Act.8-131 ラングリス王国の革命 scene.2
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
「スティーリアさんの報告によれば、ラングリス王国の大臣のモルチョフ=ヴァレスコール侯爵が『過激派で武装蜂起する革命派の速やかな撃破と革命の鎮圧』を提言してから一気に革命軍を鎮圧する空気感が高まったんだよねぇ? ……もし、王国政府側に『這い寄る混沌の蛇』の間者が紛れているとすれば、彼が怪しいんじゃないかな?」
「確かに、モルチョフ大臣の提言から風向きが一気に変わりましたわ。……一度確かめる必要がありますわね。……ところで、『這い寄る混沌の蛇』の間者であるかどうかを確かめる方法はあるのでしょうか?」
「彼らは『這い寄るモノの書』に書かれていることを至上としていて、それ以外の考え方――宗教に触れると拒絶反応……より性格には恐慌を起こす。丁度ここにブライトネス王国で信仰されている天上の薔薇聖女神教団の教典があるからこれを読ませればいいと思うよ?」
クラウディアに天上の薔薇聖女神教団の教典を手渡しつつ、思考を巡らせる。
……今回の件、果たして王国政府側に潜入しているのはモルチョフだけなのか? ……いや、潜入というより改宗というのが適当な気がするけど。
クラウディアには女王としての力は実質無いに等しい。
輔弼……に近い立ち位置で王太后が実権を握って政治を行っている……摂関政治みたいな感じだねぇ。
その王太后が貴族の基盤を破壊される可能性を有する革命軍を徹底的に潰したいと考えるのは当然だけど、モルチョフに提案されたものをそのまま受け入れている……ってことで本当に正しいのかな? 何かまだ第三者による作為を感じるだけど。
モルチョフだけでは流石に弱い気がする。もっと近くで塩梅を計算しつつ目立たない立ち位置で主導権を握るように動くのが『這い寄る混沌の蛇』らしいやり方だからねぇ。
「王太后様が『這い寄る混沌の蛇』の信者であるという可能性は低い気がする。…….都合よく王太后様に影響を与えられて、かつ、そこまで目立たない立ち位置にいる人が望ましいんだけど、クラウディアさんはそんな人知らない?」
「……そもそも、モルチョフ大臣以外に『這い寄る混沌の蛇』の信者が本当に紛れているのでしょうか?」
「現時点でいるかいないかは分からないけど、常に最悪の事態を考えて動くのは重要だと思うよ? とにかく、いずれにしてもこのままの形では革命軍との衝突は避けられないし、それだと『這い寄る混沌の蛇』の思うままだからねぇ。クラウディア女王陛下には女王として背筋を伸ばしてもらいたい。誰にも頼るなとは言わないし、所詮人間は一人じゃ何もできないんだから忠臣を頼るのは必要だけど、自分がやりたいと思うことを、どのような国にしたいかを積極的に語って、自分の力で国を治めていかないといけない。……王太后様はこの国の女王ではないんだから」
「……そう、ですわよね」
「失った信頼を取り戻すのは大変だし、貴族達を束ねていくことは難しい。……ボクも手を貸したいのは山々だけど、過度な干渉は内政干渉だと受け取られかねないからねぇ。……結局はクラウディア女王陛下自身に頑張ってもらわないといけない。……まあ、今回の『這い寄る混沌の蛇』の信者の特定が多少の追い風になると思うし、後は一歩一歩着実に貴族達の理解を得ていくしかないねぇ」
……まあ、取らぬ狸の皮算用な話をしても仕方ないし、まずは『這い寄る混沌の蛇』の件を解決しないとねぇ。
◆
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
アカウントをアネモネに切り替える。一瞬にして姿を変えたボクにクラウディアが驚いていたけど、それよりも先にやるべきことがあることを自覚していたクラウディアは気合を入れて王城に入った。
王城の中は女王であるクラウディアが唐突に姿を消したことで小さな混乱が起きていた。
「クラウディア女王陛下、こちらにおられましたか。謁見の休憩時間に姿を消してしまいましたので皆、心配しておりましたぞ! ……ところで、そちらの方々は?」
「オリバー執事長。すまないが、王城にいる者達をできる限り謁見の間に集めてもらいたい。それから……母上も」
「承知致しました」
何も言わずに主人の命令を速やかに遂行する……できる執事だねぇ。
それから約二十分後、王城の謁見の間に王城にいたほぼ全ての人が侍女や小間使いも含めて集められた。
「クラウディア、謁見の休憩中に失踪したと聞いたわ! 女王としての自覚はないのかしら? それから、その人達は何者なのかしら? 説明があるのよね?」
「母上、勿論そのことについても説明させて頂きます。この方はアネモネ殿――隣国マラキア共和国に変わる新しい国家――ビオラ=マラキア商主国の大統領、つまり君主ですわ。本日は隣国である我が国にご挨拶と共にある不祥事とそれに関わり、今この国で起ころうとしている国を滅ぼしかねない事態を未然に防ぐための方法をお持ちくださった方です。……皆様もご存知だと思いますが、この国に革命軍が組織され、内乱が起きようとしています」
