Act.8-172 第一王女の誕生パーティ scene.10
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
「皆様お待たせいたしました、ブライトネス国王ラインヴェルド陛下、並びに王妃カルナ様、王太后ビアンカ様、第一王子ヴェモンハルト様、第二王子ルクシア様、第三王子ヘンリー様、第四王子ヴァン様、第一王女プリムラ様、ご入場にございます!!」
先ほどまで美しい音楽を聞かせていた楽団の演奏が止み、一斉に拍手が起こった。
威厳ある国王陛下の猫を被ったラインヴェルドが威厳たっぷりに長々と挨拶をしていたけど(内心、クソ面倒なんだけど……もっと簡潔に挨拶したら後でアーネストにネチネチ言われそうだし仕方ねぇか、とか心の声が聞こえたけど、それ言っちゃうとこの挨拶誰得なのということになっちゃうからやめようねぇ)。
……内心、国王陛下の挨拶長いって思っていた貴族とか結構いるんだから。
要約すると、国は豊かだし、娘可愛いし、他国にあげる予定はないよ、国内はこれから選定することになるからね! みたいな感じだった。
ルークディーン=ヴァルムト宮中伯子息は暫定の婚約者だから、まだまだ国内の貴族子息にチャンスはあるよー、という意味も含まれていた。
流石に情報通の貴族達の間ではもうルークディーン=ヴァルムト宮中伯子息のことは囁かれているらしいからね。
まあ、ラインヴェルドとしてはルークディーンに確定させたいんだろうけど……やっぱり本人達の意思が一番重要だと分かっている。何やら企んでいるようだけど(まあ、恐らくボクを繋ぎ止めるためにプリムラとハインを、ボクとアルベルトを結婚させようとしているとかじゃないかな? フォルトナの連中といい、なんでそこまで形に拘るのか理解不能だよ。……ボクも月紫さんに告白して次のステップに進みたいと思っているから人のこととやかくは言えないんだけどねぇ)。
で、そのルークディーンはというと、ちょっとクソ陛下の言葉が難しかったのか小首を傾げていたけど、青系統の礼服に身を包みシンプルな仮面をつけて、お兄さんの方を見ていた。
多分後で何のことか聞くんだろうねぇ。
壇上のプリムラはただ口元を扇子で隠しているだけだ。
社交界デビューしていない以上、ご挨拶の口上を述べることははしたないということだと思われるから。
白を基調としたプリンセスラインのドレスで、スカート部分そのものが大量のシフォン素材を使用して更にシフォン素材のカラフルな薔薇がいくつも咲いている。
用意された仮面は黒のレースでできているかのような仮面舞踏会に使われる仮面。
そこにはいくつかの花がやはり添えられているし、プリムラの絹糸のような髪は美しく纏め上げられていて真珠と花が飾られている。
贔屓目に言って、この世に現れた花の妖精だ!
アクアやオニキスの表現を借りれば『天使』……あっ、そのオニキスとアクアがプリムラのあまりの可愛らしさに同時に撃沈した!!
