Act.8-52 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。第三部 scene.1 中
<三人称全知視点>
「地征碎祇劍! 天降八枝刃!!」
剣を地面に突き立てて、地面に斬撃を走らせると、リーリエはそのまま上空に飛翔し、まやかしや残像ではない実体のある分裂した八つの剣先をラインヴェルドに降り注がせた。
地面を走った斬撃は地割れのようにひび割れを作りながら前方へと殺到し、最終的に青い鮫の尾鰭のような斬撃が三方からオルパタータダに殺到する。
「確か、どっちも剣士系四次元職の剣帝が習得する特技だったな。……両方同時に仕留めるって算段か!? クソ面白いこと思いつくじゃねぇか!!」
「《蒼穹の門》!」「《冥府門》!」
ラインヴェルドとオルパタータダは同時に転移系の魂魄の霸気を使い、リーリエの攻撃を回避する。
「【炎帝】!」
ラインヴェルドが《蒼穹の門》で転移すると同時に、『熾天煉獄の国王陛下』のスキルを発動して、直径二メートルを超える灼熱の炎球をリーリエへと放った。
「焔という概念を凍らせる焔」
しかし、その炎球も魔法系四次元職の大魔導帝が習得する裏の火属性魔法の奥義によって凍らされ、リーリエには届かない。
「万象無ニ還ス靈劔」
一条、二条、三条、四条――無数に伸びた線状の斬撃を放つ剣士系四次元職の剣帝の奥義を発動し、リーリエはラインヴェルドに攻撃を仕掛けた。
「《蒼穹の門》!」
ラインヴェルドは再び《転移》を使い、リーリエの攻撃から逃れようとする……が。
「虚空ヨリ降リ注グ真ナル神意ノ劒」
その瞬間、刃渡り百メートルを優に超える巨大な剣が複数上空に出現し、その全ての剣が一斉に降り注いだ。
この侍系四次元職の征夷侍大将軍の奥義とも言える最強の物理系範囲攻撃特技をラインヴェルドは知っていたが、既に《転移》を発動してしまっているところでキャンセルすることはできず、ラインヴェルドが設置したナイフ全てを狙い放たれた虚空属性の剣の直撃を浴びて無数のポリゴンと化して消滅した……かに見えたが、「神聖完全蘇甦」の効果ですぐさま蘇生――しかし、手の内を知っていたリーリエが放った「ブラックホール・フラグメント」ですぐさま消滅させられてしまった。
「これで一対一か……だが、大技も結構使わせたからレパートリーが減っている。もしかしたら、もしかするかもな?」
「そんな可能性は万が一にもないけどねぇ」
――いざとなれば時計を割ればいいし、とリーリエは心の中で続けた。
とはいえ、三人いたメンバーも残るはオルパタータダただ一人。残っている特技だけでも十分に勝算はある。
「結晶騎士軍」
「そんな有象無象、いくらいたって同じだよ! 深淵より顕現せし大焦熱の極焔」
リーリエは地上を埋め尽くすほどの灼熱地獄を顕現する。
「結晶騎士軍」はこれで焼き尽くされたが、オルパタータダは空歩を使って炎を回避し、『国王陛下の月影双剣』に武装闘気と覇王の霸気を纏わせた。
「ジュワイユーズ流聖剣術 覇ノ型 百華繚乱螺旋剣舞連」
普段オルパタータダが使うフォルトナ王国に伝わる「王家伝剣」とは異なる系統の斬撃に、リーリエが一瞬「へぇ」と僅かに驚きの表情を見せる。
かつてラインヴェルドとオルパタータダが剣の手解きを受けたことがあるという『剣聖』ミリアム・ササラ・ヒルデガルト・ヴォン・ジュワイユーズの代名詞とも呼べる剣――たった一つの『剣聖技』を会得していたことに驚いたのだ。
溢れんばかりの膨大な魔力を剣に宿し、超高速の連撃を繰り出すこの技は『剣聖』の持つ光属性だと思われていた属性――厳密に言えば聖属性――の魔力を宿すことで、他の剣と同じく魔物殺しの技となるが、この技に関しては聖属性の魔力を持たずとも応用が効くため、『剣聖』の弟子達は基本的に習得している。寧ろ、この技を習得していなければ、『剣聖』の弟子を名乗れないと言われるほど重要な技だ。
『剣聖』ミリアムであれば八十五連撃、『剣聖』の弟子の中でも次期『剣聖』と呼び声高いアルベルト=ヴァルムトは十八連撃まで放てるというが、オルパタータダが最大で放てるのは二十五連撃である。
