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Act.8-130 ラングリス王国の革命 scene.1

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


 王女宮筆頭侍女の仕事が終わったところで執務室に戻り、スティーリアからのメールを開く。

 そして、一行目を読んで凍りついた……はっ? なんで、諜報のために派遣されたスティーリアがラングリス王国の女王を攫ったっていう展開になっているの!?


 クラウディア=ラングリス――スティーリアの報告によれば、ラングリス王国初の女王として民からも期待されていた人物で王女時代は孤児院への支援などの政策を打ち出して民からの支持も多かった人物らしい。

 ただ、女王に即位した後の評判はあまり芳しくないそうだ。税金が下がることはなく、治世も前王の時と差して変わることもなく、民衆からの支持は一転して急落した。


 ……報告によれば、貴族が納める税金で運営されている国であるため、女王として独断政治を行うことはできず、貴族と牽制しながら政治を行っているのであまり自分の理想とする政治ができなかったため、このような状況になっているとのこと。

 前王の時代は王女だったからこそ、自分の為したいと思っていることを成せたという側面があった。国王が貴族達の不満を一心に受け止め、伸び伸びと彼女の理想を実現できるような環境を整えていた。しかし、前王が病で倒れるとクラウディア王女はたった一人で戦わなくてはならなかった。


 自分を傀儡として政治を牛耳ろうとする王太后、私服を肥やすことと派閥の中で優位に立つことにしか興味のない貴族、彼らと孤立無援で戦い続けたものの、状況は悪化の一途を辿り、遂にラングリス王国の大臣で古参で名門のヴァレスコール侯爵家出身のモルチョフ=ヴァレスコールの「過激派で武装蜂起する革命派の速やかな撃破と革命の鎮圧を求める」奏上と、それに乗じる民をいくらでも代わりのいる富を生み出す装置程度にしか考えていない貴族達の圧力を止められなくなり、追い詰められて自室に籠って頭を悩ませているところを上空から発見して、「街で状況も聞いたし、次は王政府側の事情も聞いておこう(意訳)」と考えたスティーリアが見つけ、「当事者だし話を聞いてみよう(意訳)」ということでクラウディアを攫ったのだそう。


 ……これ、どう考えても可及的速やかな対処が求められる奴じゃないか!


 三千世界の烏を殺してメールを受け取った早朝に飛び、もう一つのローザのアカウントに切り替えてからラングリス王国の隣国のビオラ=マラキア商主国に転移する。

 ビオラ=マラキア商主国からは神速闘気を纏った状態で神境智證通をフルで使い、メールで指定されていたラングリス王国の王城の西にある小さな森に向かった。


 スティーリアと共に森の中で怯えるように待っていたのはプラチナブロンドのふんわりした髪に、翠玉(エメラルド)のような美しい緑の瞳を持った水色のプリンセスラインのドレスを纏った少女……年齢は十四歳くらいかな?


『ご主人様。お忙しい中、お時間を取って頂きありがとうございます』


「元々ボクがスティーリアさんに依頼していた件だから、ボクが時間を取るのは当たり前なんだけど……しかし、随分と思いっ切ったことをしたねぇ」


『一番信頼に値する方をお呼び致しましたわ。腐り切った貴族の方をお呼びしたところで満足がいく情報は得られないと思いましたので、当事者の中で最もマシな方をお呼びしたつもりです。……差し出がましい真似でしたでしょうか?』


「……いや、スティーリアさんが考えた上でこれが一番だと思ったんでしょう? なら、ボクに異論はないよ。今回の調査の全権はスティーリアさんに委ねていたからねぇ。……さて、初めましてクラウディア女王陛下。ボクはブライトネス王国の公爵家の令嬢でビオラ=マラキア商主国の大統領をしているローザ=ラピスラズリ。ビオラ=マラキア商主国は旧マラキア共和国を元にした新国家でねぇ、ボクはそこの新しい国の代表者ということになるかな? ビオラ=マラキア商主国の大統領はアネモネという別名義で行っているんだけど」


「……お初にお目に掛かりますわ。わたくしはラングリス王国の女王を務めているクラウディア=ラングリスと申します。……ところで、お二人が新しい国家の君主としてご挨拶に参ったという訳ではございませんわよね? わたくしを拉致して一体何をこの国に求めるつもりですか?」


「……スティーリアさん、まさか最低限の説明もしていないの?」


『はい、ご主人様から直接ご説明して頂いた方がよろしいかと思いまして』


 怯えて震えながらも毅然とした表情を作ってボクを強く見据えるクラウディア。……まあ、こんな風に拉致されたら自分の身柄を人質にしてラングリス王国に何かを要求するつもりなんじゃないかと考えても仕方ないよねぇ。


「手荒な真似をして申し訳なかったねぇ。ただ、クラウディアさんに何かをするつもりはないよ? 勿論、クラウディアさんを盾にこの国に何かを要求するつもりもないからねぇ。……単刀直入に言えば、この国で起きている叛乱を煽っている者達がいる。それが、ボク達の敵でもあるんだ。……ざっくばらんに言うと、そいつらにこの国を取られると大変迷惑なんだ。だから、この国を混沌の渦中に落とそうという連中を片付けておきたくてねぇ。……クラウディア陛下も自分の国を好き勝手にされたくはないでしょう?」


 クラウディアはボクに対する敵意を残しつつも思案する表情を見せた。……まだ信用できないってことだよねぇ?

 ……ところでスティーリア、『ご主人様のお言葉を信用できないとは何事ですか!? 凍らせてしまってもいいのですよ!!』って視線を向けるのやめてくれないかな?


