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Act.8-155 王子宮筆頭侍女レイン=ローゼルハウト子爵令嬢のお見合い scene.5

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


 会議室には統括侍女ノクト、ビアンカ王太后殿下、バルトロメオ王弟殿下、アーネスト宰相閣下、シモン王国宮廷近衛騎士団騎士団長、そしてヴェモンハルト第一王子殿下とレイン王子宮筆頭侍女が残った。

 ボクもエミリアからローザ(子供)の姿に戻り、今後について話し合う会議に出席することになっている。


「……あーあ、残念だったねぇ。折角、ヴェモンハルト殿下がざまぁされるんじゃないかと期待していたのに」


「……本当の本当に今回は私に負けるようにと念を送っていたんですね」


「ホント、レイン先輩がお優しい方で良かったねぇ」


「あらあら? ローザのことだからヴェモンハルトが勝つことを最初から見据えて今回のお見合いを行ったと思っていたのだけど」


「王太后様のご期待に添えず大変申し訳なく思いますが……今回は本気で捨てられてくれ、と願っておりました」


 一気になんとも言えない雰囲気に転じる会議室……いやぁ、流石にそんな出来レースみたいなことをできる訳がないじゃん。結局、最終的にレイン先輩が好きだっていう人を選んでいる訳だし、他人の感情のコントロールなんてできる訳ないでしょう? えっ、お前ならメンタルコントロールぐらい朝飯前そうだって? ……一体みんなボクのことをなんだと思っているだろうねぇ。


「皆様もご承知だと思いますが、レイン先輩はこの後、正式に第一王子殿下の婚約者になります。そして、レイン先輩自身のご希望で王子宮の侍女としての仕事も続けて頂くことになりますが……この際、そのまま王子宮筆頭侍女を務めて頂くというのはあまりよろしくないのではないかと思います」


「それは、つまりレイン嬢に王子宮筆頭侍女を辞職してもらいたいと……そういうことか?」


「アーネスト様の仰る通りです。やはり、一番は仕事量の問題があります。レイン先輩は第一王子の裏の仕事の補佐を務めながら、最も派閥闘争の激しい王子宮を纏めておりました。明らかにこれはオーバーワークであると考えます。本来ならばもっと早く進言すべきでしたが、第一王子専属侍女と王子宮筆頭侍女という立場の両立は困難を極めます」


「でも、ローザ? お前はプリムラの専属侍女と王女宮筆頭侍女を同時に務めているよな? んでもって、他にも色々やっているし……それ、オーバーワークじゃねぇのか?」


「バルトロメオ王弟殿下、ボクのことはいいんだよ、ボクのことは。……今回、ヴェモンハルト殿下との婚約が決まったことで、とりあえずレイン先輩が良縁を結ぶことで得ようとしていた恩恵については全て得られると考えて良いと思います。勿論、婚約者といってもプライベートな時間は必要です。そちらは上手く調整して頂けばいいと思いますが、このままでは満足に時間を作ることもできないかと思います。それに、以前の王子宮の派閥問題は、第一王子派と言えるレイン先輩が仕切っており、それを内心不満に思う侍女も大勢おりました。そこで、ボクは中立に見える人材を王子宮筆頭侍女に据え、レイン先輩は第一王子専属侍女のみを仕事とする形にするという方法を提示させて頂こうと思っております」


「しかし、そのような都合の良い侍女など……本当にいらっしゃるのでしょうか?」


「……アルマ=ファンデッド子爵令嬢はいかがでしょうか?」


「おっ、そりゃいい!」


「バルトロメオ王弟殿下にはそう言って頂けると思っておりました。やはり、想い人が認められるというのは嬉しいことですよねぇ」


「お、想い人って!?」


「あらあら? ローザから色々と聞いているのだけど……その話、今度改めて離宮に来て聞かせてくださるかしら?」


「お、お母様!? ろ、ローザ、お前酷すぎない!?」


「頑張れー、王弟殿下! ……まあ、あの子はかなり自己評価が低いから攻略は厳しいかもしれないけど、ウブだし可愛いところがいっぱいあるからねぇ。是非、頑張って攻略してもらいたいものだよ。……まあ、それはそれとして、レイン先輩、どうかな?」


「本人に確認を取らなければなりませんが、私としては素晴らしい提案だと思います。彼女はしっかりと職務を全うしてくださる、信頼に足る人物でございますから」


「決まりですね。ノクト、レイン、お二人でアルマに確認を取るように」


「あっ、ボクもついて行くよ。アルマさんには貸しが一つあるからねぇ」


「……うわ、親友、絶対に断れないようにする気じゃねぇか!?」


「全く……殿下はボクのことを一体何だと思っているんだろうねぇ。まあ、別に取って食う訳じゃないし、爵位でしか物を考えられない人達がちょっと騒ぐかもしれないけど……まあ、そんな風に騒いでもいられなくなるから。統括侍女様、この機会に王女宮を除く宮での侍女の大幅な人事異動を行ってはいかがでしょうか? 主要な部分を残し、新鮮な空気を吹き込む良い機会だと思います」


