Act.8-43 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。第二部 scene.2 戊
<三人称全知視点>
ピトフューイを討伐し終えたばかりのスティーリアは、自身に向けて放たれた武装闘気と覇王の霸気で強化された弾丸を『氷百合の魔剣』で打ち砕くと、弾丸が放たれた森の一角に視線を向けた。
「おや? しっかりと気配を消しておいた筈だが? 何故気づけたのかな?」
『確かに、貴方の見気は恐ろしいほど卓越したものですわ、表も裏も。ご主人様以外ではこれほどの見気の高さを誇るのは、兎人族の族長メアレイズ様くらいでしょう。……しかし、気配を極限まで消す薄隠気を駆使したとしても実体までは隠せませんし、意図的に殺気を発生させることで見気を騙すダミーを作り出す分気体も同じく実体がないため見分ける方法はありますわ』
「なるほど……魔力波動か」
魔法を使うのではなく、ただ単にソナーのように魔力を走らせ、その抵抗で敵の位置を模索する魔法技能。
魔法を使えば対抗方法も存在するが、闘気の大部分では魔力波動による探索から身を隠すのは難しい。
「まあ、バレたところで暗殺すれば問題ない話だ。まずは小手調といこうか? 四凶魔法/地割角皇。四凶魔法/波撃海竜。四凶魔法/旋暴風女。四凶魔法/灼熱赫降」
スティーリアの周囲に二つの角を持つ土の怪物、巨大な水竜、長い髪を持つ女のような暴、マントを翻す炎の魔人が出現し、二つの角を持つ土の怪物は巨大に見合わぬ速度で突撃し、巨大な水竜はその身体を構成する水を全て消費して大津波を発生させ、長い髪を持つ女のような暴風は髪を回転させて巨大な竜巻と化し、マントを翻す炎の魔人は無数の炎と化して上空に昇り、そこから流星のように降り注ぎ落下地点で火柱を生み出す。
『氷の捕食者――極寒の分身!』
スティーリアは竜の姿へと変わり、氷の小さな翼竜と自身の氷分身を顕現して四つの魔法に対処させながら上空へと飛翔した。
『氷雪の暴風――超越する絶対零度』
更に氷の翼竜と自身の氷分身、吹雪の竜巻を媒介に氷点下五百度――氷点下二百七十三度を超えた物理限界の先にある「凍結する大気」を放ち、カノープス諸共氷漬けを狙う。
極寒が森の一角を覆い尽くし、突撃攻撃を仕掛けた地割角皇、大津波を発生させた波撃海竜、竜巻と化した旋暴風女、無数の炎の流星群と化した灼熱赫降を丸ごと凍結させた。
『――ッ!?』
その瞬間――スティーリアは裏武装闘気で瞬時に盾を作り上げ、更にその上から武装闘気と覇王の霸気を纏わせた。
覇王の霸気同士の衝突により衝撃波が発生する中、スティーリアは盾と拮抗するいつの間にか上空に姿を見せたカノープスの右手に一瞥を与えた。
『……あり得ませんが、そうとしか考えられません。カノープス様、貴方は転移しましたね』
自身と同じく聖人の領域に到達し、聖属性魔法を習得しているカノープス。
しかし、聖属性魔法では転移は不可能だ。もう一つの手段である空間魔法もカノープスは使用できない。
『……だとすれば、魂魄の霸気ですか』
「お見事、流石はスティーリア殿だね。私の新たな魂魄の霸気は認識した範囲に瞬間移動する《姿眩瞬移》だ。視界だけに留まらず、君が褒めてくれた見気で捕捉した範囲にも転移することができる」
【再解釈】によってカノープスの魂魄の霸気は認識した範囲に瞬間移動する《姿眩瞬移》と一時的に周囲の人間の限定的な認識に干渉する《認識阻害》の二つの効果を持つ《暗殺公爵》へと変化していた。
『それはそれは、厄介なことですわね』
カノープスの左手からガチャリ、と安全装置が外れる音がして、細い発砲音が鳴った。
放たれた並みの暗殺者なら確実に仕留めうる銃弾をスティーリアは小さな吹雪で凍りつかせて落下させると、二刀から不可視の斬撃を放った。
カノープスの見気であっても規格外の速度で刀身が擦過したことにより生じた白熱する大気の輝きしか捉えられない神速無比の太刀――圓式を前にカノープスは《姿眩瞬移》を発動して範囲から逃れ、空歩の技術を駆使して空中に留まる。
「まさか、その剣を習得しているとはね。そういえば、アクアやエヴァンジェリン殿も習得していたか……ならば、ローザを敬愛する君が習得していない訳がないか」
カノープスやメネラオス、最も身体を使う能力に秀でたジーノ、カノープスに拮抗する力を持つシェルロッタですら習得できなかった剣技の極地――しかし、あのエヴァンジェリンが習得しているのであれば、従魔の中で義姉として慕う欅達に比肩する、或いは凌駕するほどの愛を抱くスティーリアがその剣を習得していない筈がない。
