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Act.8-178 第一王女の誕生パーティ another scene.1 中

<三人称全知視点>


「全く、軍務省の長官殿とか堅苦し過ぎるぜ。昔みたいにバルトロって愛称呼びにしてくれてもいいんだぜ? 副団長殿?」


「王弟殿下にそのような畏れ多いことはできませんよ。それに、今の貴方様は近衛隊長ではなく、私も近衛騎士は退役済みですからね」


 バルトロメオとクィレルは魔法学園時代からの同期で、共に騎士学校に入学、ここからずっと腐れ縁で同期として近衛隊に入隊したという経歴を持つ。

 二人が共に近衛隊に所属していた頃、バルトロメオは最終的に近衛隊隊長、クィレルは近衛隊副隊長に就任――どちらも家の権力を使わず近衛の頂点まで上り詰めた。まあ、その時代はかなり近衛騎士達も豊作だったことから近衛の黄金世代とも呼ばれている。


 しかし、その後はクィレルの方は家を継いで領地経営をするために近衛隊を除隊し、一方バルトロメオは軍務省の長官という実働では無く頭脳部隊の頂点へと出世していった。

 まあ、とはいえバルトロメオは裏方としてはあまりにも動き過ぎではあるが。


「しかし、王太后様から生地の依頼を受けた時は何事かと思いましたが、なるほどなるほど、このように仕立て上げていただけたのであればこちらとしても嬉しい限りですな!」


「……ん? 母上が?」


「おや、王弟殿下はご存じなかったか。ファンデッド子爵が娘の社交界デビューに奔走してな、誤解などが生じたのを哀れに思われたので王太后様が後ろ盾になられたのだよ。王太后様は王子宮で真面目に職務に励んでいたアルマ殿を好意的に評価なさっていたようだからな」


「……へぇ、なるほどな」


 ――誤解が生じた。


 ――王太后がそれを哀れに思った。


 ――王太后はアルマを真面目な侍女として高く評価している。


 これだけのキーワードがあっさりと伯爵の口から上るということは、もう相当事前に情報が浸透しているんだろう、と周囲に思わせることができるのだ。


 社交界の空気に当てられ、疲れてきたアルマはメレクの方はどうなのかしらと視線を彷徨わせたが、残念ながら弟の姿は見えなかった。


「おや、どうかしたのかな?」


「ああ、いえ伯爵様……弟の姿が見えなくて」


「ああ、メレク=ファンデッド殿か。彼はとても優秀だし、如才ない。心配する必要はないだろう」


「まあ、あの子は伯爵様とご面識が?」


「うむ、君の叔母上のご紹介でな。とても優秀な甥だとは聞いていたが正しくだ。ファンデッド子爵家の未来が明るくて羨ましい限りだよ!」


「ありがたいお言葉でございます」


「さて、私は退散するとしよう……バルトロ、くれぐれもご令嬢を不幸にさせないように。昔からお前の悪い癖だからな?」


「流石に酷くね? 誰がいつ不幸にさせたんだ……」


 バルトロメオはクィレルの言葉に言い返そうとして……何故か明らかにアネモネと目があって冷や汗をかいて閉口してしまった。


(……嘘だろ? あの状況で俺の方に視線向けるってどんだけ余裕なんだ?)


 それは、丁度アネモネがフンケルン大公と対峙しようとしていた時のことだ。

 これから今後を左右しかねない口撃を開始するというのに、随分と余裕がありそうである。


「それにしても貴族の噂とは恐ろしく早いのですね」


「まあ、正しいものも偽りのものも、流れればあっという間だな。……まあ、そういったものを全く意に返さない奴や、そんなもの無視できちまう奴もいるんだけど」


 大臣やリボンの似合うメイドなどがその典型だろう。

 これから様々噂が流れそうだが、我関せずという雰囲気でエゲツない量の食事を口に運んでいる。


 そのせいで、二人の姿を間近で見ていた貴族達が急速に食事欲を失っていた。


「正しいものと偽りのもの、見分けはどうなさいますの?」


「そりゃ、数聞けば分かるようになるんじゃないか? まあ、一番は心の声を聞けばいいんだろうけどな」


「……見気、でしたわね?」


「興味があるなら教えてやろうか? まあ、本来は習得しなくても社交界でやっていけないといけないんだけどな。それに踊らされたならば、己の力量不足というもの……そういう奴から自滅していくものだろ?」


