Act.1-8 王族達との晩餐会と真夜中の密会
<三人称全知視点>
異世界生活一日目の夜、晩餐会が開かれた。
基本的にはフランス料理に近いものを感じるような洗練された料理ばかりが並んでいたが、たまに異世界にしかなさそうな食材の料理が並び、改めてここが異世界なんだな、と感じされる。
晩餐会に参加した王族はフォルジエルド、ルルナリア、ラジール、ランデス、アイラル、オリアーナの六人――前回に引き続き第二王女は欠席で、今回は第一王女のアンジェリカも姿を見せなかった。
王子達の視線は基本的に咲苗に、第一王子の視線はそれに加えて巴と愛望、第二王子は愛望を除く二人に視線を向けていた。
第一王子の視線に下卑た色が混ざっており、もし正室や側室などにされたら最悪の人生を送ることになりそうである。
第三王子の方はそういった邪念が一切感じられない――淡い初恋的なものなのだろう。
そして、第二王子はというと……。
「咲苗さんと巴さんは美しいな! どちらかを、あるいは両方を嫁にもらってもいいか?」
二回目の対面(一回目は私語を話す機会は無かった)早々、爆弾発言をかました第二王子に、その場が凍りついた。
いつものことなのか、王族組は全員が頭を抱えている。
「白翔殿、その辺りはどうなんだ?」
「ランデス王子殿下って実はウォスカーという姓だったりしませんか? そして……了承を取るならボク相手じゃないと思うけどねぇ。まず本人に聞くべきだし、この中では一番弱いと思うよ?」
帰宅部所属なのだから運動部に所属している者達よりも体力面では劣る。更に、オタクキャラは総じてステータスが低めというテンプレを持ち出して、自らの異世界での力をフェルミ推定を用いて算出し、園村は人を殺せもしない顔で穏やかに笑った。
「――ひっッ!」
突如、第三王女が恐怖で裏返った声を上げ、湧き上がる生理的嫌悪感に震えたが、その場にいる者達の視線は全てこの不可解な状況の当事者である園村とランデスに集中していたので、オリアーナの痴態には誰も気づいていないようだった。
「うむ? 白翔殿、この中で一番強いのはそなたではないのか? その次は平和殿というところか?」
「私の得意分野は科学ですが、それ以外からっきしでして、魔法主体のこの世界ではロクな活躍をすることはできないと思いますが?」
「ボクに至ってはただのオタクだからねぇ。そもそも文化系のボクに魔王を倒せとか無茶苦茶な話だと思うよ? ちなみに、その結論に至った理由は?」
「ん? 勘だ!!」
その瞬間、この場にいる者達のほとんどが心の中で「勘かよ!?」と叫んだ。しかし、その一方でランデスを最重要危険存在と認定して最大級の警戒を向ける者が幾人かいたのもまた事実。
その後、王城内では勇者一行の衣食住が保証されている旨と、魔王討伐に向けた訓練の教官達の紹介が行われた。現役の騎士団長や宮廷魔法師などから厳選に厳選を重ねて選ばれた精鋭達ばかりのようだ。
「最後に何かある者は?」
「では、私から一つ。実は元の世界にいた頃は素晴らしいパトロンがいまして、私の研究の完璧な支援をしてくださっていたのですよ。異世界に来たからといって私が自らの研究を中断するということはしたくない。いくら取り繕ってもこの世界に召喚し、駒として利用しようとしているとも受け取られかねない行動をとっているのは皆々様なのですから、当然研究に必要なものを全て用意して頂けるということでよろしいですよね?」
フォルジエルドは「シャマシュ様に選ばれておいてなぜ喜べないのか! 大変名誉なことであるのだぞ!!」と言おうとして……凍りついた。
まるで今にも絡みついて取り殺してしまいそうな平和の鋭い眼光に、フォルジエルドは一瞬にして気圧されてしまったのだ。
「よろしい、ですね?」
「……はい」
「私の研究は機密ですから、決して探りを入れないと、そして必要なものは全て王族側で負担することをお約束頂けますね?」