「そうですね、王女宮はローザ様の筆頭侍女就任に際し、既にかなりの入れ替えが行われておりますので、それ以外の宮についてもアルマさんの筆頭侍女就任を機に大規模に入れ替えても良いかもしれません。一度、国王陛下に確認を取って参ります」


「あの子なら『んなもんどうでもいいから好きにやってくれ!』とか言いそうだわ。アーネスト伯爵、その時はお願いできるかしら?」


「はい、言質を取り次第速やかに王女宮を除く各宮の筆頭侍女と相談の後、入れ替えを執り行わせて頂きます」


 これでアルマに対する風当たりが無くなるとは言い難い。

 しかし、王子宮の侍女達によって形成されていた派閥的なものがこの人事異動で崩れ去ることになれば、随分と弱まってくる筈だ。


 爵位でしかものを考えられない者達も、アルマが筆頭侍女に選ばれるに相応しい人材であることを実績でもって証明していけば、受け入れざるを得なくなっていく。


 ……まあ、文官に引き抜きたいという話も出ているような仕事のできる人材なんだから、認められるのもそう遠くないことだと思うけどねぇ。


 その後、ヴェモンハルトとレインの婚約についていつ頃発表するのかなどの細かい話を詰めていき、決まったところでその日の会議はお開きになった。



 姫さまの誕生日パーティが迫る。そのパーティに向けての仕事も増えてきたんだけど、それとは別にいくつかボクの方でもこなさなければならない用事が出てきた。

 ……それとは別に、ビオラ関連での動きも。


 まずは、ビオラ関連の動きについて。


 ヴェモンハルトとレインの婚約が決まった翌日、ブライトネス王国の王宮に一件の謁見希望書が届き、その翌日、一人の人間と魔物が王宮の謁見の間に姿を表した。

 一人はビオラ幹部のアンクワール、そしてもう一人が犬狼牙帝(コボルトエンペラー)の藍晶である。


 謁見の間に集まった文官や近衛騎士の中には魔物である犬狼牙帝(コボルトエンペラー)に対し、恐怖を覚える者、或いは汚らわしいと蔑む者――難色を示す者が大勢いた。

 亜人差別を無くそうというここ数年の活動でかなりエルフやドワーフなどの亜人種族に対する偏見は薄まってきたが、どうやら魔物に対する偏見はまだまだ根強いみたいだ。


「久しぶりだな、アンクワールよ。して、本日はどのような目的で参ったのだ?」


「本日はビオラ商会合同会社の代表としてではなく、彼のお供として参りました。彼はビオラ商会合同会社で建設部門の建設主任を任されている藍晶でございます。本日は、彼からとあるご提案がありまして、その許可を得るために参りました」


「プロジェクトか……して、それはどのようなものなのだ?」


「――国王陛下!? まさか、魔物の話などお聞きになるつもりでは!?」


「魔物だろうと人間であろうと関係のない話であろう? 話が通じるということはその時点で交渉が可能ということだ。彼らは正式に謁見の許可を得てこの場に立っている。……それを、魔物だからと門前払いするのか?」


 ボクもこっそりエミリアの姿で覗かせてもらっていたんだけど、いやぁ、クソ陛下に睨まれた文官、青く震えていたねぇ。


『まず、詳しい話に入らせて頂くまでに我が社の建設部門の現状についてお話しさせて頂きます。我が社の建設部門ですが、現在は大きな仕事を何一つ請け負うことができていない状況です。というのも、我が社の会長アネモネ閣下がとにかく思い付いたらすぐ行動、【万物創造】なる異能ですぐにこの世界の建築水準を優に超えた建造物を秒殺で作り出してしまうというのが現状でして、私共の働く余地がないのでございます』


「……同情するぞ、藍晶よ」


 ……本当に同情するように藍晶を見てから、さりげなくボクの方に視線向けてくるの、マジでやめてくれない!?

 仕方ないじゃん! 思いついたらついつい藍晶達に頼む前に動いてしまうんだもん! これでも、いくつか仕事は割り振っているつもりなんだよ!!


『そこで、我々は自分達で仕事を見つけることにしました。ところで、ビオラにはチャレンジ・プロジェクトなるものがございます。社員が興味を持ったものについて、許可を得られれば、その企画に必要な資金を全てビオラが出してくれるというプロジェクトです。勿論、幹部会議にかけられ、審議された上で認可された企画にのみ資金が出される形ではありますが。ここからが本題でございますが、我々が提出した企画とは多種族同盟国家の領土を繋ぐ、地下鉄(サブウェイ)敷設の企画です』


 文官達や近衛騎士達はビオラが資金を全額負担してくれるというところに驚いているようだねぇ。

 一方、クソ陛下達は「まあ、あいつだしそれくらいはするよなぁ」と流しているようで……肝心な企画についての検討に入っているようだけど、あまり反応は芳しくない。


「それは、本当に必要なことであるか?」


 あっ……やっぱり、幹部会議の時と似たような反応だ。


「現在、ブライトネス王国を含む多種族同盟の主要都市には魔法門が設置されております。また、流通についても魔法門のある主要都市から各地へ既存の中小商会のキャラバンで輸送が行われており、現時点で流通に新たな革命を起こす必要はないのではと考えております」


