Act.8-168 第一王女の誕生パーティ scene.6
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
「お久しぶりですわ、リサーナ=ノーヴェンバー侯爵令嬢、ケプラー=ゲルン侯爵令息、ヒョッドル=コーニッシュ伯爵令息、カトリーヌ=デーリアス子爵令嬢、シュピーゲル=プラードン男爵令息」
「あら、久しぶりね。元気していたかしら?」
アンジェリーヌと自称して、普段はフリルとリボンに覆われた制服や派手なメイクで女装しているケプラーも、社交ダンスの衣装のような胸元が大きく開いた派手な改造制服を着たヒョードルも本日は普通の貴族服姿だ。
今日はシュピーゲルも一緒で、よく見るともやもやとした霊魂製の紐で足を床に繋がれている。
「……私ってどれだけ信用されていないのでしょうか? これって最早扱いが囚人のそれ、ですよね?」
「まあ、シュピーゲル様の方向音痴はフォルトナのウォスカー様と張るレベルですから」
「……彼の方と同列に扱われるってショックですよ。そんなに私の方向音痴って酷いですか?」
同僚全員に頷かれショックのあまり項垂れるシュピーゲル。
まあ、ウォスカーの方向音痴は集中力のない子供のそれで、もっとタチが悪いと言えるかもしれないけど。……しかも、トップクラスの頭脳と高い処理能力を持つという美点をシュピーゲルが持っているのに対し、ウォスカーは更に空気が読めないなど欠点だらけ。
……まあ、大男であることを忘れて子供だと見れば案外可愛いものみたいだし、実際にアクアやオニキスも彼を相当可愛がっているみたいだけど。
ただ、ウォスカーも二人は必要ない部類の人間だとは思うよねぇ。シャマシュ教国でも家族を相当悩ませていたなぁ……。
「アネモネさん、聞きましたわ。なんでも、リサーナさんに今話題になっている『Rosetta』のロリィタをいくつも買ってあげたとか!? 狡いですわ!」
あっ……そういえば、カトリーヌは無類の可愛い物好きだったっけ?
「そういえば、最近はいくつか商品を卸に行っているだけで、『Rosetta』にはあまり足を運んでいないのですが、評判は上々ですか?」
「はい、特に最近は魔族のアスカリッドさんが専属のモデルを始めて更に盛り上がっています。モデル希望や店員になりたい方も多いようですし、貴族令嬢を中心に人気が爆発的に広がっています」
クマの縫い包みのリゼリゼを抱えて腹話術で話すリサーナによれば、貴族令嬢を中心に人気が広がっており、少し高いということから庶民にはあまり手が出ない状況が続いているものの、少しずつ庶民の中からもロリィタファッションに手を出す人達が増えているという。
リサーナは魔法省で働きながら、『Rosetta』の店員兼専属モデルの仕事を掛け持ちし始めたようで(ラズリーヌに拝み倒されたらしく、リサーナ自身も興味があったのでスザンナに確認をとった後に兼業を始めたそう)、兼業していることは直属の上司のスザンナ以外には内緒にしていたそうだけど、可愛いもの好きのカトリーヌが話題となっていた『Rosetta』に気づかぬ筈もなく、来店してリサーナにばったりと会ってしまったようだ。
「……しかし、良かったのでしょうか? アネモネさんがアスカリットさんお気に入りの『ミルキーウェイ』ブランドのオーナーだと教えなくて」
「それは本人が気づくまで黙っておこうかと思っています。まあ、『ミルキーウェイ』はブライトネス王国においては元祖のロリィタブランドですが、最近は『Rosetta』初の『ストロベリーシャイン』と『ゴシックandデカダンス』通称『G and D』、その他、服飾工房からも続々とブランドが生まれているようですから、そういったものがこれから主流となっていくと思いますわ」
『Rosetta』は元々、いくつかの商品を自分達で作っていたけど、ほとんどが他の服飾を作る工房から購入して販売していた。
ビオラの傘下になってからもそれ自体は変わらない。
そういった契約を交わしていた工房、契約を交わしていなかった工房も含め、服飾工房の中にはロリィタファッションの製作を行うところが増えてきた。
需要も高まり、今では『Rosetta』以外にもロリィタファッションを工房から購入し、販売する商会が中小商会を含め、増えて来ている。
まあ、ライバル店みたいなものだねぇ。『Rosetta』が全ての工房と契約している訳ではないから、当然、売っているブランドにも差異がある。例えば、『ストロベリーシャイン』と『ゴシックandデカダンス』、『ミルキーウェイ』は『Rosetta』以外では購入はできない。
まあ、こうして真似られていくことはいいことだ。真似から始まったものが、より客を増やすために独自に進化を遂げていく――それが、商売の面白いところだからねぇ。
元祖だからといつまでも胡座をかいていれば、簡単に後続に抜かされてしまう。勿論、あのラズリーヌが研鑽を怠る訳がないのだけど。
「私もそのロリィタファッションに興味があるのよね……って、なんで嫌そうな顔をするのかしら?」
「まあ……聞かないで頂けると助かるのですが。正直、似合う似合わないの問題ですわ」
ケプラーは男の娘というよりも漢という文字が見えるタイプのオカマだからねぇ。
「私の方で作ってもいいですが……多分、『Rosetta』には立ち寄らない方がいいと思いますわ。ラズリーヌ店長は本当に可愛く無いものに差別的ですから」
「それは、アネモネ様も同じなのでは?」
……ヒョードル、ボクはまだマシな部類だと思うよ?