「……はい」
フォルジエルドから了承を引き出した平和は満足そうに微笑んだ。
◆
――その日の夜。
王城内に割り当てられた部屋の一室で二つの影が密会をしていた。
「とりあえず、この世界の正体なんだけど……間違いなく普通の異世界じゃないことは確実だねぇ。歴史書を見た限りでは『スターチス・レコード』の世界観と共通するところはあるけど、シャマシュ教国なんてボツ設定にも登場しないし。それに、言語もボクらと同じ大倭秋津洲語っていうのも都合が良すぎる。翻訳系のスキルを使っている……にしては、標準語と認知されているものではなく、江戸方言……ってのも意味不明だし」
影の一つは一日で集めた情報から導いた仮説を苦笑混じりに語った。
「なるほど……違和感はあるものの、基本的には『スターチス・レコード』の世界観と共通するということならば、圓様のお考えのようにまだまだ情報を集める必要がありましょう。必要な情報を集めてから結論を出すというのは賢明なご判断です。早とちりで間違った結論を出してしまうことは愚かなことですから。まあ、単純に異世界に召喚されてしまったと素直に飲み込めてしまう連中ほどではありませんが……」
「……I.Q230の天才である君に褒められてもあんまり嬉しくないねぇ。それに、普通、異世界召喚なんて異常事態に放り込まれて、更に矢継ぎ早に膨大な情報を投げられたら正常な判断なんてできないものだよ。まあ、ボク達以外にもそういうことができそうな人は何人かいるだろうけど」
圓、と呼ばれた影はそう言って目を細めた。
「…………ところで、何故圓様はメイド服をお召しに?」
「ちょっと廊下であったメイドさんにお願いしたら予備を一着貰えたんだよねぇ。どう? 似合うでしょ?」
クルッと一回転回ったスカートを翻した少女は花が咲いたように笑う。
「お似合いでございます。流石は幻の女神様でございますね……正直、あのようなそこらの雑草と同列に並べるなど、本当に愚かだと存じます」
「君の意見はかなり偏見が含まれているよねぇ。実際にボクは咲苗さんのことも巴さんのことも美人さんだって思うし。それに、あのカップリングは本当に最高でしょ? なんで付き合わないの、あの二人!! 攻めの巴さんで受けの咲苗さん? いえ、一見受けな咲苗さんが攻めで、巴さんが受けの方がギャップがあっていい!? ああ、創作意欲が湧いてくる!!」
主人の満足げな姿に、影は嬉しそうに微笑んだ。
あのような有象無象の者達のいる場所に、この多忙な主人が通っていた理由は、咲苗と巴という百合を、ついでに他の百合も――つまりはGLを観賞するためだった。
大の百合好きの主人は、三次元の百合を見て癒されていた。あの場所にどれほど苦痛が溢れていようとも、圓にとっては通う価値のある場所だったのだ。
本来、あのような低俗な者達に接することなどあり得ない、住む世界の違う主人が、抵抗すらせず笑って誤魔化している姿は、第二次世界大戦で大倭秋津洲を大東亜共栄圏の国々を併合して大倭秋津洲帝国連邦にまで巨大化させ、世界最大の大国にまで至らしめた最大の功労者――財閥七家のそれとあまりにも酷似し過ぎている。
財閥七家は大倭秋津洲を想い、誰よりも多くの戦力を投入した。それこそ、大倭秋津洲の軍事力を象徴する陸軍、海軍、警察、侍局、非公式の陰陽寮と鬼斬機関と比較しても遜色のない戦力を一つの家が所有するという規格外な者達が七つ全て全力を投じ、更に様々な特殊な力を使える者達が戦ったからこそ、あの戦争は大倭秋津洲の勝利で終わったのだ。
その力が全てなければ、大倭秋津洲は現、米加合衆連邦共和国に呆気なく敗北していただろう。そのような絶望的な戦力差がありながら、先の二度の大戦に勝利できたのは、国民が団結したからでも、神風が吹いたからでもない。
主人達が「金を持つだけの奴隷」と自嘲する者達の存在があったからこそ、大倭秋津洲は今なお存在し続けられている。
