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Act.8-125 悪役令嬢な王女宮筆頭侍女の暗躍 scene.1

<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


 ファンデッド子爵邸を後にしたボクはレインを王子宮筆頭侍女の執務室に送り届けてからアネモネに姿を変え、ブライトネス王国のガネット商会の本店……を隠れ蓑にしているガネットファミリーの本部の付近に転移し、そのままガネットファミリーの本部に向かった。


「ガネット商会へようこそ。本日はどのような御用向きでしょうか?」


「ビオラ商会合同会社で会長を務めているアネモネと申します。四代目ガネット様からお手紙を頂きまして……まさか、脅迫状を送ってきたのに本日はいらっしゃらないってことはございませんよねぇ?」


 クリーンで落ち着いた色合いのカウンターで対応してくれたブロンドの美しい女性は、顔に張り付かせていた営業スマイルを捨てると「……ビオラのアネモネか。ガネット様がお呼びだ。案内してやる」と声のトーンを落とし、鋭い視線をボクに向けた……やっぱり堅気じゃ無かったんだねぇ。


 受付嬢に案内された先は地下にある応接室だった。黒い皮張りの椅子とガラスの机が置かれた部屋はシックだけど、どことなく高級感を感じさせる。

 部屋には五人のガタイのいい男と共に四代目ガネットの姿はあった。


「初めまして、ガネット商会の会頭を務めている四代目ガネットという。まずはご招待に応じてくれてありがとう」


「初めましてではありませんよ? ジェニファー=ナヴァーラ殿?」


 ボクが四代目ガネットの本名を言い当てると、ガネットが糸目を鋭く見開き、睨み付けた。

 男達と受付嬢が一斉に武器を構える……が、四代目ガネットは彼らを制した。


「いい判断だ。……そのまま動いていたら、ボクは全員殺していた。勿論、ガネット――君もだよ」


「……貴女は一体何者なのですか? アネモネ」


「君は口が固い方かな? ガネット」


「……内容にもよりますね」


 アネモネのアカウントを切り替え、ローザの姿を見せる。


「……ラピスラズリ公爵家のローザ嬢? まさか、アネモネの正体がローザ嬢だとは。なるほど、そういうことですか。国王陛下がアネモネを贔屓する理由もこれでようやく理解できました」


「ついでに君の疑問に答えてあげよう。ボクはこれまでのラピスラズリ公爵家とは違うよ。国王陛下には忠誠を誓っていない……ただ、国王陛下はボクのことを友だと言ってくれた。友が困っているなら手を貸すし、友が窮地に陥っているのなら助ける。これで満足かな?」


「先代までのラピスラズリ公爵家と今のラピスラズリ公爵家の方針は違うと聞き及んでいます。次代のラピスラズリ公爵家も国王陛下の毒剣として活動するつもりはないようですね。……とはいえ、それが次代の姿であるというなら、時代の変化というのなら私に言えることはありません。今代のラピスラズリ公爵も認めておられるようですしね」


「そちらの問題は解決したようなので、こちらの話をしましょうか? ……ガネット、貴方は愚かなことをしましたねぇ。ボクは別に良かったんですよ? ガネットファミリーを皆殺しにしても? ……ボクの家族に、大切なものに手を出すことがどれほどボクに苦痛を与えるかをご存知ないのなら、身をもって教えてあげましょうか? まあ、今回はアネモネ=ローザの図式を知らされていなかったので多めに見てあげましょう。ただし、二度目はありませんよ?」


「…………寛大なご配慮、本当にありがとうございます。……正直、ローザ様であると知っていれば、そのような愚かな真似は致しませんでした」


「そもそも、ボクはマフィアなど一掃した方がいいと考えているのですよ? この国は別の世界線では『這い寄る混沌の蛇』という連中によって滅ぼされているようです。彼らはどこにでも紛れる……マフィアなど格好の標的でしょう? この頃、マフィア内部での分裂も起きている。【ブライトネス王家の裏の剣】もそうですが、肝心なところで役に立たないようでは意味がないのではありませんか? ……そうそう、先代公爵が海を隔てたペドレリーア大陸で転生しており、彼の使用人と共にブライトネス王国に引き上げてくるようです。……こちらにおられる先代公爵もそうですが、彼らは揃って人殺しを愉悦に考えるお方だ。誰かが許可を出せば嬉々として殺しを楽しむでしょう? ボクもそうならないといいと思っているのですよ?」


「……それは脅しでしょうか?」


「どう受け取ってくれても構わないよ。ただ、長くこの国に仕えてきたガネットファミリーにもそれなりに敬意は評しているつもりだ。その行いが決して褒められたものではないとしてもねぇ。それに、あの一件で貴族達を黙らせてくれたことも感謝している。……『這い寄る混沌の蛇』の教徒は何かしらの宗教に触れると発狂する。裏切り者を見つけたいなら天上の薔薇聖女神教団の教典でも読ませるといいよ?」


「……我々に存続の機会をお与えくださるということですか?」


「まあ、タダでとは言わないけどねぇ。……これだけのことを水に流したんだ。勿論、対価は弾んでくれるよねぇ?」


「やはりただでは済ませてくれませんか? 今回の件を示談にするためにはいくら支払えばいいですか? それとも、脅迫状を書いた構成員を目の前で殺してみせればいいですか?」


