Act.8-156 西端の地ウォーロリア山脈帯の古代竜と精霊王 scene.1
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
プリムラは本日も王女としての教育の一環で神殿で勉強している。
午前中は誕生パーティに向けてスカーレット、シェルロッタ、ソフィス、ジャンヌ、フィネオ、メアリー、メイナと準備を進めていたんだけど……。
「ローザ様、ご来客でございます」
別の部屋で仕事をしていたオルゲルトがボクに来客が来たことを伝えに来てくれた……うーん、来客?
「本日は来客の予定は無かった筈ですが……目的は私ですか? ちなみに、どなたが?」
「『落葉の魔女』のお弟子さんと、ドランバルド殿とドランバルド嬢でございます」
「ローザ様は元宮廷魔法師団団長の『落葉の魔女』のお弟子さんともお知り合いなのね。でも、ドランバルドという家名は聞いたことがありませんわ」
話を聞いていたスカーレットがジャンヌ、フィネオ、メアリー、メイナと共に小首を傾げている。
「ドランバルド様というと、ナトゥーフ様とオリヴィア様ですわね! ナトゥーフ様は属性を持たないが故に全ての魔法を喰らうことができると言われる原初の古代竜で、オリヴィア様はそのナトゥーフ様に育てられた竜の巫女よ」
「ソフィス様はご存知なんだね。……いくらなんでも、ローザ様の交友関係、広過ぎじゃないかな?」
「まさか、古代竜まで……もう、誰と友達だとお聞きしてもきっと驚きはしないと思うわ」
「ジャンヌ様、フィネオ様、たまたまご縁があったからでございますよ。……しかし、妙な組み合わせですね。シェルロッタさん、こちらはお任せしてもよろしいでしょうか?」
「畏まりました。既にローザ様が王女宮筆頭侍女として終わらせなければならない書類は全て片付いておりますし、後は私共に任せて頂いて大丈夫だと思います」
「……私はいらない子ですか?」
「いえ、お嬢様の仕事が早過ぎるのです。……お嬢様の場合は文字通り、書類が宙を舞いますからね」
《神の見えざる手》を使ったマルチタスクとか、本当に便利だからねぇ。まあ、元々の処理能力も割と高いし、仮に使わなくてもすぐに書類が片付いてしまうんだけど。
「E.DEVISE」経由でメール添付されてくる書類や、王女宮側で位置から作る書類はもっと簡単。並列思考を使って、同時に複数のタブで別々の書類を作ればいいだけだからねぇ……つまり、趣味で小説を書いている時と同じ。
「それでは皆様、よろしくお願いします」
この場はシェルロッタ達に任せ、ボクは王女宮筆頭侍女の執務室に戻る。
……やっぱり、こうしてシェルロッタに仕事の指揮を定期的に任せるのもいいかもしれないねぇ。いずれ、彼女には王女宮筆頭侍女になってもらわないといけない訳だし。
扉を開けると、中にはレミュアと、ナトゥーフと、オリヴィアと……。
「久しぶりっスね! 圓師匠!」
……なんか聞いてない奴が一人紛れていた。
◆
「いやぁ、今回の姫さんの誕生パーティに多種族同盟の各国の代表が出ることになったじゃないっスか。当然、エスコート役も必要なんっスけど……ウチらって脳筋多いじゃないっスか? そこで、優秀なウチに白羽の矢が立ったってことっス! ってことで、今日も打ち合わせに来て、ついでに師匠のところで甘いものなんかをご相伴に与ろうかな? と思いまして――」
「チェンジで」
「いやぁ、ウチくらい真面目な人はいないっスよ」
「嘘つけ、メアレイズさんにチェンジで――」
「そのメアレイズさんは『有給使ってどうして他人の誕生パーティに行って好奇の眼に晒されないといけないのでございますか!? その日、私は積読になっているライトノベルを読みまくるって決めているのでございます!!』ってことで、真っ先に欠席と有給消費を獣皇様に頼んでいたっスよ」
「……ちっ、ならサーレさんにチェンジで」
「舌打ちとか酷いっスよ! いつから、そんなに性格が酷くなってしまったっスか!? そ、そうっスよ、公爵令嬢のお嬢様ならお淑やかに! ひ、ひいッ! な、何にも言っていないっス! さ、サーレっスよね! というか、残りの文長はその日普通に仕事っスよ! ということで、隠れ優秀キャラなウチがやることになったっス!」
「……全く信用できないんだけどねぇ。というか、黙っていたら美人でも口を開いたら阿呆さが露呈するタイプのアルティナさんにちゃんと社交界での立ち居振る舞いができるの? できないと恥じゃ済まされないよ? 獣人族は所詮獣、人間と同列に扱うべきではないとかタチの悪いことを言われるよ?」
「だ、大丈夫っスよー! ウチだって普段から本気出していないだけで――」
「ふーん、昼行灯なんだねぇ。じゃあ、今度ボクがしっかりテストしてあげるよ」
「あっ、あー! そういえば、ウチ、大切な用事を獣皇様に仰せつかって――」
「はい、嘘。見気使えるボクにつまらない嘘を付くって……相当マンツーマンレッスンが楽しみなんだねぇ?」
「こ、こうなったら逃走あるのみっス!」
「アルティナは逃げ出そうとした。しかし、回り込まれてしまった。しかし、回り込まれてしまった。しかし、回り込まれてしまった。しかし、回り込まれてしまった。しかし、回り込まれてしまった」
「こ、怖いっス! わ、分かったっスよ! に、逃げないっスから!!」
……全く、なんでこんなコントを繰り広げないといけないんだろうねぇ。
オリヴィアが怖がって、レミュアが呆れているよ。……何故かナトゥーフは楽しそうだねぇ。どこが面白かったんだろうか?
