Act.8-47 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。第二部 scene.3 下
<三人称全知視点>
アクアが撃破されたことを確認したディランは「あ〜〜ッ! やっぱり相棒でもダメだったか」と《影の世界》で一瞬がっかり表情を見せたが、すぐに気持ちを切り替えるとアクアの分も戦うと心に決めて《影の錐塔》を発動し、無数の尖った影の塔をヴェモンハルトとスザンナの方へと伸ばした。
空歩を駆使して《影の錐塔》を躱しながらディランの隠れる《影の世界》と入り口を目指すヴェモンハルトとスザンナに対し、ディランは《影撃部隊》を駆使して自分の影の分身を多数送り込み、ヴェモンハルトとスザンナに仕掛ける。
「毒竜の巨人、極寒の棺柩」
「劫火の剣、疾風の矢撃、水撃の奔流、岩石の鉄槌、光燦の回転渦!」
スザンナはオリジナルの毒魔法で九つの毒竜の顔を持つ全身劇毒でできた巨人を生み出し、地上戦力として投入すると、一瞬にして大気中の水分ごと凍らせる汎用強撃氷魔法を駆使して次々と《影》のディランを撃破していく。
ヴェモンハルトもローザによって改良された自身のオリジナル火魔法、風魔法、水魔法、土魔法、光魔法を次々と発動して《影》のディランに一度も攻撃らしい攻撃をさせぬまま撃破していった。
「流石にヤベェな、こりゃ……【幻影・霧雲影】! 【積嵐雲】! 【虹柱】!!」
『雲外大臣のスリーピース・アンド・ローブ』の三つのスキルを発動し、生み出した霧から自身の分身を作り出すスキルで三体の分身を作り出しつつ、落雷を発生させる黒い嵐の雲をヴェモンハルトとスザンナの上空に展開すると、『闇を斬り裂く真魔剣』から質量を持つ虹の柱を何本も《影の世界》の入り口から伸ばし、ヴェモンハルトとスザンナの行く手を防ぎながら攻撃を仕掛ける。
「光燦の渦巻銀河」
「乾氷の流星群」
ヴェモンハルトは上空の【積嵐雲】に「光燦の回転渦」を遥かに超える大きさの光の渦巻銀河を形成して黒く発達した雲を消し飛ばし、スザンナはネストの「乾凍の弾丸」を応用し、自前の氷魔法と風魔法で完成させた無数のドライアイスの巨大な塊を一斉に虹の刃へと放った。
武装闘気を纏ったドライアイスは虹の刃をいとも容易く打ち砕き、《影の世界》へと続くぽっかりと空いた黒穴への道を切り開く。
スザンナは巨大なドライアイスの塊で【幻影・霧雲影】によって発生したディランの幻影を破壊しながらヴェモンハルトと共に《影の世界》の中へと侵入した。
「これはかなりマズいな……《影の世界》に侵入されちまったか」
ディランの《影の世界》は地上と反転した虚像のような形をした世界を作り上げる能力だ。
この能力の最大の利点は表側の世界に身を置くことなく攻撃できるところにあるが、万が一攻め込まれた場合は一転して窮地に陥る。
《影の世界》内部に対しては実は《影》の魂魄の霸気を使うことができない。《影の世界》に《影》が同化してしまうからだ。
そのため、ディランは《影の世界》内部に侵入されてしまった時、魂魄の霸気という切り札を失うのである。
「……なんて、な。勝負はここからだぜ! 《白影の影撃部隊》」
ディランがニヤリと笑った瞬間――ディランの足元に真っ白な影が現れた。
それに合わせて《影の世界》から溶け出すように無数の純白のディランの影が武器を構える。
ディランの魂魄の霸気《影》は【再解釈】によって大きく変化していた。
これまでの影の操作能力である《影》に加え、《影の世界》で影を生じさせる《白影》の能力を新たに有した《両影》へと変化したのだ。
これにより、ディランは《影の世界》の内部でも無防備を晒すことは無くなった。
それだけではない。《影の世界》とはディランの能力によって構成された世界――つまり、そのどこからでもディランは自分の力を使うことが可能になったのである。
「「共振共鳴、爆裂領域」」
しかし、この《影の世界》に到達した時点でヴェモンハルトとスザンナは最早勝利条件を満たしたといっても過言ではなかった。
ようやく射程に収まったディランにスザンナが完成させた水魔法と火魔法の複合からなる領域魔法を最適化して効率を上昇させ、魔力消費を削減した領域魔法「共振共鳴」によって四倍となって放たれる。
「させっかよ! 《白影の抱擁》、《白影の錐塔》」
ディランも《白影の抱擁》によって全方位から白い腕を伸ばし、ヴェモンハルトとスザンナを捕らえようとする。
更に全方位から尖った白影の塔が勢いよく伸び、二人に殺到した。
《白影の錐塔》はヴェモンハルトに届く前にスザンナを差し貫いた。
その直後、「爆裂領域」がディランを真紅に膨れ上がり、白い影の尖塔と白い影の腕が崩壊していく。
