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Act.8-59 優勝祝いのチェイン・デート scene.4

<一人称視点・アネモネ>


 再び三千世界の鴉を殺して、今度は楪とのデート。

 そして、現在ボク達は『Rinnaroze』にいる。


 楪のデートのテーマは喫茶店でスイーツ祭りだった。王都にはいくつなお洒落な喫茶店があるんだけど(チョコ菓子で有名なミッチェラン製菓、喫茶ジャスト・ルタンドゥ、ラ・パルフェなどなど、中にはル・カフェ・プランタンみたいなボクが融資した店もあるけど)あえてこの店を選んだのは楪がこの店がいいと提案したから。


 この『Rinnaroze』はレストラン兼喫茶店に分類される。朝食はどこの文化を吸収したのかモーニングを出し、ランチ、ディナーにはフルコースもあるんだけど、喫茶店としてのメニューも常時準備してあってお洒落なスイーツ目当てでやってくるお客様も多い。

 ペチカは料理だけじゃなくてお菓子にも興味を示して勉強していたからねぇ。この国でアフタヌーンティーを楽しみたいと思ったらこの店に来るべきだと思うよ。ちなみに、ボクのおすすめは期間限定販売のガレット・デ・ロワ、前世から実は大好物だったんだよねぇ……すみません、ただのボクの好物の話です。


「いらっしゃいませ。アネモネ様、楪様、ようこそお越しくださいました」


 ホールでウェイトレス姿で出迎えて、席に案内してくれたのはキャプセラ。

 なんでも、エイミーンやマグノーリエがブライトネス王国の方で屋敷を持ち、緑霊の森に戻る回数が減ったから比較的アルバイトがしやすくなったとのこと。ペチカのところでアルバイトしながら色々なことを吸収したいと思ってバイトしている人は多いし、キャプセラもその一人ってことだねぇ。


 実際、ホールで働いているほとんどは平民の人間がほとんどだけど、厨房の中はエルフ、ドワーフ、獣人、海人族、魚人族、人魚族――様々な種族の人達がひしめきあっている。

 それをしっかりと統括しているのがペチカってことだから彼女も凄いよねぇ。


 しかし、何故料理長(ペチカ)を連れてくるって展開になるんだろうねぇ? ボク、別に仕事の邪魔をしにきたんじゃないんだけどなぁ。


「とりあえず、アフタヌーンティー二つでいいかな? 美味しいスコーンが食べたいし」


「飲み物はどうなされますか?」


「そうだねぇ、ホットのダージリンのストレートティーと」


『アールグレイのアイスのストレートティーをお願いします』


「承知致しました」


 しかし、よく似合っているねぇ。この店は割とカッコイイ系を目指して黒を基調にバー風の衣装でデザインしたんだけど、この衣装結構人気があってこれ目当てでホールのアルバイトの申し込みをしてくる人も結構いるみたい。

 でも、元々美しい人が着ると更に魅力が増すよねぇ。


 しばらく楪と百合を探しながらアフタヌーンティーが届くのを待っていたんだけど、この静かでゆったりとした時間を破壊する者がやってきた。


「邪魔するぜ!」


 何気にお忍びでやってきていた貴族達が一瞬不快感を滲ませ、他の客達も「またか」という表情をする中、金髪のチンピラ風の冒険者の男が強引にドアを開け放った。


「あの……お客様、何度も申しておりますが他のお客様の迷惑になりますので静かにご来店ください」


「そんなことより席に案内しろ! 今度こそ『料理長のデカ盛り定食』を食べ切ってみせる!」


 空気を読まない金髪冒険者はまたしても大声で謎の決意を言葉にした。


「アネモネさん、お越しくださりありがとうございます。ごめんなさい、お見苦しいところをお見せして」


「ペチカさんが謝ることじゃないよ。……しかし、『料理長の気まぐれデカ盛り定食』ねぇ。アクアとディランにお願いされた例の奴、商品化したんだ」


「はい、フォルトナ王国の料理長からレシピの内容を聞き、ブライトネス王国の食堂の料理長に提供してから私の店でも出すようにしました。ただ、食べ切れる人が本当に僅かなので金額を割高にして、食べ切った場合に次回の食事半額券をプレゼントするようにしています」


 『料理長の気まぐれデカ盛り定食』は漆黒騎士団御用達のフォルトナ王国王宮の食堂で出されていた騎士向けのメニューだ。

 大食らい向けの裏メニューで、アクア達はこれを食べた上で更に他の料理を注文するのがデフォルトだったらしい……だからあんなにアクアもディランも食べるんだろうねぇ。


「……あのダスト=マケドラルという冒険者は毎回この食事半額券を狙って挑戦している方です。……作る側としては美味しく食べて頂きたいのであのような無茶な挑戦はやめて頂きたいですし、大声で叫ばれても他のお客様の迷惑になるので本当に困っているのですが」