「……その根拠、ローザ様が何故この国の叛乱にそのような者が絡んでいることを知ったのでございますか?」


「まあ、そこは気になるよねぇ。マラキア共和国の商人ギルドでは奇妙な金の動きがあった。その犯人は商業ギルド役員の一人だったヴィオ=ロッテルっていう人で、商人ギルドも把握し切れていない闇のマーケットから多くの武器を購入して、隣国ラングリス王国の革命軍に贈られていた。そのヴィオっていう男は世界の秩序を崩壊させることを至上とする傍迷惑な『這い寄る混沌の蛇』の信徒でねぇ。……まあ、ここまで話せば分かると思うけど、革命軍には『這い寄る混沌の蛇』の信徒がいて、革命を通じてこの国の国家秩序を崩壊させようとしているんじゃないかとボクは考えている。スティーリアさんにはその調査をお願いしていたんだよ」


「……革命軍にヴィオという男から武器が流され、革命の火に油が注がれていたことは分かりました。しかし、それなら革命軍の関係者を捕らえ、その『這い寄る混沌の蛇』の信徒とやらが紛れているかを確認するべきなのではありませんか?」


「……そういえば、こっちはどうなっているの? スティーリアさん?」


『革命軍の構成員の一人を捕まえて問いただしたところ、現在、参謀格として革命を実質主導しているエルセリス=シルヴァレストという女性が革命に加わってから革命が加速しているそうですわ。貴族社会の腐敗を声高に叫び、腐敗した貴族や王族からのラングリス王国の解放を目指しているようです。……ただ、私見では心から王国の混沌化を願っている人物とは思えません。恐らく、彼女は『這い寄る混沌の蛇』の積極的協力者であると思いますわ』


「…………エルセリスさんが、まさか革命軍に加わっているなんて」


 ……どうやら、クラウディアはその人のことを知っているみたいだねぇ。


「スティーリアさん、エルセリスさんについては調査しているかな?」


『勿論ですわ、ご主人様。容姿は長い黒髪を持ち、普段は男装をしている男装の麗人で女性ながら差別や偏見を跳ね除けて女性初の騎士団長に就任したほどの人物で貧民街の孤児から修道院に引き取られ、戦争に苦しむ人々を救うために修道院を抜け出して傭兵、見習い騎士、騎士団長と文字通り成り上がりのような出世をしたという経歴を持っている元騎士ですわ。男世帯の騎士や血統を重んじる貴族社会の中ではあまりよく思われていなかったようですわね。彼女は彼女を慕う彼女の騎士団の騎士達の制止を振り切って二年前に騎士を辞職し、その後革命軍に所属して頭角を表しています』


「……それはまた、随分と嫌われやすいタイプだったみたいだねぇ」


 あの【漆黒騎士】ですら社交界では嫌われていた。

 況してや、貧民街出身の女性の成り上がり騎士となれば貴族社会出身の騎士達からは余計に嫌われるだろうねぇ。それに、貴族達から見れば野蛮な存在だと映るかもしれない。


「……ただ、話を聞く限り仲間の騎士達からは相当信頼されて慕われていたみたいだねぇ。ということは、彼女は貴族社会の腐敗を直に見て貴族社会の変革……というより、今の秩序の破壊を決意。その頃、『這い寄る混沌の蛇』に唆されて「支配体制の破壊」という目的の中で協力関係になったってところかな? しかし、『這い寄る混沌の蛇』を上手く利用するなんて不可能に近いと思うけどねぇ。結局、『こんな筈じゃ……』ってなるだけだと思うけど。クラウディアさんもエルセリスさんのことを真面目で優しい騎士として尊敬の念を抱いていたみたいだけど、彼女自身の考えはそんなに変わっていないと思うよ? ただ、頼った相手が悪かったというだけで」


「…………革命軍にその『這い寄る混沌の蛇』の力が及んでいることは分かりました。しかし、それなら今なすべきことはエルセリスさんの説得ではありませんか? 勿論、わたくしもエルセリスさんに言葉を尽くして革命を断念して頂けるようにするつもりです。彼女にはわたくしの護衛騎士として守って頂きました。彼女の陽だまりのような優しい笑顔がわたくしの心の支えだったのです。……騎士を辞職する時の彼女の笑顔は翳っていました。女王としてのわたくしに幻滅したのでしょう……今のわたくしに大した力はありませんが、それでもわたくしに沢山勇気を与えてくれたエルセリスさんを救いたいのですわ」


「気持ちは分かるけど、その前にやらないといけないことがあるでしょう? ……エルセリスさんはなんで君の間近にいながら君を幻滅して出て行ったのかな? 君が悩んでいることをずっと間近で見ていたんでしょう? それに、クラウディア女王陛下の護衛騎士を辞任してこの国を滅ぼそうとしている……最悪の場合、貴女を処刑台に掛けることになりかねないというのに。王族である以上、責任追及から逃れられない……そんなことはエルセリスさんだって分かっている筈だ。……ということは、誰かが裏で糸を引いていたと考えるのが自然じゃないかな? それに、連中の常套手段は革命軍側と王国政府側、双方に勢力を送り込んで戦争を煽るという方法だからねぇ。いずれにしても、まずは王国政府側に紛れ込んだ敵について調査を行うべきだと思うんだよ」


「それでまずはわたくしに話を聞きたいから拉致……王城から連れ出したということですわね。どこに敵が紛れ込んでいるかも分かりませんし……先程は勝手に身代金目的の不埒者やテロリストだと決めつけて酷いことを言ってしまい、申し訳ございませんでした」


「いや、こっちだって強引なやり方だったからねぇ」


 シュンとするスティーリアを宥めつつ、具体的にどうするか話を詰めていくために……まずは小さな椅子と丸テーブルを用意して、お茶会の準備を始めた。

 リラックスした時の方がいい案も思いつくからねぇ……別にただドルチェを食べたかった訳じゃないよ!!

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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