の可愛さに内心悶えるアルマであった。
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