Act.8-109 プレゲトーン王国革命前夜編 scene.11 絶望に堕ちた姫君と半吸血鬼の絆断つ者
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ>
「さて、方針はおおよそ決まったねぇ。そちらの王子殿下方が了承してくれたらだけど」
「……今の俺達では悔しいけどヘリオラに勝てない」
「本当はボクもついて行きたいけど、足手纏いになるのなら、僕はここでミレーユの帰りを待つよ」
リオンナハトもアモンもライネもルードヴァッハも、悔しそうな顔をしている。
でも、猛者のディオンでも厳しい相手だから仕方ないよねぇ。
「おい、待て。まだ俺は認めてないぞ! 奴らを倒すのはこの俺だッ!」
「折角可愛い外見なのに、中身がシューベルトとか本当にやめて欲しいんだけど。……というか、フィートランド王国から参戦したのってティアミリス姫だけなの?」
「……忌々しいことにヨナタン=サンティエの転生者でオルレアン神教会の神父のジョナサン・リッシュモンと一緒にだ。あのドS神父はプレゲトーン王国内部に潜む蛇を殲滅するために王城に行かせた」
「なんでこう、面倒なことしかしないかなッ! あのドS派遣したらプレゲトーン王城が占領されるのも秒読みじゃん!? 王城には『プレゲトーンの剣聖』がいるけど、あのドS司書の三つ子の兄の方相手じゃ分が悪過ぎるッ!!」
「本当に最悪だったが、お前の困惑顔が見れたことだけは僥倖だったな」
「本当に嫌いだよ、ティアミリス。……とりあえず、オルパタータダ陛下、責任を持って回収してきて。そっちの不手際でしょう?」
「俺の責任かよ!? いや、知らねえよ、別世界線のヨナタンとか!!」
……なんか急に嫌な予感してきた。
「リオンナハト殿下、アモン殿下。何でもいいんで、変わったことがありませんでしたか?」
「変わったことと言われても……」
「プレゲトーン王国と革命派を三日後に壊滅させると宣言した白髪の老人に会った。メイド服の女性を連れていたな。……狂っている男だった。『お前さん達正義ができねぇことを、ワシらがしているんじゃねぇか』と身勝手な理由を振り翳して殺しを正当化している男だった」
「おい、それってもしかして――」
「なんか、もう、身内が本当にすみません!! ってか、なんで先代公爵家まで転生しているの!? フォルトナの魔王に先代の血塗れ公爵に、こんなに劇物共を転生させられても困るんだけど!!」
「……おい、この大陸本当に大丈夫か? あの先代公爵家はカノープス以上にやばい奴だ。俺が王子だった頃に先代公爵家は文字通り血の嵐を撒き散らした。もしかして、俺にしか止められないんじゃない!?」
「ラインヴェルド陛下、ガンバ」
「おい、親友、そりゃないぜ!」
「一緒にヒゲ殿下付けるから」
「おい、そりゃないぜ。兄上だけでいいじゃねぇか! 被害は減らした方がいいだろう?」
「ミスルトウさん、プリムヴェールさん、マグノーリエさん、ダラスさん、カルコスさん、トーマスさん、レナードさんはリオンナハト殿下達とこの場に留まってボクがミレーユ姫殿下を連れ帰るのを待って欲しい。オルパタータダ陛下はティアミリスとアモン殿下、えっと一応ヴォードラル殿は今からプレゲトーン王国の王城に飛んでドS神父を止めて事情を説明してきて! ラインヴェルド陛下、バルトロメオ殿下の二人はとっとと先代【血塗れ公爵】を見つけて説得してきて! 今回の革命に関しては多分もうすぐカラックがマリアと来て説明してくれるから、ミレーユ姫が戻ってきてからで大丈夫じゃないかな? というか、大丈夫であって欲しいッ! もうこれ以上イレギュラーはやめてくれッ!」
「なんか珍しいなぁ。ローザがまるでアーネストじゃねぇか! ウケる」
「ウケんなッ! ボクだって全知全能じゃないし、こんなタチの悪い転生ラッシュに遭ったらどうしようもないの! ……というか、なんかまた面倒ごとが起こりそうな予感がするんだけど」
もう、やだ……。
◆
