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Act.8-167 第一王女の誕生パーティ scene.5

<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


「お久しぶりですわ。アレッサンドロス教皇臺下、コンラート筆頭枢機卿猊下」


「こちらこそ、お久しぶりでございます。アネモネ閣下、スティーリア殿」


 狂信者のアレッサンドロスとコンラートとは事前にかなり打ち合わせを行った。

 アネモネ=リーリエの図式がバレないように、そして面倒ごとにならないように、アネモネに対して信仰の目を向けないようにといい含めてある。二人の説得のために、大量の宗教画を描き、ヴァンとの演奏勝負で披露した例の曲に題名と歌詞までつけて『讃美曲第一番 聖女神の聖戦』として楽曲提供まですることになった。

 ……『賛美歌二十四番 星の光は満ちて、あゝ聖女様』がパイプオルガン一つで演奏することを前提としているのに対し、『讃美曲第一番 聖女神の聖戦』はオーケストラ演奏が前提となるものに書き改めている。確か、天上の薔薇聖女神教団はオルガン奏者を各教会一人ずつぐらいは抱えている筈だけど、当然オーケストラは抱えてないから、この曲を完璧な形で演奏するためには、オーケストラ団員を抱え込まないといけないよねぇ。

 ……と思ったら、早速アレッサンドロス達が王都で有名なオーケストラに依頼して、講師として総本山に来てもらえるように契約したとのこと……まさか、お前らが覚えるの!? って少しびっくりしたねぇ。


「お初にお目にかかります、リィルティーナ=オーランジェ様。私は天上の薔薇聖女神教団で教皇をしております、アレッサンドロスと申します」


(……どういうことですか? ローザ様? アレッサンドロス様とは面識がありますよね?)


(まあ、そうなんだけどねぇ。これまで公式の場で顔を合わせている訳ではないし、初対面ということで上手く口裏を合わせてねぇ。それに、リィルティーナ=レイフォートン(・・・・・・・)としては彼と面識があっても、リィルティーナ=オーランジェ(・・・・・・)としてはないよねぇ?)


 リィルティーナの小声での質問に、同じ小声で返すと、リィルティーナは美しくカーテシーをして――。


「お初にお目にかかりますわ。リィルティーナと申します。魔女の森ウェネーフィカ・ネムスの魔女レジーナ様の弟子ですわ」


 最近、男であった頃の感覚が薄れてきているのか、レジーナがしっかり淑女教育を叩き込んでいるのか、リィルティーナの言葉には不自然さがないねぇ。

 ……そういえば、最近は「スカートを履くのもあんまり違和感が無くなってきてしまったのですよね。……僕の中にもうオトコノコの欠片も残っていないんですかね?」と死んだ目をしながら言っていたっけ?


 この時点でかなりの人数がリィルティーナが伝説の聖女クラリッサ=オーランジェの子孫ということに気づいたみたいだねぇ。


「お噂はかねがね。なんでも、リィルティーナ様も聖女としての資質を持っているとか。どうでしょうか? 天上の薔薇聖女神教団で聖女の修行をしてみるのは? 我々も聖女候補を探しておりましてね」


 天上の薔薇聖女神教団には『聖女候補』が数名いるものの、『聖女』は現状、二人しか存在しない。

 一人は『癒しの聖女』の異名でも知られる天上の薔薇治癒師修道会の治癒師長のルイーゼ=プファルツ、そして、もう一人が『武の聖女』の異名でも知られる天上の薔薇騎士修道会副騎士団長のエリーザベト=グロリアカンザス。


 しかし、ヒロインが最終的に選ばれる『真の聖女』、あるいは『大聖女』と呼ばれる立場にある者は現状、一人としていない。

 現在、『聖女候補』とされるのは三名。しかし、彼女達を含め、いずれも『大聖女』に就任することはできないことが確実視される。

 理由は単純明快、他に『大聖女』に就任するべき人材がいるから。


 彼女の名は、まあ、とりあえず仮称でマリエッタと置いている――皆様ご存知『スターチス・レコード』のヒロインだねぇ。


 では、そもそも『聖女』とは何なのか? その定義を確認しておこうか。

 天上光聖女教においては、魔族と魔物を浄化し、世界を平和にするという天命を与えられた人類の希望、或いは平和のための戦いの旗印。

 その意義そのものは天上の薔薇聖女神教団が変更を宣言していないため、変わってはいない。


 しかし、天上の薔薇聖女神教団も所属する多種族同盟は亜人種や魔族とも良好な関係を築こうとしている。この『聖女』という存在は、当然、魔物や魔族と敵対しないのであれば不要となる。

 一方、魔族の脅威が仮に去ったとしても、この世界から全ての危険を取り払えるという訳ではない。じゃあ、『聖女』が『管理者権限』を持つ神に対する切り札になるかと言われると怪しい……まあ、真聖なる神々(プレーローマ)が出張ってきたら、時空騎士(クロノス・マスター)でも怪しくなってくるんだけど……。


 ということで、表向き光属性の適性を有する女性を集めている一方、天上の薔薇聖女神教団を含む、通称、四位一体教では時空属性に適性を持つ者を見出す活動が行われている。……まあ、あまり状況は芳しくはないんだけど。


