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Act.8-94 王女宮での新生活と行儀見習いの貴族令嬢達 scene.5

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ>


 本日は午前中、プリムラは王女としての教育の一環で神殿で勉強をするという日程になっている。

 神殿といえば、言わずもがな例の怪しい宗教団体(ファンクラブ)


 ラインヴェルドは簡単に敵対したけど、天上光聖女教はこの国の中枢と実は密接に関わっている。

 王族が携わる神事があったり、大司祭以上の神官や王族しか入れない区画があったり……王族でもないのに入ったことがあるんだけど、おっかしいなぁ。


 普段は女性の大神官が一人で来るそうなんだけど……あれ? 何故か教皇のアレッサンドロスと天上の薔薇騎士修道会騎士団長のヴェルナルドまでいるし……お前ら仕事はどうした?

 女性神官もローザ=リーリエということを知っているようで今にも跪きそうになっているんだけど、やめてねぇ? ボクはただの公爵令嬢で筆頭侍女なんだから。


「お久しぶりでございます、姫殿下。しばらくご挨拶をすることができず、大変申し訳ございません」


「お顔をお上げください教皇様。教皇様がお忙しいことは存じておりますわ。こちらこそ、挨拶に伺えず大変申し訳ございません」


 ……まあ、この狂信者共の目的がプリムラでないのは確かだ。彼らにとってプリムラ……というか王族は一応敬意を払うべきではあるけど、ご機嫌伺いをするような相手ではない。

 普段は大神官に送り迎えを任せているのだからわざわざ今日出向く必要はないし、実際に慣例から見ても教皇自ら挨拶に伺い、神殿までお連れするということは無かった。


 つまり、目的は恐らくボクということになる。

 教皇が動く以上、護衛も猛者である必要がある。その点でヴェルナルドを派遣するということに一応筋が通る。

 そして、教皇クラスが来たという以上、こちらも何かしらの接待をしなければならないということになる。……当然、ボクとアレッサンドロス、ヴェルナルドの密談も可能な訳で。


「ローザ様、大変遅くなりましたが筆頭侍女への就任おめでとうございます。ところで、ローザ様もご一緒に神殿に参られてはいかがでしょうか?」


 「えっ、ローザも一緒に入っていいの!?」とアレッサンドロスの言葉を聞いて目を輝かせる年相応のプリムラの笑顔を曇らせるのは物凄い心が痛むのだけど。


「教皇臺下、身に余るお祝いのお言葉誠ありがとうございます。……私は一介の公爵令嬢に過ぎません。勿論、姫殿下と共に神殿に参ることができたらどれほど嬉しいか。しかし、慣例というものは覆せば問題が発生するから慣例なのです。大変僭越ながら特別扱いはあまり宜しい行いだとは思いません」


「僭越などとんでもない! ……承知致しました。本日は引き下がらせて頂きます。しかし、もしお心が変わりましたら是非神殿や総本山にも足をお運びくださいませ」


 ……この阿呆教皇、諦めてないな。というか、なんだかんだでボクって何回も総本山や旧総本山に足を運んでいるよねぇ? これ以上に一体何を望んでいるの?


「ローザ、行ってくるわ」


「行ってらっしゃいませ、姫さま」


 名残惜しそうに女性神官と共に王女宮を後にするプリムラの姿を見送り終えると、ボクはそのままオルゲルトに声を掛けた。


「オルゲルト執事長。本日決まっていた白花騎士団のメンバーとの初顔合わせと、王女宮の料理人との顔合わせについて、少し遅らせて頂けないか確認を取ってきてくださいませんか?」


「承知致しました。教皇臺下と薔薇騎士修道会騎士団長様への給仕はどうなさいますか?」


「……そうですわね。私の方で全て行いますので、皆様には通常業務を進めて頂けるようにお伝えください」



 応接室にアレッサンドロスとヴェルナルドを案内し、紅茶とお茶菓子を出す。お茶菓子は来客用のチョコレート菓子……アポ無しだし、知らない相手でもないから別にミッチェラン製菓の高級菓子を出す必要はなかったんだけど。ってか、今更だけどボクの手作りショコラで良かったんじゃない?