 まあ、ブライトネス王国の場合は例え情報に踊らされずともラインヴェルドの機嫌を損ねれば簡単に消されてしまうのだが。

 ある意味、独裁国家だよなぁ、とバルトロメオは他人事の様に心の中で呟く。


「……恐ろしいですわね」


 大きく溜息を吐き出したいものの、それすら許されない。

 普段の侍女の姿なら飲み込むことができる情報も飲み込めない。


 改めて令嬢の大変さが身に染みて分かったアルマだった。



 今回、アルマは噂一つで浮き沈みする社交界のシステムを大いに利用している。しかし、利用されてる人達も分かってて利用されている感じがひしひしとアルマに伝わっていた。


「ところで、そろそろ一曲踊らねぇか? 流石に壁の花で終わっては母上に顔向けできないだろう?」


 バルトロメオは疲れているアルマに気を遣いながら、そっと手を差し伸べた。

 大きくて、ごつごつしている手だと前から思っていたアルマだが、実際に触れて見ると改めて剣を握る騎士の手なのだと痛感した。


 アルマはそれに言葉では応えず、ただ自分の手を重ねた。

 当然、目を見てお話なんて高度なことはできない。どれだけ勉強しても、美形とお話をすることの難易度の高さは変わらないのだ。


「ちなみに、弟君の了承は得ているぜ?」


「いつの間に?」


「今はきっとメレクはラピスラズリ公爵令息とヴァルムト宮中伯子息と話していると思うぜ? なんか次世代って感じがするよなぁ」


「……その次世代に、もしかしてローザ公爵令嬢も含まれているのですか?」


「まあ、そうなるだろうなぁ。アイツがずっと指揮ってくれりゃ安泰だろうが……とりあえず、次世代くらいまでは面倒を見てくれそうだぜ。次世代っていうと、エルフの次期族長殿と次期族長補佐殿と同期ってことになるだろう。……なんか随分と平和になりそうで……少し味気なくなるかもしれないなぁ」


 ラインヴェルド、オルパタータダ、エイミーン――騒がしい各国の首脳達も次の代替わりで総代わりすることが決まっている。

 レジーナも抜けてリィルティーナが継ぐとなれば、間違いなく今よりももっと纏まりがあって静かな多種族同盟になるだろう。


 そして、この会話には次期ラピスラズリ公爵、次期ヴァルムト宮中伯と次期ファンデッド子爵で友情を育んでいることを見せている意味とある。


 つまり、ファンデッド子爵家はヴァルムト宮中伯家とラピスラズリ公爵家の庇護下にあると。


 ヴァルムト宮中伯家は生粋の軍人家系、建国からの王家に仕える家系だから、ラピスラズリ公爵家も公爵家でありながら派閥と言える関係をほとんど築いていないということで有名な貴族だからどちらと仲良くしても問題ない。


 そもそもファンデッド子爵家はあまりにも弱くて何処の派閥にも迎え入れられてないという悲しい状況なので、この交流には何一つ問題がないのだ。


 しかし、表では宮中伯を任せられるほど王家に信頼されるヴァルムト宮中伯の次期宮中伯、そして裏ではブライトネス王国で最も恐ろしい【ブライトネス王家の裏の剣】の次期公爵と交流を持つということはそれだけで表と裏から一目置かれることを意味する。


 まあ、それ以上に王弟殿下と親しくしているということの方が大きな意味を持つのだが。

 大公家の庇護下に入る……その意味は公爵や宮中伯の庇護とはやはり大きく変わってくるのである。


「誘っておいてなんだけど、俺ってあんまりダンスは得意じゃねぇんだよな?」


「まあそうでしたの? レディ達の視線をあれだけ集めておいて」


「だからアルマに協力してもらって、ダンスを踊って疲れた振りをさせてくれないか」


「……一曲やそこらで戦場にも立つ長官閣下の体力が無くなる訳がないじゃありませんか」


「……んじゃ、何曲でも協力してもらえると受け取って良いんだな?」


「えっ、ちょっと!」


「おっ、ワルツだぜ」


 ――あっ、この人もやっぱり性格悪い! 私だってダンス得意じゃないんだからね!? というか、女性陣の嫉妬ってのがどれだけ怖いと思ってんのよ!!!


 とは口が裂けても言えない小心者のアルマであった。



 慣れないダンスに目が回るかと思うアルマ。離脱しようにも「おっ、曲が変わったな。じゃあもう一曲行こうか?」とか爽やかに言うバルトロメオ=ブライトネスのせいである。


「……随分ダンスがお好きなんですのね」


「……いや? ただあまり貴女に多く人が寄らぬように、という母上のご配慮とだけ伝えておくぜ」


「…………?」


「社交界デビュー仕立ての女性に絡む男は少なくないからなぁ、増してやアルマは社交界には目立つドレスということで女性陣にも囲まれるかもしれねぇし、そして何より、母上からも信頼の厚い侍女となれば――」


「……もう結構です」


 つらつらと挙げられていく理由にアルマは眉を顰めざるを得ない。

 つまり、女避けでもなんでもなく、アルマを守るための行動だったのである。


 ――王弟殿下が私と熱愛してるなんて誤解されちゃいますよなんて言わなくて良かった!


 まあそんな噂されてもこの王弟は女性関係が奔放だと有名なので、あまり大きな問題にはならないだろうが。


「……俺って、そんなに女性関係が奔放ってイメージなのか?」


「もしかしなくても私の心、読みましたね。しょっちゅう王宮内を彷徨いては私達侍女にちょっかいを掛けてくることから、『見つかると仕事ができなくなる!』と侍女の間では有名ですわ」


「……そんなに噂になっているのか? てっきり逃亡癖の方が」


「そちらの方がもっと有名ですわね。リボンの似合うメイドと大臣といつも問題ばかり起こしているとか」


「アクアとディランと一緒くたにされるのはちょっと辛いんだけどな。アイツらの方がよっぽど問題を起こしているぜ?」


 アクアとディランが聞いたら揃って「お前の方が問題を起こしているからな」と真顔で言い返しそうなことを五十歩百歩な立場で宣うバルトロメオ。


「まあ、慣れぬ場所でのダンスに疲れただろうし、そろそろテラスに行くか?」


「……お任せいたします」


 逆らうこともできないし、理由もない……噂になるとしてもアルマにはデメリットはないし、ここは大人しく従っておこうとアルマら小さく首肯した。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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