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Act.8-100 プレゲトーン王国革命前夜編 scene.2 ミレーユ姫、リオンナハトと二人で探索する。

<三人称全知視点>


「リオンナハト、ずっと聞いておきたいと思っていたことがございましたわ。もしも……もしも、ご学友であるアモン王子が民の弾圧に加担していたら彼を斬りますの?」


 ミレーユはずっとはっきりさせたいと思っていたことがあった。


 前の時間軸において、リオンナハトとマリア率いる革命軍は自分の命を奪った。

 確かに飢えた民の怒りは分かる。自分を処刑する動機も、彼らは持っていたのだろう。


 しかし、リオンナハトには果たしてその大義名分というものはあったのだろうか? 部外者といえる彼は一体どのような気持ちで前の時間軸のミレーユを断罪したのだろう?

 アモンが今、かつてのミレーユと同じ立場に立たされた今、ミレーユはどうしても彼の口からその気持ちを聞き出しておきたかった。


「……それは」


 リオンナハトは決して歯切れの良い答えをすぐに口にはしなかった。

 その様子を見ながら、ミレーユは更に話を続ける。


「リオンナハト殿下、貴方はリズフィーナ様に負けず劣らず高潔な方であるとお聞きしていますわ。そんな貴方にだからこそ聞いてみたいのです。もし、もし悪に手を染めていた相手が顔見知りで、友人であったとしたら、貴方はその剣で断罪するのですか?」


 予想外の問い掛けにリオンナハトは考え込んでしまう。しばらく無音の時間が続き、ミレーユの耳には森を揺らす風の音や川の流れることだけが届く時間が続いた。


「もし、アモン王子が民衆の弾圧に加担し、その剣を振るったのであれば、俺は彼に剣を向けなければならないかもしれないな。友であったとしても……いや、友からこそ俺の手で間違いを正さねばならない」


 例え友人であったとしても、間違っているのであれば正さなければならないし、引き返せないところまで来ているのなら殺さねばならない――それが常に正しくあれと育てられてきたリオンナハトの信念であった。

 リオンナハトの半生はそれ以外の答えを決して許容したりはしなかった。


「貴方のその言葉はそうならないように努めた者のみが言える言葉、そうではございませんか?」


 仕方なく相手を裁く、相手が悪を成したから断罪する――確かにそれはリオンナハト、いや多くの人々にとっては模範解答なのかもしれない。

 しかし、リオンナハトが当たり前だと思っていた……いや、当たり前だと思い込んでいたその模範解答にミレーユは疑問を呈した。


 諜報員からの情報を得て事前に止められる可能性がリオンナハトにはあった筈だ。

 しかし、間違いを犯した者達を諌め、改めさせる努力を一切することはなく、最後通牒をすることすら放棄し、正義の味方気取りで民を苦しめたことを断罪する権利は果たしてリオンナハトにあるのだろうか? と。


 正義の言葉を吐きながら……しかし、民が苦しまずに済むように働き掛けることなく、部外者でありながら美味しいところだけを掠めるような真似をしたかつてのリオンナハトの姿がミレーユの脳裏には浮かんでいた。

 ミレーユを断罪するリオンナハトの姿はそれはそれは憎たらしかった。


 その言葉は前の時間軸のミレーユが「知り合いだったのだからせめて一言ぐらいは注意とか警告とかあっても良かったんじゃないかしら」と感じた故のものだったのだが……その言葉は全くミレーユが意図して発したものではないにも拘らず、見事に完璧に見えるリオンナハトの誤りを的確に射抜いていた。


 手遅れになった時にまるでヒーローのように颯爽とやってきて、断罪する権利がない部外者にも関わらず国政に介入してミレーユを断罪したリオンナハト。その内政干渉は本当に許される者だったのか?

 それに、事前に情報を得ていながらも何もせずに黙認し、手遅れになってようやく動いたリオンナハト達に本当に非がないと言えるのだろうか?


