Act.8-127 公爵邸の夕餉にて〜ルヴェリオス共和国の向こう側の世界〜
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>
「しかし、ペドレリーア大陸に私の転生体がいたとはね。しかも、使用人も大体揃っているとは」
メネラオスがベルデクト達をまじまじと見つめる。
「でも、メイド長のマナーリンに、メイドのマイル、執事のローランドにボクの転生体のアリエルさんまでいるのに、シュトルメルトだけ転生体がいないなんてね」
「というか、シュトルメルトは大して重要じゃなかったから転生しなかったのかな?」と中年とは思えない口調と表情で可愛らしく尋ねるアンタレスに、「そういえば、シュトルメルトの転生体っていなかったよね? 大陸中探したのに? やっぱり重要人物じゃなかったんだね?」と追い討ちをかけるアリエル。
……というか、それを言うならリスティナも転生していないけどねぇ。でも、当の本人は特に気にしていないみたいだし、藪蛇になりそうだから指摘しなくてもいいかな?
「アリエル、お前見た目は可愛らしくなったのに中身はそのままなんだな」
「全く、心外だね。性格が悪いのはシュトルメルトの方でしょ?」
「しかし、確かにシュトルメルトだけが転生していないのは疑問だな。ローザ、何か知っていることはないかな?」
ベルデクト、突然言われても全知全能じゃないから分からないよ? ……まあ、普通なら、だけど。
「一つ心当たりがあることがあってねぇ。斎羽さんが一時期所属し、暗殺の技を学んな学園に暗殺者教育機関『キリング・ガーデン』というところがあるのだけど、そこで『死神』という暗殺者から指導を受けたって話を聞いたことがある。その手法がカッペさんに似ていたけど、まあ、それは別にいいとして」
「いいんすか!? 地味に俺が転生している可能性が浮上したのに!?」
「いや、流石にこれだけ優秀な使用人がいるラピスラズリ公爵家の中でカッペが転生している可能性は皆無だろ?」
「アクアさん、酷いですよ! 俺、どんな扱いなんですか!?」
俺達も同じ意見だと内心思っていたこの場にいる全員が一斉に目を逸らした。
「……その『死神』、本人曰く二代目なのだそうだけど、彼がよく一緒に行動している暗殺者に『暗殺公女』と『闇医者』のコードネームを持つ者がいるそうだよ? その『闇医者』がシュトルメルトさんと同じ絶命のギリギリまで生きたまま切り刻む暗殺術を使うらしい」
「「相変わらず悪趣味な手法だね」」
「それはアンタレスとアリエルにだけは絶対に言われたくないことですよ。……とにかく、ローザ様はその『闇医者』が私の転生体だと、そう仰りたいのですか?」
「まあ、それはまず間違いないだろうねぇ。そして、状況からして二代目『死神』はカッペさんで間違い無いと思う。『暗殺公女』は……二択だったけど、消去法でお父様であることが確定したねぇ。『暗殺公女』は異様に厚みのある黄色く鋭い爪を使った素手による暗殺の他、拳銃を使った格闘術など近距離戦闘に長けた女暗殺者だと聞いている。この戦い方はラピスラズリ公爵家の当主と先代当主と共通しているものだからねぇ」
「それは是非とも一度会ってみたいものだね」
カノープスがもう一人の自分に会える日を心待ちにしているみたいだけど、多分当分先のことになるよ?
「レイチェルさん、羨ましいです! マナーリンメイド長と実の姉妹になれるなんて!」
「私もこれだけは転生して良かったなぁ、って思っています! マナーリンメイド長……いえ、ミッチェルお姉様がパァッと花を咲かせる姿と暗殺対象が追いつめられて絶望して、命を削りながら死んでいく様を近くで見られますもの!」
「本当に可愛い子ね、レイチェル」
そんなマナーリンとレイチェルの姿を見ながら「また怖い奴が増えたんだけど」と内心怯えているヘクトアール。先代公爵家の使用人には以前から苦手意識があったからねぇ。
「あの……ミッチェルメイド長? サリアさんもいらっしゃいますし、メイド姿で女装するのやめてもいいでしょうか?」
「あら? 何故そのような話になるのかしら?」
美少女系少年のサリアがアノルドにジト目を向ける中、ミッチェルが小首を傾げた。
「ローザお嬢様はどう思われますか?」
「却下。寧ろ、男の娘の先輩としてサリアとアノルドを完璧に男の娘の沼に落としてやりたい」
……そこの二人、あからさまにドン引きするなよ。って、他のメンバーもか。
「お嬢様って百合派じゃなかったんですか?」
「百合派だよ? ただ、男の娘はアリだと思うからねぇ。可愛い子が可愛い服を着た方が可愛い服も喜ぶと思うんだよ」
「「あっ、これ逃げられない奴だ」」という表情で「どうしてくれるんだ?」とお互い視線を向け合うサリアとアノルド……案外いいペアになりそうなんだけどなぁ。
「じゃあ、アクアにも可愛い服を着させたいのか? こいつがフリフリ衣装とかマジウケるんだけど?」
「何を言ってんの? クソ陛下。アクアはどっちかっていうと男装の方が似合うんじゃない? まあ、町娘とかメイド服レベルならありだと思うけど」
「――それどういう基準ですか、お嬢様!?」
「まあ、確かに親友がロリィタ衣装着ているのはちょっとあり得な――」
あっ、ディランが腹に一撃入れられて撃沈した。
「相変わらず騒がしい食卓だ。もう少し静かに食べられないのか?」
「そういうプリムヴェールさんは意外と可愛い系が似合いそうだよねぇ。初めてプリムヴェールさんと出会った時に『魔法のカボチャの馬車』に乗った時のプリムヴェールさんのドレス姿可愛かったし、やっぱりプリムヴェールさんがプリンセスラインドレスかな?」
