Act.8-171 第一王女の誕生パーティ scene.9
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
「よっ、久しぶりだな! ミリアム師匠」
「お主に師匠と呼ばれるほど剣の手解きをした覚えはないがのぅ。ラインヴェルドはブライトネス流王室剣技、オルパタータダはフォルトナ流王家伝剣を基礎として既に自分の剣をほとんど完成させていたではないか?」
『剣聖』ミリアム・ササラ・ヒルデガルト・ヴォン・ジュワイユーズ――丁度、ラインヴェルド、オルパタータダ、レジーナの三人が冒険者パーティを組んで冒険をしていた頃、三週間ほど剣の手解きをした……と言われている元『勇者』にして『剣聖』の異名を持つほどの剣の達人だねぇ。
……といっても、寝食を共にしながら実践形式で修行を手伝ったというだけで、ラインヴェルドとオルパタータダは『剣聖』の剣技をほとんど取り入れなかったそうだけど。
『剣聖』の剣――ジュワイユーズ流聖剣術は、聖属性を扱うことを念頭に置いた魔法剣なのだそうだ。
聖属性の斬撃を飛ばす遠距離攻撃も念頭に置いているためか、大振りの技が多めなものの、基本的にほとんどの剣技の要素を網羅し、隙となる部分はほとんどない。ポラリスの剣のように偏りがある訳でもなく、様々な型をその時その時の状況に合わせて高速で組み上げていくという形だから、極めて厄介なのだそうだ。
ちなみに、アルベルトが継承すると言われるのは聖属性抜きの純粋な剣技としての剣聖技。
剣技として完成されているから、聖属性魔法抜きでも十分に習得しているのであれば十分、次代の『剣聖』の名を引き継げるんじゃないかな?
「アネモネ殿、お主に会える日をとても楽しみにしておった。以前、儂はある名を持たぬ犬狼牙帝と一年程度暮らした。とても哲学的で面白い奴じゃった……生きる意味というものを探しておったのぅ。儂は魔族との戦いに意味を見出せなくなり役目から逃げた。これまで人々が求めていたものに応えず、逃走した時点で儂という存在は生きる意味を喪失した訳じゃからのぅ。人生の価値というものは結局、後世、他人に付けられるものじゃ。儂は他者に理解される客観的な成果というものがなくとも自分が満足のいく人生を送れたと思えればそれでいいと思っている。……儂にはあやつの求める生きる意味というものは理解できなかった。……そのあやつに藍晶の名前と職を与えてくれたと知った時、本当に嬉しかった。あやつは手紙の中でようやく天職を見つけられたと嬉しそうに報告しておったぞ」
「藍晶さんはとてもよく働いてくださっております。地下鉄敷設計画も藍晶さんが提案してくださったものがビオラの幹部会で評価されたものです。……私も生きる意味などという他人から与えられた意味づけに意味がないと思いますが、藍晶さんが天職に巡り合い、そのことによって幸せに生きられるのなら、それが一番であると思っておりますわ。藍晶さんと私が巡り会えたのもミリアム様とお会いできたらからだと思っております。本当に感謝してもしきれませんわ」
「こちらこそじゃ」
さて、とミリアムは一旦話を切った。
「……『勇者』をやめて世捨て人になってから結構な年月が流れ、『剣聖』などという不相応な称号で呼ばれるようになった。儂は自らが強いなどとは思わんが、そこそこの剣を扱えるくらいであるとは自負しておった。しかし、やはり世の中には上には上がいるものじゃな。……全く勝てる気がせん」
「それは、スティーリアに、でしょうか?」
「確かに、そちらのお嬢さんにも儂では勝てん。戦場で相見えたら尻尾を巻いて遁走させてもらうくらいヤバいが……それよりも、やはりアネモネ殿――お主の方が恐ろしい」
「私程度の実力ならゴロゴロいると思いますが?」
「それは一体どんな人外魔境じゃ? 我も魔王相手なら戦っても良いと思っていた、勝つ見込みがあったからな。しかし、少なく見積もっても魔王以上の化け物じゃ。……是非、後学のためにその化け物達の名を知りたいものじゃ」
「私の生まれた遠い故郷の者達ですが、瀬島一派の鬼姫――橋姫紅葉、武装思想家組織「天人五衰」の身体臭穢、この辺りがパッと思い付きますね」
……まあ、神殺しの文学者・能因草子とか、別世界の軍人の逢坂詠とかも含まれるんだけど。
「お主クラスの剣豪がゴロゴロ転がっている国か……絶対に足を踏み入れたくはないのぅ。ところでじゃ、丁度この会場に次期『剣聖』がおる、あやつの後学のために是非会ってやってはくれぬかのぅ? まあ、お主にとっては利益の薄い話ではあろうが」
「いえ、私も興味がありますわ。次期『剣聖』がどのような方なのか?」
