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Act.8-133 ラングリス王国の革命 scene.4

<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


「……『生命の輝石ラピス・フィロソフィカス・セフィロト』は残り七つか。どんな攻撃を浴びても七回復活されるっていうのは面倒だねぇ。まあ、それならそれで八回殺せばいいだけだけど」


 オシディスは隠し持っていた『生命の輝石ラピス・フィロソフィカス・セフィロト』の残り個数を言い当てられて驚いているみたいだねぇ……まあ、種を明かせばただ見気でオシディスの心を読んだだけなんだけど。


「簡単に言ってくれますわね。私を後八回殺すなど……」


「――でも、実際、全くボクを倒せるビジョンが見えていないんじゃないかな? 七回分の命……つまり、猶予が与えられたとしても、それを活かして決定打を見つけられないなら七回分死に損になるだけ。……聡明なオシディスさんなら既にこの戦いが自らの死に直結するレールだと分かっているんじゃないかな?」


 「くっ」と唇を噛み締め、睨みつけてくるオシディスを一旦放置して、ボクはへたり込むエリザヴェータに視線を向ける。


「エリザヴェータ王太后殿下、一つボクと取引をするつもりはあるかな? まあ、こうして貴女の信じていたオシディスさんはまやかしだったってことが判明した訳だけど、ボクは別に王太后殿下が信じていたオシディスさんが偽物であっても別に大した問題ではないと思うんだよねぇ?」


 エリザヴェータだけでなく、クラウディアとオシディスまでが信じられないものを見るような目でこっちを見てきた。まあ、まどろっこしい言い方をしているから「コイツ何言ってんの?」っていう風に思われても別段不思議ではないよねぇ。


「真実か、紛い物か、この際そんなことは関係ない。重要なのは、オシディスさんがエリザヴェータ王太后殿下に長年仕えてきた侍女であり、同時に掛け替えのない存在であったということじゃないかな? その目的がなんであれ、エリザヴェータ王太后殿下とオシディスさんが共に大切な時間を歩んできた、少なくともエリザヴェータ王太后殿下がそう自覚していたことと、その時間が確かに存在していたことは紛れもない事情なんだよねぇ。……エリザヴェータ王太后殿下が望むなら、その仮初の関係を現実のものにすることができるかもしれない。ただ、ろくに話も聞かずに断頭台に掛けるだのなんだと言われたボクがエリザヴェータ王太后殿下のために無償で動いてくれるっていうのは、ちょっと道理に合わないお話しだからねぇ。……対価として要求するのは、エリザヴェータ王太后殿下が有する王政に対する発言権。それを、ボクに譲ること。つまり、今後一切エリザヴェータ王太后殿下は王政に口を出せなくなるってことだねぇ。今ここで、王太后の名で正式に王政に対する発言権を委譲すると宣言してくれるなら、ボクはエリザヴェータ王太后殿下の願いを叶えよう」


「……だ、だが、それではビオラ=マラキア商主国の大統領に、他国の君主に国政に口を出す権利を与えてしまうことになるわ! そんなこと、王太后として赦せる訳が……」


「発言権の移譲後、ボクは速やかにその権利をクラウディア女王陛下に移譲する。そうなれば、彼女の国政にエリザヴェータ王太后殿下は口を出すことができなくなり、その権利を取り上げることもできなくなるという寸法だよ。大体ただでさえ一国だけで面倒なのに、なんで他の国の面倒まで見ないといけないのかな? って話だよねぇ。で、どうする? 早く決めてくれないと取り返しがつかなくなるよ? 具体的には、オシディスさんを八回殺して永眠させる」


「わ、分かったわ! 発言権を貴女に委譲する! だから、オシディスを優しい侍女だったあの子に戻してちょうだい!!」


「契約成立だねぇ。聞きましたか、貴族の皆様? 皆様が証人ですからね。……さて、そうとなれば、とっとと願いを叶えてくだらない戦いを終わらせますか」


「一体、どうすればそんなことができるとでも? 私が心変わりすることなんてありはしないわ! 私はエリザヴェータを利用してきた! 優しい侍女のオシディスなんて全てまやかし、存在しないのだから! あはは、百合薗圓、アンタにできるのは私を殺すことだけよ!」


「……さて、それはどうだろうねぇ」


 『漆黒魔剣ブラッドリリー』を統合アイテムストレージから取り出して構える。


 魂魄の霸気《認識阻害》を使って、オシディスにボクを認識できないようにしてから、認識した範囲に瞬間移動する《姿眩瞬移》を使ってオシディスの目の前に転移し、左の掌でオシディスの頭を掴んで「記憶複製魔法」で飴玉として複製したオシディスの記憶を取り出す。

 と同時に「時間停止魔法-クロック・ロック・ストップ-」でオシディスの時間を停止して、懐から『生命の輝石ラピス・フィロソフィカス・セフィロト』を掠め取って統合アイテムストレージに放り込んだ。