「それで、今日はどのような用件かな?」


「お忙しい中、わざわざお時間を作って頂き、本当に申し訳ございません。しかし、どうしても私達から直接伝えなければならない案件だと思いまして、早朝のお勤めを投げ捨てて参りました」


「そこはちゃんとお勤めしようよ? まあ、仮にボクを神と崇めるならそもそも信仰は必要ないと思うんだけどねぇ。ただ、その信仰で救われる人がいるのなら、ファンクラブだろうとなんだろうと価値はあるんだろうけど」


「そのお言葉、しっかりと心に刻ませて頂きます!」


 ……当たり前のことを言ったんだけどねぇ。ヨイショされ過ぎるのは過ぎるのであんまり気持ちのいいものじゃないんだけどなぁ。


「詳しくはヴェルナルドからお話しさせて頂きます」


「ローザ様、私に妹がいることはご存知ですか?」


「えぇ、存じ上げております。天上の薔薇騎士修道会副騎士団長のエリーザベト=グロリアカンザスさん、あのほわほわとした可愛らしい女性だよねぇ?」


「そのエリーザベトはフォトロズ大山脈の中央フォトロズで聖人に至るための修行をしていたのですが、その際に子供を一人拾ったと連絡を受けたのでございます。その子供というのが魔族……しかも、魔王の娘ということでして。我々は魔族だからと敵対する意思はありません。現在は私の妹と二人で山小屋で暮らしているようですが、彼女の処遇をどうするか決める必要はあります。本日はローザ様の判断を仰ぐために参りました」


 ……魔王の娘か。普通の魔族ならともかく、魔王の娘となるとより扱いに慎重にならざるを得ない。

 いや、ただの魔族は蔑ろにしていいという訳じゃないよ? ただ、魔王の娘――つまり、一国の姫様となると外交上どうしても問題が大きくなる。どのような待遇だったのかということがそのまま魔族と人間の今後を左右することにもなりかねない。


「とにかく、相手がどのような意図でフォトロズ大山脈を超えてきたのか、何を求めているのかを聞き出すべきだろうねぇ。分かった、そっちにも後で行ってみるよ」


「ローザ様にご迷惑をお掛けしてしまいまして、申し訳ございません」


「アレッサンドロスさんが謝ることじゃないよ。寧ろ、感謝したいくらいだ。事情は分からないけど、エリーザベトさんが保護してくれなかったら魔王の娘が凍え死んでいた可能性もあった訳だからねぇ。……しかし、魔王の娘が一人で山を越えてきた……のかな? もしかして、魔族の侵攻? なんか一気に状況が動き出して大変なことになっている気がするんだけど」


 ……まあ、半分はボクがアグレッシブに動き過ぎていることが原因かもしれないけど。

 その後、アレッサンドロスとヴェルナルドに二時間後にエリーザベトの元を訪れることを伝えて二人にはお帰り頂いた。さて、気になることもあるけどまずは王女宮筆頭侍女としての仕事をしないとねぇ。



 白花騎士団の詰所は王女宮に隣接した場所にある。

 別名護衛騎士とも呼ばれる彼女達は隊長を含めて二十人――選りすぐりの精鋭達ということになるねぇ。


「お初にお目にかかります。新しく王女宮筆頭侍女に就任致しましたローザ=ラピスラズリですわ。昨日はご挨拶に参ることができず、大変申し訳ございませんでした」


「こちらこそ、本来なら私達の方から挨拶すべきところをご挨拶に伺えず、大変申し訳ございませんでした。私は白花騎士団の騎士団長を務めているラーニャ=ルーシャフです。以後、お見知り置きください」


 他の護衛騎士達からも一通り挨拶を受けた後、ボクはラーニャに詰所の奥にある騎士団長の執務室へと案内された。


「王国宮廷近衛騎士団騎士団長のシモン閣下から事情は伺っております。ローザ様ほどのお方がいらっしゃるのであれば護衛など必要がないとお感じになるかもしれませんが、どうぞ末長くよろしくお願いします」