「……まだ借金取りとかヤのつく職業の人とかじゃなくて良かったねぇ。まあ、迷惑な客っていうのもそれはそれで対処が難しいだろうけど」


「……その節は大変ご迷惑をおかけしました」


「いや、それもペチカさんが謝ることじゃないから」


 借金取りといえば、あのビオラ商会に権利書を持ってやってきたゼルベード商会の二人組を思い出すねぇ。

 あの二人はその後、モレッティ経由で処分されたらしい。あの頃は使えない駒は捨てるっていう悪役じみたやり方をしていたからねぇ。……今では二人とも後悔しているみたいだけど。


「『雷薙』のダスト……あのチンピラ、Aランクの冒険者だねぇ、確か」


『今の基準でAランクというと大した強さではありませんね』


 冒険者ランクも五年前から大きく改定された。

 レイド級の魔物、超越者(プレイヤー)が分類されるSSSランク、事実上勇者より強いと判断された聖人到達者等が分類されるSS+、勇者や魔王に匹敵するSS、それには劣るものの英雄に相応しい力を持つ者をSS-、二つ名持ちの上位が分類されるSランク、これらをオーバーSランク、或いはSSSランクを除いた部分を総称して金等級(ゴールド)と呼ばれ、伝説級の扱いになっている。

 Aランクからその下はB、C、Dが分類される銀等級(シルバー)と、E、Fが分類される銅等級(ブロンズ)に分かれる。


 ちなみに、SSSランクは災禍級、或いはその冒険者ランクの区分から宝石級(ジュエル)とも呼ばれ、ハーフレイドクラスに区分されるサファイア級、フルレイドクラスに区分されるルビー級、レギオーレイドクラスに区分されるエメラルド級、オーバーハンドレッドレイドクラスに区分されるアレキサンドライト級、神話クラスのオーバーハンドレッドレイドクラスの魔物に相当する強さを持つ魔物に匹敵する者が区分されるダイアモンド級が存在する。

 超越者(プレイヤー)相当という考え方は無くなり、そのランクの魔物にサシで戦える者がそのランクに分類されることになった。


 現在の最上位はアレキサンドライト級で、実質的にヨグ=ソトホートを基準に考えるダイアモンド級については該当者なし。

 欅達と互角に渡り合えるボク――つまりアネモネは人間でありながらアレキサンドライト級という扱いになっている。


 まあ、楪がそう言いたくなる気持ちも分かるけど……実際はギルドランクがインフレしているだけだからねぇ。

 しかし、よくこんなにポンポンランクの設定を弄れるよねぇ。冒険者ギルドの本部ってブライトネス王国にない筈だけど、イルワ=ゴローニャグの影響力ってそんなに凄いの? それともラインヴェルド達?


「あのお客様って素行が悪い以外に被害はない?」


「はい、しっかりとお会計もなさっていますし、ツケも一度もありません。なので、注意がし辛くって」


「なるほどねぇ……まあ、仕方ないかな? あんまり目に余るようだったら上に連絡してねぇ。平和的に対処するから」


『平和的に、ですねぇ。お姉様』


「……なんだか不安になってきました」


 ペチカ、それ一体どういう意味かな?


「あっ、追加注文って頼んでもいいかな? この十二の種類が楽しめるホールケーキ風ショートケーキとスコーンセットを追加したいんだけど」


「まだ食べるのですか? ローザ様ってそこまで大食いだとは思いませんでした」


「普通にケーキバイキングとか行って余裕で元とって帰ってくるタイプだからねぇ。甘いものとか好きだからいくらでも食べちゃう。ペチカさんのお菓子なら尚更だねぇ」


「――い、今すぐ作ってきます!!」


 小躍りしそうな感じで戻っていくペチカを見ながらボクは紅茶を口に運んだ。

 あっ、あのチンピラは冒険者はまたしても完食を逃したようです……あれを食べて他のものを食べられるアクア達はやっぱり異常だよねぇ。



 櫻とのデートの内容は可愛いもの探し。

 可愛いものってなんだろう? って思ったんだけど、縫い包みとか、ドレスとか、そういったものを見て回りたいそう。


 ということで、まずは縫い包みや可愛いドレスを扱っている『Rosetta』っていう店に来たんだけど……。


「昨日ぶりですね。アネモネさん、櫻さん」


 クマの縫い包みのリゼリゼを抱えて腹話術で話すリサーナの姿があった。


『リサーナさんも縫い包みを買いに来たのですか?』


「はい、もふもふをいっぱいにしたいので」


 あっ、リゼリゼは特別ですよ? と年季の入った縫い包みを抱えて笑顔を見せるリサーナ。なんでもこの縫い包みは小さい頃に両親からプレゼントされた大切なものらしい。


「そういえば、こっちの世界でロリィタ系の服って珍しいんだっけ?」


 店のラインナップを見ながらふと呟いたボクの言葉にリサーナと櫻、ついでに近くにいた店員が反応した。

 店のコスチュームらしいフリフリの桃色のドレスを着こなした女性だ。どうやら、この店で働ける条件は可愛いドレスに着られない人物であることらしい。逆に、ドレスに着られないのであれば別に性別は問わないみたいだねぇ。


