Act.8-42 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。第二部 scene.2 丁
<三人称全知視点>
ピトフューイがスティーリアと出会ったのは五年前のルヴェリオス帝国崩しの時だ。
この時、スティーリアはローザの同行者の一人としてピトフューイと相対した。
ルヴェリオス帝国崩しの際にもスティーリアとピトフューイはほとんど関わっていない。
ピトフューイの修行の相手役を務めたのはシェルロッタで、スティーリアが相手役を務めたのはホーリィだったからだ。
ピトフューイと因縁があり、スティーリアと同じ氷属性の能力の使い手である【凍将】グランディネ=サディストは最終的にピトフューイ自身の手によって仇を討ったが、当初の予定ではホーリィが属性の相性的にグランディネ=サディスト討伐の適任と思われていた。
そういった機会が無かったピトフューイは、その日改めてスティーリアと相対して、自分達の選択が英断であったことを強く実感した。
グランディネが霞むほどの圧倒的な迫力、強者の風格。――もし、ピトフューイが敵対の意思を示していたらローザ達が動くまでもなくスティーリアたった一人でシャドウウォーカーは全滅していただろう。
(……これが、古代竜か)
優雅で笑顔が柔らかい――完璧な淑女としての彼女は殺気一つ感じさせない。これがカリエンテならば、戦意や勝気さを隠しきれないだろうが、スティーリアは生来の性質も相まって全くと言っていいほど強さを感じさせない立ち居振る舞いができた。
カリエンテのように直情的な戦闘狂でも、ラファールのような平和主義者でもない。
冷静に状況を俯瞰し、時に淑女然と振る舞い、時に圧倒的な力でもって戦場を支配する古代竜――それがスティーリアだ。
かつてのスティーリアにはその本来の性質を妨げる古代竜の絶対の強さに対する慢心があった。
その慢心を愛する主人によって砕かれた今、スティーリアは己のその性質を最大限発揮することができる。
いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。かつては孤高の存在であるという自覚から氷の如く閉ざされていた心はローザと出会ったことで、愛に燃え上がった。
最初は自分を倒した者に対する興味、続いて従属した自分を対等の存在として扱ってくれたことに対する喜び、その時の笑顔にトキメキを覚えた。
しかし、それはスティーリアにとって入り口に過ぎなかった。ローザと共に時間を過ごし、それがローザの一面に過ぎないことを知ったのだ。
圧倒的な力を持ち、全く困った素振りを見せない器用万能、天才の裏には、様々なことに思い悩み、一人一人の従魔や仲間達のことを大切に思い、誰か一人だけを尊重することなく全員を愛する――つまり、自分に向けられる気持ちを裏切らないように、失望させないようにと苦心する一人の等身大の少女がいた。
知らず知らずのうちに蒔いてしまう繋がりの種。それは、前世でも今世でもずっと蒔き、芽吹き、繋がってきたのだろう。
ローザは人との距離を重要視している。その心の中心にはいつも常夜月紫という最愛の人がいる。ローザはそのことに強い罪悪感を抱いていた。
一番には愛せない、それを本気で思い慕う者達に対して相応しい態度ではない。
ローザを慕う者は大勢いる。中にはローザを恋愛の対象として見て、愛している者もいる。
それは、彼女の人徳が、立ち居振る舞いが、行いが作りあげたものだ。
そうやって、ローザが沢山の人を救っていく姿をスティーリアは幾度となく見てきた。
スティーリアのローザへの愛には様々なものが絡み合っている。ローザへの敬愛や尊敬の感情、等身大の思い悩む少女――一人の人間として彼女への共感や親愛、その他語り尽くせない様々な感情。
それは、ある種の信仰心、狂信心のようなものとなっていた。
その身を焦がすことの愛――敬愛、尊敬、親愛、スティーリアの中で燃え盛る愛の氾濫。
その狂えるほどの感情は悍ましく、お世辞にも美しさや可愛らしさがあるとは言えない。
重々しく、向けられれば誰もがたじろぐその強い感情をきっと、彼女は受け止めてくれる、いや必ず受け止めてくれるとスティーリアは確信していた。
一番になりたいなんて烏滸がましいことは言わない。
愛されなくても、それならそれで構わない。
――私はローザお嬢様を、ご主人様を愛しています。
宗教というのは大なり小なり理想が入る。信仰という上塗りによって、願望が、願いが入り、真実から遠ざかってしまう。
ローザを神として信仰する宗教は数知れず、その信仰の強さはスティーリアに劣るとは言えない。
しかし、誰よりもローザという等身大の人間を見て、その全てを愛し、信仰しているということであれば誰もスティーリアには及ばないだろう。
その手に握るのは『氷百合の魔剣』と『氷百合の聖剣』――ローザに対する敬愛と同化願望の象徴であり、決して穢してはならないという戒めの象徴である双剣。
一度は自身の未熟さ故に折られた剣を再び握る。