その可能性を失念していた事実にカノープスは久々に自身の未熟さを感じながらも、瞬時に再計算を行い、勝ち筋を見出す。
「闇魔法/闇牙黒竜撃」
漆黒の竜を闇の魔力によって顕現し、スティーリアへと放った。
と同時に「闇魔法/闇纏暗殺剣・黒一文字」で闇を纏わせて真一文字に斬撃を繰り出す。
『圓式比翼・氷雪の暴風』
圓式基礎剣術の双剣技に「氷雪の暴風」を纏わせ、斬撃を繰り出すと同時に猛吹雪を発生させ、闇の真一文字斬りと漆黒の竜を凍結させて無力化するスティーリア。
しかし、その瞬間にはカノープスはスティーリアの背後に転移していた。
武装闘気と闇の魔力を纏わせた『黒刃天目刀-喰鴉-』で「闇魔法/闇纏暗殺剣・黒一文字」を放つカノープスだが、スティーリアは当然カノープスの姿が消えた時点で攻撃を予測していた。
素早く後ろを振り返ったスティーリアの圓式基礎剣術とカノープスの斬撃が衝突する。
その瞬間――スティーリアの瞳からハイライトが消えた。
無防備を晒したスティーリアにカノープスが武装闘気と覇王の霸気を纏わせた「闇魔法/闇纏暗殺剣・黒一文字」を放った瞬間にようやく正気を取り戻したスティーリアだったが、その頃には既に手遅れ――防御する間も無くカノープスの斬撃はスティーリアを袈裟斬りに切り裂いた。
ポリゴンと化す前の一瞬――スティーリアは自らの身に起きた異変の真相に到達した。
メネラオスが習得している暗黒魔法「暗黒魔法-記憶干渉-」には記憶の操作という能力がある。
一瞬、スティーリアが先程まで何をしていたかを見失い、ただ呆然と斬撃を浴びたのは直前の記憶を消されたからだったとしたら、「暗黒魔法-記憶干渉-」と同系統の魔法によるものだろう。
五年前まではカノープスは暗黒魔法を習得していなかったが、この五年のどこかで暗黒魔法を習得していても別段不思議なことはない。
この試合を控え室で観戦していたローザは「へぇ、対象の記憶を数秒だけ消す魔法『短期記憶消滅』ねぇ。なかなか興味深い魔法を編み出したねぇ」と呟き、脳裏に藍色の魔法少女の姿を思い浮かべながらニヤリと笑った。
◆
バダヴァロートは森の一角で暴風竜のラファールと遭遇していた。
「相手は古代竜か……強敵だな。とはいえ、カリエンテ殿やスティーリア殿に比べればまだマシか」
古代竜としての実力はラファールが劣っているという訳ではないが、交戦的なカリエンテ、冷静に振る舞いつつも淑女の体裁を崩さない優雅な戦いを繰り広げるスティーリアに比べれば、戦いや争いを嫌い、それらを避けてきたラファールは戦闘の経験という意味で劣る。
『えぇ、確かに私はカリエンテやスティーリアに比べれば弱いかもしれません。……しかし、私もこの大会で勝ち上がる目標ができました。――この試合、勝たせて頂きます』
鋭く見開かれた覚悟の篭った双眸を向けられ、バダヴァロートは溜息を吐いた。
戦意がないのであれば倒すのも容易だったかもしれないが、この様子ではどうやら楽には勝たせてもらえないらしい。
「魂魄の霸気――《海皇》」
ラファールを中心に大量の水を発生し、目標が動いたとしても、その目標と同時に移動する水のフィールドを形成する《海域》を展開すると、バダヴァロートはその中に飛び込んだ。
ラファールは風を操って《海域》の内部に風の領域を作り上げると、超空洞現象を利用して亜音速で迫ってくるバダヴァロートに暴風を収束したような五十メートルにも及ぶ巨大な風の刃を持つ剣の切っ尖を向ける。
『――暴風束ねし天龍の嵐剣』
「海王の三叉薙・大波撃」
武装闘気と覇王の霸気が魂魄の霸気により生じた水に注ぎ込まれ、バダヴァロートが薙ぎ払いを放つと同時に猛烈な波の斬撃と化して放たれ、巨大な風の刃を持つ剣と衝突する。
波の斬撃は呆気なく巨大な風の刃を持つ剣に切り裂かれた。込められた覇王の霸気と硬化していない武装闘気がバダヴァロートの霸気と武装闘気を上回ったのだ。
『――暴風竜の咆哮』
バダヴァロートへの攻撃を塞ぐものが無くなったその一瞬の隙を突き、マイクロバーストにも匹敵する一つ一つが風の刃と化した暴風を放つ。
バダヴァロートは覇王の霸気と武装闘気、神光闘気の込められたブレスを耐えきれず、無数のポリゴンと化して消滅した。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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