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Act.8-175 第一王女の誕生パーティ scene.13

<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


「なるほど……確かに我々の中に売国奴がいる可能性が高いという貴女の推理はよく分かった。しかし、さっきの口ぶりではまるで犯人が私であると決めつけている感じだったが、その根拠でも、確たる証拠でもあるのかな?」


「ご不快な思いをされたのなら謹んで謝罪致しますわ。現時点で容疑者を絞り込む確かな証拠はございません」


「なるほど……では、先程のは私の早とちりであるということか? いや、すまないね。私も貴族である以上、言葉の裏の意味を考えてしまうのでね」


「えぇ、証拠はございません。あくまで推理の段階でございますから……分かっていれば、とうの昔に私の手で潰すなり、ブライトネス王家が動いています。しかし、あくまで推理の段階ということであれば、有力な犯人候補はいらっしゃいます」


 さて……もう少し追い込んでいきますか。


「本日、会場におられるアルマ=ファンデッド子爵令嬢は侍女の職を辞す瀬戸際にまで立つことになりました。もう皆様もご存知だとは思いますが、誤解が生じた上で起きてしまった悲劇です。結果としてファンデッド子爵は借金をするしか道がなくなりましたが、ファンデッド子爵に借金の話を持ちかけたガネット商会の担当者はシェールグレンド王国の出身でタナボッタ商会の縁の者でした。シェールグレンド王国では宝石価格暴落が起こっており、シェールグレンド王国ではこちらに嫁いだ公爵夫人を利用し、外貨を獲得することに乗り出しております。一見、無関係に思えますが、聡明な皆様のご想像通り、シェールグレンド王国という共通項があるのです。まず、シェールグレンド王国で腕の良いデザイナーが幾人か出てきたようですが、調査を進めると彼等はタナボッタ商会に縁のある者達でした。そのデザイナー達を上手く利用して外貨を稼ごうと無い知恵を絞って愚かな行動をした貴族が経済の暴落を引き起こしたようです。まあ、その貴族は白だと考えていいと思いますわ。上手く利用されただけだと。その補填のために中途半端に賢い方が外貨を稼ぐ手段として公爵夫人を利用するところまで読めていた……とすれば。どこまで蛇側かは分かりませんが、側室と所縁のある商会のタナボッタ商会が大きな関わりを持つとなると……キナ臭いとは思いませんか? 公爵夫人の妊娠の醜聞を利用することで、シェールグレンドの王太子はプリムラ姫殿下との婚約を結び、ブライトネス王国の後ろ盾を得られやすくなるとでも考えたのではないでしょうか? ついでに外貨も獲得できますし……まあ、その王太子や側室も恐らくは蛇の甘言に騙されたのでしょうが。その主犯格の男がガネット商会の担当者となっていたことも確認が取れていますので、後は王太子と側室がグレーか、黒よりのグレーかを確認するだけです。勿論、その調査結果は今回の権力争いの蚊帳の外に置かれたシェールグレンド王国の国王陛下にもご報告することになります。……さて、今回の件ではブライトネス王国の外貨獲得と醜聞を利用した後ろ盾作りという二つの違う目的で同時に事が進展していたということになります。勿論、これはシェールグレンド側の蛇からのブライトネス王国への攻撃であり、同時にシェールグレンド王国内部での切り崩しも起きていたと思われます。状況としてはマラキア共和国からラングリス王国の革命の火に油を注いでいたものにそっくりですわね。このように、『這い寄る混沌の蛇』というものを考える時は相互の影響をしっかりと見極めることが重要になってきます。ところで、もし、この計画がしっかりと実行されたとしましょう。主に狙われたのは地方貴族や文官ですから、この一件で完全に露頭に迷うことになります。……『這い寄る混沌の蛇』とは弱者から弱者へと伝染する一種の病のようなものでもある訳ですから……当然、蛇にとって彼らは格好の獲物ではありませんか? 耳元で甘言を囁けば新たな火種にもなります」