実は『剣聖』の資格はアルベルト以上にあるオルパタータダだが、ラインヴェルドと同じく『剣聖』に興味がなく、披露する機会も無かったため、その事実を知る者は少ない。
リーリエはその斬撃全てを単発の斬撃で正確に見切りながら捌いていく。
自身の放つ圓式の斬撃を捉えることができるほど動体視力が人外の域に到達しているリーリエにとって、この程度のことは造作もないことだ。
「天覇鵬神劒」
オルパタータダが最後の斬撃を放つ直接に、リーリエは剣士系四次元職の剣帝が習得する特技を発動する。
横の回転の斬撃によって生まれた竜巻が斬撃となり、最後の斬撃を防がれたオルパタータダに殺到した。
切り刻まれたオルパタータダは地面に落下することなく、空中でポリゴンと化して消滅した。
◆
『死を司る戦乙女の双剣』を構え、エヴァンジェリンは地を蹴って加速した。
相対するのはヴェルディエ、ディグラン、バダヴァロートの三人だ。
ヴェルディエは『真龍の籠手』と『真龍の脛当て』に聖なる魔力を纏わせ、ディグランは覇王の霸気と武装闘気、更には英雄覇気という抵抗力が弱ければ術者に屈服して心酔してしまうほどの圧倒的な魔法闘気を魂魄の霸気《英雄王》によって『剛地鋼剣ドヴェルグティン』に纏わせ、バダヴァロートは三叉槍に激流と覇王の霸気を纏わせた――いずれも戦う準備は万端だ。
「魂魄の霸気《海皇》!」
エヴァンジェリンを中心に大量の水が出現し、あっという間に巨大な水の球を形作ってしまう。
(――ッ!! 漆黒無双両太刀・黒刃大竜巻――圓式比翼)
圓式で漆黒の靄のようなものを纏わせた両刀をクロスさせ、そのまま八の字を描くように剣を斜め下方向に高速で振り抜くことで漆黒の竜巻のような斬撃を放つ。
《海域》は一度破られたが、即座に再生されてしまった。
(……流石に水の中で長時間の戦闘はキツいな)
バダヴァロートは《海域》の中に飛び込んだ。
超空洞現象を利用して亜音速で迫りながら三叉槍を構える。
「海王の三叉薙・大波撃」
(天碎く衝撃)
不死の大魔術師が習得する地面に打ち込めば地震が発生するほどの振動を発生させる魔法で《海域》経由でバダヴァロートに猛烈な衝撃を浴びせ、意識を取り戻す前に「心臓握潰」を放って即死させた。
「聖燦蘇甦」
ヴェルディエがバダヴァロートを蘇生させるが、その頃には《海域》が崩壊してエヴァンジェリンが自由になっていた。
『吸魔の魔剣、吸魂の魔剣』
首無しの騎士の固有特技である魔力を吸収する力を左の剣に、体力を吸収する力を右の剣にそれぞれ纏わせると、「漆黒無双両太刀・黒刃雷閃大竜巻」を圓式基礎剣術でディグランへと放つ。
「朧黎黒流・疾風覇薙!」
ディグランは『剛地鋼剣ドヴェルグティン』に聖属性の魔力を纏わせると横薙ぎすると同時に解放して猛烈な光の真一文字斬りを放っで迎え撃った。
更に聖なる魔法陣を次々と展開し、迫るエヴァンジェリンの足元から次々と光を噴き上がらせる。
しかし、エヴァンジェリンの攻撃をディグランの剣では止められず、黒い雷を纏った漆黒の竜巻を浴びたディグランは無数のポリゴンと化して消滅した。
「巽風八卦掌」
黒い稲妻が一瞬にして黒い風へと姿を変えて放った。
エヴァンジェリンは漆黒の靄のようなものを纏わせた両刀をクロスさせ、そのまま八の字を描くように剣を斜め下方向に高速で振り抜くことで漆黒の竜巻のような斬撃を放ち、黒い暴風を切り裂くと、一気に距離を詰めて「漆黒無双右太刀・黒刃纏雷閃」を放つ。
「離火八卦掌」
風から今度は炎に――黒い炎が掌に宿り、そこから無数の炎の竜が生み出される。
しかし、炎の竜はあっさりとエヴァンジェリンに躱されてしまった。見気で見切った上で紙躱を使って一切無駄なく躱したエヴァンジェリンは剣を振り下ろしてヴェルディエを両断した。
「魂魄の霸気《海皇》!」
再びバダヴァロートが《海域》を展開する。超空洞現象を利用して亜音速で迫りながら三叉槍を構えるバダヴァロートに対し、エヴァンジェリンは「天碎く衝撃」を放って再び気絶させると、今度こそ「漆黒無双両太刀・黒刃大竜巻」を圓式で放って撃破した。