彼らは隣人や家族のために、戦っていただけだ。政府と対立しないのは、その結果自分達が国政を行うというのが面倒だからだ。
結局それだけの理由で財閥七家や新世代の成金達は首輪を嵌められることに甘んじ、大倭秋津洲帝国連邦に貢献している。
しかし、もし彼らの堪忍袋の尾が切れれば、あの国など一瞬にして滅ぶであろう。全てを知り、完全に財閥七家や新世代の成金達を支配できていると考えている政府関係者も、何も知らない一般市民達も、全ては大いなる財閥七家や新世代の成金達の慈悲によって守られているに過ぎないのだから。
結局は、それと同じ構造が高校という社会の縮図の中で起こっているに過ぎない。もし、主人が望めば、影もまたクラスをシャマシュ教国諸共滅ぼすことも不可能ではない。
だが、それをしないのは主人が慈悲あるお方であるからと、主人が自らの死を悟っているからだ。
決して変えられぬ運命を突きつけられながら、それでも影の主人は笑っていた。
全てをありのままに受け入れる姿は第二次大戦後に首輪をつけられることが決まった財閥七家の姿を彷彿とさせる。
「お考え直しは……できないのでしょうか?」
「残念だけどボクの力は絶対だ。この力のおかげでボクはここまで成り上がれたんだから。それに、ボクはこれでもいいと思うんだ。それだけのことをボクはしてきた――だから、異世界で命を落として、本当に真っ新な状態で、今度は平凡な人生を送るというのも悪くはないな、と思って」
純粋だった少女は大倭秋津洲帝国連邦に蔓延る闇に触れる中で壊れてしまった。
それでも家族に対する優しさは変わらない。守るべき場所、愛する人達がいるからこそ、少女は苛烈に戦う――その中で、人を殺すことに何も感情を動かされなくなってしまった。
その発端は間違いなく少女にあり、最悪の結果を招く要素を全て少女は持ち合わせていた。
だが、果たして全てが少女自身の自業自得だと言えるのか? 少女の心が壊れないように自分達にもできることがあったのではないか? 影はそう考えるたびに胸が締め付けられる。
「ということで、ボクが死んだ後の全権は、こっちに関しては全て君に委任する。この国を巨大な実験場にするなら、好きにするといい。咲苗さんや巴さんも、君が人体実験のモルモットにしたいと思うなら、君の思う通りにしていいよ。後は頼んだ――化野學」
「委細承知致しました――百合薗圓様」
『動物について実験をする場合は、いかに動物にとって苦痛であり、また危険であろうと、人間にとって有益である限り、あくまで道徳にかなっているのである』というクロード・ベルナールの主張に真っ向から対立し、「人間の害にのみなる実験を動物にしていい通りがない。どうせゴキブリ並みの生命力で大量増殖する上に、最終的には人間で臨床試験するのだから最初から人間で実験すればいい」と反論するマッドサイエンティストで、科学全般に通じているが、中でもNBC兵器に強い興味を示し、数々の凶悪犯罪の裏で薬物を売買していた死の商人として圓と対立し、「やっていることはアウトだけど、それを差し引いても君は有用な人材だからねぇ。今後、罪のない人々を傷つけるような犯罪行為をしないのであればうちで働かないかい?」と勧誘され、圓の配下に加わったマッドサイエンティストの化野學は、ボウ・アンド・スクレープで主人の意志に肯定の意を示した。
「それじゃあ、ボクはそろそろ行くよ。昼にメイドさんに聞いたら近くにちょっと深めの森があるみたいだし、今日は気分的にフルマラソンをしたいからねぇ」
「――お供しましょうか?」
「そうだねぇ。一緒に行こうか」
無邪気に笑う主君の姿に、化野もつられて微笑んだ。
――夜は、まだ長い。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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