「お久しぶり……ってほどではないけど、どうしたの? できれば、こっちじゃなくてラピスラズリ公爵家の方を訪ねて欲しかったかな?」
『ごめんね。こっちの方が確実だと思って。それに、オリヴィアがローザさんが王女宮で働いている姿を見たいと言ってね』
「ごめんなさい、ローザさん。お仕事の邪魔をして。その王宮の侍女のメイド服、とても似合っていますね!」
「ありがとうねぇ、オリヴィアさん。……まあ、そこの阿呆狐は置いといて」
「阿呆狐って酷くないっスか!?」
「レミュアさんとナトゥーフさん、オリヴィアさんの二人は別件だよねぇ」
「ええ、そうね。……どうやら、別件って訳でも無さそうだけど。私はしばらく聖人の修行をしようと思っていたところだったのだけど、師匠から精霊王の情報を入手したという連絡があって一度先送りにしてきたのよ。なんでも、可能性の高そうな文献を見つけることができたそうよ。その師匠はローザさんと一緒に行きたいようだから、他の精霊王と契約をしたいメンバーと一緒に迎えにきて欲しいと言っていたわ」
「メンバーとなると、後はエイミーンさん、ミスルトウさん、マグノーリエさん、プリムヴェールさんの四人か。……それで、ナトゥーフさんの方はどういった用件かな?」
『ボクの方で古代竜がどこにいるかを引き続き調査していたんだけどね。つい先日、一体の住処を見つけてね……まあ、ちょっと、ほんとちょっとだけ癖が強い子なんだけど』
優しいナトゥーフが言い淀むなんて……よっぽどの性格なんだねぇ。
古代竜の調査は依然継続中。ナトゥーフ、カリエンテ、スティーリア、ラファールは発見済みだから、残るは三体存在するということになるねぇ。
別に、残り全てを従魔にしたいという訳じゃない。できるなら良好な関係を築いて困った時に力になって欲しいなぁ、と思っている。
まあ、ナトゥーフの時のようにセルフ強化はしてもらいたいんだけどねぇ。
魔属性、火属性、氷属性、風属性と来て、残るは闇を司る〝暗黒竜〟、土属性を有する〝巌窟竜〟、そして光を司る〝星聖竜〟……恐らく、そのどれかだと思うんだけど。
「二つの話は聞く限り別件だけど……別件と言い難いということは目的地は同じだってことかな?」
「ええ、私の方は土の精霊王なのだけど……どうやら、リヴィア岬とウォーロリア山脈帯の付近にいるそうなのよ」
ウォーロリア山脈帯――大陸西側の最西端に位置する未開の地で、ラングリス王国の隣に位置する。
ラングリス王国ではかつて何度か領土拡大を求めてこの未開の地に侵攻しようとしたそうだけど、幾多の侵攻は全て失敗し、以後は封印の地とされてきたそう。
……まあ、薄々何かあるとは思っていたんだけどねぇ。
ウォーロリア山脈帯は、そういった理由から神聖な山……というよりは、踏み入れた者に厄災が降りかかる恐ろしい場所として言い伝えられている。
このウォーロリア山脈帯は現在、ラングリス王国の許可が無ければ入山はできないことになっており(まあ、何か起こって真っ先に被害を受けるのはラングリス王国な訳だし、今までウォーロリア側からの侵攻はないみたいだけど、要らぬちょっかいをかけて重い腰を上げないようにさせたいらしい。つまり、お互い、不干渉を貫きましょうっていうスタイルみたいだねぇ)、例え地位のある冒険者でも独自の判断で入山はできないそう。
「しかし、ナトゥーフさんの方は自分の眼で確かめてきたんだろうけど、ミーフィリアさんはよくそんな入山を規制されている山脈に関する文献を入手できたねぇ」
「あの後、師匠はローザさんに作ってもらった解読指南書を使って新たに発見した【世界樹の森林都市】の古代北部派エルフ文字文献を調べていたのだけど、その中で北部派のエルフが二手に分かれたことが判明したのよ。なんでも、政権を狙うクーデターが元でエルフの集落が二つに分裂しちゃったようで、サンクタルク王朝と袂を分かった彼らは南西の方角を目指し、ウォーロリア山脈帯に辿り着いたそうだわ。勿論、この大移動には亜人種を差別する人間と接触する危険が多く存在した上に、到達したその地はお世辞にも豊穣の地とは言えなかったそうよ」
その文献を残したエルフも当初は叛逆派に属していたそうだ。
クーデターで国を追われた者達は危険を冒しながらも安住の地を求めて旅を続けなければならなかった。
しかし、到達したのは木々が存在しない不毛な土地。酸素も薄く、植物を育てるのにはあまりにも適さなかったそう。
……エルフは森の民。故郷を追われたとはいえ、そんな地で暮らすことは到底受け入れなかったんだろうねぇ……更に袂を分かった書き手を含むエルフはサンクタルク王朝を目指したそうだけど、その中のほとんどは旅の途中で奴隷堕ちしたり、魔物に殺されたり……満足に戻ってこられたエルフはほんの数人だった。
その彼らは助命嘆願を願い、サンクタルク王朝はそれを認めたものの、やはり逆賊という立場は重く、常に監視され、後ろ指を差させる暮らしを送ったそう。こうなることは一度故郷を捨てた彼らは分かっていたそうだけど、それでも彼らは山で暮らすことを受け入れられなかったということだねぇ。
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