「――ローザ! その話は黒歴史だから頼むから思い出させないでくれ!」
「私は可愛かったと思いますよ? プリムヴェールさんのドレス姿」
「……マグノーリエさんまで」
プリムヴェール撃沈。やっぱり、マグノーリエって隠れドS属性あるよねぇ……って、最早隠れてすらないか。
可愛い笑顔でたまにグサグサと致命傷刻んでくるし、本人が無自覚なところが恐ろしいよねぇ。
「それで、ローザさん? 具体的にマグノーリエとプリムヴェールさんの結婚式はいつにするのですよぉ〜?」
「……一番ノリノリなのってエイミーンさんだよねぇ? というか、エルフへの説明とか大丈夫なの? 一応次期族長と次期族長補佐なんだし?」
「それは事後報告でも別に大丈夫だと思うのですよぉ〜?」
「……ミスルトウさん、大丈夫なんですか?」
「まあ、長命種とはいえ説明は必須でしょうから、それは私の方で説明して理解を広めようと思います。私も娘とマグノーリエ様の恋を応援することにしましたから、それくらいはやって当然です」
「ミスルトウに任せておけば問題ないのですよぉ〜」
「他力本願甚だしいねぇ……」
まあ、マグノーリエとプリムヴェールのドレス選びや会場、式のプランニングとかもあるし、ゆっくりと決めていけばいい話だと思うけどねぇ。
「結婚と言えば、アクアにお見合いの誘いが届いていたよ?」
「お父様、それ暖炉に焚べて燃やしておいて」
「……おいおい、親友。いくら過保護だからってそれは」
「送ってきたのはシューベルト総隊長でしょ? やだよ、少なくともアイツにだけはアクアを渡したくない」
「お嬢様、私もシューベルトは無しだと思いますわ」
「まあ、気持ちは分かるけどよ? ということは、ティアミリスがオニキスに婚約を申し込むのはアリなのか?」
「あっ、それはアリ。末長くお幸せに」
「……やべぇ、今回の親友の気持ちがさっぱり分かんねぇ」
ディランが「マジで分かんねぇ」って顔をしているけど、もしかして本気で分かってない!?
「ところで、ローザ。四代目ガネットから話を聞いたんだけど、今日彼と会ったんだって?」
「まあねぇ。どうも彼らアネモネを信用できなかったみたいでねぇ。脅されてイラッときたから本店にガツンと踏み込ませてもらったよ。ついでに忠告もさせてもらった。先代公爵家が転生してこっちに来ているってねぇ。……ガネットファミリーは最近内部分裂が起きているみたいでねぇ。メネラオスさんによれば『這い寄る混沌の蛇』の毒牙に掛かってブライトネス王国は滅ぶそうだけど、それはオーレ=ルゲイエだから別件。とはいえ、まだ『這い寄る混沌の蛇』のメンバーが紛れている可能性もあるし、先代公爵家と『瑠璃色の影』はマフィアの抗争開始と同時にガネットの援護に回って欲しいと思っているんだけど、頼めるかな?」
「勿論だとも、この国の平穏を揺るがすものを見逃す訳にはいかないからね」
「同じく、あの悲劇は二度と繰り返させてはならないものだ」
「……しかし、オーレだったか? そいつはローザ、お前が殺したんだろ?」
「レナードさん、冥黎域の十三使徒は一人につき神話級を一つ持っているんだよねぇ?」
「ああ、俺は『終焉銃』、お前と戦ったっていうヘリオラって奴も何か持っていただろ?」
「『太陽の湾曲刃』……回収して今はボクのものになっているよ。冥黎域の十三使徒は神話級を持っているけどボクの戦ったオーレは神話級を持っていなかった。ボクの戦闘経験とメネラオスさんの話を組み合わせると、オーレ=ルゲイエとはメネラオスさんが戦った全員を指し示す言葉なのか、或いはその全てが影武者で本物が別にいるのか、そのどちらかになるんじゃないかな?」
異口同音で喋っていたということは、影武者より人形というイメージが近いように思える。
しかし、それだけの数のオーレ=ルゲイエをどうやって奇襲に使ったのか? ブライトネス王国にすでに紛れ込ませているのか、どこかに拠点を作っていたのか。……謎が多過ぎて分からないねぇ。
「せめて『這い寄る混沌の蛇』の拠点がどの辺りか分かればいいんだけどねぇ」
「まあ、どこまでヒントになるか分かんねぇが、『滅焉銃』は冥黎域の十三使徒のオーレ=ルゲイエとフランシスコ・アル・ラーズィー・プレラーティによって作られたものだ。このフランシスコっておっさんは魔導帝国サンクマキナ出身で、その国は旧ルヴェリオス帝国よりも向こう側にある国の一つだ。ちなみに俺もサイゲロン王国にある荒野出身で、多少の情報は渡せると思うぜ?」
……ルヴェリオス共和国よりも向こう側か。確かに、そっち方面はノータッチだし、後手に回らないためにも探索しておいた方がいいかもしれないねぇ。牽制の意味も込めて。
「どうします? お父様」
「采配はローザに任せるよ」
「……ルヴェリオス共和国にも協力をお願いしたいから選定はもう暫くしてからすることになると思うけど、ラピスラズリ公爵家か、先代公爵家か、『瑠璃色の影』か、いずれかからは人員を出してもらいたいねぇ」
……しかし、どんどんやらないといけないことが山積みになっていっている気がするんだけど。
そういえば、スティーリアに頼んでいたラングリス王国、あれってどこまで進んだのかな? 後で連絡を取ってみるか。
お読みくださり、ありがとうございます。
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