Act.8-170 第一王女の誕生パーティ scene.8
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
「私もこういった場に呼ばれた経験がほとんどありませんので、緊張しております。しかし、アネモネ様やスティーリア様がいらっしゃるのでとても心強いです」
風の国ウェントゥスを代表してやってきたアリシータも少し緊張気味だけど、彼女は長い間風の国ウェントゥスの緑の使徒を纏めてきたような人物だからねぇ。
本人は少し心配そうだけど、立ち居振る舞いは文句の付けようがないし、彼女の性格からして問題は起こさないと思う。
「わたくしも他国に招かれるのは初めてなので、とても緊張していますわ」
クラウディアが女王として外交をするのは今回が初めて、当然、緊張もするだろうねぇ。
とはいえ、今回はエリザヴェータとエルセリスという心強い二人がついていてくれる。いずれは女王としてたった一人で他国と渡り合っていかなければならなくなるのだから、今回の外交で自信をつけてもらいたいところだよねぇ。
とはいえ、女王としての経験はなくとも、王女として前王の時代に社交界に出席した経験は豊富だから、こちらも特に心配はない。
……やっぱり、心配しかないのはエイミーンとアルティナ……後はブライトネスとフォルトナの問題児達か。
「しかし、まだまだパーティの主役が出てこないっスね」
「まだ出席予定者が全員揃っていないので、もう暫く掛かると思いますわ。私はまだ挨拶をしていない方々に先に挨拶をして来ようと思います。……エイミーン様、アルティナ様、皆まで言わなくても大丈夫ですわよね?」
「どれだけ信用がないのですよぉ〜」「どれだけ信用がないっスか!?」
要注意人物二人にしっかり釘を刺してから、ボクは先程パーティ会場に入ったミーフィリアのもとに向かった。
◆
「お久しぶりですわ。ミーフィリア様」
「久しぶりというほどでもないが……アネモネ殿、スティーリア殿、こういった場で会うのは初めてだな。しかし、全く初参加という雰囲気を感じさせない……流石はお二人だ」
「お褒めに預かり、恐悦至極にございますわ」
まあ、今回も人選はしっかりとしてきているし、ボクだってこういった堅苦しい場への参加経験もあるからねぇ……転生してからだけど。
まあ、前世は一代成り上がりの富豪みたいなところがあっても、羽瀬川財閥のような表側の財界に関わりはないし、社交界への出席経験もないからねぇ。
学会とか、株主総会とか、そういったものには出席経験があるんだけど……。
三門財閥みたいな表から裏に転じた財閥と違って、そういった社交的な繋がりでは弱いんだよねぇ……ボク達って。
まあ、財閥七家は一つ一つが一騎当千、国家相手にも戦えるくらいの力を持っているんだから、わざわざ連む必要もないんだろうけどさぁ。
「……しかし、当初の予定ではスザンナのところに挨拶に行こうと思っていたのだが……エイミーンさんが危険そうだな。私が行ってフォローに入った方がいいのだろうか?」
「まあ、エイミーン様にはミスルトウ様達もついていますし、他国の皆様も集結していますからいざとなったら力尽くで止めると思いますわ。ですから、ミーフィリア様は安心してスザンナ様にご挨拶に行かれたら良いと思いますわ」
「そうか、ではそうさせてもらうとしよう。では、アネモネ殿、スティーリア殿、私は失礼させてもらう」
ミーフィリアがスザンナの元へ向かったのを見送ったところで、ボク達も挨拶回りを再開した。
次はラピスラズリ公爵家――四大大公家は王族が会場に姿を見せてからラインヴェルドに紹介してもらえることになっているし、これで一旦挨拶回りは終了になるのかな?