 この店の店長が男の娘好きで、男の子の店員を何人も雇っているという噂もある。


「ロリィタ系とはどのような服でしょうか?」


「そこから説明がいるよねぇ。写真あるから見てみる?」


 統合アイテムストレージから懐かしい写真を取り出しながらちょっと考え事。

 この世界だとロリィタファッションといえば黒ロリィタのドレスを身に纏っている暗殺者グローシィ=ナイトメアブラックが思いつくけど、ピトフューイによればあのようなファッションが帝国で流行ったことはないらしい。……まあ、ゲームでそういう設定をしていたのがそのまま流用されてこういう矛盾みたいなものが生じたのかもしれないねぇ。

 『スターチス・レコード』の世界にもそういった系統の服は存在しない。


「この系統はビオラで売るのはちょっとねぇ……路線が違うし。どこかでいいお店があるか、こういうものを売りたいっていう志願者がいればいいんだけど」


「はいはーい、そこのお客様! 良かったらその可愛い服、うちで売らない?」


 現れたのは水色のドレスを着こなした金髪のお姫様風の少女? じゃなくて女性。

 ハイテンションで桃色のドレスを着こなした女性の隣でピョンピョン跳ねている……しかし、ちっちゃい子だねぇ、子供かと思ったよ。


「ごほん、初めまして、お嬢様方。わたくしはラズリーヌ=ロゼッタストーン、『Rosetta』の店長ですわ」


「これはご丁寧に。ご挨拶が遅れましたわ、ビオラ商会のアネモネと申します」


「やっぱり、あのビオラ商会の会長様にして伝説の冒険者様だったのですね! お会いできて嬉しいです。……ところで、その衣装はアネモネ様がデザインされたものですか?」


「いえ、原型は私がデザインしたものではありませんが、この黒ロリィタについては私がデザインしたもので間違いないですね。……ところでここからは相談なのですが、ビオラの傘下に入りませんか? 前々からうちとは路線が違うので欲しい店だと思っていたのですよ」


 趣味が合うし、実は前々から買収を狙っていたんだよねぇ。向こうも人気店だし、難しいとは思っていたけど。

 こういう元々人気のある店を買収しようってすることは百合薗圓時代から数えても滅多にないからねぇ。ほとんどが投資だし。


「……お話、伺いましょう」


 ラズリーヌと共に店の奥の事務所へと向かう。

 櫻とリサーナは一緒に縫い包みを見ている。楽しそうだし、交渉が終わってから合流でも問題なさそうだねぇ。


「どのような契約なのでしょうか?」


「そうですね……今まで通りラズリーヌ様が店長で、店の仕入れ等もこれまで通りして頂くことになります。ただ、ビオラ商会からも商品をいくつか商品を置いてもらえるようにお願いしますし、給与の支払いも大きく変わります。まず、『Rosetta』の売り上げは他の参加企業の利益と共にビオラ商会本店に集められ、その後分配されます。その賃金は源泉徴収、労働組合に所属している場合は労働組合費、企業年金、健康・労働保険料を引いたものが手取りとなって支払われます。源泉徴収は税金、労働組合費は労働組合の組織運営のための費用、企業年金は企業退職後、毎年定期的・継続的に給付される金銭を支払うための費用、健康・労働保険料は労働者又はその被扶養者の業務災害以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行う健康保険料と業務災害及び通勤災害に遭った労働者又はその遺族に給付を行う労働保険料の複合費です。総合的には『Rosetta』単体の売り上げに比べて増えるか減るかは分かりませんが、もしロリィタ系ファッションを販売したいとのことでしたら是非傘下に入って頂きたいですね」


「なるほど……そういった福利厚生の面はあまり考えておりませんでしたわ。そこまでケアがしっかりしているのなら考えてみてもいいかもしれませんね。社員と相談して近日中に結論を出させて頂きます」


「ありがとうございます」


 その後、事務所から店内に戻ったボク達だけど何故か縫い包みを見て回るんじゃなくてロリィタのファッションショーをすることになっていた。……いや、リサーナも櫻も楽しそうだからよかったけどねぇ。

 ってか、何で便乗して店員さんも参加しているの!? ラズリーヌとかノリノリで参加していたし。


 勿論、リサーナと櫻の買ったものは全額ボクがお支払いしたよ? 一緒に買い物したのにリサーナの分を支払わない訳にはいかないからねぇ。


 あっ、『Rosetta』のビオラ商会入りは満場一致で可決したようです。新販売ルートゲットだぜ!

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。


 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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