「皆様のことは頼りにしていますわ。……ところで、ラーニャ様に一つお願いしたいことがあります。白花騎士団の統帥権は王女殿下が保有し、王女殿下から権利を貸し与えられた筆頭侍女がその権利を行使するという形式を取っています。その統帥権の行使権を侍女のシェルロッタにも広げて頂けないでしょうか?」


「【ブライトネス王家の裏の剣】に関しては私も存じ上げております。ラピスラズリ公爵家の使用人であれば資格は十分にあると思いますが……なるほど、ローザ様は有事になれば指揮するよりも自分が迎撃に回った方が強いというお方でしたね。緊急時の指揮権の移譲の件、了解致しました」


 本当は指揮権全部を王女宮筆頭侍女の役職と共にシェルロッタに移譲したいくらいなんだけど……まあ、一気にそんなことやったら不審がられるからねぇ。少しずつ少しずつ……。


「ところで、私も実はローザ様にお願いしたいことがありまして。うちの騎士の一人にディマリア=ブランディッシュさんという方がいるのですが、王女宮付きの料理人を束ねる料理長のメルトランさんと恋人同士なのですが、お互いに仕事に誇りを持っていてなかなか休みが合わないようなのですよ。勿論、護衛騎士としての仕事に誇りを持ってしっかりと頑張ってくださるのはとても素晴らしいものなのですが、私個人としては二人の恋を応援したいと思っていまして。僭越ながら、ローザ様にもお手伝い頂けないでしょうか? ローザ様ならきっとチャンスを作ることもできると思いますし、どうでしょうか?」


「――その話、詳しくお聞かせください」


 こういう話は前世から大好物だからねぇ。ボクもできる限り協力させて頂きますよ!



 さて、ディマリアの恋人の料理長メルトランとはどんな人なのかと期待でワクドキしながらやってきました王女宮の厨房。

 ボクも料理はするんだけど、別に紅茶を淹れるくらいなら執務室にあった備え付きキッチンで事足りると思っていたから昨日ここには足を運ばなかったんだよねぇ。


 王女宮付きの料理人は全部で三人。その中で四人の料理人を束ねる料理長がメルトラン。

 元冒険者で冒険者としてしばらく活動した後に料理人として志願し、ペチュニアの権限で採用された異色の経歴で、見た目は厳つい男。

 まあ、厳つい男が優れた料理人だったことは前世にもあったし、たいして不思議ではないんだけど。護衛を兼ねられる料理人って考えたら確かに珍しいのかもねぇ。……ラピスラズリ公爵家くらいにしかいないんじゃないかな?


「お初にお目に掛かりますわ。この度王女宮筆頭侍女に就任致しました、ローザ=ラピスラズリと申します」


「わざわざ挨拶しに来てくれたのか? これはすまないことをしちまったな。俺はメルトラン、ここで料理長をさせてもらっている。何かあったら遠慮なく言ってくれ」


「そう、ですわね。たまに厨房を使わせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「? 筆頭侍女様は料理をするンですか?」


「まあ、趣味程度には。やはり貴族令嬢が自らの手で料理をするというのははしたないことですわよね」


 高貴な身分の女性は家事をするべきではないという暗黙のルールが存在する。こういう仕事はメイドのすべきこと、それを自らの手でやるというのははしたないという考えがあるんだよねぇ……効率主義者としては自分が動いた方が早くて正確なら自分でやった方がいいと思うんだけど。


「そういうことは気にしませンよ。俺は庶民の出なんで、貴族の堅苦しい考え方っていうのはよく分からないンで」


「あの……もしお時間があるのでしたら実際にここで料理を作っていかれたらいかがでしょうか? 筆頭侍女様がどのような料理を作るのか私も興味がありますし」


「おっ、そいつはいいな! どうですか? 筆頭侍女様」


「そうですね。折角なのでお言葉に甘えさせて頂きましょうか?」


 どの道プリムラが帰ってくるまではデスクワークくらいしかないし、昨日頑張り過ぎたのか机に乗っていた書類も昨日の二十分の一くらいになっていたから少しだけ寄り道しても大丈夫だよねぇ? よし、何か作ってみますか。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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