ミリアムが数分離れ、アルベルトを連れてきた。ついでにクラインリヒ=ヴァルムト宮中伯、サフラン=ヴァルムト宮中伯夫人、ハイン=ヴァルムト宮中伯子息も連れてきたみたいだねぇ。
「お初にお目にかかりますわ。私はアネモネと申します」
「ヴァルムト宮中伯のクラインリヒだ。こちらは妻のサフランと息子のルークディーンだ。私はアルベルトほど強くないがこれでも以前、近衛騎士をしていたのでな。是非、冒険者の頂点に君臨するお方を直に拝見させてもらいたかったので無理を言って紛れ込ませて頂いた」
「クラインリヒ様は近衛の副隊長も務めた凄腕の騎士様だとお伺いしておりますわ。冒険者の頂点などという評価は妥当なものではございませんのであまり期待をされるべきではないかと思いますが」
アネモネの冒険者としての実力を疑っている人がほとんどだし、まあ、こうでも言っておかないとねぇ。
……スティーリアが若干不機嫌になっているし、ボクの実力を知っている連中が「何、化け物クラスの実力者が猫被ってんだよ! お前の後ろのスティーリアより強えだろ?」って視線を向けてくるのが痛い。
「アルベルト=ヴァルムト様ですね、お噂はかねがね伺っておりますわ」
「初めまして、アネモネ様。アルベルトと申します。現在、冒険者の中では魔物のみが到達可能だとされているSSSランクに次ぐSS+ランクに人類で初めて到達したお方とお聞きしております。……私では到底勝てそうにありませんね」
「いや、そもそも儂でも勝てぬ相手なのに弟子のお前が勝ててしまったら悲しくなってくるぞ? ……アネモネ殿、お主から見てアルベルトはどの程度に相当する?」
「そう……ですわね。ペドレリーア大陸にも『剣聖』の称号を持つお方はいらっしゃいます。『プレゲトーン王国の剣聖』ギミマティアス・ローヴァルド――剣術指南役で、プレゲトーン王国の基礎剣術を構築した老境の兵士ですが、彼と互角に渡り合えるほどの強さは少なくともあると推察致しますわ」
「……うむ、分かりにくいのぅ。何かもう少し分かりやすい例えは引っ張り出せぬか?」
「ギミマティアス殿はフォルトナ王国の司書であったヨナタン=サンティエ公爵様の前世を持つ神父ジョナサン・リッシュモン様と互角に立ち回られておりました。このヨナタン様は現在、神父となっておられますが騎士の国フォルトナ王国で一軍を率いることができるほどの猛者でございます。……ご気分を害されることを承知の上で申しますと、私はラインヴェルド国王陛下、オルパタータダ陛下、フォルトナ王国のオニキス様といった一騎当千の猛者の皆様の一つ下にアルベルト様を位置付けておりますわ。剣術のみを考えるならまた評価は変わってくるでしょうが、総合評価ではフォルトナ王国の騎士団長クラスの一つ下に置くべきかと。……魔法の実力の方は測りかねますので、私から申せるのはこのくらいですわ」
ボクの判断にかなりの人数が顔を顰めている。
ヴァルムト宮中伯家の三人もあまりお気に召さなかったようだけど……騎士団長レベルって相当だよ? なんたって、あのフォルトナの騎士団長だからねぇ。
まあ、魔法を含めた総合評価だとブライトネス王国の騎士団も評価が上がるんだけど。
「良かったな、アルベルト。これほどの高評価をなさるとは正直、儂も驚いていたぞ。まあ、些か贔屓目にあるようじゃが。結構隔絶した差のある者達を纏めて『一騎当千の猛者』と称しているようじゃしのぅ。例えば、あのリボンのよく似合うご令嬢――アクア殿と戦えば儂は秒で殺されるじゃろう。この会場にも剛の者はごろごろ転がっておる。それに気づけぬ時点でとても猛者とは言えぬじゃろう。……文字通り、見定めている先が違うのじゃろう。ラインヴェルドやオルパタータダもかつて出会った頃から考えれば別人と表現するべきほどに強くなっておる。まあ、人類の範囲では猛者と評価してもらえたんじゃ、その評価はありがたく受け取っておくべきじゃと思うが」
……まあ、なかなか納得できないだろうねぇ。
アルベルトはあまり強さに興味がないようだけど、ヴァルムト宮中伯家の三人は納得できていないようだ。
「アネモネ殿、良ければ今後機会があれば儂と模擬戦をしてもらいたい。でき得るなら我が弟子とも……」
「えぇ、私で宜しければ。事前にビオラの本社の方にご希望の日にちをお伝え頂ければいつでもお相手致しますわ。ただ、流石に本日は姫さまの誕生パーティですので、自重して頂けたらと」
「無論じゃ、儂は戦闘狂ではないからのぅ。……どこぞのバトルマニア共と一緒にしないでくれ」
……それって、言外にボク達のこと、ディスってない?
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