「一石二鳥どころか、一石三鳥だよな……全く、もし、それが事実としたら連中はどんだけ先を見据えているだろうなぁ。おっかなくなるぜ」


「……そもそも、ブライトネス王国を壊滅に追いやるのにはシェールグレンド王国側からの干渉だけでは足りませんからね。案外、これが一番の狙いだったのかもしれませんよ? 国を内から蝕む猛毒を時間を掛けて醸成させ、それを王家打倒の革命の火種とする。彼らは民衆と同化し、民衆を率いて国を滅ぼすために暗躍する……そして、新たな政府が誕生し、再び滅びの連鎖が始まる……という具合です。ところで、フンケルン大公家が何故、最弱の大公家と呼ばれているのかお聞きしましたわ。なんでも、フンケルン大公家は何十年も前のルーセンブルク戦争でいくつかの有力貴族と共に反旗を翻したとか」


「えぇ、先々代の頃ですね。あの時に懲りているのですから、フンケルン大公家がブライトネス王国に再び反旗を翻す訳がないではありませんか。二度も同じことをやるほど愚かなことはありませんよ。……私は勿論、国王陛下とブライトネス王国に忠誠を誓っております」


「えぇ……失敗した企てをもう一度するのは愚か者です。しかし、もし、クーデターが成功していたらどうでしょう?」


「はて? 成功ですか? フンケルン大公家はあのクーデターで失敗したからこそ、今もブライトネス王国は存続しているのではありませんか?」


「……ルーセンブルク戦争の反乱軍は、その規模も勢いも決して侮ることができるものではなく王国を二分する大きな内乱が起きることは確実とされていました。しかし、結末は些か呆気なく、当主の弟の手によって倒れ、反乱軍はあえなく瓦解することになります。協力した貴族達は全員処刑され、その者達の家の名声は地に落ち、「反乱を防いだ功績を称えられる立場の弟もそもそもが問題を起こした大公家、その問題を自家で解決しただけではないか」と揶揄する者が現れて苦境に立たされました。更に、弟が陰謀に加担した家の者に対して、助命嘆願を行ったことも大きく向かい風になります。一族郎党皆殺しの憂き目にあっても仕方のない立場の者達を庇い立てした彼に対する非難は小さくはありませんでした。それでも庇われた家の者達はその弟に感謝し、フンケルン大公家の派閥に身を寄せることになる。以来、フンケルン大公家派閥には抗争に敗れた敗北者や、あぶれ者の貴族などが次々に訪れるようになり、その規模は無視できぬものとなりました。逆賊の汚名を着せられたにも拘らず、剥奪されていた辺境伯の地位を再び与えられるまでに地位を回復したと聞き及んでおりますわ。……では、もしこのクーデターが初めから負けることを目的だとしたら? 結果として、フンケルン大公家は兄と多くの貴族を失った代わりに、フンケルン大公家派閥を大きく拡大することになりました。そして、今回の一件で失墜した貴族達はどうなるでしょう? きっと、フンケルン大公家に身を寄せる筈です。……メリットという一面を考えた場合、フンケルン大公家以外に利益を得る者がいないのですよ」


 「まあ、でも確たる証拠もありませんし、私の盛大な勘違い・読み間違いという可能性もありますわ」と続け、にっこりと微笑む。


「……陛下はどうお考えなのですか?」


「あくまでアネモネの推理だ。面白い推理だが……残念ながら証拠がないからな。まあ、気を悪くするなよ? あくまで可能性だからな」


 とはいえ、可能性であってもアネモネが長々と推理を語り、ラインヴェルドがそれを黙認しているということには大きな意味がある。

 後は証拠を集めるのみで、推理自体は完成している。


 確信がなければ、大公家と敵対なんてできる訳がないからねぇ……。


 この一手でボク達は一気にチェックメイトに近づく。既にターゲットはロックされているのだとジェムは気づいた筈だ。

 これは、それを気づかせるための一手。こうなると、もうジェムは次の一手を打たざるを得なくなる筈だ。


 決戦が起こるのは確実――ならば、それに向けて準備を進めるべきだ。

 必要なものは暗黒魔法……そして、シナリオが生きているなら、次の一手はローザが王都を離れる一瞬の隙ということになるだろう。


 こうして、アネモネとフンケルン大公家の対立は明確な形となった。

 もうここからは一歩も戻ることはできない。


 ……さて、しっかりとなぞらせて頂くとしましょうか? もう一つのブライトネス王国の滅びへの道を――。

 勿論、ブライトネス王国を滅ぼさせはしない。


 ――仕掛けてくる冥黎域も含めて全て潰して差し上げるよ。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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