散々振り回されて、感情がごちゃごちゃなんだけど、それでもミレーユの撒いてきた種を身勝手な理由で潰そうとしているヘリオラへの殺意は消えていない。寧ろ、あの時以上に燃え上がっている。
ボクって、冷静に考えると相当な激情家だよねぇ……意外と沸点が低いところ解消しないといけないなぁ。
レナードの情報ではミレーユはサイラスに囚われているとのこと……まさか、ジェイが隠れているアジトかな? なんて思ったけど、どうやら別の場所らしい。
『這い寄る混沌の蛇』の幹部クラスである冥黎域の十三使徒の存在は、狼使い以上の古株しか知らないらしく、末端も末端のジェイが知らなくても仕方ないようだねぇ。
レナードの情報にあった場所は廃屋だった。随分と放置された屋敷みたいだねぇ……小規模だけど。
「うふふ、貴女を不幸にするのはローザ=ラピスラズリって女なのよ♡ 何度繰り返したって同じ、どれだけ頑張っても見捨てられて断頭台で結局首を落とされて死んじゃうの。ローザ=ラピスラズリって女が書いたシナリオのせいで、貴女は永遠に苦しむ。シナリオがなくならない限り、あの女が死なない限り、貴女は永遠に不幸なまま。ライネからも、ルードヴァッハからも見捨てられて、リオンナハトとマリアに殺される……その変えられない運命を変えたいなら、貴女は殺すしかないわ。その手で、ローザ=ラピスラズリを」
ミレーユ姫らしからぬ鎖の装飾が至る所に施された扇情的な黒のドレスを身に纏い、ハイライトの消えた緑色の瞳に憎悪の炎を燃え上がらせるミレーユの顔に手を添え、愉悦の表情を浮かべるヘリオラ。
「……わたくしに不幸な運命を背負わせたのはローザ……ライネからも、ルードヴァッハからも見捨てられて、そんなの、そんなの!! 絶対に許せませんわッ! なんでわたくしだけがこんな酷い目にッ!」
ヘリオラがボクを見つけて嫣然と笑った。
「ほら、そこに元凶がいるわよ」
「絶対に殺して差し上げますわッ! 絶望の光」
絶望堕ちしたミレーユの指先から放たれた漆黒の光を地を蹴って躱し、そのままミレーユを素通りしてククリナイフを握り締めたヘリオラに手を伸ばす。
「あらあら、いいのかしら? ミレーユ姫を放置して。普通は私じゃなくて彼女をどうにかしてから攻撃をしてくるのものじゃないの? でも、それなら私が貴女を殺せばいいだけのこと。貴女の腸の色は何色かしら?」
「――まずは一撃」
《神の見えざる手》を使ってヘリオラに触れ、法儀賢國フォン・デ・シアコルの魔法を発動して「記憶取り出し魔法」で飴玉としてヘリオラの記憶を取り出す。
記憶、つまり知識だけだから舐めたところで人格に影響はない。これを使って、冥黎域の十三使徒や新たな『這い寄る混沌の蛇』の切り札に関する情報を得る。
全ての記憶を奪われたヘリオラは、動きを止めた。
その隙に飴玉を舐める。……なるほど、ククリナイフの扱う近距離戦闘のスペシャリストで、更に吸血鬼由来の異常な再生能力と絆を断ち切ることで仲間のことを忘れさせて孤立させる特殊な能力『絆斬り』、絶望を与えて闇堕ちさせる特殊な能力『絶望堕ち』を持つのか。
元来の能力は吸血鬼のハーフとしての異常な再生能力のみってことになりそうだね。
装備は……『太陽の湾曲刃』のみが神話級なのか。とりあえず、これは先に回収しておこう。
「私は……ここ、は……」
「別に創作者は神じゃないし、物語が変わることにはボク自身、とても良いことだと思っている。異世界化と共にシナリオを外れ、より良いものを目指していけるなら、それに越したことはないからねぇ。――ただねぇ、積み上げてきたものを塗り潰して、絆を絶って、絶望を与えて、そうやって物語を改竄していくっていうのは大っ嫌いなんだよ! 崇高な人生を汚すな、人の頑張りを改竄して、無に帰そうとするなッ! そんな奴に、存在する価値なんてないッ!! 我と共に歩みし漆黒の魔剣よッ! 今、その真なる力を解放し、汝の敵のあらゆる足跡を、その生きた証全てをこの世から抹消し給えッ! 魔皇魔剣ッ!」
『漆黒魔剣ブラッドリリー』で圓式で切り裂くと同時に、ヘリオラの体がグニャリと曲がって時空の歪みに飲み込まれるかのように消えていく。
