Act.1-15 大迷宮挑戦と廃棄された計画 scene.2
<三人称全知視点>
「えっ……もしかして…………もしかして、まどかちゃんなの!?」
「まあ……そういうことになるねぇ。まあ、だからといって何かが変わる訳でもないけど」
「園村君……いえ、百合薗君だったかしら? 咲苗は貴方のことをどれだけ探していたと思っているのよ! 気持ちを伝えたいって、ずっと頑張ってきたんだから」
「それじゃあ、まるでボクが何もして来なかったみたいじゃないか? ボクには到底理解できないよ? 咲苗さんの辛さなんて。ボクは咲苗さんじゃないんだから。でもねぇ、君達だってボクの人生を理解できる訳がない。平和な世界で普通に学校に通って、そんな風に人生を謳歌してきた君達には」
圓は懐からこれまでとは全く種類の違う札を取り出しながら、一回も振り返らず巴に反論した。
「瀬島新代魔法――四次元顕現」
札が消滅し、中から沢山の札が綴られた綴りと刀が現れた。
圓は鞘を括り付けると、刀を抜き払う。その姿は巴以上に様になっていた。
「さて、犬狼牙帝――ウィルフィンの森のフィールドボスで初心者殺しの強者か。一度、どこまでボクの力が通用するのか、試してみたかったんだよねぇ。これだけは、シャマシュ――神を騙る未発売ゲームのラスボスに感謝しないとねぇ」
圓は炯々と瞳を輝かせた。凄惨な笑みを浮かべて、愉悦に顔を歪めている。その姿は防御のための盾を捨てて両手斧を振るう果敢なスタイルを選んだ狂戦士のようだ。
「……園村……いや、百合薗だったか。お前は非戦闘職だろ? それに、魔法を使えるようだが、どこまでの実力かは分からない。……勝算はあるのは」
「さあ、どうだろうねぇ。ところで、自称『Eternal Fairytale On-line』ファンの咲苗さんに問題です! 犬狼牙帝の攻撃パターンは大きく分けて三つあります。さて、それは何でしょう? シンキングタイム、スタート!!」
掛け声と同時に圓は刀を構えたまま加速し、犬狼牙帝に迫った。
一方、犬狼牙帝は大量のコボルトを召喚し、嗾ける。
「えっ、突然言われても!? ええっと……強力な爪を使った連続攻撃と、無尽蔵に犬狼牙人を召喚する無限コボルト召喚、得物である槌矛を使った強力な打撃攻撃」
「正解。まあ、要するに取り巻きとして無限に犬狼牙人を召喚できるのが厄介だってことだねぇ」
「無限にコボルトを召喚だと!? そんなのアリなのか!?」
あまりにも絶望的な状況に、ゴルベール達は正気を失いかけた。
クラスメイト達にも動揺が走る。
「でも、さ。ボスさえ倒せば召喚は止まる。――まあ、でもこれはゲームじゃなくてリアルなんだから正攻法だけが手段じゃない。桃郷一刀流奥義・浄土桃斬」
淡い桃色の光が刀に宿った――と思った瞬間、荒れ狂う奔流が大軍の前方のコボルトに殺到した。
斬撃を受けたコボルトは一瞬にして消滅し、コボルトが消滅した地点からは桃の樹木が生えてくる。その桃の木に触れたコボルトもまた同様に消滅した。
「精霊や妖精、種族的な鬼も含めたものを生まれついての鬼、人から堕ちた存在や転化した存在、亡霊などを人から成った鬼とし、その両方の討伐を担った鬼斬の技だ。表の歴史では語られもしない、裏世界の技の一つ。まあ、財閥七家の桃郷清之丞さんから見様見真似で覚えた技で、実際の師匠は元政府機関の《鬼斬機関》、かつては《鬼部》と名乗っていた組織に属している千羽雪風さんということになるんだけどねぇ」
「鬼と戦う……まるで、渡辺綱や陰陽師――安倍晴明みたいね」
「なかなか鋭いねぇ、巴さんは。それじゃあ、ご希望にお応えして、次は陰陽術を使うとするよ。臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」
手刀で空中に四縦五横の格子を描く九字――破邪の法を切ると同時に犬狼牙帝に放った。
「ありゃりゃ……やっぱり簡単にはやられてくれないか」
しかし、その一撃では犬狼牙帝は倒れず、警戒した犬狼牙帝がコボルトを盾にするという行動に出たため、事態が大きく悪化した。
「鬼斬の技は霊力と呼ばれる特殊な力を剣に宿すことで実体のない存在にもダメージを与えるってものだけど、陰陽術は夜空の星の持つエネルギー……星脈や大地の持つエネルギー……竜脈を利用し、強力な力を発生させる技術だねぇ。大陸から渡ってきた陰陽道という考えを根幹に、これらのエネルギーを陰陽五行エネルギーに再編し直すというものが技術の根幹にある……とまあ、こんな感じで似たようなことを目指しても、そこまでに達するプロセスが違ったりするんだよ。さて、次は……人間に害を成す者を倒すだけが裏の世界での戦い方の全てではない。時には呪いを扱うこともあるんだよ。ってことで、東洋呪術――牡丹灯籠」
札を使わずに瀬島新代魔法を発動して牡丹の絵が描かれた灯籠を取り出した圓は、それを勢いよくコボルトの前に投げつけると、迷宮で死んだ者達の怨念が幽霊の形となって飛び出し、一斉にコボルトに向かって襲い掛かった。
その光景に、クラスメイト達のほとんどは完全に涙目になっている。中には阿鼻叫喚の声を上げる者や失禁する者もいた。