その様子を画面越しにローザは優しい眼差しで見つめていた。
◆
ピトフューイの隣には見慣れない和装の男が立っている。
一回戦には姿を見せなかったこの男の名は正式名称で『稀人神・建速須佐之男命』という。
ローザが生物型帝器と皇牙の技術、究極調整体を融合して生み出した人型帝器だ。帝器としての名前は稀人武神で、シャドウウォーカー内ではスサノオ、或いはスーさんと呼ばれている。
今回はピトフューイの秘密兵器として参加したが、ほとんどの者達にとっては初対面であっても、譲渡の場に居合わせたスティーリアにとっては驚きはない。
『このタイミングで切り札を切りますか。確かに、最良の一手ですわね……相手が私でなければ、でしたが』
十束剣を構えるスサノオに一瞥を与えつつ、スティーリアは微笑を浮かべた。込められた感情は絶対の自信だ。
「やれるか、スサノオ」
『大丈夫だ。問題ない』
『果たして本当にそうでしょうか?』
「荒魂顕現」を発動し、闇の魔力を纏うことで身体能力を底上げしたスサノオがスティーリアに迫る。
スサノオは意志を持った人間帝器だ。疑似的な魂魄により意識を持ち、戦闘だけでなく土木建築や料理を始めとした家事全般においても高いスキルを有した護衛用の兵器として調整されている。
マスターであるピトフューイの魔法を使用できる他には独創級の十束剣と呼ばれる剣を使えるが、最大の特徴は非常に高い戦闘力と回復力を備えているところだ。
その戦闘力は元将軍級実力者であるピトフューイですら敵わぬほど。卓越した魔法の力と体術、武器術を誇り、その力は兵器であることを相対した相手に痛感させるほど高い。
『八尺瓊勾玉』
『凍結する大気』
空中に浮遊する九つの勾玉型の光の砲台から放たれた無数の光の弾丸を躱しながらダイアモンドダストを発生させて拡散させ、ダイアモンドダストを媒介にスサノオを周囲の大気諸共凍結させた。
『……荒魂捧精』
絶対零度の氷にヒビが入る。スサノオの身体から蒸気が溢れ、氷を溶かしたのだ。
スサノオとピトフューイは見えないパスによって繋がれている。このパスがあるからこそ、スサノオはピトフューイの魔法を使うことができるのだ。
そして、このパスにはもう一つ役割がある。
それが、スサノオの奥の手である「荒魂捧精」だ。
スサノオにパスを通じてエネルギーを送り込むことで狂化させることができるが、使用する度に莫大な生命エネルギーを消費する。そのエネルギーは三度使用すれば所有者を死に至らしめると言われるほどだ。
『――禍ツ天叢雲剣。禍ツ八尺瓊勾玉』
狂化によって禍々しい紫色に染まった魔力を固めた煌くの剣を十拳剣に纏わせ、九つの勾玉型の紫色の砲台を空中に浮遊させ、無数の紫色の弾丸を放ちながらスサノオはスティーリアへと殺到する。
『力は飛躍的に上昇していますが、やはりワンパターンですわね。……でしたら、私も奥の手を使わせて頂きますわ。先程の二の舞になりなさい――超越する絶対零度』
技そのものは「凍結する大気」と変わらない――ダイアモンドダストを媒介に敵を凍らせるというものだ。
だが、その温度は驚異の氷点下五百度――氷点下二百七十三度を超えた物理限界の先にある極寒。
通常の「凍結する大気」よりも遥かに魔力を消費するが、それに見合った効果を発揮する。実際、「凍結する大気」を破った「荒魂捧精」によって強化されたスサノオであっても氷を破ることはできなかった。
『聖属性魔法・武剣聖纏』
「――ッ! まさか、スティーリア殿も!?」
『えぇ、私も聖人の領域に到達しておりますわ。……私の場合、圧倒的な力が邪魔をしてなかなか限界の壁というものにぶつかることができず、お恥ずかしい話、聖人の領域に至るまで三年を要してしまいましたが』
スティーリアは古代竜の中で初めて聖人の領域に到達した。
その修行は困難を極めた。スティーリアにとって限界を越えるほどの試練というものがなかなか存在しなかったからだ。
結局、欅達の協力を経て聖人に至ったが、流石の戦闘狂のカリエンテも、その姿をを見ただけで辟易としていたので恐らく、古代竜の中でカリエンテや平和主義のラファールが聖人の領域に到達することはないだろう。
『それでは、決着をつけましょう。――殺戮者の一太刀』
武器を大きく振り回して敵の首を刈るイメージで『氷百合の魔剣』と『氷百合の聖剣』を振るい、暗殺者系の攻撃特技の中でも最強クラスのダメージ出力を誇り、高確率の即死効果が付与されたまさしく暗殺者に相応しい暗殺者系四次元職の暗殺帝の奥義が放たれ、閉ざされた氷の中のスサノオは氷諸共打ち砕かれた。
「――ッ! 黄泉比良坂」
『それでは私は倒せませんわ! 白氷竜の咆哮!』
蛇のように執念深く敵を狙い喰らうように襲う無数の闇条を放ち、スティーリアを撃破しようとするも、スティーリアの猛吹雪のブレスには敵わず、闇条が純白にかき消されると同時にピトフューイは吹雪に飲み込まれて消滅した。
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