その瞬間、世界が改編されたという事実をボクだけが認識することができた。
「……あっ、あれ? ここは、わたくしは一体何を――」
ミレーユの運命も改竄され、廃屋で連れ去られる前の変装姿に戻っていた。
「初めまして、ミレーユ姫。ボクはローザ=ラピスラズリと申します。これから話す話は荒唐無稽なものに聞こえると思いますが、全て紛うことなき事実です。……冷静にお聞きください」
◆
「……えっと、つまり、どういうことなのですの?」
「ミレーユさん、さっきのライネさん達と同じ顔をしているよ? やっぱりルードヴァッハさんは頭一つ抜きん出ているよねぇ」
「当然ですわ! ルードヴァッハは本当に賢いですし、彼がいなかったらギロチンを回避することもできませんでしたわ」
「うん、そーだよねぇ。ルードヴァッハさんが曇り眼じゃなかったら詰んでいるよねぇ。……まあ、つまり、この世界は元々ゲームっていうもので、それが一つの世界になったものだと思ってくれればいいよ。ただし、必ずしもそのゲーム通りになる訳じゃない。今回みたいなイレギュラーも生じる。……これから、ミレーユさんはラフィーナさんの要請で『這い寄る混沌の蛇』と戦っていく。まずは、その一戦目が、これからこのサイラスで起きることになる。ミレーユさんはリオンナハトさんと、カラックさんと、アモンさんと、マリアさんと、ディオンさんと、みんなと協力して囚われたグレンダール・ドーヴラン伯爵を救い出すんだ」
「な、なんでわたくしなのですの!? なんで、わたくしがそんな危険なことを――」
「確かに、リオンナハトさんやラフィーナさんの方が為政者としては優れているかもしれない。あの二人は場合によっては道を間違えて滅亡に進んでいくだろう……それを変えられるのは、ミレーユさんだけなんだよ。『帝国の深遠なる叡智姫』はただのまやかしだよ。みんなが勘違いして積み重ねられた共同幻想……これを背負っていくのは大変かもしれないけどねぇ。わがままで、ぐうたらで、でも困っている人がいたら放って置けなくて、非情にもなりきれなくて、そんなミレーユ姫だから切り拓ける道がある。大丈夫、君が周りの空気を読みながら、成り行きに任せて、そして、大切な選択の時に自分のわがままさと、困っている人がいたら放って置けない優しさに従って選択をすれば、きっとみんな前の時間軸よりも幸せになれる。そういう意味では『帝国の深遠なる叡智姫』は実在するんだよ」
……ボクにはない力、言い換えればミレーユ姫にしかない魅力。
ボクだったらもっと最短距離で突っ走るし、敵に慈悲をかけることなんてできない。
「全く、仕方ありませんわね! できる限り頑張ってみますわ……安請け合いしてはいけないものを安請け合いしてしまったような気がしますが。でも、もし本当に困った時は、助けてくださいますか?」
「そりゃ、勿論ねぇ。冥黎域の十三使徒に関しては、ディオンさんでも厳しい……というか、ディオンさんが十人居ても厳しそうな気がするし」
「でぃ、ディオンが十人!? わたくしなら十回以上死ねますわッ!?」
「そっちのイレギュラーはボクらで対処するから大丈夫。それと、もし『這い寄る混沌の蛇』関連が終わったらダイアモンド帝国とも同盟を結びたいと思っている。ボクらは大陸の向こう側の出身でねぇ、こっちの大陸の人達ともいずれは交流したいなぁって思って。ミレーユさんのお父様とリズフィーナさんのお父様はアレだから、二人からお願いされれば断れないと思うけど」
「……確かに、我儘を言ってもこれくらいならって言ってくれそうですわね。二人とも親バカですから」
「それじゃあ、ミレーユさん。リオンナハトさん達のところに行こうか? そろそろカラックさんとマリアさんも戻っているだろうからねぇ」
さて、これで本筋に戻ったことだし、後はミレーユ達に頑張ってもらいますか。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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