「……やっぱり、姫さまは可愛いねぇ」
『そうですわね。……ところで、あのお二人のことはどうなさいますか?』
「別に放置でいいんじゃないかな?」
俯いて鼻血を隠すアクアとオニキスにそっとハンカチを手渡すディラン。こういう時はナイスなんだけどねぇ……。
クソ陛下の口上の後、目録の読み上げが始まった。
まずは他国のプレゼント、こちらは流石に豪奢だ。色とりどりの紗の反物、宝石類、美しい芸術品。今回は多種族同盟非加盟国の王侯貴族なんかも参加しているようだけど、その中には希少な動物や特別な芸を身に着けた芸人を贈り物にしている者までいた。……芸人とかお抱えにしろってことかな? いやぁ、プリムラの好みじゃないからちょっと扱いに困るプレゼントだよ。
……あの処理も後でボクがしないといけないんだけど、一部返品するものが出てきそうだねぇ。
その点、多種族同盟諸国の君主が選んだものは無難なものばかりだ。
緑霊の森からは高級な香辛料、ユミル自由同盟からは迷宮産の幻想級相当の反物、ド=ワンド大洞窟王国からは自国産の宝石で作った装飾品、エナリオス海洋王国からはリヴァイアサンの鱗を加工した美しいブレスレット、フォルトナ=フィートランド連合王国からは高級絹織物、ルヴェリオス共和国からは金細工の施された時計、風の国ウェントゥスからは古代竜風の彫刻、ラングリス王国からは無難に宝石類。
「ビオラ=マラキア商主国のアネモネ殿からは、『インペリアルプリンセスズ・イースター・エッグ』が届いております」
おっ、ラインヴェルドが露骨に反応したねぇ。
カタカナでは分かりにくいから英語に変換すると『Imperial Princess's Easter egg』……まあ、ご存知の通り露西亜のインペリアル・イースター・エッグを元とした金製の卵型の飾り物だよ。
とはいえ、特に何が起こる訳でもなく読み上げは終了――。
「では皆、パーティを楽しんでくれるよう」
一通りの目録の読み上げが終わるとそう陛下が結んで、楽団が再び演奏を始めた。
途端に騒めきを取り戻した会場で、王家一家の傍には人だかりだ。
クソ陛下達の近くに席をとっているのは近隣の王族の方々で、プリムラと直接話したいようだけれどそれを陛下が認めていないようだ。
まあ、社交界デビュー前の子供だから余計なことを口に出して厄介なことになっては困る、というのが建前で本音は「可愛い娘の声を聞かせてやるもんか」なんだろうけどねぇ!
そこから少しだけ離れたところに多種族同盟諸国の君主達の席があって結構な人数が集まっているようだ。
……しかし、アルティナが我関せずアクアとディランと一緒にとっとと軽食を取りに行ってドルチェに舌鼓を取っているけど、あいつら何のために来たんだろうねぇ。
……あっ、ポラリスが纏めて説教しに行った。相変わらず真面目なヅラだな。
「アネモネ、誰がヅラだ! 私はポラリス=ナヴィガトリアである!」
……ちっ、こっちにまで飛び火した。まあ、ヅラは無視して――。
……しかし、あの中に突撃しないといけないって大変だよねぇ。でも、そういう段取りになっているし……行くしかないかぁ、はぁ。
取り囲むような非多種族同盟加盟国の王侯貴族を縫うようにして、ボクとスティーリアはラインヴェルド達に正対した。
「お久しぶりでございます、ラインヴェルド陛下、ビアンカ王太后殿下、ヴェモンハルト殿下、ルクシア殿下。カルナ王妃殿下、ヘンリー殿下、ヴァン殿下、プリムラ姫殿下におかれましては初めましてでございますね。私はアネモネと申します。こちらはスティーリアですわ。以後お見知り置きください」
「成り上がり風情が国王陛下に声を掛けられる前に声を掛けるなど、到底許されることではない。庶民上がりの下賤な者はやはり礼儀というものを理解していないようですな」
でっぷりと太った伯爵貴族が心底馬鹿にしたという様子でこちらに歩んでくる。
……まあ、どうもご丁寧に地雷を踏み抜いてくれてどうもありがとうと言いたいねぇ。
ああ、ついに頑張ってくれていたスティーリアの堪忍袋の尾も切れたようだ。
……大凡予定通りとはいえ、彼女の純粋な気持ちを利用したようで申し訳なくなってくる。後で、埋め合わせはしないといけないねぇ。
『――お黙りなさい、矮小な人間風情が』
文字通り会場が凍りついた。――圧倒的な氷の魔力によって。
