Act.8-162 ルークディーンのプレゼント選び〜ローザとアルベルトの第一回デート〜 scene.1
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
プリメラの誕生パーティが差し迫る。
今回は王女宮が主体ということで(当日はボクはアネモネとしての参加で執事長のオルゲルトがボクの代わりを引き受けてくれる筈なだけど)、それまでの準備には色々と仕事がある訳で……うん、それでもいつもと仕事量がそんなに変わっていないボクは仕事のし過ぎなのじゃないかと今更のように自問自答。多分仕事をサボる大臣とか、軍務省の長官殿とかの仕事をこっちに流してもらっているからだと思う……たまに国王の書類が混ざってくることもあるんだよねぇ。
何故か大臣と軍務省の長官の印章だけではなく国王の玉璽まで複製が手元にあるんだよねぇ……宰相閣下が「国王陛下よりも信頼できるローザ様になら是非お受け取りください。ついでに私の宰相印も必要でしたら」とそれはそれは信用し切った表情で手渡ししてきたんだけど、一応今のボクって最も通用する肩書きが他国の首相なんだよ? まあ、不正なことなんてしないけどさ。する必要もないし。
そんな訳で普段は大臣と軍務省の長官、たまに国王の代わりに印を押したり、書類を確認したりという法的にグレー通り越してアウトなことをしているんだけど(これ、ある種犯罪なのに宰相閣下達が黙認しているって本当に大丈夫なのかな?)、流石に今のタイミングでボクに仕事を回すのがまずいと分かっているのか王弟殿下と大臣からの仕事の流れがガクッと減ったので釣り合いが取れている状態。
ただ、この忙しい中でもそれ以前にルークディーンと約束したプレゼント選びがあるので、本日はプリムラに断りを入れた上で統括侍女に休日取得の許可をもらい(何故か有給扱いになってしまった)、ルークディーンとアルベルトと共に王都に繰り出すことになった。
公爵家から馬車を出してもらい(馭者はカノープスが仕事に行く際によく馭者役として連れて行く衛兵のフェイトーンにお願いした。お陰で、ヘクトアールは今日一日平穏な土いじりの時間を得られたらしい……と思ったら、カレンがジーノにまたしても勝負を仕掛けたみたいで、庭が滅茶苦茶になって涙目になっていた。
待ち合わせの場所には既に二人の姿があった。先に着いていたルークディーンが手を振る姿は相変わらず子犬みたいで、その後ろのアルベルトがまるでリードを持った飼い主のように見えてしまった。
「侍女殿! こっちだ!」
「こらルークディーン! ローザ殿、申し訳ございません。弟が無理にお誘いしたようで」
「いいえ、お誘いありがとうございます。今日はアルベルト様もご一緒だとは知りませんでした」
「私も弟に請われてのことでして……困ったものですが、他ならぬ可愛い弟の頼みですから」
「兄上、侍女殿! ほら、早く早く!」
「ルークディーン!」
「よろしいではありませんか。きっと楽しみなのですよ」
既に買いたいものは大体決まっているということで、ボク達は(ビオラを除けば)国一番の品揃えを誇るマルゲッタ商会にやって来た。
……まあ、歴史と伝統のあるマルゲッタ商会の方が信用度高いからねぇ。
……それだけじゃなくて、ラピスラズリ公爵家がビオラと深い関係にあることは知っているだろうから、ボクに気を遣わせないためという意図もあるんだろうけど。ボクとしては、やっぱりビオラにお金を落として……いえ、なんでもないですわ、オホホホホ。
着いてそのまま別室に案内され……前世で言えばVIPルームって、今世でもビオラにはあるんだっけ? まあ、基本高貴な身分の方々を相手に商いをする時はこちらから出向くからあんまり使わないんだけどねぇ。
「じ、侍女殿、俺の記憶違いでなければ王女殿下はオレンジ色の薔薇が好きだったと思うんだが、どうだろうか?」
「はい、合っておりますわ」
「良かった。喜んで頂くにはどうしたらいいんだと俺なりに考えたんだ。お好きだと仰られた薔薇の花……それに似たネックレスを見つけたものだから」
「まあ! それは素晴らしいですわ!」
お姉さん的には評価高いですよー! 後でシェルロッタとラインヴェルドにも伝えなくては!