「お久しぶりですわ、カノープス=ラピスラズリ公爵様、カトレヤ=ラピスラズリ公爵夫人、ネスト=ラピスラズリ次期公爵様、メネラオス=ラピスラズリ先代公爵様、リスティナ=ラピスラズリ先代公爵夫人。ベルデクト・ランドロフ様もお久しぶりですわ、公爵様達とご一緒なされていたのですね」
ラピスラズリ公爵家と繋がりのあるアネモネがラピスラズリ公爵家との挨拶を素通りする筈がない。まあ、これは当然の流れだよねぇ。
ちなみに、お母様も含め、ラピスラズリ公爵家組はアネモネ=ローザであることを知っているから、事前に話をして口裏を合わせてもらえるようにお願いしている。
まあ、カトレヤお母様以外は伝えるまでもなく状況を判断して対応してくれると思うけどねぇ。……というか、お母様も実は問題無かったか。暗部に関わりを持っていないというだけで貴族夫人としての立ち居振る舞いは完璧な訳だし。
ベルデクトが先代公爵の転生体であること、ペドレリーア大陸の探索で知り合ったことの二点については貴族達にも共有済みなので、今回、ベルデクトに招待状が行ったことも別段不思議でもなんでもないのだろうねぇ。
「久しぶりだね」
「お久しぶりですわ」
「お久しぶりです、アネモネさん」
「「久しぶりだね」」
「うふふ、お久しぶりですわ」
「丁度良かった。アネモネさんに是非紹介したい人達がいたのだよ。私の古くからの友人達でね、君のことを話したら是非一度お目に掛かりたいと紹介をお願いされてしまったんだ」
……ん? 当初の打ち合わせには無かった展開だねぇ。
……何となく嫌な予感がするけど、断れる雰囲気ではないし。
「公爵様のご友人ですか。是非、私もご挨拶させて頂きたいと思いますわ」
……まあ、それしか選択肢がないよねぇ。
嫌な予感は的中し、カノープスが招いたのはキュラソー=バラライカ侯爵、ジュラ=バーネット伯爵、ハーベイ=ウォールバンガー子爵、ティフィナ=クレオパトラ女男爵……つまり、ラピスラズリ公爵家と共に国内で五つ指に入る『裏』で有名な暗殺貴族――【毒剣五指】に数えられる暗殺貴族達だった。
表向きはラピスラズリ公爵家の弱小派閥の貴族達――他の貴族達が歯牙にも欠けない者達だから、成り上がりのアネモネにはそれくらいがお似合いだとでも思っていそうだけど。
これ、ブライトネスの『裏』を知る者達からしたら卒倒してしまいそうな光景なんじゃないかな?
「初めまして、アネモネ閣下。私はキュラソー=バラライカと申します。以後お見知り置きを、レディ」
まずは見るからにお洒落さんな紳士が美しいボウアンドスクレープで礼を取った。
この中では一番若く三十代。しかし、六歳の頃に最初の暗殺を手がけたほどの実力者――まあ、彼以外もここのいるのは暗殺者の化け物みたいな連中なんだから一刻も油断ができないんだけど。
「フォフォ、ワシはジュラ=バーネットだ。先代公爵に嫁いだリスティナは姉でね、ラピスラズリ公爵家との付き合いも随分と長いものじゃ。しかし、見目麗しく商才もある若い娘は素晴らしいのぉ」
続いて小奇麗な初老の紳士がボクを舐め回すような視線を向けながら挨拶した。……無論、そのエロジジイじみた視線の裏には恐ろしいほど冷たい観察眼がある。……まあ、スティーリアはそれを知った上で不埒な視線を向けたジュラに凝縮された殺気を流し目に込めて返していたみたいだけどねぇ。
「ウォールバンガー子爵のハーベイと申します。ビオラには大変お世話になっておりますので、会頭様にお会いできて幸栄です」
続いて、精悍な面差しをした中年紳士がこの中では一番真面目に礼儀正しく挨拶をしてくれた。濁った瞳をしたハーベイに「こちらこそ、我が社をご利用くださりありがとうございます。これからもお気に召して頂けるような商品を用意させて頂きますわ」と微笑みながら返した。
「うふふっ、わたくしはティフィナよ。一応、クレオパトラ女男爵として領地を仕切らせてもらっているわ」
最後の一人――妖艶な女性が真っ赤な唇に美麗な笑みを浮かべながら挨拶をした。
四十代になっても衰えぬ美貌で、どこぞの公爵夫人よりも遥かに退廃的な匂いがするものの、未だに独身で本人曰く「心から支えたいと思える殿方に未だに出会うことができていない」のだそうだ。
ちなみに、好みは「ちょっと血が出てもダメな、普通の貴族――ベッドで少しからかっただけで泣いてしまうような可愛い旦那さん」なのだそうだ……まあ、暗殺貴族は大概頭がおかしいからねぇ、お父様も含めて。
余談だけど、この四人に同時に暗殺を仕掛けたらボクが動くまでもなくスティーリアが蹂躙してしまえるくらい隔絶した差がある。
まあ、武器の強化がされていないことが要因として挙げられるけど、一番は経験じゃないかな? 最近はラピスラズリ公爵家が今までより更に頭二つほど抜きん出る力を得たとか言われているみたいだし。
そのまましばらくはラピスラズリ公爵家の面々と談笑をしていたんだけど――。
「アネモネ、丁度お前に会いたいって言っている奴が来ているんだ。まあ、具体的にいうとある意味俺の師匠みたいな人なんだが、ちょっとだけ会ってやってくれないか?」
まさかの『剣聖』殿のお誘いを受け、ボクはラピスラズリ公爵家の面々や【毒剣五指】の当主達に挨拶をしてから、オルパタータダと共に『剣聖』ミリアムが待つ方へと向かった。
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