王宮の天井をブレスによって破壊したスティーリアが古代竜としての真の姿を現し、白銀の鱗と深海色の瞳を持つ竜となって飛翔――圧倒的な威圧感を纏って地上を睥睨する。
『ご主人様が社交界のルールを理解していない訳がないわ。しっかりとルールに則った上で挨拶をしている……この意味が理解できないかしら? そもそも、ご主人様は国賓として招かれている。友好国の一つの君主として――高が一国の伯爵風情が対等に渡り合えるとでも思っているのかしら? 貴方のやったことは、このブライトネス王国という国の顔に泥を塗ったに等しいのよ。……そもそも、わたくし一人でもこの国を蹂躙できる。況してや、わたくしを下したご主人様を相手にして果たしてこの国は何秒保つのかしら? いえ、そんなことは考える必要もないことよね? ご主人様が手を下すまでもなく、このわたくしが今からこの国を攻め滅ぼしてしまうのだから』
「……我が国の貴族がすまないことをした。責任は我にある。我の首一つで許してはくれぬか?」
「――国王陛下!!」
今更ながら、地雷を踏み抜いた伯爵はとんでもないことをしでかしたことに気づいたみたいだねぇ。
他にも何人かこの伯爵と同じようなことをしでかそうとしていた貴族達が居たからきっと肝が冷える思いをしているだろう。まあ、このままいけば関係ない人達も含めて連帯責任――鏖殺されちゃうんだけどさ。
「スティーリア、矛を収めてくれないか?」
『……承知致しましたわ。ご主人様の命とあらば、仕方ありません』
「ラインヴェルド陛下は私のご友人ですからね。それに、貴族の皆様が実際思っている通り、実際に私が成功できたのはブライトネス王国の御助力があったからですから」
『その助力がなくともご主人様は間違いなく成功されていたでしょう。ビオラの根幹となったゼルベード商会の取り込みは他ならぬご主人様お一人の功績でございますから。ブライトネス王国の力が無くとも、ビオラは栄えていました。それを勘違いしている貴族達は大勢いらっしゃるご様子』
「全くであるな。叶えられる筈のない亜人種族との和解の夢――今この場にエイミーン殿をはじめとして大勢の方々に来賓としてお越し頂けたのはアネモネ閣下のお力によるものだ。……それを理解できぬ貴族がいたことを我は悲しく思う。……しかし、貴族の不始末の責任は国王の責任だ。責任を取らねばならぬだろう」
「命まで取るつもりはありませんわ。本日は姫殿下の誕生日――おめでたい日でございます。その日を穢す行為は私としても本意ではありません。国王陛下には英断を期待しておりますわ」
「爵位剥奪、領地没収が妥当であろう。ジルイグス、こやつを連れていけ」
伯爵はジルイグスに連行されて会場から姿を消した。
「スティーリア、もう大丈夫ですわ。……もう許しました」
『……なんだか、クソ陛下に上手く利用されたようで腹立たしいですが、これでご主人様を貶めようとした貴族は消えましたし、ご主人様の気も晴れたと思いますのでこれくらいにしておきましょう』
スティーリアが人間の姿となって地上に戻ると同時に時空魔法を使って氷を消し去り、天井を修復した。
……巻き戻し魔法って便利だよねぇ。
「あのアスロモ=シューグアリア伯爵は非合法な薬物を違法に入手し、裏ルートで販売していたようですわ」
「どの道、潰さなければならない貴族だったということだな。……なんか悪いな、スティーリア。利用しちまって」
『……ご主人様の公認だったから許しましたが、本来ならあのまま「白氷竜の咆哮」を放つつもりでいました。まあ、多少弱めるつもりだったので猛者は生き残れたでしょうが。それに、姫殿下を含め、守られるべき人間はどの道守られていたと思いますわ。……それと、貴方に馴れ馴れしく話しかけられる覚えはありません。以前にも申しましたが、わたくしが仕えるのはご主人様ただお一人のみ。貴方はご主人様のご友人だからこそ尊重しております……その意味を深く心に刻み込んでください』
スティーリアの瞳がまるで極寒だ。会場はほとんど恐慌状態――スティーリアと会ったことがあるメンバー以外はほぼ全滅だねぇ。
まあ、そんな中でも呑気にドルチェを食べているアクア達も居るんだけど。あっ、エイミーンがそこに加わった。あいつら自由人か……。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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