「……えぇ、その革命軍の討伐のために兵を出すための軍議を先程していたからよく分かっているわ。貴女も分かっているでしょう? 革命は速やかに鎮圧するべきだわ! この国を守るために!」
「……随分と愚かなことを言うねぇ。この国、じゃなくてお貴族様の生活、でしょう?」
「……貴女、わたくしが何者なのか分かっていないようね? ビオラ=マラキア商主国の大統領だったかしら? 小国の、国として認められていない国の君主如きがこのラングリス王国の王太后であるわたくしに口答え? 極刑に処してもいいのよ?」
『……高々ラングリス王国如き小国の、しかも女王の母でしかない王太后如きが何を言うのかしら? 口を慎みなさい! ご主人様の御前であるぞ』
スティーリアが猛烈な殺気と冷気を無造作に放つと、瞬く間に謁見の間が支配された。
古代竜が本気の片鱗を見せたら、そりゃそうなるよねぇ。
「まあ落ち着いて、スティーリアさん。ここはラングリス王国である以上、ラングリス王国の郷に従うべきだ。……内政干渉疑われたら困るのはこっちだからねぇ。まあ、最悪完膚なきまで叩き潰して併合するって手もあるけど、恐怖政治なんて百害あって一利無しだからねぇ。……極刑だけは勘弁してもらいたいかな? ……多分スティーリアさんが止まらなくなるから」
「まあ、ボクの命くらいはくれてあげてもいいんだけど」と続けると、スティーリアが再び絶対零度の殺気を放った……最早謁見の間は恐慌状態。大丈夫じゃないねぇ……これ。
落ち着いたタイミングを見計らい、クラウディアに視線を向ける。
「アネモネ殿、事情の説明をお願いしてもいいだろうか?」
「そのために来たからねぇ。……まだマラキア共和国だった頃、マラキア共和国を牛耳っていた商人ギルドでは奇妙な金の動きがありました。その犯人は商業ギルド役員の一人だったヴィオ=ロッテルで、商人ギルドも把握し切れていない闇のマーケットから多くの武器を購入して、隣国ラングリス王国の革命軍に送っていました。後にヴィオが男は世界の秩序を崩壊させることを至上とする傍迷惑な『這い寄る混沌の蛇』の信徒であることが分かります。……もう既にお分かりだとは思いますが、革命軍には『這い寄る混沌の蛇』の関係者がいて、革命を通じてこの国の秩序を崩壊させようとしていると推察されます。……ここまではいいよねぇ?」
「そ、それなら! なおさら革命軍を――」
「随分と単細胞でございますねぇ、王太后殿下……おっと失礼。……確かに革命軍に武器を送れば戦争は起こせます。しかし、確実ではない。対立を煽り、民衆の怒りを醸成し……そのためには様々な工作が必要です。当然、貴族側にも。……ボクはこの件に王国政府側にも『這い寄る混沌の蛇』の関係者がいて、その人物が対立を煽っていると推察しています。……モルチョフ大臣、貴方は『過激派で武装蜂起する革命派の速やかな撃破と革命の鎮圧』を誰よりも先に提言したのですよね?」
その場にいた全員の視線がモルチョフに集まる。
「……心外だ! 不敬である! どこに私が売国奴である証拠があるというのだ?」
「実証は今からやる。何、簡単なことだよ。ボクが渡す本をただ読むだけでいいんだ。目を背けず、黙読するだけで構わない」
「な、何を!? 貴様、私に冤罪を着せるつもりなのだろう?」
「ゴタゴタ言っていないでさっさと自分が無罪だと実証してくれないかなぁ? もし違ったらちゃんと謝罪するよ。……まさか、できない、なんて言わないよねぇ?」
天上の薔薇聖女神教団の教典を手渡す。本に視線を向け読み始めたモルチョフは……すぐに拒絶反応を起こした。
「やっぱり、『這い寄る混沌の蛇』の信徒だったということだねぇ」
「――くっ、ヴィオを捕らえた貴様のせいで計画が台無しだ! 瞬間現断!」
モルチョフが放ったあらかじめ指定した地点に発動し、相手の魔法的防御の完全無効化して狙った対象を切り裂く『這い寄る混沌の蛇』のアポピスが開発した魔法の一つで『蛇の魔導書』に掲載されている無属性魔法を「術式霧散」で無効化しつつ、モルチョフに肉薄して腹に一撃を浴びせる。
上手く気絶しない塩梅を狙ってダメージを与えてから魔法封じの枷でモルチョフを捕らえる。
「さて、お仲間は誰かな?」
「……くっ、だ、誰がお前に――」
「へぇ……やっぱりねぇ。クラウディア女王陛下、王太后付き侍女のオシディス=アンドマルクをこの場にお呼び頂けますか?」
王太后エリザヴェータ=ラングリスが怒髪天をつく勢いで怒りを露わにする中、クラウディアは「オシディスをこの場に連れてきてくれ」と冷静に命令を下した。
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