 リオンナハトはミレーユこの言葉を切っ掛けに自分の正義を問い直すことになる。

 それと同時に、リオンナハトの正義の欠点に気づき、それとなく注意したミレーユに畏敬の念を抱くのだった。



 翌朝、太陽が赤い輝きを放つ頃、ミレーユ達は川沿いの獣道を歩き始めた。

 闇雲に森の中に分け入って危険を冒すよりも水場の側に村落が作られている可能性に賭けた方が安全だと考えての作戦だったのだが、集落は一向に見つからない。

 更に河原には大きな岩がゴロゴロ転がっており、平坦ではない道がミレーユの体力をゴリゴリと削っていた。


 いざという時のために体力をつけるようにしていたミレーユだったが、それでも限度というものがある。

 すでに膝も生まれたての子鹿のようにガクガクでミレーユは今にも座り込んでしまいそうだった。


「大丈夫か? ミレーユ姫」


「ありがとうございます。助かりますわ、リオンナハト殿下」


 リオンナハトの手を借りて岩の高台に登ったミレーユだったが、その目に映るのは森の緑と河原の石の灰色と川の透明な水のみ……残念ながら集落らしきものは見えなかった。


「……馬車とは言いませんが馬が欲しいところですわね」


「そういえば、ミレーユ姫は乗馬ができるんだったな。ただ、残念ながら野生の馬は見つけられないだろうな」


 メンバーは乗馬の技術を持つミレーユとリオンナハトの二人で他に同行者はいない。

 もし仮に馬さえいれば移動範囲が格段に広がるが、流石に運良く野生の馬がいるということは出来過ぎた話である。期待はしない方がいいだろう。


「こんなことになったのも、全部あの馬車を襲ってきた連中のせいですわ」


 そのミレーユの呟きという名の愚痴を聞き、リオンナハトは僅かに眉を顰めた。


「あら? どうかなさいましたの? リオンナハト殿下」


「……いくらなんでもおかしいなと思ってな」


「といいますと?」


「確かにプレゲトーン王国は現在、政情不安な危険地帯だ。だから、商隊が盗賊に襲われるのは不思議ではない。恐らく警備の余力も無くなっているだろうからな。……だが、あの時、俺達が戦ったのはただの盗賊じゃなかった」


「そういえば、暗殺者とか何とか言っておりましたわね」


「それに、その暗殺者を一撃で仕留めたあの男――レナードだったか? アイツは桁外れの力を持っていた。あの場で運良く馬車が弾まなければ、俺達は全員死んでいただろう」


 ミレーユもリオンナハトの話を聞いてさっきの出来事を思い出したのだろう。

 急に背筋がゾクッとなった。


 ――つまり、あのまま戦っていたら死んでいたってことですの!?


「ま、まさか? リオンナハト殿下が負けるなんて流石に――」


「剣の腕ではどちらが上かは分からない。だが、剣を届かせる前に遠距離から攻撃されれば勝ち目はない。さっきの男がプレゲトーン王国の革命に絡んでいるとしたら厄介だな」


 リオンナハトはあの男が暗殺者の完全な味方ではないとあの戦いを見て感じている。寧ろ、別口でこのプレゲトーン王国の革命に関わっている可能性の方が高い。

 しかし、レナードと名乗った男が何者かに依頼されてミレーユを狙ってきたのは確かだ。つまり、暗殺者とレナードが敵対している可能性はあるが、どちらもリオンナハト達にとっては敵であるということになる。


「……まあ、あの男のことは考えても仕方ないだろう。あの男とはもう二度と出会さないことを祈るしかない。……それよりも、あの暗殺者達は専門の戦闘訓練を受けた刺客だった。ああいう輩は治安が悪いから湧き出るものじゃない」


「つまり、貴方はあの男だけではなく盗賊を装った暗殺者達もわたくし達の命を狙って放たれた刺客だと仰るのですか!?」


「俺達、というか、確実に俺か君のどちらか、あるいは両方を狙っていたんだろうな。……あのレナードという男とも目的が合致しているのなら確実にミレーユ姫を狙ったということになるだろう」


「わ、わたくし!? ですが、あの馬車にわたくし達が乗っていることは誰も知らない筈ですわ? どこかから情報が漏れていたということですの?」


「そう考えるのが自然だろうな。しかし……」


 その言葉を最後にリオンナハトは黙り込んでしまった。どうやら、あの馬車の中でのことを思い出して、色々と考えているらしい。

 一方、ミレーユは別にリオンナハトが考えているんだから自分が考える必要はないんじゃないかとあっさり思考を放棄し、代わりに辺りの食べられそうなものを探し始めた。


 レナードという脅威がいるが、リオンナハトでも倒せない相手ならミレーユにどうしようもないのだ。

 ならば、考えるだけ無駄という奴である。


 ――しかし、まさか魚を捕る訳にもいきませんし。河原に生える野草が何種類かあったかしら? あら、あれは?


