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Act.8-139 子爵令嬢の社交界準備 scene.3

<一人称視点・アルマ=ファンデッド>


 ニーフェ離宮筆頭侍女様は私の半分くらいの身長しかないちょっとフルフルしてるお婆ちゃんで正直心配だったのだけど、巻尺を持った途端に閉じてた目を開眼して震えが止まり、あっという間に採寸を終えて超高速でデザイン画を何枚も描き始めた。

 ただものではないとは薄々思っていたけど、王太后様のお針子も兼任なされているような方がただのお婆ちゃんの筈がないわよね。


「ニーフェ離宮筆頭侍女様は王太后様が王家に嫁いできた際に共に公爵家からお越しになったと伺っております。長年共に同じ時を過ごしてきた最も信頼する臣下であり、心を許せる友人であるとも」


 私の疑問に答えるように、手を止めないままローザ様が離宮筆頭侍女様と王太后様の関係を説明してくださった。

 ……というか、ローザ様は一体何をしているのかしら? 既に完成しているドレスの生地を糸に戻して……まさか、その糸でドレスを作るということかしら? ……まさか、ね。


「あら、ローザにもいるのでしょう? 貴女が家族と呼ぶ、前世の友人達が」


「友人というより、本当の家族のように大切な人達ですからねぇ。……えぇ、彼女達はボクにとって何よりも変え難い宝ですから。いずれ、王太后様もお会いすることになると思いますわ」


「……ローザ様、そちらのドレスから王太后様のドレスをお作りになるつもりなのですか?」


「アルマさんはこれが中古のドレスなんじゃないかと思っているみたいだけど、勿論、王太后様に差し上げるものの素材に中古のドレスなんて使えないよ? これは幻想級と呼ばれる等級に区分される装備のドレスで、普通のドレスとは比較ならないほどの魔法耐性と防御力……耐刃性を有している。流石に護衛の近衛騎士も大勢いるし、城内で危険なことはないと思うけど一応ねぇ。それに、生地そのものも上質なものだから一流の生地にも引けを取らないものが作れると思うよ?」


「それはとても楽しみねぇ。そして、何よりローザがデザインしてくれるドレスとなれば、欲しいと願っても手に入れられないものだし。ビオラでもローザの作った服は販売されていないのでしょう?」


「ビオラの服飾は元ビオラの経営者のラーナさんがメインです。彼女はブライトネス王国屈指の服飾店、マダム・フィレールにも引けを取らない作品を制作なされますから、ボクが口を出すことも何かを作ることもなかなかありません。たまに、こういったものを販売してみたらどうかな? と意見を出したり、実際に作ったりはするのですが、オーダーメイドでの依頼は受けておりませんね。王太后様にはニーフェ筆頭侍女様がいらっしゃいますから、あまり関係のない話だとは思いますが」


「もし、ローザが良ければプリムラにドレスを作ってあげて欲しいのよ。……でも、今の段階ではアネモネの正体がローザだと明かしたくないのよね」


「……いずれ明かす必要が出てきたら、その時にとは思っています。他に隠していることも、リーリエの正体を含めてお伝えすることになるでしょう」


「あら、そうしたらプリムラの侍女として仕えてもらうのも難しく……なるかもしれないわね。公爵令嬢でもギリギリなのだから、もし、多種族同盟の頂点に立つお方であり、かつ天上の薔薇聖女神教団の御神体である貴女を筆頭侍女とはいえ一介の侍女として王女に仕えさせていた……って知られたら、色々と面倒なことになるかもしれないわよね。まあ、そうやって騒ぎ立てるのは、中枢と接点のない人達ばかりでしょうけど」


 目にも止まらぬ速度で複数のドレスを解いた糸から生地を作り、王太后様の採寸を始めたローザ様と王太后様が作業を澱みなく行いながら談笑している……のだけど、内容がとても談笑と呼べるものではないわ。というか、天上の薔薇聖女神教団の御神体!? 悪役令嬢が、ヒロイン側の総本山である教会の頂点に君臨しているってどういうことなの!?


「国王陛下とお二人で天上光聖女教の総本山の聖騎士を壊滅に追いやったと実しやかに囁かれている、魔族の吸血姫……ですよね? ……何かに尾鰭背鰭がついて生まれた噂だと思っていましたが、まさか、それも事実なのですか?」


「その噂の吸血姫のリーリエもボクというか、最もボクにしっくり来るボクというか……あっ、吸血姫だけど血は飲まないよ? 仮に飲むとしても人から吸うようなことはしないけどねぇ。まあ、ボクは悪い吸血姫じゃないよ? ってところかな?」


 アネモネの姿で受けていたニーフェ筆頭侍女の採寸が終わったところでローザ様は一瞬にして緋色の瞳と濡れ羽色の艶やかな黒髪を持つ白肌の十代の美少女の吸血姫へと姿を変えた……本当に凄い美人よね。こういうのを絶世の美少女というのかしら? いえ、ローザ様も私なんかとは比較ならないくらいお美しいのだけど。


「……アルマさんは美人なのに、随分と自分を過小評価しているみたいだねぇ。クソ王弟殿下からも『髪はおろしてた方が似合う』とか『この国の美的に外れてるだとか何だっけか……まあ、そういうのはあるんだろうけどよ。お前自体は悪くないってこった』とか……」


「まあ、バルトロメオがそんなことを言ったの?」


 な、なんであの場にいなかったローザ様がそのことをご存知なの!?