「人を呪えば穴二つってことで対陰陽師じゃ使えないんだけど、コボルトに呪い返しなんでできる訳がないからねぇ。ちなみに師匠の祖先はなんと邪馬台国の女王卑弥呼。呪術……いや、鬼道と当時は呼ばれていたもので当時名もなき弧状列島だった大倭秋津洲を支配下に置いたこともある天才呪術師だよ。さて……余裕があるうちにさっきの巴さんの疑問をサクッと解決しちゃおう」
「……へぇ?」
突然名指しされて固まる巴だが、圓は刀を一度鞘に戻しながら無視して会話を続ける。
「江戸時代から続いている道場って五十嵐流は掲げているみたいだけど、まあ、ここまで見てもらって理解してもらえたと思うけど、物によっては古代まで遡れる技術が今なお存在している。さっきの呪術はまさにそうだし、これから使う常夜流忍術は鎌倉時代に常夜幻が創設した常夜流忍者が代々継承してきた技術だ。それを、彼らは一子相伝で伝えてきている。つまり、表の技術ってのは高々江戸レベルまでしか遡れない訳だけど、おまけに劣化しているんだ。かつては太刀術、小太刀術、二刀術、抜刀術、鞘術、杖術、分銅鎖術、槍術、薙刀術、体術、鉄扇術、弓術、騎馬術、泳術、歩術の五十嵐流十四芸なんて言われてきたけど、今は刀術と体術だけだよねぇ。でも、それは仕方のない事なんだよ。江戸末期頃から武士の数が極端に減って侍局に所属するものだけとなったため需要が減り衰退したんだから、他の道場だって同じように衰退している。五十嵐流だけじゃない。巴さんのお父さん――五十嵐斎さんも自分の代で道場を閉じようと思ったみたいなんだけどねぇ。でも、斎さんには巴さんっていう先祖返りみたいな強さの娘さんがいた。それで注目されて喜んで、自分の代でかつての五十嵐流十四芸を蘇らせるんだって、子供の頃の夢を叶えるんだって思ったみたいだよ。それでボクに……正しくはボク達にかな? お声が掛かったって訳さ。ゲームクリエイターや作家として認知されているけど、ボクの本業は投資家だからねぇ。そして、ボクは夢を追いかける人が好きなんだ。だから、損得勘定抜きで本気で力になってあげたいという人には力を貸す。ビジネスで知り合った国語学者の伝で近世文芸を研究している教授さんを紹介してもらって、その人と一緒に屋根裏に残っていた古文書の解読に挑戦した。その結果、三割は復活させることができたと思うよ? 口伝じゃなくて資料を残しておいてくれたのが良かったねぇ。まあ、ボクと五十嵐道場の関係はそんなところだよ。お分かり頂けたかな?」
「まさか……圓さんとお父様にそんな繋がりがあったなんて」
「さて、そろそろ本気を出すよ。特に巴さんは見ておくといい。――これが、裏の世界に受け継がれてきた人殺しの技さ。常夜流火遁忍術・煉焔纏武! 吾是天帝所使執持金刀。非凡常刀。是百錬之刀也。一下何鬼不走、何病不癒。千妖万邪皆悉済除! 闘気昇纏・金剛闘気! 闘気昇纏・剛力闘気! 闘気昇纏・迅速闘気! 雷精-黒稲妻・纏-! 瀬島新代魔法――斥力の刃!! 常夜流忍暗殺剣術・朧月夜-圓式-」
自然エネルギーを炎に変換して武器に纏わせる常夜流忍術、陰陽五行エネルギーを武器に乗せることで霊的存在にも攻撃が可能になるという陰陽術、三種類の気を纏わせることで身体強化を行う技術、雷の精霊に霊輝を供給することで発動し、全身に黒雷を纏うことによって、身体能力を飛躍的にアップするできる原初魔法、電磁操作系に分類され、クーロン引力を中和して斥力のみを顕在化させる瀬島新代魔法――圓が使えるほとんどの力が宿った刀で放つのは、騎士として一流のゴルベールや表側の剣士としては上位に位置する巴ですら、残像を追うことすらできない、身体操作を極めた末に到達した究極にして全ての剣術の基礎となる技術によって強化された剣の動きに緩急をつけることで剣の残像を生み出して変幻自在の攻撃を放つ常夜流忍暗殺剣術の秘儀――つまりは、圓にしかできない奥義。
犬狼牙帝が全く対応できない速度で迫られ、見えない斬撃を喰らった瞬間には犬狼牙帝の肉片が飛び散り、最早原型を留めない肉塊と化していた。
「後は雑魚一掃ぅ! 渡辺流奥義・颶風鬼砕! 千羽鬼殺流奥義・北辰!!」
圓は軽快に鼻歌を(実は『Eternal Fairytale On-line』のバトルテーマ曲)歌いながら、鋭い風の刃をイメージした霊力を武器に宿し、勢いよく抜刀して横薙ぎすると同時に爆発させて周囲全てを斬り捨てる渡辺流奥義と、善悪や真理をよく見通し、国土を守護し、災難を排除し、正邪を見極め、敵を退け、病を排除し、また人の寿命を延ばす福徳ある面と、それが邪であれば寿命を絶ち斬る面の二つの顔を持つ菩薩の名を関する通り、斬りたいものを斬り、斬りたくないものは斬らないという斬るものを選別するという技を器用に組み合わせ、周囲一帯のコボルトの魂のみを纏めて両断した。
「勝った…………のか」
唐突に、圧倒的な武力によって制圧されたという状況に、危機が去ったという感覚を抱けないゴルベール達であった。
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