「さて、下準備は終了。ここからはまだ試したことがない、一種の賭けになるんだけど勝算は十分にある」


 時間停止を解除した瞬間、驚いたオシディスが距離を取った。


「君は知らないと思うけど、冥黎域の十三使徒には空席になる以前に確かに一人、使徒がいたんだよ。彼女の名前はヘリオラ・ラブラドライト……って言っても知らないか。存在したという事実そのものを抹消されているからねぇ。彼女は大変興味深く……反吐が出る能力を有していた。積み上げられた信頼の上に成り立つ絆を断ち切る『絆斬り』っていう能力だよ。君もよく知っているんじゃないかな?」


「……『這い寄る混沌の蛇』の秘術、まさか既に百合薗圓の手中に収まっていたとはね。でも、その力でどうするつもり? この力は絶望に堕とすことで闇堕ちさせる技。私には意味がないわ」


「ところで、絆っていうものにはもっと別の解釈があると思うんだ。絆とは繋がり、これを縁と言い換えるなら良縁と悪縁がある。ボクの生まれた国では、縁切りという考え方があってねぇ、神社で悪縁を切ることで良縁を得るという考え方をするんだ。……興味深いとは思わないかな? この力で、『這い寄る混沌の蛇』とオシディスさんの縁を切る。それも、ただ、縁を切る訳じゃない。『漆黒魔剣ブラッドリリー』で斬るんだ。『武装の力を完全に解放することで斬った相手を過去にまで遡って存在ごと抹消することができる』この『漆黒魔剣ブラッドリリー』でねぇ。もう分かったんじゃないかな? この剣で斬られたヘリオラは消滅し、辻褄合わせのように初めから存在しないように歴史が修正された。『這い寄る混沌の蛇』でなくなったオシディスさんはどうなるんだろうねぇ。ちなみに、辻褄合わせによって生じるのはその存在と直接関係していたもののみで、その結果、他の事象に改変の影響が出ないことも既に承知している。エリザヴェータ王太后殿下の発言もまた別の方法で引き出されたものとなるだろうし、オシディスさんがこの国の腐敗に無関係だったってことになるんじゃないかな? まあ、そこにいるモルチョフ辺りがおっ被ることになるだろうけど」


「そ、そんなこと……ある訳がない! 歴史を修正して捻じ曲げるなんて、そんなことできる訳が!!」


「できるさ。創世級(ジェネシス)にはその力がある。そして、それを君は身を持って知ることになるだろう。……もっとも、全て終わった後、そのことを覚えてはいないだろうけどねぇ」


 ヘリオラの記憶を辿り、『絆斬り』を発動する。

 瞬間、世界がゾワっと背筋が泡立つ感覚を抱くほど不気味な色に染まり、青紫色の光の筋のようなものが四方八方に広がり、繋がっているように見えた。


 魔力で絆を可視化しているんだろうけど……禁忌の技に相応しい色をしているねぇ。



 青紫色の光の筋がみるみるうちに陽だまりのような金色にも似た色合いに変わっていく。

 冷たかった世界は温かい光に溢れ、絆というものを象徴するような光に満ち溢れた空間へと変わった。


『綺麗ですわ。ご主人様、これは……』


「どうやら、ボクの魂魄の霸気が『絆斬り』のシステムを取り込んで覚醒したみたいだねぇ」


 ただありのままを受け入れず、咀嚼することで自分なりに解釈した……というのが良かったのかもしれない。

 《鏡》、《太陽》、《巫女》の効果を有する《天照》に新たに《縁》というものが加わった。


 (えにし)とは繋がり。それを断つのが縁を切ること、『絆斬り』に該当するのだろうけど、絆を断ち切れるということはまた絆を結び直すこともできるということ。


「スティーリアさん、少し試したいことがあってねぇ。従魔合神したいんだけどいいかな?」


『――はっ、はい!! ご主人様と共に戦えること、私にとっては最大級の名誉でございますわ♡ この力、どうかお役立てください!』


 スティーリアと従魔合神して力が漲っていたことを自覚したところで、無音の踏み込みと共に圓式を使って剣を振るう。


武装解除(エクスペリ・アームズ)


術式霧散マギグラム・ディスパージョン


 武装解除魔法を特定のエネルギーによって構成された術式を対象とし、無意味なエネルギーの羅列へと分解する魔法で武装解除魔法を無効化し――。


「我と共に歩みし漆黒の魔剣よッ! 今、その真なる力を解放し、遡りてその絆を抹消せよ! 魔皇魔剣・絆縁遡断」


 金色のオシディスから伸びる絆の一つを断ち切った。

 その瞬間、オシディスから伸びていた糸がグニャリと曲がって時空の歪みに飲み込まれるかのように消えていく。オシディスの懐から落ちた『這い寄るモノの書』が金糸が解けるように綻んでいき、その糸も空気の中に溶けていくように消えていった。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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