『確かに、宰相閣下の仰る通りです。地下鉄の敷設を行うことで馬車による輸送を担っていた中小商会は大打撃を受けることになります。これはアネモネ会長閣下も危惧しておられました。しかし、私は魔法門のみに頼る現在のシステムには欠陥があるように思えます』


「ほう……自らの上司が提言した魔法門に欠陥があると?」


『はい。何らかの形で時空魔法を無効化された場合、或いは魔法そのものを使用できない状況になった場合、魔法門は使用不可能になります。そうなった場合、既存の移動手段に頼ることになりますが、現在の多種族同盟の移動手段は馬車が主流です。緊急時に増援を送るにしても、これでは肝心な時に駆けつけられないという事態になるかと思われます』


「……ほう」


『私共の計画では、多種族同盟に所属する各国の首都同士を結ぶだけではなく、中小都市のいくつかにも地下鉄を繋ぎ、流通の流れを作りたいと考えております。中小商会の仕事は減るでしょうが、地下鉄で繋がった中小都市で新たな仕事を見つけて頂くという選択肢もあるかと思われますし、地下鉄が敷設されていない地域には依然として馬車での輸送が必要になってきます。これまで人が集まらなかった地域でも地下鉄が開通することで新たな流通が生まれ、都市が発展することもあると思われます。これまでは各国の首都に来なければ長距離移動は困難でしたが、これからはより利便な移動が可能になります。もう一つは軍隊の派遣についてです。緊急時、ビオラは合意頂けた全ての国家に無料で地下鉄の利用権を付与したいと考えております。陛下には《蒼穹の門(ディヴァイン・ゲート)》があるので、不要だと思われるかもしれませんが……」


「いや、そういうことなら我も敷設には賛成だ。ところで、ブライトネス王国はその企画にいくら融資すれば良いのだ?」


『現時点で、ビオラはブライトネス王国を含む多種族同盟の国々に支援を求めてはおりません』


「……ほう」


『お気を悪くされたのであれば謹んで謝罪させて頂きます。より正確に言えば、融資そのものは可能です。例えば、ブライトネス王国を含む多種族同盟の国家が一切の支援を行わなかった場合、ビオラは百パーセントの地下鉄の権利を有することになります。ブライトネス王国、フォルトナ王国、ニウェウス自治領には地下鉄を含めたビオラの全利益の中から税金を支払わせて頂きますが、お支払いはそれだけでございます。しかし、地下鉄の敷設のために融資頂ければ、毎年利益と融資した割合に応じた配当を各国にお支払い致します』


「……アーネスト、どう考える?」


「難しい話でございますね。まず、地下鉄にどれくらいの費用が掛かるのか、そして掛かった分のお金をどれだけ回収できるかも分かりません。回収して有り余る金額が配当として戻ってくる可能性もゼロではないでしょうが……過度な期待は厳禁だと思われます。藍晶殿、タイムリミットはいつ頃になりますか?」


『具体的には決まっておりませんが、この後、私は各国を巡って地下鉄敷設の話の承認を頂きたいと考えております。各国の返答が集まった時点で、二国以上の承認があれば地下鉄敷設を開始する予定ですので……』


「つまり、タイムリミットは各国の承認を得られた瞬間ということか」


「既にビオラの幹部会議は地下鉄建設に必要な費用を全額用意しております。融資を検討される場合は、できるだけ早く仰って頂ければと思います。こちらの融資については、後から参加することはできません。例え、一国の君主の要請であっても厳格にタイムリミットを定めさせて頂きます。万が一、不当な方法で地下鉄の利益配当を求める場合は、その国との取引を取りやめることも検討しなければならなくなりますので、そのつもりで」


 そう言い残し、アンクワールと藍晶は謁見を終えて戻っていった。

 さて、この地下鉄の件だけどブライトネス王国、フォルトナ=フィートランド連合王国、ニウェウス自治領、緑霊の森、ユミル自由同盟、ド=ワンド大洞窟王国、エナリオス海洋王国、ルヴェリオス共和国、風の国ウェントゥス、ビオラ=マラキア商主国、ラングリス王国――つまり、多種族同盟に加盟する全ての国の承認を得て開始することになった。ちなみに、ここに挙げた全ての国が大なり小なり融資をしてくれたので、全ての国に配当を支払う必要が出てきた。


 ……正直、ボクもこの地下鉄がどこまでの売り上げを叩き出してくれるかは分からないのだけど……冗談、超共感覚(ミューテスタジア)でしっかりと上手くいく未来が見えているよ。

 まあ、一番は藍晶達にとってやり甲斐のある仕事があることだから、各国の承認を取り付けられたところで達成したも同然なんだけど。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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