 『聖女』に求められる資質は光属性の適性だけではない。これだけなら、天上の薔薇聖女神教団に所属する神聖護光騎士団の一部や天上の薔薇治癒師修道会の修道女でも事足りるからねぇ。

 『聖女』は光属性の適性に加えて、人々を導くことができる求心力、そして聖女に相応しい見目の美しさ、この二つが必要になってくる。


 『聖女』達の頂点に君臨する『大聖女』となれば、他の『聖女』達を凌駕するものが必要となる。

 勿論、『大聖女』一人に全てを背負わせる訳ではない。彼女はあくまで民衆の心を集め、人々を魔族達との争いへと導いていく、いわば看板としての価値を求められていた。

 権限なんてほとんど与えられない。『大聖女』とは祭り上げられるものであり、天上光聖女教の権威の源であり、天上光聖女教の道具に過ぎなかった。


 勿論、それはあくまで前時代的な話で、『聖女』のシステム自体はほとんど外側からは気付かれないように、上手く形骸化した形で残っている。

 全てはヒロインをヒロインたらしめるため。ヒロインを聖女候補として入学させることで、乙女ゲームのある程度の形を維持させたまま誘き出すのが目論見だ。……現状、ローザが『管理者権限』を握っているのは間違い無いとは思うけど、ヒロインだって為人を確認できない以上は野放しにしてはおけないからねぇ。


 ……まあ、今は聖属性や神聖魔法を会得する方法が発見された時代。『聖女』を運用するより、聖属性や神聖魔法を獲得した教皇達や、聖騎士、修道士、修道女達を派遣する方が戦力になるのだから、昔以上に『聖女』=アイドルという図式が強まってきているんじゃないかな?

 ……そのアイドルである筈の『聖女』二人のうち、二人ともが聖人の修行をしていて、どちらも神聖魔法の獲得が確実視されているんだから、『聖女』も確実に戦力として通用するようになってきているんだけどねぇ……。


「大変名誉なご提案ではございますが、私はまだまだレジーナ様の元で学ぶことが沢山ありますので、辞退させて頂きたいと思います」


「ふん、こいつは後々、魔女の森ウェネーフィカ・ネムスの自治領主を引き受けてもらわないといけないんでね! 悪いけど、アンタらにはやれないよ!」


「そうでございましたか。『大聖女』クラリッサ様のご子孫で、尚且つ高い光属性の適性を有するリィルティーナ様なら、素晴らしい『聖女』になれると思っていたのですが、本人の意思を無視して無理強いはできませんね」


 ……という、この一連のやり取りは勿論、ボク、レジーナ、アレッサンドロスの三人で事前に話し合って決めたものだ。

 クラリッサの子孫であることはバレなくても、いずれ高い光属性の適性を有することはバレる。ならば、先に『聖女』に相応しい力を持ちながらも辞退せざるを得なかったというシナリオを作っておくべきなんじゃないかという話になったんだよねぇ。


 勿論、効果はそれだけじゃない。この場でレジーナが正式にリィルティーナを後継者と認めたことで、『聖女候補』に相応しい光属性適性を有し、最も『聖女』に近いといえる上に、更にレジーナの後継者でもあるリィルティーナと友誼を結びたいと貴族達は必ず思う筈だ。

 そうすれば、貴族達から事前にリィルティーナに話しかけてくるようになり、レジーナがリィルティーナを連れて来た目的の一つである社会勉強にも繋がる。まあ、どちらかといえば、その場で自分の後継者を紹介して、世代交代をスムーズに運ぶためという目的の方が大きいんだろうけど。

 社交している暇があるなら、ユリアと戯れていたいというのが本音だろうからねぇ。


 余談だけど、レジーナが貴族達から軽んじられることはない。

 魔女の森ウェネーフィカ・ネムスは自治領としてしっかりと認められており、没落したとはいえ元々はニウェウス王国の王女――高貴な血の生まれである。更に、冒険者としても高い実力を誇り、ラインヴェルドやオルパタータダともパーティを組んでいたことも知られているため、普通に同格の存在として国賓として呼ばれたと理解されているんだよねぇ。


 この場で蔑まれているのは、成り上がりのアネモネさんだけだったりするんだよ。まあ、だからって何も思わないけどねぇ……強いて言うなら、スティーリアが暴走しないといいなぁ。



 影が薄かった(まあ、全く知らない他大陸の王族の誕生パーティなんだから致し方ないんだけど……)フィートランド大公夫妻ともご挨拶してから、ボクとスティーリアは再び二人で挨拶回りをするために動き出した。


 目指すのは、特務騎士メンバーが集まっている一団。ちなみに、このメンバーは魔法省の斜陽部署所属の変人達として認知されているようで、挨拶をしに来る貴族達も少なく、どちらかというと避けられているみたいだねぇ。


「お久しぶりですわ、リサーナ=ノーヴェンバー侯爵令嬢、ケプラー=ゲルン侯爵令息、ヒョッドル=コーニッシュ伯爵令息、カトリーヌ=デーリアス子爵令嬢、シュピーゲル=プラードン男爵令息」


 ボクはそんな空気など気にせず、リサーナ達に声を掛けた。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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