同時に《影の世界》が崩壊していき、ヴェモンハルトは《影の世界》の外に放り出された。
◆
ディランを撃破し、敵パーティのメンバーはリーダーのトネールを残すのみとなった。
ヴェモンハルトはそのまま敵の本陣を目指し、遂に一歩たりとも本陣から動かなかったトネールと対峙する。
当初の予定ではスザンナと共に対峙する予定だった相手だ。
しかし、スザンナがいないからといって勝ち目がない相手という訳ではない。
「共振共鳴」が無くともヴェモンハルトは【血塗れた王子】である。スザンナの力を借りず、多くの敵を屠ったこともある。それは、スザンナも同じだ。
確かにスザンナがいることで攻撃の火力や範囲は大幅に上昇するが、暗殺対象が一人であるならばヴェモンハルト一人の「真紅爆裂」でも問題なく撃破できる。
二人組魔法使いであるヴェモンハルトとスザンナだが、当たり前のことだが彼らは同時に個人でも【ブライトネス王家の裏の杖】を名乗ることができる優れた魔法使いなのである。
思考詠唱で「真紅爆裂」を放ち、トネールを撃破する。それでヴェモンハルトの勝利が確定する筈だった。
「全身光化」
しかし、その前にトネールの姿が光と化したことで「真紅爆裂」が無効化される。
決して「真紅爆裂」を警戒しての行動では無かったが、結果としてトネールはヴェモンハルトの即死級の一撃を無効化することに成功したのだ。
「噴火流星群! フリーレンシュタイン! 裁きの霹靂! 光条の断罪! 暗黒の放射!」
猛烈な噴火を発生させて生み出した無数の熔岩弾が隕石の如く降り注ぎ、大量の鋭い氷片がヴェモンハルトへと殺到した。
『五色の籠手』を掲げて雷を打ち上げ、無数の落雷を発生させ、無数の光条と闇の放射で溶岩弾と氷片、落雷を器用に空歩で躱すヴェモンハルトに追い討ちをかける。
「水撃の奔流」
無数の光条と闇の放射を紙躱で躱したヴェモンハルトが青い魔法陣を展開し、その中心から武装闘気を纏った激流を放った。
「真紅爆裂」が通用しないと分かった今、ヴェモンハルトには武装闘気を使って光化を無効化して実体にダメージを与える以外にトネールを撃破する術がない。
「劫火熔撃砲! ハーゲルインゼル」
対するトネールは武装闘気を纏わせた溶岩流で「水撃の奔流」に対抗し、更にヴェモンハルトの上空に人間の数十倍はある巨大な氷塊を展開した。
「真紅爆裂」
ヴェモンハルトは「真紅爆裂」で巨大な氷塊を大量の水蒸気に変化させると、「天からの一撃」に武装闘気を纏わせて放った。
「光速移動」
しかし、その攻撃も光の速度と化したトネールによって躱され、その後も一進一退の攻防が続いたが、どちらも決定打がないままだった。
既にヴェモンハルトは「劫火の剣」、「疾風の矢撃」、「天からの一撃」、「水撃の奔流」、「岩石の鉄槌」、「光燦の回転渦」、「真紅爆裂」、「爆裂領域」を全て披露してしまった状況で、トネール側も「噴火流星群」、「連鎖噴火」、「劫火熔撃砲」、「熔噴爆撃拳」、「裁きの霹靂」、「光条の断罪」、「光速移動」、「暗黒の放射」、「光闇の滅旋撃」、「フリーレンシュタイン」、「アイスツァプフェン」、「ゲフリーレンシュヴェーアト」、「アイスエーァトボーデン」、「ハーゲルインゼル」、「アイスシルト」、「ゲシュテーバー」、「カルトアルメーコーア」を披露してしまっていた。
互いの手札はほぼ披露してしまったといっても過言ではない。
「ローザ殿からもらった『五色の籠手』があれば楽な戦いもできると思ったが……魔法というのはなかなか厄介な力だな。――『五色の籠手』以外にも武器を得ておいた方がいいかもしれん。魔法を学んでおいた方がいいかもしれないな」
ヴェモンハルトとの戦いで魔法の有用性を改めて理解したトネールは『五色の籠手』以外の力として魔法を学ぶことに意欲を示した。
しかし、それは試合が終わってからのことである。まずは、目の前のヴェモンハルトを倒さねばならない。
「これで決着をつけさせてもらおう。過負荷――奥の手・時空凍結・大紅蓮」
トネールはずっと取っておいた奥の手を使い、時間を凍結させる。
時間魔法用の装備を用意していなかったヴェモンハルトは抗えぬまま時間を停止させられ、動きを止められた。
「光闇の滅旋撃」
そして、無防備なヴェモンハルトに光と闇の螺旋攻撃が放たれる。
ヴェモンハルトは光と闇の螺旋に心臓を射抜かれ、撃破されるが結果としてポイント数で敗北していたトネールパーティはこの時点で敗退が決定。
トネールパーティはこの瞬間、このトーナメントで勝負に勝って試合に負けた唯一のパーティとなった。
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