「前々から思っていたのですが、心が乙女なら、もういっそ、本当に乙女になるというのはいかがですか?」
「そうしたいのは山々なのだけど……両親が許してくれなくてね。魔法省で女装しているのも私のできる精一杯なのよ」
ということらしい……まあ、極めて高額だけど僅かに『分身再生成の水薬』や『外観再決定の魔法薬』も市場に出回っている。
それを購入できないということは、購入できない理由があるということだからねぇ。
「皆様、私達はそろそろお暇させて頂きますわ。まだまだご挨拶をしなければならない方がいらっしゃるので」
「そういえば、スザンナ様にもまだご挨拶をしていないようですね。丁度レインさんとその家族とご一緒しているようですし、次はそちらとご挨拶をしたらいかがでしょうか?」
「では、そうさせて頂きますわ」
ヒョードル達にお礼を言ってから、ボクとスティーリアはスザンナ達の元へと向かった。
◆
「お久しぶりですわ、スザンナ=アンブローズ男爵令嬢、レイン=ローゼルハウト子爵令嬢。それと初めまして、ローゼルハウト子爵家の皆様ですね。私はアネモネと申します、以後お見知り置きください」
「これはどうもご丁寧に。しかし、娘があのビオラの会長さんとお知り合いだったとは本当に驚いたよ」
スザンナ達はレインの父スタンラン、レインの母リンシア、レインの長兄のリザールに改めてレインの婚約の件を報告していたらしい。
「しかし、レインのことを先輩と言って慕ってくれているというローザ様からレインの婚約の話を聞いた時には本当に驚いたものだよ。あのレインが第一王子殿下の婚約者になるとは……。第一王子殿下には婚約者のスザンナ様がいるのだから少し心配していたのだが、スザンナ様から婚約者公認の婚約者であると聞いて喜んだよ」
「レインは昔から自分の幸せを求めない子でしたから……第一王子殿下との婚約を自ら決断してくれたことは良い兆しだと思ったわ。とても優しい子で周りが見えてしまう子だったから私達はずっと心配だったのよ。これからは、私達のことよりも自分の幸せを考えて、幸せになってもらいたいわ」
レインはある意味、童話のシンデレラを彷彿とさせる。
ただ、それは継母や義姉達から虐げられてきたシンデレラよりももっとタチが悪い。例え、両親や兄姉達が幸せになることを望んでも、彼女は頑なにそれを拒否してしまうのだから。
レインの家族達の願いは一つ、レインが幸せになってくれることだった。家族のためにと身を粉にして働くレインと、そんなレインを見て心を痛める家族……互いに互いを思いながら繰り返される負のスパイラルはまさに悪夢以外の何者でも無かった。
何一つ文句を言わず、家族に心配をさせまいと笑顔を浮かべていた、そんなレインにとって家以上に自分というものを出すことができるのはヴェモンハルトの前だったのかもしれない。
ヴェモンハルトやスザンナや特務騎士達に振り回される中、文句を言えるということは素直に自分の気持ちを表現できていたということだ。
……それが、彼女にとっての幸せなのかは分からない。でも、ヴェモンハルトもレインを幸せにすると誓ってくれたし、きっとレインはもう大丈夫だと思う。
……まあ、レインがもしこれから悲しそうな顔をしていたら、遠慮なくヴェモンハルトとスザンナのところに突撃してネチネチ言ってやるつもりだけどねぇ。
「ところで、婚約者という形ですが……そもそも、いつ婚約者から次のステップに進むのでしょうか? スザンナ様も婚約者のままですよね?」
「お、お兄様! なんでそんなに目を輝かせて『すぐにでもレインのウェディングドレス姿見てみたい』みたいなオーラを出しているのですか!?」
「だって可愛い可愛いレインの結婚式だよ! 今から凄い楽しみだからね!!」
リザールは相当レインのことを溺愛しているみたいだねぇ。
「……申し訳がないが、色々と事情があってもう少し時間が必要だ。ご期待に添えなくて申し訳ない」
「いえ、スザンナ様が謝ることではありませんよ! スザンナ様だって長らく婚約者のままなのですし……」
必死に宥めようとしているスタンランには申し訳ないけど、ソイツ、一生婚約者のままでもいいと思っているよ?
まあ、今回の件でレインを側室にまで昇格させないといけなくなったから、スザンナもいつまでも婚約者でいいという訳にはいかなくなったみたいだねぇ。
ちなみに、第二王子のルクシアには婚約者がいなかったものの、二年前に自身の有力派閥となる第二王子派閥のライツァファー公爵家からフレイ=ライツァファー公爵令嬢を婚約者に迎えた。
茶色い髪と瞳を持ち、清楚な雰囲気と小動物のような愛らしさを併せ持った箱入りの貴族令嬢というフレイは、ラインヴェルド達に呼び出しを受け、そこで派閥闘争の裏側で起こっていることを告げられて真っ青になったそうだ。
昔から優秀で、毒薬学博士の狂人王子と陰口を叩かれる中でも直向きに薬学研究を続けていたルクシアに学園時代から憧れて恋に落ち、それから更に気持ちを募らせていたそう。
一方、ルクシアも学園時代から毒薬学博士の狂人王子と陰口を叩く貴族達に、勇気を出して言い返していたフレイのことを気に掛けていて、ヴェモンハルトとスザンナのような関係ではなく、本当に婚約者同士で愛し合っているみたいだよ。
……フレイも自分が婚約者のままである意味についても理解していて、家族からとっとと結婚して第二王子の国王即位の追い風にせよという催促に彼女なりに必死に抵抗しているそう。
フレイも王妃になることに野心がある訳でもなく、早くルクシアと一緒に幸せになれるのならどんな形でも構わないと思っているそうだ。
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