前回はリードされっぱなしの姿を見せられたからプリムラに相応しい男になれるのか心配だったけど、この調子なら……うんうん。
恋は女を変えるっていうけど、男の子も成長させるものなんだねぇ……って色々思い返してみたら恋が人を盲目にさせるケースの方が多かった気がする。これは良い意味で稀有なケースなんだろうか?
どんなネックレスを選んだのかボク達には見せてくれなかったけど、照れながらもどこかやり切った感を見せている少年はボクから見ても微笑ましかった。きっと飯島綸那と雪城真央辺りならこの微笑ましさで卒倒していただろうねぇ。
「そ、その……後はメッセージカードもいくつか頼みたい」
「畏まりました」
そして、あのルークディーンがメッセージカードを!? 字が汚いからと書くのを嫌がって手紙を渋っていたのに、これは相当成長しているぞ!
まだまだ練習を始めたばかり、目に見えて進展している訳ではないのだけど、書く気になってくれたというだけでも十分な進歩だ。ボクのアドバイスが効いているようで何より。
「あ、兄上、どういうカードがいいと思う?」
「こういうものは直感で選ぶといい。ルークディーンが王女殿下に対してメッセージを書きたいと思うものようなものを選ぶのが一番だ」
「私もアルベルト様に賛成ですわ。欲しいと思うものは大凡直感で九割決まってしまうものです。ちなみに、女性がどちらがいいと聞くものも、実は答えが決まっているということがほとんどなのですわ。そういう非効率なものを楽しむのも恋人や夫婦の醍醐味なのかもしれませんね。私も大抵一目惚れで物を選びます。逆に一目惚れしない時は別の店に行くか、出直すかのどちらかですわ。妥協で選べば後々こうした方が良かったと後悔するものですから」
「うう……そうか。実はさっきからこれが良いのではないかと思っているものがある……このメッセージカードを頂きたい。侍女殿、メッセージのアドバイスを頂けないだろうか?」
「そうですわね……凝った言葉で飾り付けるよりも自分の想いを素直に表現するのが一番だと思いますわ。きっと王女殿下もその方が喜んでくださると思いますわ」
「そ、そうか……な? うん、頑張るよ」
案外悩むこともなく商品選びはすぐに終わってしまった。ボクとアルベルトのアドバイスの効果だろうか?
まあ、肝心なのは形式よりも中身、込められた思いだ。自分がプリムラのことを考え、良いと思ったものを届ければ必ずプリムラも喜んでくれる……と思うよ。ボクはプリムラじゃないから断言はできないけどねぇ。
ネックレスとメッセージカードを購入し、満足げな表情をしながらルークディーンが出て行くと、丁度別の部屋から豪奢に着飾った女性が夫と思われる男性を引き連れるように出てきた。
その姿に少し思うところがあったのだろう。ボクの方に視線を向けて――。
「自分が王女殿下と買い物に来るならああいう風ではなく、隣を歩きたいと思うんだが、侍女殿はその……変だと思うから?」
「えっ? ……そうですわね、別段、変という訳ではないと思いますわ」
「……きっと照れてしまうし慣れるまでは大変だと思うが、その、やっぱりあの方が好きな物語の騎士のように、女性をリードし守れる方が、その、あの方が喜んでくださると思うんだ。だ、だからそのようにしたいのだが……やっぱり、物語と現実は違うし……その」
「いえ、とても素晴らしいお考えだと思いますわ」
これはかなり根深い問題で、男性優位が良いかどうかははっきり意見が分かれる。女性が財布を握っていれば世の中上手く回るって考えもあるし、割とボクもそっちに近い立ち位置なんだけど……まあ、プリムラとルークディーンの場合は、ルークディーンがエスコートするという形でも良いかもしれないとは思う。
ちなみに、ボクと月紫さんならボクの方がエスコートするよ。いつも張り詰めて抜き身の刃みたいになっている月紫さんを、ボクの手でできる限り蕩けさせてあげたいって思っているからねぇ。
普段は凛々しいくノ一メイドさんってって感じだけど、たまに見せる少女みたいなあどけない微笑みが、安らいだ表情が、とてもボクは好きなんだよ。だから、可愛い月紫さんを精一杯甘やかせてあげたいって思ってしまうんだけどねぇ。
……これ、所謂ギャップ萌えなのかな?