 その時、ミレーユの目にあるものが映った。

 それは河原に生える、占地茸という茸だった。

 燃え上がる炎のような形で真っ赤で、とても綺麗だ。思わず手を伸ばしかけたミレーユだったが……その時にふとその脳裏を料理長の言葉が過ぎった。


『――姫殿下、野生の食べ物にご興味を持つのはよろしいのですが……茸だけは毒を持ったものとそうでないものとを見分けるのがとても難しいのです。玄人でないと危険なので、絶対に手を出さないでください。いいですか、絶対にですよ』


 忠告を思い出したミレーユは、伸ばそうとした手を引っ込めようとして……。


 ――でも、わたくしって玄人じゃないかしら? 森での生存術とか色々と調べてますし。


 森の中で一夜を過ごしたことでミレーユの中に奇妙な自信が芽生えていた。

 ダニング=クルーガー効果における「馬鹿の山」と呼ばれる初心者に陥りがちな過度な自信が、ミレーユに「食べられる茸と毒茸を見分けられるんじゃないか」という気持ちにさせるり


「あんなに綺麗なのだから、きっとあの茸は食べられる茸ですわ!」


「――そいつは、やめといた方がいいな」


 茸に手を伸ばそうとした途端、誰かに声をかけられてミレーユは飛び上がった。



 リオンナハトは現れた男に警戒したが、敵の追っ手だとか断じてそういうことはなく、ただの猟師だった。

 近隣の村から猟のためにやってきたというマジクという男は、ミレーユが採ろうとしていた茸が火蜥蜴茸サラマンドラ・マッシュルームという触れるだけで手が被れる毒茸であることを伝えた。昨日、食べた野草は大丈夫だったんだろうかと『帝国の深遠なる叡智姫』に対する信頼が揺らいだリオンナハトである。


 マジクの村に案内してもらったミレーユとリオンナハト。美味しい兎鍋を食べられたミレーユはホクホク顔だ。

 一方、リオンナハトはミレーユが敵かもしれないこの男を信じる覚悟を決めたと感じて改めて『帝国の深遠なる叡智姫』の豪胆さと人を見抜く目を心の中で賞賛したのだ。……無論、ミレーユは覚悟を決めた訳ではなく、ただ兎鍋を食べたかっただけなのだが。


 運良くマジクの住む村から街に行く者がいるということで、その馬車に同乗させてもらうことも許してもらえたので、結果としてこの判断は正しいものだったと言えるだろう。

 同時にリオンナハトは自分が聞かされていた軍備拡張のために国王の課した重税に耐えかねて、怒りを爆発させた住民が立ち上がり革命が王国全土で広がっているという情報と現状の微妙な情報のズレに気づき、その違和感に小さく首を傾げた。


 二日間、じっくりと村で疲れを癒した二人は近隣の町に行くという商人を紹介してもらい、村を後にした。


「気を付けるんだぞぉ〜!」


 大きな声で叫ぶマジクに手を振り返すミレーユ。


「すっかりお世話になってしまいましたわね。お礼ができないで心苦しいですわ」


 そう呟きながら、リオンナハトの方を見ると――。


「カラック達が無事ならばいいんだが……」


 リオンナハトが小さく呟いた。その不安げな彼の様子にミレーユは首を傾げかけて……思い出す。


 自分達が川に落ちた原因、それは馬車を暗殺者に襲われたからだった。

 あの後、馬車がどうなったのか、カラックとマリアが無事なのかは分からないのだ。この時、ミレーユは思い出したくもないレナードのことをすっかり忘れていたが、ミレーユと違ってしっかりと記憶していたリオンナハトの表情は絶望に彩られている。


 ……あら? でも、別にあの二人に何があってもそんなに問題ないんじゃないかしら?


 なにしろ、ミレーユを死に追いやった仇敵二人組である。

 しかし、学友として少しの時間を一緒に過ごした中でもある。それに、恐らくカラックはリオンナハトにとってミレーユにとってのライネのように大切な人間なのだろう。

 少しだけカラックとマリアの無事を祈ったミレーユだった。


 ――しかし、こいつにも人間らしいところがあるんですわね。ちょっぴり意外でしたわ。……クロエフォード商会の馬車に何かあったら、フィリイスに申し訳ありませんし、馭者さん達のついででぐらいには無事をお祈りして差し上げますわ、ついでぐらいには!


 ツンデレにしか聞こえないミレーユらしい捻くれた祈りを捧げるミレーユだった。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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