「ガネットファミリーは高利貸しでかなり稼いでおられるようですね。まあ、それはいいです。……ファンデッド子爵がガネットファミリーから借金をしていると聞いています。随分と暴利だったそうですが、その借金についてこちらで全額支払わせてもらいたいと思っている。お望みなら利子付きでお支払いするよ?」


「……いえ、流石にそこまでは。しかし、よろしいのですか? こちらとしては借金分支払ってもらえるだけでありがたい話ですが、あれはぼったくりですよ?」


「付け加えると、借金はマルゲッタ商会が肩代わりをする形になり、ジリル商会の会頭が交渉にやってくると思うから、渋りながらも結果的に全額分+迷惑料分ファンデッド子爵令嬢にお支払いしたという形にして欲しい。昔気質の金融業のスペシャリストなジリル商会の会頭に上手くやられたというフリをしてねぇ。相手がゼルベード商会のような悪徳商人ならともかく、マフィア相手では荷が重いからねぇ。まあ、これが上手い落とし所なんじゃないかと?」


「……そうなってくるとなかなか難しいですね。上手く競り合った上で負けなければならず、更にマフィアとしての格を落とす訳にもいかない。ただでさえ分裂目前の状況ですからね。上手く譲歩を引き出され、紙一重で負けなければならないとなれば、求められる演技力も相当です。エリカ、この任務、引き受けてくれるかな?」


「はっ、承知致しました」


 この受付嬢が引き受けてくれるんだねぇ。まあ、そういうのも得意そうだから表の受付嬢をやっているんだろうし。


「さて、ファンデッド子爵家の借金の清算に移ろうか? どれくらい借金をしているのか、後どれくらい支払が残っているのか、教えてもらってもいいかな?」


 その後、ガネットが自ら持ってきた資料を確認して利子とファンデッド子爵家に支払う迷惑料込みで(ガネットはそこまで支払ってもらわなくてもいいと言っていたけど)ガネットに支払った。


「それじゃあ、きっちりやってねぇ。……万が一、演技がバレたら……とりあえず、責任をとってエリカさんにはバラバラになってもらうか?」


「……あの、どんだけ私恨み買っているんですか!? その、脅したのは申し訳なかったと思っていますが」


「冗談。今回の件で上手くやってくれたら、うちでの採用を考えてもいいよ? ガネットよりはいい支払いをするよ?」


「本当ですか!?」


「エリカ、分かっているよね? ガネットファミリーには血の掟がある」


「なお、ビオラの庇護下に入ったら徹底的に守るし、万が一死んでも敵討ち特典もついているよ? ガネット滅んじゃうよ? ……正直、冒険者であるアネモネ相手にあそこまで本気で脅してきたのは久々だったからちょっと気に入っちゃってねぇ」


「それは仕方ないですね。エリカ、成功したらビオラに行っていいですよ? ただし、失敗したらバラバラですけどね」


「……あの、バラバラは冗談なんですよね?」


「失敗したらバラバラだからねぇ?」


 エリカがみるみる青くなるのを眺めながら「まあ、失敗したところでそんなことしないけど」と内心思いつつ、ボクはガネット商会を後にした。



<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ビオラ=マラキア>


 マラキア共和国に飛んでモレッティに事情を説明、モレッティが優秀な部下だと太鼓判を押すグレッグのいるブライトネス王国のビオラ商会合同会社本社に飛んでグレッグにも事情を説明してファンデッド子爵邸に派遣してから、続いて天上の薔薇聖女神教団の総本山に飛び、アレッサンドロスの元を訪ねた。


「これはこれはリーリエ様。ご連絡頂ければ総出でお迎え致しましたのに」


「……アンタら暇なの? まぁ、いいや。ボクの知り合いの侍女に困っている人がいてねぇ」


 アレッサンドロスにも事情を説明する。アレッサンドロスは小さく頷きながら黙考していた……思うところが、ではないだろうねぇ。


「そういえば、王女宮筆頭侍女に就任後、いくつも絵画を描かれたとか。……私達には何もないのですか!? リーリエ様のお美しさを表現できるのはリーリエ様しかおられないのですよ!?」


「君達は神を何だと思ってんの? というか、本当に信仰しているの!? ……まあ、いいや。宗教画ねぇ、今度いくつか描いておくよ。こういう構図が欲しいというのはある?」


「リーリエ様の神々しいお姿が描かれているのであれば、どのような構図でも構いません!」


「はぁ……まあ、善処はしてみるよ。……そういえば、フォルトナ王国と同盟を組む予定のフィートランド王国っていう国にジョナサンっていう神父が居てねぇ。彼が天上の薔薇聖女神教団の神父になりたいと言っていたよ。彼はフォルトナ王国のヨナタンさんの転生体でねぇ、素行や性格はともかく信用できる人ではあるから、一応そういう人がいるって説明だけはしておくよ」


「左様にございますか!? リーリエ様のご推薦であれば面接の必要はございませんね!」


「……もうやだ、この狂信者」


 別に推薦はしていないよ? ただ、『説明』しただけなんだよ?

 ……本格的にジョナサンとトーマスが神学で弁論する日が来そうだねぇ、もうやだ。


 その後、三千世界の烏を殺して出発してから数分後の王女宮筆頭侍女の執務室に戻った。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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