まあ、ドM的成長はしなさそうになったという点ではプラスかな? モネは三人もいらないとボクは思うんだよ。……というか、本音を言えば二人もいらない。
◆
ルークディーンの成長ぶりに内心胸を撫で下ろしていると、後ろからアルベルトに声を掛けられた。
……勿論、気配を読んでいるから背後にいるって気づいていたよ?
「ローザ殿、これを――」
振り返るとアルベルトの手には小さな包みがあり、それを差し出していた。
……なんかちょっとずつ外堀を埋められてきているような、陛下の掌の上で転がされているような気がしながらも、これを受け取らない訳にはいかないだろうし、陛下の意図とは別にアルベルトの気持ちは善意だろうし、さてどうしたものかと頭を悩ませていると……。
「中身はただの髪飾りですから、受け取っていただければ」
「そういう訳には参りません! 受け取る理由がないじゃないですか」
そう、それなんだよねぇ。まず、アルベルトからプレゼントを受け取る理由がない。
ボクとアルベルトの関係はプリムラとルークディーンの良好な関係を築くための同志――ただそれだけなんだから。
「いや、たまたま目にした髪飾りがですね、貴女の赤髪に映えそうだと思ったもので……受け取って頂けないと逆に私が困ってしまいます」
ちなみに、天下のマルゲッタ商会の商品と言ってもピンからキリまで……ただし、今日はVIP向けの別室に来ている訳だから当然お高いものということになる。
別にボクも買えるっちゃ買えるけど、ボクが仮に普通のご令嬢であるとすれば自分の自由にできる範囲で買えるか買えないか微妙なんじゃないかな? まあ、家に頼らずに自分でお金を稼いでいる貴族令嬢ってそんなにいないだろうけど、世間的に見れば、まあ大変高価な代物という訳で……つまり、何が言いたいかというと、いくら王女宮筆頭侍女の力が必要だとはいえ、賄賂としては高過ぎると思います。
ほら、賄賂の支払いは最低価格で、報酬は最高価格でって緑の全身タイツの三十五歳独身も実践していたし……ねぇ。くるりん、ぱっ。
「是非この髪飾りをつけて見せて頂けたらと⋯⋯」
「そ、そんなしょげた顔をしても頂く理由にはなりません」
「ではどうしても受け取って頂けないと?」
「ですから⋯⋯」
旗色が悪いといってもこれは逃げるしかない。
できるだけ抵抗を……じゃないと、最悪の場合、恋愛に発展しかねない。流石にそんなロリコンみたいなことにはならないし、子供相手に真面目に恋愛感情なんて抱かないと思うけど……念には念をだ。というか、ボクは男は恋愛対象にならないって何百回言えばいいの――。
「理由、理由ですか……うーん、では、こういうのはどうでしょう? 弟がいつもお世話になっておりますから、そのお礼として是非受け取って頂けたらと」
ぐぬぬ……これでは断りにくい。これ以上断ったら不自然だし、固辞する理由というものも尋ねられることになる。
今はアルベルトと良好な関係を持っておいた方が都合がいい訳だし、ビジネスライク、ビジネスライク。
「……それなら、仕方がありませんね」
「はい、仕方がありません。ありがとうございます、受け取ってくださって」
ここで普通の令嬢ならアルベルトのウィンクで喜ぶべきところだけど、ボクは内心げんなりです。
……平穏よ来れ。と思わず心で呪文を唱えてしまった。しかし、何も起こらなかった。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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