「王太后様、ドレスは無事完成致しました。こちらをお納めください」


「ありがとうね。私からのドレスは後日、ラピスラズリ公爵家の方にお送りしておくわ」


「では、到着を楽しみにお待ちしておりますね」


「アルマには台本の内容を今ここで目を通してしっかりと覚えてもらいたいわ。デビューさえすれば、後は夜会にそうそう足を運ばなくて済むように配慮しますから」


 はい……と答えようとして……りんと鈴を鳴らした王太后様の向こうから銀のトレーに乗せられて運ばれてきた厚さ三十センチほどの紙束が現れた時には思わず言葉を失ってしまった。


「ローザは必要ないわよね? もう既に謁見の間でラインヴェルドと、彼に言わせれば『クソつまらない』やりとりを何度かしているようですし」


「そこまで王太后様のお手を煩わせるつもりはありませんわ。まあ、要点さえ掴んでしまえば社交界への参加は簡単だよ。『社交界では爵位の高い人から声を掛けられない限りは応じられず、名乗られて初めて名乗ることができる』とか……そういや、ボクってどういう扱いになるんだろうねぇ? 辺境伯かな? ……新参者の成り上がりだから貴族には嫌われていそうだし、あんまり目立たない方針で……うちのメイド(アクア)副団長な大臣(ディラン)が暴走した時の対処だけはしようかなとは思っていますが」


「そういえば、当日は他に誰を連れてくる予定でいるの? エスコート役が必要よね?」


「本来のエスコートの意味からは外れますが、スティーリアを連れて行こうかと思っておりますわ」


「それはいいわね。実は丁度貴女も参加することだし、今回のプリムラの誕生パーティには元々隣国の王族や貴族も呼ぶ予定だったから、多種族同盟の族長の皆様にも是非参加してもらおうと思っているのよ。国の内外に多種族同盟を含めた新秩序の力関係を見せつけるためにも彼女には是非参加して頂きたいわね」


 多種族同盟……っていうと、天上光聖女教が天上の薔薇聖女神教団に変わったのとほぼ同時期に亜人差別を撤廃し、緑霊の森との同盟締結を皮切りに亜人国家や周辺国家と条約を結んで作られたという新秩序。

 亜人と魔族差別の総本山とも言えるシャマシュ教国はこれに遺憾の意を示しているらしくて、ますますブライトネス王国との関係が悪化した……とは聞いているのだけど、街にエルフや獣人族やドワーフや海棲族の姿をよく見かけるようになったという程度で公式行事に姿を見せる……ということは私の知る限り無かったわ。


 ……確か、この多種族同盟が総力を結集した戦争も『怠惰』戦と呼ばれる数年前の大規模戦争の一度きりで、その時は本来戦争の前には必ず行われていた『出征の儀』や『帰還の儀』といった公式行事も行われなかったそうだけど。


「……『怠惰』戦、懐かしいねぇ。元々、フォトロズ大山脈地帯の最高峰で行われた演習の最中に『怠惰』の枢機司教が攻めてきてそのまま戦争になっちゃったから、『あの儀式面倒だし、『出征の儀』も無かったんだからいっそ取りやめで良くねぇか?』とか言って取りやめにしたんだっけ? 勿論、各国で戦争の功労者達には褒賞が出たんだけどねぇ」


「……あの子は、本当に自分の好きなこと以外はしたくない子ですものね。あの子、国王陛下としてのお言葉も『クソ長い上に実りもなく、しかも寝ている奴もいるし、いっそ取りやめにした方が良くねぇか?』とか言っちゃって本当に取りやめにしようとしたこともあるのよ。国王陛下として威厳を示すためにも、きっちりやらないといけないことは分かっているのでしょうけど」


「まあ、あのクソ陛下は猫を被るのがお上手ですから大丈夫だと思いますわ。……問題は、うちのメイドと大臣……後は隣国のお客様ですわね。あの【白の魔王】、面倒なことをやらかさなければいいのですが。……あれでも一応外面だけは公爵しているので、なんとか……なるといいですわね」


 見る見るうちにローザ様の目が死んでいく……今回の姫さまの誕生パーティ、一体どうなるのかしら?

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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